Index------------------------------------------------------
1)【記事】首相記者会見 緊急事態を拡大
①首相記者会見の歪んだ現実
②アメリカ勤務の尾形聡彦が例によって首相会見を批判
③対照的だった神保哲生と産経新聞 首相は今日も反省の弁はなし
2)【記事】全文公開!文藝春秋 元常務取締役 斎藤禎からのメール
3)【本日の一行情報】
4)【深夜の誌人語録】
----------------------------------------2021.1.15 Shuppanjin
1)【記事】首相記者会見 緊急事態を拡大
①首相記者会見の歪んだ現実
非常時という覚悟がガースー・ベイダーにはあるのだろうかと疑わざるを得まい。首相は新型コロナウイルス感染症対策本部で緊急事態宣言の対象地域を増やす発表をするに際して「福岡県」を「静岡県」と間違えて発言してしまった!朝日新聞デジタルが1月13日付で掲載した「菅首相、福岡を静岡と言い間違い 緊急事態宣言の発表時」は次のように書いている。
《新型コロナウイルス対応を担当する西村康稔経済再生相は対策本部後、記者団から静岡県も対象に含まれるのか問われ、「福岡県です」と語った。》
https://digital.asahi.com/articles/ASP1F6713P1FUTFK01V.html
「自衛隊の最高の指揮監督権を有する」人物は言い間違いに気がつかなかったのだろうか。嗚呼!ニッポン低国・・・。「東京新聞労働組合」もツイートしている。
《驚きました。/緊急事態宣言を出す重大場面で/福岡を「静岡」と言い間違えるとは…/しかも、会合で発言を訂正しなかったとは…/本人が気づかないなら、側近や事務方が/すぐ訂正させなきゃダメじゃないか。/間違ったまま会議終了して、どうするのか。》
https://twitter.com/danketsu_rentai/status/1349456878791651328
むろん、この日も記者会見は開かれた。午後7時から。民放のニュース番組が終了してからというスケジュールだ。首相のメッセージを広く国民に伝えるよりも、生中継をNHKに絞ったほうが得策だという判断が官邸にあったのかもしれない。「原発のコスト」(岩波新書)の大島堅一がこんなツイートを投稿している。
《菅首相の会見見てますが、質問の内容が変わると、いきなりそれにあったテロップが出るのですが、NHKは何か特殊能力があるのですか?あるいは、予め台本があるのですか?》
https://twitter.com/kenichioshima/status/1349304919195467781
今回の記者会見に畠山理仁は出席しなかった。こうツイートで報告している。
《菅義偉首相が本日19時から首相官邸で開く記者会見。何人かの方からおたずねがあったのでお答えしますが、私は出席しません。申し込みませんでした。今日申し込めばクジに当たる可能性は高かったと思いますが、当たると次回はクジにも参加できません。別の機会に出席したいと思います。ご了承ください。》
https://twitter.com/hatakezo/status/1349280588226646016
そもそも、ここいら辺からしておかしいのである。何故、畠山は毎回、参加できないのか。記者クラブに所属していないからだ。畠山は、こう内情を説明している。
《首相記者会見は29席限定です。うち19席は内閣記者会常勤幹事社の指定席。残り10席を、ネット、外国プレス、専門紙、雑雑誌、フリーランス(事前登録者10名)の記者によるクジ引きで決めています。クジに当たると次回はクジにも参加できません。新型コロナウイルス感染拡大以降、この運用です。》
https://twitter.com/hatakezo/status/1349282953851924480
クジ引きで出席者を選ぶというのであれば、内閣記者会の記者も含めてクジ引きにすれば良いのだ。畠山は一度も質問者に指名されたことはないのか!
