ツイッターというソーシャルメディアのマスメディア化について・・・フォロー数とフォロワー数から見えてくることは?

マスメディアにおいて「情報」はマスメディアから一方的に発信される。「情報」の受信者はどこまでいっても受信者の立場に固定される。そういう意味でマスメディアは権力的なのである。これに対してツイッターというソーシャルメディアは誰もが「情報」の発信者たり得る。ツイッターにおいては「私」がメディアであり、その「私」は情報の受信者でもある。しかもRT(リツイート)することで「私」というメディア同士のコミュニケーションも可能になる。確かに一度に発信/受信できるのは140字という制限はあるものの連続ツイートをすれば、それこそ制限はない。誰もが言いたいことを言えるメディアなのである。
しかし、このツイッターをマスメディアとして活用することも可能だ。ツイッターではフォロー、リストの数とフォロワーの数が表示されているが、その二つの数字が圧倒的に非対称的な場合がそうだ。つまり、フォロワー数でマスメディア級の数字を持ちながら、フォロー数が極端に少ない場合は、そのアカウントの持ち主たる「私」はツイッターをマスメディアとして活用していると言って良いだろう。RTには目を通しているとしても、その「私」はツイッターを「情報」の発信手段に特化し、「情報」の受信手段としては身の回りのネットワークとして活用するにとどめているということだ。
「@t_ishin」こと大阪市長橋下徹を例にとってみよう。私がフォローしているなかでは最大のフォロワーを擁しているアカウントだ。1月27日午前10時30分現在、橋下のフォロワー数は「547413」。雑誌のABC公査部数(雑誌の実売部数を六ヵ月ごとの平均で示す)を見てみると、「547413」という数字は『週刊文春』を凌駕する。2011年上期のABC公査部数だが、『週刊文春』の部数は「477391」部であり、橋下のフォロワー数を上回る雑誌は『家の光』しか存在しない。これに対して橋下のタイムラインを常時占めるフォロー数は16にしか過ぎない。ただし、橋下の場合はリストが「22101」あるから、必ずしも発信に特化しているとは言えまい。そうなると橋下はツイッターソーシャルメディアとしても、マスメディアとしても使いこなしているということになる。
しかし、ツイッターをマスメディアとして活用するには予め既存のマスメディアを通じて名前の売れている存在であるほうが圧倒的に優位であろう。誰もがツイッターをマスメディアのように駆使できるわけではない。ただし、フォロワーの数に比べて、フォロー数、リスト数が圧倒的に少ない場合、そのアカウントの持ち主の発想はマスメディア的であると言って良いだろう。誤解を恐れずに言えば140字の言論の内容にかかわりなく、ツイッターを権力的に駆使している可能性が高いのではないだろうか。
朝日新聞デジタル」が自社のツイッターアカウントを紹介した。「ニュース」が「東日本大震災関連のニュースのほか、最新の話題や交通情報、デジタル関連のニュースをツイートしてい」る「asahi 朝日新聞ニュース」をはじめ17。「つぶやく記者」は15。具体的には「ishida1970asahi」ことローマ支局長の石田博士、「wsawa」ことヨーロッパ総局長の沢村亙、「erika_asahi」ことロサンゼルス特派員の藤えりか、「michiamochu」ことスポーツ担当編集委員忠鉢信一、「kaztaira」ことIT担当編集委員の平和博、「chihiroktk」こと文化財・古社寺担当編集委員の小滝ちひろ、「TFujitani_Asahi」ことアジア総局長の藤谷健、「yoshiakikasuga」ことニューヨーク特派員の春日芳晃、「xibenxiu」こと東京社会部記者の西本秀、「okuyamatoshi」こと東京報道局(遊軍)記者の奥山俊宏、「itami_k」ことジャーナリスト学校主任研究員の伊丹和弘、「akadayasukazu」ことデジタル編集部記者の赤田康和、「tanji_y」ことデジタル編集部記者の丹治吉順、「Atsuo_NGS_Asahi」ことスポーツ部記者の根岸敦生、「Yoshioka_keiko」こと北京特派員の吉岡桂子という顔ぶれだ。ただし、ツイート数が100に満たない記者が何と10人にも及ぶのだ。これのどこが「つぶやく記者」なのだろうか。最もツイッターに慣れ親しんでいるのが丹治吉順ということになる。このデジタル編集部記者はツイート数が「12184」、フォロー数が「1903」、フォロワー数が「11529」と15人のなかでは図抜けた存在である。何故か「kanda_daisuke 神田大介」は紹介されていないのも不思議である。まあ、先に急ぐ。「スポーツ」が7、「地方総局・支局」が9、「特集・連載」が7、「書評・電子書籍」が3、「会員サービス」が3、「イベント・その他」が9となり、総70アカウントが紹介されている。
もう少し細かく見ていこう。「ニュース」に分類された17のアカウントのうちフォローが何とゼロというものもある。「朝日新聞韓国語版」がそう。最もこの場合、フォロワー数も「93」と少ない。対照的なのが朝日新聞社が運営する公式アカウントの「asahi 朝日新聞ニュース」と朝日新聞東京本社の報道・編成局長室のアカウント「asahi tokyo」である。前者のフォロワー数は「523834」、フォロー数が「78」であり、後者のフォロワー数は「54598」、フォロー数が「53690」となっている。「asahi 朝日新聞ニュース」はフォロー数とフォロワー数が非対称的であり、「asahi tokyo」はフォロー数とフォロワー数が拮抗している。ここから見えてくるのは公式アカウントの「asahi 朝日新聞ニュース」は朝日新聞そのもののミニチュア版に過ぎないが、「asahi tokyo」は「情報」の受信にも注力していてソーシャルメディアの特性を生かそうとしているということだ。意外と言っては失礼かもしれないが「asahi tokyo」ほどでないにしても、発信ばかりではなく、受信にもツイッターを利用しているアカウントが多いのである。しかし、そのなかで「やはり」というべきか、フォロワー数が「31986」もあるにもかかわらずフォローが「1」というアカウントが存在する。「asahi_kantei」こと朝日新聞官邸クラブのアカウントだ。たった一つのフォロー先がどこかといえば、「asahi_gaikou 」こと外交・防衛取材班の朝日新聞霞クラブに他ならない。朝日新聞官邸クラブに集う記者たちにとって下々の「つぶやき」には一切関心がないのだろう。彼らの視界に入るのは「官邸」の動きだけなのであろう。その「情報」を他の連中にも知らしめてやろうという権力的な体質がここから透けて見えはしないか。私の考えすぎだろうか。