遂に誕生!『Flipboard』日本版

遂にこの日がやって来た!わがiPadは新しくもない古いタイプだが、アップストアを見ていると、『Flipboard』がアップデートを求めていることがわかった。そこにはこうあった。

Flipboardが日本版として完全にローカライズされました。

『Flipboard』日本版が生まれたのである。これまで『Flipboard』で日本語で読めるのはツイッターフェイスブックだけであった。それでも私は『Flipboard』のアルゴリズムによる編集力に度肝を抜かれ、圧倒された。SNSやニュースサイトから記事や写真を取り込み、綺麗なレイアウトで見せてしまう『Flipboard』はソーシャルメディア時代のデジタルマガジンと呼ぶに相応しいと最大限に評価したものである。コンテンツを雑誌のページをめくるように堪能でき、しかも記事のリンクを共有したり、コメントを投稿できる。昨年、上梓した『新大陸VS旧大陸』で『Flipboard』に触れ次のように書いた。

だってツイートが単純に並んでいるだけじゃないんだぜ。時系列は崩されていないにしても、見栄えよくレイアウトされているのはもちろんのこと、リンクしている写真も臨機応変にレイアウトされて出てくるではないか。見開きで写真を使うなんていう芸当もこいつは持ち合わせているし、リンクされているブログもちゃんと表示されてしまうのだ。全文ではないけれど、全文を読みたいのであれば、そこをタップすればウェブに飛んで全文を読むことが可能になるという仕組である。