《菅義偉首相の記者会見。参加するためのクジ引きに申し込むフリーランス記者の中で、一度も質問者として指名されていないのは私だけだ(書面での質問は2回だがカウントすべきではない)。次回のクジ引きに当たったら質問者に指名されるだろうか。》
https://twitter.com/hatakezo/status/1349308239398096896
畠山によれば新型コロナウィルスで首相記者会見は大幅に縮小されたままなのである。
《菅義偉首相は「普通の記者会見」を開くべき。新型コロナウイルスの感染拡大で、日本国首相の記者会見参加者は大幅に縮小された(約120席→29席)。参加できる記者はクジ引き。一度当たると次はクジに参加できない。会見時間が十分ではなく「次の予定」で打ち切り。1年近く経っても改善の兆候見えず。》
https://twitter.com/hatakezo/status/1349312853535166465
カリン西村が《外国人記者にとっては、総理の記者会見に出席しても、結果的に傍聴のみ。ありえない。》と怒るのも頷ける。
https://twitter.com/karyn_nishi/status/1349310026133893121
舩田クラーセンさやかが「普通の記者会見」を開くべきだという畠山をリツイートしている。
《それもそうだが、なぜ遠隔参加を記者団も要求しないのか…。感染が怖い、でも社会の疑問にしっかり応えるというのであれば、それが当然。技術的に対して難しくもない。日本のアナログぶりには驚くばかりだが、結局コロナを言い訳に使ってるだけということなんだろうね。》
https://twitter.com/sayakafc/status/1349314888758386688
いずれにしても、この10年間で新たに事前登録できたフリーの記者は一人もいないという。畠山理仁のツイート。
《何度でも書きますが、首相会見に参加できるフリーランス記者はものすごく限定されています。現在、ペン記者としてクジ引きに参加できるフリーランス記者は10人しかいません。カメラ記者は1人。新たに事前登録できた記者は約10年間1人もいません。事前登録に理不尽な条件が課されているからです。異常。》
《世の中は多様な人たちで構成されている。いろんな記者からいろんな質問を受けられる政府であってほしい。それは贅沢な望みなのだろうか。》
https://twitter.com/hatakezo/status/1349347349823328263
https://twitter.com/hatakezo/status/1349354743156523008
加えて、首相記者会見は相も変らず「男の世界」である。カリン西村が指摘している。
《菅総理の会見を巡って、もう一つの異常なことを指摘すべきだと思う。
今回出席した記者は合計で29名、男性27人、私も含めて女性2人。女性のもう一人は日本人記者だが2人とも海外マスコミの記者。》
https://twitter.com/karyn_nishi/status/1349348459111796741
②アメリカ勤務の尾形聡彦が例によって首相会見を批判
記者会見の模様については、アメリカで仕事をしている朝日新聞の尾形聡彦が詳しくツイートしている。
《進行中の菅首相会見。先週の1月7日の会見では、大阪などへの緊急事態宣言の拡大には、菅氏は「そうした状況にはない」と明らかに消極的でした。ところが菅氏は今日の会見で一転して、対象地域を拡大。明らかに菅氏の判断ミスであり、対策は後手後手です。官邸記者の会見での追及がかなり甘いと思います》
https://twitter.com/ToshihikoOgata/status/1349304850429870082
尾形の指摘する通りである。だからこそ尾形に問いたくなるのだ。ツイッターでオダをあげるのも良いけれど、朝日新聞の社内で声をあげているのだろうか。
《菅首相会見。最後の神保さんの質問以外は、記者はすべて事前に質問を教えているように見え、官邸記者は幹事社のテレ東記者が少し再質問した以外、全く再質問の声も上げていないようでした。何度も言いますが、官邸記者がやっているのは米国ら主要国では考えられない「やらせ」会見で、恥ずべきことです》
https://twitter.com/ToshihikoOgata/status/1349308754559344640
いや、だからね、オレたちを向いて言うだけではなく、会社に向けて言ってもらいたいのである。そうは思っても何も声をあげようとしない連中よりはマシである。尾形のツイートを一通り紹介しておこう。
《菅首相会見。フリー記者のその場の質問以外、今日もNHK、中国、ブルームバーグ、毎日、産経は皆、事前通告の質問の様でそれがパターン化しています。官邸は事前の質問通告ですり寄る記者しか当てず、質問が当たらぬ記者も異議を唱えていない様に見えます。主要国の首脳会見ではありえず、愕然とします》
