【文徒】2020年(令和2)1月17日(第8巻9号・通巻1666号)


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1)【記事】NHKネット同時配信、「シマゲジ」による問題提起は解決されたか?
2)【本日の一行情報】
3)【人事】祥伝社 2019年12月19日付役員人事
4)【人事】主婦の友社 2019年12月1日付人事
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1)【記事】NHKネット同時配信、「シマゲジ」による問題提起は解決されたか?(岩本太郎)

14日に総務省の認可が出たことを受け、NHKは翌15日、テレビ番組を放送と同時にインターネット配信する同時配信サービスのNHKプラス」を4月1日から1日18時間で限定で開始すると発表した。まずは3月1日より試行サービスとして1日17時間のサービスを先に行うという。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020011500866&g=eco
承知の通りNHKは当初24時間のネット同時配信を想定していたが、総務省から事業縮小を求められていた。受信料値下げなどによってNHKの経営が今後赤字になる見込みであることなどを懸念したとされるが、背景にはやはり民放経営を圧迫しかねないとの危惧があったのではないかという見方は巷にも根強くある。コラムニストで一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事小寺信良は昨年末『ITMediaNEWS』に寄稿した「放送同時配信はNHKの野望なのか?」で、今回の同時配信に対する様々な疑問点の一つとしてそこに言及している。
《民放が同時配信に消極的なのは、ネットからは収益性が見込めないので、やる意味がないからである。テレビを熱心に見る層はもはや高齢者だけであり、高齢者はネット利用率が低いので、同時配信には関係ない。(略)ただ民放側も、莫大なコストをかけて実現してきた放送というインフラを、ネット側へコスト分散していくという発想ができないのは残念なところだ。(略)NHKはコスト感覚を持て、と総務省は指導するが、返す刀で民放テレビ局にも、同じ指導をすべきであろう》
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1912/28/news018.html
他方で民放各局が見逃し配信などネットで既に様々なサービスを行っている。昨年末に『AbemaTV』でジャーナリストの堀潤ほか、在任中何かと発言が物議を醸した籾井勝人(元会長)などのOBを招いて招いて放送されたNHK問題についての討論番組で、衆議院議員の中谷一馬(国会でNHK改革案を昨年発表。デジタルハリウッド大学院在学中)がこんな指摘をしていた。現会長の上田良一が「自宅にPCを持っていない」との発言をしていることへの皮肉も交えてのものだ
《現状のように、インターネットに使う予算は2.5%、170億円くらいで歯止めをかけていきましょうということで本当にいいのか。Netflixは1.6兆円だ。そういうコンテンツがどんどん日本に入ってくる中で、民放の皆さんとの協議の中では地域制限もやろうとしている。イギリスのように、公共放送と民放が力を合わせてそういう勢力に対してどう打ち勝っていくか、その戦略を立てるような人が会長の席に座らないといけないと思う》
堀潤は以前に私が取材した時と同じことを言っていた。きちんと旗振り役のできるトップが必要だ、との指摘だ。
《僕が入局した頃の会長は、“エビジョンイル”と揶揄された海老沢勝二さんだ。20年前に出た海老沢さんの本を読み返してみると、「日本には24時間のニュース専門チャンネルがない」「放送と通信の融合を進めるべきだ」など、真っ当なことを言っていることがわかる》
https://times.abema.tv/posts/7037217
もっと遡れば海老沢と同様、政治部記者からNHK会長の座に上り詰めた島桂次(在任1989~91年)も同じようなことを言っていたのは、島がNHKが追われた後の95年に藝春秋から上梓した『シマゲジ風雲録―放送と権力・40年』にも書かれている通りだ。島はNHKの政治部記者として池田勇人の総理番をつとめ、海老沢は島の側近であった。恐らく田角栄あたりは宏池会を介してNHKに影響力を持とうとしたのである。当時のNHK宏池会流儀の戦後民主主義と相性が良かったのである。
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163499406
2013年に放送批評懇談会が出版した設立50周年誌『放送批評の50年』(学社)の中にも「NHKの積極的未来論 既存メディアにしがみつくな」と題した、島のNHK会長在任時代のインタビューが掲載されている(『放送批評』1989年8月号初出)。そこでも島はこんなことを言っている。
《極端に言えば、不特定多数を対象にする放送と、特定多数を対象にする通信事業の境目が、もうなくなってきてますよ、技術革新によって》
《出来るだけ受信者の負担を軽くしながら、質のいい豊かな番組を提供するためには、やっぱり親方日の丸で受信料にぶら下がってるだけじゃダメ。我々が作り出す放送製品を多目的に利用する、いろいろなメディアに転用したいわけです。そういうことをNHKはやるし、民放さんもやりませんかと言ってるんです》
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I024476869-00
前述の現会長・上田良一や「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」など数々の珍発言で物議を醸した前会長の籾井勝人どと比べると、約30年前にはNHK会長がこんなことを言っていたのかと驚かされる。田中角栄と違って安倍晋三首相はNHKに対しては、もっとダイレクトに影響力を行使していると言っても良いのではないか。会長に籾井や上田を据えるのみならず、NHK経営委員に小川榮太郎の師匠筋に当たる長谷川三千子百田尚樹が名前を連ねるようになったのも安倍政権が成立していればこそのことであったと見て良いはずだ。
かつて、島桂次が在任中に進めた映像国際商社の「国際メディア・コーポレーション(MICO)」やニュース専門局のGNN(グローバル・ニュース・ネットワーク)などがまさにこうした発言にあたる(なおNHKを追われた後の島が途中で終わったGNNへの思いをもとに『インサイダー』編集長の高野孟と組んで1994年に立ち上げたのがニュースサイト運営の「島メディアネットワーク(SMN)」だった)。
http://www.smn.co.jp/about/
https://www.huffingtonpost.jp/asahi-shimbun-media-lab/web-media-news-tech_b_8036930.html
当時は村木良彦(TBS出身、テレビマンユニオン創設メンバー)ばばこういち(ジャーナリスト。大和證券化放送を経て独立。ジャーナリスト堤未果の父)など民放出身のフリー製作者たちが島の構想に賛意を示していた。3人とも既に世を去って久しいが、NHKをめぐる現在の状況を今頃あの世から歯噛みしながら見ているのではないか。

