『G2』枝野幸男発言に東京電力は沈黙か?東電から枝野、海江田、細野に電話で「全面撤退」申し入れは「事実」だとして電話の主は誰なのか?

東京電力福島第一原発の事故に際して、当時の清水社長が菅直人総理に対して全員撤退を申し入れた事実はないとし、そのように報道したTBSや朝日新聞に対しては「当社関連報道について」という文章を東京電力のホームページで一般にも公開している。しかし、それは朝日新聞やTBSに対する「抗議」ではない。東京電力が踏まえている事実関係はこうだと述べるにとどまり、朝日新聞やTBSに訂正を求めるものではない。企業が発表するこの手の内容の文章としては明らかに異質なものである。東京電力が事実関係はこうだと述べるだけでは、国会でなされた菅総理の発言に依拠する東京電力の言い分が正しいのか、当事者やその周辺を取材することで清水社長が菅直人総理に対して全員撤退を申し入れたことを「事実」として報道した新聞やテレビの言い分が正しいのか決着はつかないことになる。東京電力から名指しされた朝日新聞やTBSも同社が発表した文章に対して反論をするということもない。この問題について私なりの考え方は1月17日のエントリで披瀝させてもらったが、その後、事故当時に官房長官をつとめていた枝野幸男(現在は経済産業大臣である)が『G2』で薬師寺克行(元朝日新聞政治部長東洋大教授)のインタビューに答えて、次のように語っているのを知った。

東電は首相補佐官だった細野豪志さんや産業経済大臣の海江田万里さん、そして官房長官の私に電話してきた。東電は「全面撤退するつもりはなかった」と後から言い出しましたが、3人とも東電の言ってきたことを「全面撤退」と受け止めた。ですからコミュニケーションギャップから来る勘違いではあり得ない。全面撤退ということは、単に東電が潰れるという「悪魔のプロセス」が始まるということです。だから、菅首相が激怒して、撤退を止めたのです。

東京電力のホームページを見る限り、1月16日に発売された『G2』に対して、いや本当の「事実関係はこうだ」と述べる文章は発表されていない。既に発売から4日も経過していることを踏まえれば東京電力からしても枝野発言に異論はないのであろう。つまり、東京電力の誰かが首相補佐官細野豪志、産業経済大臣の海江田万里官房長官枝野幸男の三氏に福島第一原発からの全面撤退を示唆する電話をしていたことに間違いはないのだろう。枝野が「コミュニケーションギャップから来る勘違いではあり得ない」と断言している以上、清水が言ったとされる「プラントが厳しい状況であるため、作業に直接関係のない社員を一時的に退避させることについて、いずれ必要となるため検討したい」という程度の発言ではなかったに違いない。問題は、この電話がいつ、東京電力の誰からかかって来たものかである。清水社長、勝俣会長という代表権を持つ二人は東日本大震災当日、東京電力本社に不在であったことは知られている。勝俣は中国、清水は関西にいたようだが、清水が東京本社に戻る以前に東京電力の誰かが政権中枢にいる三人に電話をして来たのだろうか。もし清水が東京電力本社にいるという状況のなかで、清水の意向に反して「全面撤退」を示唆する電話をかけることなどあり得まい。また政権中枢に電話をしてくるくらいだから、原子力発電に関して代表権者に次ぐようなポジションにある人物と考えるのが妥当ではないのか。
いずれにせよ、私たちが知りたいのは「事実」に他ならない。「事実」なくして「ゲンパツ敗戦」の責任は主語を欠いたまま放置されることになるだろう。「過ちは繰り返しませぬ」からと言ってみても、誰の「過ち」であるか、その主語を欠いたままでは「過ち」は何度でも繰り返されるのである。