https://twitter.com/ToshihikoOgata/status/1349323559454208007
《菅首相会見。最後にフリーの神保さんが質した「日本は病床数世界一なのに、米国よりずっと少ない感染者数でなぜ医療逼迫?」「国民に協力を求めているが、政府は一体何をやっていたのか」という質問こそが聞くべきことで、主要国の会見ならこの質問が出発点です。官邸記者には迫力がなく、落胆しました》
https://twitter.com/ToshihikoOgata/status/1349316769681338368
《菅首相会見。最後に仏記者の西村さんが声を上げていたようですが、官僚が会見を打ち切りました。会見は真剣勝負なのに、なぜ官邸記者は声を上げないのでしょうか。インタビューが欲しいから?官邸に便宜を図ってもらいたいから?世界の記者の常識に反する態度で、記者の責務を果たしていないと思います》
https://twitter.com/ToshihikoOgata/status/1349311964837675011
尾形の次のような指摘は重要だ。
《菅首相会見。官邸クラブ主要社が事前に質問を教えているのは言語道断ですが、違和感を覚えたのは前回のロイター、今回のブルームバーグも事前に質問を教えているように見えたことでした。海外の常識を知る外国プレスでも、日本の官邸会見では「非常識」を容認しているのでしょうか。だとしたら驚きです》
https://twitter.com/ToshihikoOgata/status/1349325792824623106
毎日新聞が1月6日付で掲載していた「『日本政府は中国と同じことを頼む』 ニューヨーク・タイムズ前支局長が内実を暴露」でマーティン・ファクラーが次のように語っていることを忘れてはなるまい。
《忘れられないエピソードがあります。麻生太郎政権だった09年2月、東京支局長に就任した私は官邸に連絡を入れ、国際報道官にあいさつに行きました。すると報道官は、私の前任の支局長が政権に批判的な記事を書いたと指摘した上で、こう言いました。「もし官邸からの取材の協力が欲しければ、前支局長の記事を批判し、『自分は前支局長とは違う報道をする』という旨を文書で提出するように」。信じがたい言葉です。
私はAP通信の記者時代、北京や上海で仕事をしていましたが、中国当局からも同じようなことを言われた経験がありました。そのことを思いだし、官邸の報道官に「日本政府は中国と同じようなことを私に頼んでいるのですか」と尋ねてみたところ、報道官は慌てて否定していました。結局、私は求められたような文書を提出しませんでしたし、それが理由かは分かりませんが、その後の約6年半の在任中、一度も首相の単独インタビューは実現しませんでした。》
https://mainichi.jp/articles/20210105/k00/00m/040/141000c
③対照的だった神保哲生と産経新聞 首相は今日も反省の弁はなし
「東京新聞労働組合」は次のような連ツイを投稿している。
《首相会見。
幹事社(時事通信)/「首相は見通しが甘かったのではないか?」/首相、事実経過をだらだら述べるだけで答えず/尾身会長に振ってしまった。/記者は即「首相が質問に答えてない」と抗議を。》
《首相会見。/NHK「国民の自粛疲れにどう取り組む?」/首相「・・・(長々)・・・感染を抑えていきたい」/問答になってない。/そして尾身会長に振る。》
《首相会見。/ブルームバーグ「医療体制に問題は?」/首相「必要な医療を受けられるように/病床を確保していくことが大事だ」/そんなことは一般論、常識、聞かずとも自明。/その先を質疑しなきゃダメだ。/記者は引き下がるな。》
《首相会見。/日本ビデオニュース・神保さん/「国民に協力を求める間、政府は何してた?/医療の逼迫。体制を作ってるのは政治だ/法制度を変えるつもりはあるのか?」/首相「検証の必要がある」》
《首相会見。/「GoTo」執着が感染爆発と医療崩壊を招いた責任を/問いただす質疑は、今日もなかった。/だめだめな会見だ(恥)。/ビデオニュースの神保哲生さんのように/政府の何がダメか、という問題意識を明示した上で/斬り込むような質疑を、官邸記者たちがすべきなのだ。》
《神保さんは、首相が十分に答えなかった後も/当然「二の矢」の質問を放っていた。/その音声はテレビではしっかり聞き取れなかったが/首相が、司会の官邸役人に横目で/(制止しないのか…?)みたいな視線を送ってた。/全員がこのような二の矢、三の矢を当然に放つべきだ。/記者の職務だ。》
https://twitter.com/danketsu_rentai/status/1349298312692736000
~