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎読売新聞主筆渡邉恒雄が、『週刊新潮』1月2・9日号の佐藤優によるロングインタビューに登場。『デイリー新潮』にも掲載されている。今年93歳、数カ月前に執務室で足を引っ掛けて倒れてしまい、そのためかここしばらくは姿があまり表に出なかったらしい。佐藤の質問に陸軍や日共時代の思い出話も交えながら屈託なく語っており、「販売の神様」と呼ばれた務台光雄に触れたこんな一節もある。
《池田と大平の関係はよかったんですよ。でも政治家というのは恐ろしいものだね。大平が注目されるに従い、池田が大平を疎んじ、罵倒するようになった。(略)大平は「ナンバー1はナンバー2に嫉妬する」と言っていた。だから僕も新聞社でナンバー2になった時にナンバー1に対して相当に気をつけたよ》
《新聞は販売にお金をかけ過ぎなければ、十分にやっていけるんですよ。現状、お金の心配はない。少なくとも賃下げはしない。僕が社長になった時、借金が1600億円くらいありましたよ。それを20年でゼロにした。今、内部留保している現預金がそのくらいある。社長になってから今日までが30年近く、その間に投資した額が7千億円を超えるので、返した金と貯蓄と投資額を合わせると1兆円稼いだよ。(略)僕は「販売の神様」と呼ばれた務台さんに取り立てられて、徹底的に仕込まれたからね。金勘定は務台さんの次に詳しいくらいだ》
https://www.dailyshincho.jp/article/2020/01140555/
佐藤は渡邉に「自分がナンバー1になった時にはナンバー2に対してどうしたか」を聞かなかったのだろうか。

