【文徒】2021年(令和3)1月14日(第9巻7号・通巻1904号)つづき

半藤一利が亡くなった。朝日新聞デジタルは1月13日付で「作家の半藤一利さん死去、90歳 『ノモンハンの夏』」を掲載している。
《東京生まれ。東京大卒業後、芸春秋に入社。編集者として軍事評論家の故伊藤正徳さんの仕事を手伝ったことなどから、戦史や昭和史研究を深めていった。
1965年には同僚の編集者らとともに執筆した「日本のいちばん長い日」を大宅壮一名義で発表した。》
芸春秋では「週刊春」編集長、「芸春秋」編集長、同社専務などを歴任。多くの作家との交流をもった。》
《自身も作家として、「漱石先生ぞな、もし」(新田次郎学賞)、「ノモンハンの夏」(山本七平賞)、「昭和史 1926―1945」(毎日出版化賞特別賞)など精力的な執筆活動を続けた。》
https://digital.asahi.com/articles/ASP1F05BPP1DUCLV00L.html
ツイッターのTLには追悼のツイートが次々に投稿されている。主なものを集めてみた。
山崎雅弘《半藤一利さんは、同時代人として私がとりわけ尊敬する方の一人で、ご著書から多くを学びました。
最近の日本の世相が、昭和史の「暗い時代」に回帰している現象を深く憂慮され、深い知識を持つ専門家の責任として警鐘を鳴らしておられました。
謹んでご冥福をお祈りします。》
https://twitter.com/mas__yamazaki/status/1349019565079089152
小池晃《昭和史の教訓に照らして、今の日本政治をどう見るのか、ご意見をお聞きしたかった。
とても残念です。
心から哀悼の意を表します。》
https://twitter.com/koike_akira/status/1349009259644805127
藝春秋藝出版局《半藤一利さんの訃報に触れ茫然としています
週刊春や月刊藝春秋の編集長を務め、『日本のいちばん長い日』などのノンフィクションで知られていますが、司馬遼太郎さんや松本清張さんと親交の深い編集者でもありました。
ご冥福をお祈りします。》
https://twitter.com/BunshunBungei/status/1349026431532228610
辻元清美半藤一利さんがご逝去された。講談調で人物が目の前で動くように歴史と教訓がわかる『昭和史』は今も私の政治活動の座標軸。お会いすると「今の政治家は歴史から学んでいない」と憂慮されていた。今の時代こそ必要な日本の宝だったと思う。半藤さんに恥じないようにしなければ》
https://twitter.com/tsujimotokiyomi/status/1349172688397299714
麻生久仁子《嗚呼………。希代の歴史探偵、去る………嗚呼。半藤さんの御著書からどれほど学ばせていただいたことか。本当に悲しく残念です。いつまでも導き続けていただきたかったです。若い方々も読み継いで欲しい。》
https://twitter.com/kunikoasagi/status/1349005533517389835
清水潔《大変残念です。
「日本のいちばん長い日」をはじめとする多大な戦争関連著書は、まだ当事者たちが生存していた頃に取材されたもので、二度と聞き取ることができない貴重な記録です。この偉業は今後も様々な形で生かしていかねばなりません。
心よりお悔やみ申し上げます。》
半藤一利さんの訃報に触れ、一冊だけご紹介を。保阪正康さんとの共著になりますが「そして、メディアは日本を戦争に導いた」(庫)
今の時代こそ読むべき本です。特に若い記者のみなさんが知っておくべき重大な歴史の流れがこの一冊に詰まっています。今となっては大切な半藤さんの遺言です。》
https://twitter.com/NOSUKE0607/status/1349135510854270976
https://twitter.com/NOSUKE0607/status/1349138711787700224
伊丹和弘《うわぁ、、、まじかぁ。。。これはショック。
歴史修正主義者が跋扈する今だからこそ、もっと著作を書いてほしかったのに。。。》
https://twitter.com/itami_k/status/1348999752684359680
高橋浩祐《大好きな、大好きな作家でした半藤一利さんが亡くなられました。ショックです。。。常に若い世代を思い、メッセージを発信してくださいました。
11月にご自宅にお電話した際には「俺はもうダメだよ」と珍しく弱音を吐かれていました。ご体調がすでに悪そうでいらっしゃいました。》
https://twitter.com/KosukeGoto2013/status/1349010020495749126
辻田真佐憲《以前、保阪正康さん含め『藝春秋』の企画で鼎談したことを思い出します。アカデミズムの歴史学者とは違う、ジャーナリズムの歴史家とは何かを教えられ、たいへん刺激を受けました。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。》
https://twitter.com/reichsneet/status/1349192886634434562
浜田敬子《取材や打ち合わせはいつもご自宅近くの喫茶店だった。この日も下駄履きでいらっしゃった。
新人の記者にもとても丁寧にお話してくださった半藤さん。書かれるものだけでなく、お人柄も尊敬できる方でした。》
https://twitter.com/hamakoto/status/1349169245825892355
村井弦《半藤一利さんは、すべての藝春秋社員にとって、大先輩であり、大先生であり、そして憧れの存在でした。本当にありがとうございました。》
https://twitter.com/Murai_Gen/status/1349166724445212672
フリート横田《半藤一利さんが亡くなった。重要局面の現場にいた旧軍人達に戦後沢山聞き取り取材し、彼らが自分に都合よく話をすることを何度も指摘していた。けれど綿密に下調べする半藤さんはアリバイを崩したり矛盾を突く。こういう取材姿勢は尊敬する。顔を合わせるとできそうでできない》
https://twitter.com/fleetyokota/status/1349125853372850178
伊東潤《またしても昭和を代表する大作家の訃報です。半藤さんのご著作や座談会本は何冊も読ませていただきました。元編集という立場でありながら、近代史の研究に大きな足跡を残した方でした。私のノンフィクション分野での目標としている方でもあります。ご冥福をお祈りしています。》
https://twitter.com/jun_ito_info/status/1349051980321181697
蓮舫《昭和史といえば、半藤さんです。
全ての作品が学びであり、歴史の教訓を教えてくださいました。心から哀悼の意を表します。》
https://twitter.com/renho_sha/status/1349066627338235904
島契嗣《半藤一利さん死去。こうやってどんどん「重し」がなくなっていくんだろうなぁ。日本が過ちを繰り返さないための重し。そうしたなかでどこまで不戦の誓いをつないでいけるのか。なし崩し的に始まるんだろうな…》
https://twitter.com/shima_keishi/status/1349008023730221060
坂上泉《お亡くなりになったか…実は一度ご縁がございまして。評価は人それぞれでしょうが、春論壇の大きな担い手だったのは確かかと。ご冥福をお祈りします。》
《不肖坂上、若気の至りで「とりあえず彼女欲しいっすwww」と半藤翁に脳味噌空っぽなことを放言したことがあるのですが、半藤翁がそれを笑って「若い頃ってそうだよね」と言ってくれたのはよい思い出として後世に語り継ぎたい所存。》
半藤一利氏が藝春秋に入社して最初に担当したのが坂口安吾、初めて原稿取りに行ったら酒に付き合わされて帰れなかった、という話を当人から聞きましたが、あの瞬間に自分は半藤翁を介して坂口安吾と地続きにいたというのが、近代史の沼に生息する不肖の身として得難い経験だなと今にして思う》
《同様の経験としては、元日銀理事の緒方四十郎氏(父は元副総理緒方竹虎氏、妻は緒方貞子氏)の話を聞いた時にも、緒方氏を介して東久邇宮稔彦佐々淳行東條英機と地続きになったような感覚を得て、なるほど語り部というのはそういう存在なのかと》
語り部という存在は再生産できるものではないと思っていて、だからこそ生きているうちに聞いて書き残さねばならない。そうすれば後世に批判する(非難に非ず)ことも可能だろう。半藤翁も「日本の一番長い日」などを通じて、語り部たちの言葉を活字に残す役割を果たし、そして自らも語り部となった》
《私なんぞも、あと半世紀もすれば「あの時あの人が~」と伝承する時が来るのかもしれませんが、その時は半藤翁にあんな放言かました若気の至りをその頃の若造に得意げに語ってみたいもんだし、なんならその頃の若造に「オレも彼女欲しいっすwww」と言われたいな、とふと思う冬の夜》
https://twitter.com/calpistime/status/1349009018518466565