https://twitter.com/danketsu_rentai/status/1349311715700195328
記者クラブに属している記者はものの見事に「官邸広報」に仕切られているというなかでビデオニュースの神保哲生はキラリと光っていた。飯島浩も次のように評価している。
《フリーの神保さん「病床数世界一、感染者数は米国の百分の一なのになぜ医療逼迫?なぜ緊急事態?なぜ国民に犠牲?政府は何してきた?」に菅総理は答えず会見打ち切り。この問いが全てを言い尽くしている。これまで官邸クラブの政治記者は誰もこれを聞かなかった。記者席をフリーに譲って退場してほしい》
https://twitter.com/SamejimaH/status/1349334427915100161
こちらは柴山哲也のツイート。
《菅首相非常事態宣言の記者会見。記者クラブ記者の質問は儀式的で中身なし。
ブルームバーグとフリーの神保氏は、医療崩壊に対して政府は何をしてきたかの質問に、首相や尾身氏からは具体的説明はなし。医療崩壊は病床不足でなく医療を支える人の不足という大問題にも答えず国民へのお願いに終始した。》
https://twitter.com/shibayama_t/status/1349311192972423172
顰蹙を買ったのは産経新聞の記者であった。舛添要一が呟いている。
《新型コロナ、緊急事態宣言拡大の首相記者会見で、北朝鮮問題を質問する非常識な産経新聞の記者、マスコミの社会的責任を放棄している。》
https://twitter.com/MasuzoeYoichi/status/1349305233852141572
しかし、何故、産経は「非常識」を選択したのだろうか。その「政治」を「ワイド師匠」に解説してもらおう。
《菅は「わかりやすい形で」無能なので今後も支持率の上がり目はなく、菅政権の長期化の見込みは薄い。しかし自民党には強力なアドバンテージがある。それは近隣諸国との対立関係であり歴史認識問題だ。これがある限り自民党の打倒は非常に困難で、仮に倒せるならばそれは「また別の保守」となるだろう。》
《そういえば昨日の菅の記者会見で、産経の記者だったか、「拉致問題」について質問していたが、あれも象徴的で、いわば「困ったときの近隣諸国叩き」が常態化しているのだ。拉致問題しかり慰安婦問題しかり、徴用工問題しかり。(現政権側の立場から)動員できる事案がいくらでもある。困ったものだ。》
https://twitter.com/feedback515/status/1349547199747657733
https://twitter.com/feedback515/status/1349548652964925441
毎日新聞グループホールディングス顧問・小川一のツイート。
《首相会見を見ています。いつも思うのは、日本の首相会見は「いかに守るか」「いかに隠すか」「いかに言質をとられないか」を常にKPIにしているということです。これでは伝わりません。ニュージーランドの首相らの会見は「いかに伝えるか」を明確なKPIにしていると感じます。》
https://twitter.com/pinpinkiri/status/1349313399319003137
だから「反省」を欠如させてしまうのだ。政府分科会の会長・尾身茂には、それでも「反省」の言葉はあった。しかし、ガースーに反省の弁はない。俵才記のツイート。
《菅首相の記者会見、相変わらず対策が遅れた事を謝罪せず、言い逃れと1ヶ月で収束させるとの願望だけだった。それにしても尾身会長を同席させ回答を求める姿はみっともない限りで一層国民を不安にさせた。もう1年も経つのだからこれぐらいの事は自分で答えられるだろ。これでは国民の共感は得られない。》
https://twitter.com/nogutiya/status/1349310430347358209
記者クラブに蝟集する記者が誰一人として責任を問わないから反省しないで済ましているのかもしれない。山崎雅弘が指摘している。
《最後の神保さんの質問(事前提出でないガチの質問は恐らくこれだけ)で指摘されていたように、本当なら「国民にあれこれお願いや指示を出す」以前に、政府は今まで何をやり、何をやってこなかったかという検証が必要な段階だが、菅氏は論点を逸らして逃げ、政治部記者も誰一人、政府の責任を問わない。》
https://twitter.com/mas__yamazaki/status/1349308300412637187
森達也のツイート。
《今のこの国で、コロナについての記者会見を(記者たちの質問が相次いでいるのに)打ち切らなければいけないほど重要な「次の日程」とは何だろう。明日朝刊の首相動静が楽しみ。》
https://twitter.com/MoriTatsuyaInfo/status/1349335399835914244