◎第162回芥川賞は古川真人『背高泡立草』(『すばる』昨年10月号)、同直木賞は川越宗一『熱源』(藝春秋)にそれぞれ決定。
http://www.bunshun.co.jp/shinkoukai/award/akutagawa/index.html
http://www.bunshun.co.jp/shinkoukai/award/naoki/index.html
選考会後の記者会見で、芥川賞選考委員の島田雅彦が先行経過を説明。決定前に「8分間の沈黙」があったという。
《フタが開いた当初は、受賞作なしの結果になるのではないかという気配が濃厚に漂っており、たいへん重苦しい空気にも関わらず活発な議論が展開され、“受賞作なし”という最悪の事態を避けることができたのは喜ばしい感じであります》
https://www.sankei.com/life/news/200115/lif2001150046-n1.html
https://www.asahi.com/articles/ASN1H7HKYN1HUCVL02X.html

◎印刷会社の営業マンが主人公の漫画『印刷ボーイズ』が話題になっている件は昨日も紹介したが、講談社の『モーニング』でも昨16日発売号から、中小印刷会社に就職した元ヤンキー女性を主人公に業界の日常をコメディタッチで描く「刷ったもんだ!」の連載が始まった。原作者で漫画家・イラストレーターの染谷みのるは前職は印刷会社で、在職時代の経験も活かしながらストーリーが展開されていくらしい。
https://morning.kodansha.co.jp/c/suttamonda.html
https://twitter.com/suttamonda2020

◎JAGAT(日本印刷技術協会)による印刷業界総合イベント「page2020」が2月5~7日に東京・池袋のサンシャインシティコンベンションセンターで開催される。期間中、印刷のほかデジタルも絡めたカンファレンスとして「デジタル印刷ビジネスの実践」「価値を生み出すワークフロー」「AIで変わる印刷物制作」「小ロット出版を実現するデジタル印刷」の4つが企画され、大日本や凸版など各印刷会社・関連会社の役員や幹部が登壇者に名を連ねている。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000031.000026509.html

◎光社は昨年12月9日に販売を開始したBTS防弾少年団の写真集『Dicon BEHIND THE SCENE~僕たちが一緒なら砂漠も海になる~』の最終追加予約を行うと14日に発表した。韓国では昨年ウェブ限定の形で発売され、ファンの間では”幻の写真集”と言われていた作品で、日本オリジナル限定版を昨年8月9日に予約開始したところたちまちサーバーがダウンに追い込まれるほどの人気だったらしい。
https://www.kobunsha.com/news/index.html#a000595

タカラトミーはミニカー「トミカ」誕生50周年を記念したシリーズ『トミカ50周年 ヒストリーセレクション』を、トーハン独占販売のMVPブランドとして2月から書店で発売する。12月までの偶数月全6巻を発売予定で、第1巻は1960年代末に人気を誇った「トヨタ2000GT」。トーハンMVPブランドは2015年から書店向け「トミカ」シリーズを展開している。
https://hobby.dengeki.com/news/921170/

◎「ジャパネットたかた」を擁するジャパネットホールディングスBS放送に参入。8年ぶりにBSへの新規事業者参入が認められたことに伴うものだが、自社の通販番組などを放送するため、他社のCMを入れない可能性があるという。創業者・高田明の長女で同ホールディングス取締役の高田春奈は『東洋経済オンライン』の取材に応え《ドラマの出演者が着る服など番組内に出てきたものをアプリ上で購入できるようにしたい》と構想を語っている。
https://toyokeizai.net/articles/-/323949
BS放送では家電量販店大手のビックカメラが2000年代初頭のデジタルBS放送開始の頃から系列の「日本BS放送」を通じ、当初はデータ放送から参入しつつ、後に標準テレビ放送へと転換しながら着々と基盤を固めてきた経緯がある。ジャパネットの参入で次にはたしてどのような変化が生じるか注目される。ちなみに日本BS放送は2年前に児童書出版の老舗、理論社と国土社を連結子会社化するなど出版業界にも進出している。
https://ma-times.jp/56369.html