https://twitter.com/calpistime/status/1349035960172875778
一水会《昭和史研究第一人者の半藤一利氏が亡くなられました。謹んでお悔やみ申しあげます。保阪正康氏とともに、ファクトを重視しつつ、かつては「保守反動」とまで呼ばれていたお二人が、変節などしていないのに「左翼」となじられる様は、いかに我が国の言論空間がフェイクベースに劣化したかを示している。》
https://twitter.com/issuikai_jp/status/1349216511215341568
それにしても自民党の政治家による追悼のツイートが1月13日午後3時現在、私の視界に入ってこない。こんな時代になるとは! 東京新聞は1月13日付で「<半藤一利さん死去>非戦の思い…歴史の大河に立つ知の巨人逝く」(荘加卓嗣)を掲載している。
《視座は昭和という東洋の島国の一時代に限らず、世界史的に広がっていた。自らが左翼扱いされるようになった日本社会の右旋回を憂い、米国にトランプ政権を誕生させた国際社会の内向き傾向を、満州事変の頃のようだと警鐘を鳴らした。
 コロナ禍でますます不透明さを増す世界。歴史の大河の中で私たちが立つ「今」を指し示してくれた洒脱な知の巨人を失うことが、何とも不安で、怖い。》
https://www.tokyo-np.co.jp/article/79608
同期入社の藝春秋元社長・田中健五による追悼が読みたいと思うのは私だけだろうか。「週刊春」編集長だった半藤一利は1977年4月に「藝春秋」編集長・田中健五と入れ替わって「藝春秋」編集長に就任した。「藝春秋」編集長だった田中からすれば半藤一利と入れ替わって「週刊春」編集長に就任した。「編集長が代わりました」と大宣伝したのは、この時である。
これは初めて書くが私の「三角寛『サンカ小説』の誕生」(現代書館)は「半藤社史」を批判するつもりで書いている。朝日新聞藝春秋の「共犯関係」を三角寛という特異な作家を媒介にして浮かび上がらせることで、あの時代特有の「うさん臭さ」を批判する、とまあ、そんな意気込みで書き上げた。それだけに「半藤社史」は何度も何度も読み返したものである。合掌。

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5)【深夜の誌人語録】

発想は大きいに越したことはない。