「異邦人」を名乗るアカウントのツイート。
《昨日の記者会見を「次の予定がある」と、僅か41分で逃げるように終えた菅義偉首相だが、首相動静を見たら実働は官邸での15分程度だけで、後は議員宿舎に帰っただけだった。緊急事態宣言の拡大という局面にあっても、国会からも記者からも逃げ続ける菅義偉氏は政治的リーダーとして完全に失格。》
https://twitter.com/Narodovlastiye/status/1349557723541639174
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2)【記事】全文公開!文藝春秋 元常務取締役 斎藤禎からのメール
私は昨日の「文徒」で次のように書いた。
《同期入社の文藝春秋元社長・田中健五による追悼文が読みたいと思うのは私だけだろうか。「週刊文春」編集長だった半藤一利は1977年4月に「文藝春秋」編集長・田中健五と入れ替わって「文藝春秋」編集長に就任した。「文藝春秋」編集長だった田中からすれば半藤一利と入れ替わって「週刊文春」編集長に就任した。「編集長が代わりました」と大宣伝したのは、この時である。》
すると早速、文藝春秋の元常務取締役の斎藤禎から次のようなメールが送られてきた。それは文藝春秋という出版社の企業体としての「体温」が伝わってくる内容であった。ここに再録しようと思う。むろん、斎藤の許諾は得ている。
《おはようございます。
本日の「出版人・文徒」を拝読しました。
今井さんの傑作『三角寛「サンカ小説」の誕生』を拝読した時の感激を思い出しました。
同時に、半藤さんのことをいろいろと思い出しています。
半藤さんと田中さんは対照的な人でした。
昭和43年、当時の社長だった池島信平さんが、突如、文春ビル9階に事務局を置いていた「日本文化会議」(田中美知太郎さんらが会員でした)の会報を文春で出すと言い始めました。
これに、岡崎満義さんらが、社の言論の公平性を殺ぐのではないかと言い始めました。連日、社業が終わってから、ホールで社員総会が開かれました。
岡崎さんが「池島さんのモラルが落ちているのではないか」と発言すれば、大男の池田吉之助さん(丸谷才一さんと旧制新潟高校で同期。この時『オール讀物』編輯長)が立ち上がって、ハラハラと涙をこぼしながら「君、いったい、なんていうことを言うんだ」と言いました。
若い女性が「組合を作りましょう」と言えば、戦後まもなく入社した女性が「佐佐木先生(新社初代社長佐佐木茂索・年配の女性は佐佐木先生と呼んでいました)がいらっしゃったら…」と涙ぐみます。
社員総会は毎晩続きます。
議長は半藤さんでした。小生は、入社2年目でしたが、どういうわけか、半藤さんに指名され、副議長となりました。
結局、上部団体には属さないという条件のもと組合が結成されました。初代委員長は岡崎さんでした。
小生は、組合ができたというより、文春社内の闊達さに驚きました。ベテラン社員も新入社員も対等に意見を言う姿に感動しました。
当時、半藤さん、田中さんに加えて、その同期にもう一人、金子勝昭さんがいました。金子さんは、退社後、エッセイストとして活躍されました。
この金子さんと松浦伶さん(出雲出身・東大仏文・退社後、シャイラー『第三帝国の興亡』を翻訳)を中心に文春演劇部がありました。
最初の演目は、なんと福田善之の革命劇『袴垂れはどこだ』でした。
小生も、村人役で出ましたが、毎晩毎晩稽古をしました。『週刊文春』の人もいましたから、これではとても『週刊新潮』に勝てるわけはありません。
松浦さんには、永六輔や和田誠さんを紹介してもらいました。
和田さんが『週刊文春』の表紙を描くことについて、今いろんな人が「あれはおれがやった」と言っていますが、小生は、松浦さんが田中さんに献策して実現したと思っています。
会社に行きながら、芝居をやったり、まるでクラブ活動のようでした。
半藤さんは筆が早い人でした。半藤さんが『週刊文春』編集長の時、ある人が、突然入稿日に、病気になりました。
ちょうど年末でしたが、「いいよ、俺が書くよ」と言って半藤さんはテーマを変更して「義士討ち入り」の話を、編集長席で鉛筆で書き始めました。
4ページ分をあっという間に書き上げました。小生が、速筆で驚いた人は、林真理子さんと半藤さんです。
半藤さんは、私たち後輩にいつも言っていました。
「勉強しなさい。ひとつのことを10年やれば、その道の第一人者になれる」
これと正反対なのが田中さんです。
「編集者は書いてはいけない。奥さんにも言えないことを相談されることがあるのが、編集者だ。聞いた秘密は墓までもっていきなさい」
といつも言っていました。田中さんが『諸君』の編集長の時、小林秀雄と江藤淳の対談がありました。三島の自決をめぐって江藤さんが「あれは病気です」と言って、おふたりの間に険悪な空気が流れました。対談を読むとその後どうなったのかと、興味を抱かせるような展開になっています。