◎ライターの小川たまかが、広河隆一の性暴力問題でデイズジャパン社に対し400万円の損害賠償請求を行った被害者女性に『Yahoo!ニュース』でインタビュー。匿名の被害者女性は、請求先を広河本人ではなくデイズジャパン社とした理由について、自身の名前が広河に知られることを避けるためだと説明。最終検証報告が出た後もデイズジャパン社が記者会見を開く予定もないことへの疑問を述べている。
https://news.yahoo.co.jp/byline/ogawatamaka/20200114-00158758/

◎栃木県の小山市は今月から市役所や葬儀社などを通じて、亡くなった市民の遺族向けに死亡届から住民票・年金・税金など手続きの要点をまとめた小冊子「ご遺族の方へ」を配布。年間に約6000部を発行する予定だが、冊子に企業広告を掲載し、その収入を製作費に充てるため、市の負担はゼロだという。
https://www.shimotsuke.co.jp/articles/-/265565
葬祭ビジネスは今や日本の成長産業だが、こうしたローカルメディアもそれなりの広告媒体力を持つということだろう。

日経新聞日経BPが共同運営するサイト『出世ナビ ハーバードが学ぶ日本企業』でハーバードビジネススクール教授のサンドラ・サッチャーが「リクルートは世界で成功するか」とのテーマでインタビューに登場(上下2回)。リクルートが海外で買収した企業に対しても自主性を尊重し、自社と同じシステムや企業化を導入しようとしないことを評価。その原点にかつてリクルートダイエー傘下に入っていた時代の経験があるのではないかと述べている。サッチャーに会ったリクルート社長の峰岸真澄はこう語ったそうだ。
《このような方針をとっているのは、私たちにも買収された経験があるからです。1992年、リクルートダイエーの傘下に入ります。ダイエーはビジネスモデルも企業化も、リクルートとは全く異なる会社です。にもかかわらず、ダイエー中内功社長(当時)は、リクルートの自律性を尊重してくれました。それが現在のリクルートの成長につながっています》
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO54216600Z00C20A1000000?channel=DF120920195353
蛇足になるが、リクルートダイエー傘下で借金返済に追われていた頃、私が取材で会った当時のリクルートの広報マンが「ウチはダイエーと仲が悪いですから」と言いつつ「でも、中内功とはそうでもないんです」と続けて語ったのを思い出した。

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3)【人事】祥伝社 2019年12月19日付役員人事

2019年12月19日の定時株主総会および取締役会で選任(カッコ内は担当委嘱)。

代表取締役社長 辻 浩明(書籍出版部、芸出版部)

取締役     只野 孝一(業務部、総務経理部、編集総務部、企画事業部)

取締役     宮島 功光(販売部、コミック出版部)

取締役(新任) 金野 裕子(デジタル&海外ライツ事業部、芸出版部 部長委嘱)

取締役(非常勤)相賀 昌宏

監査役     九嶋 倫子

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4)【人事】主婦の友社 2019年12月1日付人事

勝川 賢一
新:取締役 国際室 室長 兼 販売部 部長
旧:取締役 国際室 室長

木村 晶子
新:取締役 ビジネスイノベーション部 部長
旧:取締役

佐々木 虎亮
新:管理部 部長 兼 ビジネスイノベーション部 部次長 兼 コンテンツ営業ユニット ユニット長
旧:管理部 部長

内藤 壮司
新:販売部 部付 部長(新規事業準備のため)
旧:販売部 部長

庄子 寛
新:国際室 室次長
旧:ビジネスイノベーション部 部長

浅沼 秀
新:販売部 部次長 兼 販売部 デジタル/マーケティングユニット ユニット長
旧:販売部 デジタル/マーケティングユニット ユニット長