朝刊一面を飾る経済記事に『増税』『TPP』を後押しする新聞の『政治』を見た!

朝日新聞が損保ジャパンと日本興亜の合併を伝えた記事は1月27日付朝刊の一面を飾った。この合併が実現すれば「売上高にあたる『正味収入保険料』が約1兆9千億円になり、東京海上日動火災保険の約1兆7千億円を抜き、国内首位となる」のだそうだ。さぞや日本経済新聞は臍を噛んだことであろう。何しろ日経は経済の専門誌、他の領域で他社に抜かれるのは致し方ないにしても、経済で抜かれては専門紙としての面子は丸つぶれである。しかし、朝日新聞の読者の立場からすれば、こんな記事を一面で読みたくも何ともないであろう。確かに、これは朝日のスクープなのだろうが、スクープだからといって、それだけの理由で一面を占拠するというのは、新聞のマスタベーション以外の何ものでもあるまい。その記事の内容からしても経済面なり、三面に掲載するだけで充分なのではないだろうか。こんなところに新聞のメディアとしての「時代遅れ」を垣間見るのは私だけのことではあるまい。
実は、朝日新聞の朝刊は昨日も今日も経済記事が一面を飾っている。昨日は「日本国債の急落を想定 三菱UFJ銀 危機対策」という見出しの編集委員の肩書を持つ織田一の記事であった。

銀行最大手の三菱東京UFJ銀行が日本国債の価格急落に備えた「危機管理計画」を初めて作ったことがわかった。数年後に価格が急落(金利が急騰)して金利が数%にはね上がり、損を少なくするために短期間に数兆円の国債を売らざるを得なくなることもある、としている。国債の有力な買い手がいよいよ「急落シナリオ」を想定し始めた。

そして今日の一面を踊ったのが「製造業 赤字軒並み ソニー2200億円 マツダ1000億円」という見出しだった。続く二面の「あのソニーどこへ」の署名が牧内昇平と大宮司聡だから、この一面も同じ記者によるものだろう。

日本経済を牽引(けんいん)してきた製造業の苦境が鮮明になってきた。ソニーは2日、2012年3月期決算の純損益が2200億円の赤字に拡大する見通しを発表。電機や自動車、素材で大幅な赤字が目立つ。超円高や欧州危機などの厳しい状況が早期に改善するめどは立たず、工場閉鎖や雇用を減らす動きも相次いでいる。

昨日の記事は一応、何故にわかったかは一切説明されることのない、ともかく「わかった」で結ばれる「わかった」記事だからスクープだろう。今日の記事になると、日本を代表する製造業の決算見通しを複数かき集めただけの「発表」記事である。しかし、この二つの記事を一面に持って来たことの意味は想像しておいたほうが良いかもしれない。結論から先に言う。この二つの記事は政局と連動した記事であると言って良いだろう。政局と連動した朝日新聞の「政治」が透けて見える記事に他ならない。
昨日の記事は政府の掲げる「増税」を実施し財政再建に取り組まないと、日本もギリシャのように「破綻」の危機を迎えるぞと、言ってみれば有権者たる国民を脅す効果がある。国債(国の赤字)に関していうと日本は「破綻」寸前のギリシャや「破綻」が噂されるイタリアよりも遥かに多くの国債を発行している。しかし、日本がギリシャやイタリアのような大騒ぎにならないのは、その大半の買い手が国内にとどまっているからである。しかし、その国内における国債の有力な買い手である三菱UFJ銀行が数年後に国債の急落を予想し、短期間に数兆円の国債を売る覚悟を持っているという記事をデカデカと一面に掲げることは、政府の掲げる「増税」が待ったなしであり、野田政権のマニュフェスト違反とも言えるような「増税」路線にお墨付きを与えるも同然のことである。もはや朝日新聞にあって「増税」は規定路線なのであり、何が何でも実現しなければならない政策課題なのだろう。朝日新聞のみならず新聞は「政治」のプレイヤーとして、その一角を占めている。官僚同様に選挙の洗礼を受けることがないにもかかわらず、だ。新聞はメディアとしての「公共性」を明らかに履き違えている。
今日の大企業の赤字決算を列挙しただけの記事も同じである。輸出によって利益を確保して来た日本の製造業が円高や欧州危機によって苦境を迎えているということだが、米側と調整を行っている」記者会見で発言したばかりであることも踏まえれば、輸出によって利益を得ている製造業が、この苦境から脱出するためにはTPPに加わるしか選択肢はないのだということが含意されているに違いあるまい。しかし、多くの国民がTPPについて、それほど理解が深まっているとはまだまだ言えまい。そんなことはお構いなしなのが、新聞の「政治」というものなのだろう。朝日新聞がメディアとしての「公共性」を少しでも考えるのであれば、朝刊で連載している「プロメテウスの罠」や夕刊で掲載している「原発とメディア」のような形でTPPを取り上げ、農業や製造業はもちろんのこと、金融(主として信金)、小売、医療、出版など実際にTPPに加わったならば、どういうことが起き得るかを丁寧にレポートすへきなのではないだろうか。あるときは「政治」を引きずり回し、あるときは「国民」を引きずりまわすことに新聞は長けている。読者が主権者たる国民であるということすら忘れてしまっているのではないだろうか。何故か?それは自らが掲げる社説なり一面の記事が「世論」そのものに他ならないと考える「倒錯」に朝日新聞をはじめとした新聞やテレビといったマスメディアが汚染されているからに違いあるまい。
いったいマスメディアは、とりわけ朝日新聞は民主主義をどう考えているのだろうか。