しかし、田中さんにその後どうなったのかといくら質問しても、「江藤さんと飲みに行ったよ」と言うばかりで真相を明かしてくれません。
今になってもそうです。誌面で勝負したと思っていらっしゃるのでしょう。
編集者としての田中さんは飛びぬけていました。
田中さんにデスクとして仕えた松村善二郎さん(のち『文學界』編集長)が、ある時こんな話をしてくれました。
「ライシャワーさんが、日本史に関する座談会のあと、田中さんに『あなたの質問には参りました。答えられなくてすみません』と謝ったのです。『あなたの質問は学者以上です』
とも言いました」
今、田中さんは、介護付きのホームで暮らしています。このコロナ禍、訪ねることはできません。連絡は電話のみです。
振り返ってみれば、半藤さん、田中さんが現役編集長の頃が、文春の黄金時代でした。
現在のように文春砲などと騒がれなくとも、社内にいて、学ぶことばかりでした。偉大な時代に在籍したことを誇りに思っています。
駄弁を弄し申しわけありません。つい思い出に耽ってしまいました。
コロナが流行っています。くれぐれもご自愛くださいますよう。》
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3)【本日の一行情報】
◎田中康夫のツイートで知った。世界的なビール会社であるハイネケンは屋外広告戦略を見直して、閉店しているバー・飲食店のシャッターに掲出している。
https://twitter.com/loveyassy/status/1349507445903695872
田中は「40年後のなんとなく、クリスタル」を「文藝春秋」2月号に寄稿しているが、「文藝春秋DIGITAL」で1月16日(土)より無料で公開する。田中は江藤淳と野間宏に評価されてデビューしていることがわかる。
《「10年後に期待したい」。芥川賞選考会で“慈愛に満ちた引導”を渡された翌日の1981年1月20日に、文藝賞受賞作『なんとなく、クリスタル』は書店に並びます。
「後世畏るべしというほかあるまい」。過分な評価を下さったのは文藝賞選考委員の江藤淳さん。ご自宅にお邪魔した同年3月末、「私が褒めたから、反発も大きかったんだよ」と微苦笑されました。》
https://bungeishunju.com/n/ncd58d1ab219a
◎宝島社は「人気文具付録」シリーズの第8弾となる「ツバメノート」柄のマルチケース「みんなのツバメノート」を1月15日(金)に発売する。累計50万部を突破しているそうだ。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001106.000005069.html
文具を扱う書店は多い。しかし、文具をテーマにした「ブツ」を刊行してしまう出版社は宝島社ぐらいのものだろう。こういう「えげつなさ」が実は宝島社の魅力である。
◎アルバルク東京では、「週刊少年サンデー」(小学館)に連載されているバスケ漫画「switch」のコミックス11巻が1月18日(月)に発売されることを記念し、今年も「アルバルク東京×switch」のコラボを決定した。2018-19シーズンから3シーズン連続となる。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000121.000035222.html
◎関川夏央が「週刊ポスト」の書評で取り上げたのは朱宇正の「小津映画の日常 戦争をまたぐ歴史のなかで」(名古屋大学出版会)であった。これを読まなければ、私はこの本の存在を知らずに過ごすことになっていただろう。それだけ書店の店頭が荒れているということなのだけれど。
https://www.news-postseven.com/archives/20210112_1625494.html?DETAIL
朱宇正は書いている。
《私の場合、小津と出会った最初の経験は、「禁止」という言葉と重なっている。私が初めて小津の名前に接したのは、1990年代に韓国で出版されたいくつかの映画評論の書物においてであった。まだ日本の大衆文化への開放が始まる数年前だった当時、「日本映画を代表する監督」として紹介されていた小津安二郎の名前は、見ようとしても見られない「禁止」された世界へ向かう強烈な好奇心と交じり合って、記憶の中に鮮明に残された。》
そんな朱宇正が小津作品との邂逅を果たすのは留学していたアメリカにおいてであったという。
https://allreviews.jp/review/5021
5400円は、ちと高いが欲しいなあ、この本。名古屋大学出版会は私をそそる企画が多いが、いかんせん高いのである。
https://www.unp.or.jp/ISBN/ISBN978-4-8158-1002-3.html
◎日販による2020年12月期の店頭売上前年比調査。全体で110.1%となりました。2008年の集計開始以来初の8か月連続での前年超えとなり、記録を更新した。内訳をみると雑誌 が94.6%、書籍が96.5%、コミック が154.5%、開発品が 103.3%。15 か月連続で前年超えをしているコミックだけが良いのだ。むろん、コミックを牽引しているのは「鬼滅の刃」だ。
https://www.nippan.co.jp/wp-content/uploads/2021/01/pos_202012.pdf
◎日販およびリブロプラスが運営する本屋「文喫」は、2021年1月19日(火)~2月23日(火)の期間中、江東区と共同の企画展「モノヅクリするマチ展」を開催する。「江東区ものづくり団地」の一環として開催される。
https://www.nippan.co.jp/news/bunkitsu_monozukuri/
◎神保町のUCHIGO and SHIZIMI Galleryは、1月12日より「辻まこと展-植田俊一郎コレクション-」を開催している。
https://www.yamakei-online.com/journal/detail.php?id=6102
辻まことの父親はダダイストの辻潤、母親は伊藤野枝。村山由佳の「風よ あらしよ」(集英社)の登場人物のひとりである。
https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-08-771722-8
◎白泉社が発行する「ヤングアニマル」で評連載中の「3月のライオン」(羽海野チカ)がサッポロ一番の人気カップ麺シリーズとコラボすることになった。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000414.000046848.html
◎ロイターは1月12日付で「ツイッター、『Qアノン』喧伝のアカウント7万件超を停止」を配信している。
《米短文投稿サイトのツイッターは8日以降、陰謀論を宣伝する集団「Qアノン(QAnon)」関連の情報共有に特化したアカウント7万件超を停止したと発表した。》
https://jp.reuters.com/article/usa-election-twitter-qanon-idJPL4N2JN0YD
◎アマゾン「ビジネス・経済書」ランキング。新潮新書「スマホ脳」が第1位。これは売れると思っていた。タイトル、テーマともに良いもの。ただし、オレは買わないけどね。読書猿の「独学大全」が第2位!そうか、そうか、これはオレも買った。「独学大全」は自己啓発系ビジネス書とは一線どころか、二線も、三線も画す本格派である。
https://toyokeizai.net/articles/-/403379
◎毎日新聞は1月13日付で「値下げせざるを得なくなったNHK 重い腰を動かした『攻勢』と『萎縮』」(屋代尚則)を掲載している。
《NHKが13日に決定した2021~23年度の中期経営計画。受信料については、武田良太総務相の強い値下げ圧力を踏まえ、23年度の値下げに踏み込まざるを得なくなった。AMラジオの「第1」「第2」を25年度を目標に統合することや、3年間で計550億円程度の事業支出削減などの改革も盛り込み、民放などに批判される「肥大化」から「縮小」へかじを切る。》
https://mainichi.jp/articles/20210113/k00/00m/040/285000c
昨年、NHKが発表した中期経営計画案では受信料値下げについて全く触れていなかった。これを読めばわかるようにNHK前田晃伸会長は現行の料金を維持するとしていた。
https://www.nhk.or.jp/info/pr/toptalk/assets/pdf/kaichou/k2008.pdf
ところが、昨年9月に総務相に武田良太が就任し、ことあるごとに値下げをNHKに求め、遂にはNHKが白旗を掲げたということである。ことほどさようにNHKは政治からの圧力に弱いのである。NHKは報道機関として政権の御用聞きであることは否めないのである。
◎「honto月間ランキング(集計期間:2020年12月1日~12月31日)」で柳美里の「JR上野駅公園口」が第1位を獲得した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000601.000009424.html
◎藤原ヒロシと新谷学による対談の後編。藤原ヒロシ!良いねぇ。
《本物か偽物か、という基準ではないですね。〝ユニクロ〟も〝ルイ・ヴィトン〟も本物だと思うし。格好いい悪いでもなく、自分に向いているか、向いていないか、という感覚的なものかもしれません。あと、権威主義的というか、上から来るような感じのものは少し苦手です。なんとか賞みたいなものも、自分から欲しいとは思わないです。》
新谷学、異議なし。
《そこで私が強調したのは、賭け麻雀や取材源との距離の近さが問題なんじゃない。ディープなネタを取ったのに書かないことが問題なんだと。優先すべきは記事を書くことで、人間関係を維持することじゃないんです。その覚悟を持てるか持てないかが、プロかアマチュアかの違いなんだと。
私だったら記者を麻雀に行かせて、「黒川検事長独占告白5時間」って、全部書きますよ。朝日新聞も社長直轄で、部署の垣根を超えた精鋭部隊をつくって、政権の調査報道を1年間地道にやり続ければ、風景が変わるのではないかと。》
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/63541
◎朝日新聞デジタルは1月14日付で「楽天サーバーに漏出情報 SB元社員、同僚と共有の疑い」を掲載している。
《携帯大手のソフトバンクから高速移動通信方式「5G」の秘密情報が漏出した事件で、不正競争防止法違反容疑で逮捕された元社員の合場邦章容疑者(45)=横浜市鶴見区=の転職先の楽天モバイルのサーバーや業務用のパソコンに、それらの情報が保存されていたことが13日、捜査関係者への取材でわかった。警視庁は、楽天モバイルで同僚らと共有した疑いもあるとみて調べている。》
https://digital.asahi.com/articles/ASP1F7WBNP1FUTIL03R.html
◎毎日新聞は1月14日付で「トランプ氏アカウント凍結『正しい決断』『危険な前例』 ツイッター社CEO、迷いのツイート」を掲載している。
《ドーシー氏は「私はトランプ氏のアカウント凍結やここまでの経緯を祝ったり、誇りに思ったりはしていない」としながらも「危険に関する最善の情報をもとに決断した」と指摘。「ツイッターにとって正しい決断だったと思っている」と記した。
一方で、直後の投稿では凍結について「予期せぬ結果になった」とし「例外があるとしても、究極の健全な対話を促進する意味では失敗だったと感じる」「公の会話を分断し、危険な前例を作ってしまった」と書き込んだ。》
https://mainichi.jp/articles/20210114/k00/00m/030/065000c
江川紹子の次のようなツイートも頭に入れておこう。
《一定の言論を、国家が法律で(刑罰をもって)全規制するのと、各民間企業の判断で規制するのと、どちらがマイナス面が少ないか、という話。独が前者、米国が後者。後者は基準や手続きの透明性や公平性がイマイチだが、企業によって対応異なるので自由度は高い。ツイッタだめでもパーラーOKとか》
https://twitter.com/amneris84/status/1348956665932959744
◎「NEWSポストセブン」は1月12日付で「女性セブン」に掲載された「納豆とヨーグルトに潜む危険性 極端に安いものには注意が必要」を公開しているが、1月13日付で次のような「追記」が発表された。
《追記/納豆の記述について、誤解を招きかねない表現がありましたので、一部修正いたしました。(1月13日17:20)》
https://www.news-postseven.com/archives/20210112_1626575.html?DETAIL
実は「AERA.dot」が1月13日付で「『女性セブン』の記事に納豆メーカーが激怒 『営業妨害だ』『あまりにひどい』」を公開したのだ。「AERA.dot」によれば、「NEWSポストセブン」は消費者問題研究所代表の垣田達哉の次のようなコメントを紹介していた。
《特に、極端に安く売られている納豆には気をつけてほしい。発酵には時間と手間がかかるので、発酵時間を短くすることでコストを抑える場合がある。アミノ酸液で旨みを加えたり、着色料で色味を補って作っている商品も存在します。添付されているたれやからしにも注意してほしい。さまざまな添加物が含まれている可能性があり、なかには血糖値が急上昇して糖尿病や心臓病のリスクが上がる危険性があるものも。しかし、30平方センチメートル未満の小さい包装の食品には表示義務がなく、それらが入っていても知ることすらできません》
このコメントにある「アミノ酸液で旨みを加えたり、着色料で色味を補って作っている商品も存在します。添付されているたれやからしにも注意してほしい。」の部分を「NEWSポストセブン」は1月13日17時20分に「添付されているたれやからしにも注意してほしい。アミノ酸液で旨みを加えたり、着色料で色味を補って作っている商品も存在します。」と変更しているのだ。
「AERA.dot」は次のように書いている。
《垣田氏に真意を確認したところ、昨年、「女性セブン」の取材を受けて答えた記事だが、インターネットに記事が配信されているのは知らなかったという。
「消費者に誤解を与えてしまう内容になってしまい、大変申し訳な