私は早速、右人差し指でタップした。もちろん、無料である。さあインストールしたら、即起動だぜ。これまで英語ヴァージョンでも既存の英語メディアのデジタル版は読めたのだが、日本版ではいったい何が読めるのか期待に胸が膨らむ。コンテンツにはハイライト、ニュース、ビジネス、テクノロジー、オーディオ、ビデオ、キュレーター、アート・写真、生活、エンタメ、スポーツ、旅行、スタイルと並ぶ。順番に見ていくことにしよう。
ハイライトには「おすすめフォト500」「YouTube日本版」「ピックアップ」、これに英語版の「Inside Flipboard」と並ぶ。「おすすめフォト500」は『Flipboard』に集まってきた写真のなかから厳選500を見せてくれるというもの。「YouTube日本版」とあることからわかるように映像も楽しめる。写真にせよ、動画にせよ、『Flipboard』の編集力によってチョイスされている。「ピックアップ」は『Flipboard』に集まってきて話題となった情報を編集したものであり、雑誌で言えば「総合誌」の役割を果たしていると言えるだろう。
おいおいニュースが充実しているではないか。「日本経済新聞電子版」「毎日jp」「読売新聞YOL」「ニュース」「政治」「ASAHI」「ロイターワールド」「NHKニュース」「CNN Japan」「tenkijp」「Nikkei TRENDY」「マイナビニュース」「ZAKZAK」「産経デジタルイザ!」「みんなの経済新聞」「J-CASTニュース」「ガジェット通信」「ロケットニュース」「アゴラ」と並んでいるのは圧巻である。これに「社説アプリ」をインストールしておけば、新聞を宅配で取る必要はなくなる。ちなみに「ZAKZAK」は『夕刊フジ』のニュースであり、「みんなの経済新聞」は日本全国の地域ニュースを網羅し、「ロケットニュース」は「変なニュースやネットでの出来事」を取り上げ、「アゴラ」は言論プラットフォームのあの「アゴラ」である。これらの情報をベースにピックアップして読ませてくれるのが「ニュース」であり、テーマを政治に絞ってピックアップしてくれているのが「政治」である。「ニュース」なら「ニュース」、「ビジネス」なら「ビジネス」というように各カテゴリーごとにピックアップ版があるのも便利である。
ビジネスには「日経ビジネス」「DIAMOND online」「Bloomberg日本版」「ロイタービジネス」「ワールド・ビジネス・サテライト」「東洋経済オンライン」「ビジネスメディア誠」「アドタイ」「Markezine」「@niftyビジネス」「Web担当者Forum」「IBTimes Japan」「Venture Now」「DIME編集部」と並ぶ。「アドタイ」は広告界のニュースを報じ、「Markezine」は広告、マーケティング情報を報じる。
テクノロジーには「engadget日本版」「WIRED『テクノ』ジャーナリズム」「TechCrunch Japan」「ITmediaTop」「Gizmode Japan」「Startup Dating」「ASCII.jp編集部」「Techwave」「PC Online」「週刊アスキー」「NHK科学文化部」「JAXAウェブ」「hatebu_science」「sorae:Japan」「APPBANK」「モバイル」「アイパッド」「ミートロード」「mobileASCII編集部」「Japan.Internet.Com」があり、他にアプリのレビューも沢山あるし、物凄く充実したメニューとなっている。
オーディオ、ビデオでは音楽と映像が堪能できる。ビデオには「YouTube日本版」がある。私が開いたときにはトップに「家計お助け戦隊FPレンジャー」「猫と散歩、いっしょに魚釣り!」「月の松島」が出てきた。そこで見たい画面をタップすると映像がスタートするが、これが何十ページにもわたってつづく。まさに映像マガジンなのである。ビデオには「日本文化チャンネル桜」があり、右系のユーザーを歓喜させることだろう。
キュレーターにはブログやツイッターで名前の知れた「個人」が並ぶ。坂井直樹、佐々木俊尚林信行堀潤、コグレマサト、小飼弾といった面々だ。
アート・写真には「原宿 日本」「博物館」「カロンズネット」などがあり、生活には「地球環境新聞」「ナチュラル生活」「ライフハッカー日本版」などが控えている。エンタメでは映画、音楽、書籍、アニメ、ゲームと何でもござれだし、スポーツには「ナンバー」「日刊スポーツ」「ゴルフダイジェスト」などが揃い、旅行には「ナショナルジオグラフィック」「TRANSIT」「バックパッカーモード」などが、スタイルには「ハニカム」「フィナム」「FIGARO.jp」とレディースもメンズもしっかりとカバーしている。
これだけ充実していると、通勤通学の電車のなかでは雑誌や新聞にわざわざお金を払って読む必要がなくなる。そういう暇つぶしには『Flipboard』だけで充分間に合ってしまうのだ。メディアのソーシャル化とは既存メディアも定価ゼロ円その引力圏に引き込むものだが、『Flipboard』でもそうである。英語版では既に『USA TODAY』『National Geographic』『The Guardian』『Vanity Fair』などとパートナーシップを提携しているが、日本版もスタート時点でこれだけのコンテンツを集めてしまうのだから、日本の出版社も『Flipboard』を無視できなくなるのは間違いあるまい。仮にパートナーシップを組んでいなくとも、『Flipboard』はデジタルコンテンツであればRSSフィードやWebサイトから記事を直接、取り込んでしまうわけだから、出版社からすればパートナーシツプを組まないで勝手に、しかもタダで利用されるくらいならば、パートナーシツプを積極的に組んだほうが広告費をシエアできるという判断に追い込まれざるを得ないのである。そう『Flipboard』のビジネスモデルは広告収入によって成立しているのだ。出版社が『Flipboard』上に広告を配信し、その収益を『Flipboard』と分け合うというわけだ。しかし、出版社からすれば紙だけで商売していた時代のほうが儲かったことであろう。「知」や「情報」の価格に強烈なデフレ圧力をかけるのがソーシャルメディアの時代の本質であり、マスメディアから様々な特権を次々に剥ぎ取っていくことになるだろう。ソーシャルメディアというビジネスは「知」をより安く解放する、創造と解体を表裏とした運動でもあるのだ。それはデジタル革命がもたらした経済のアナキズムでもある。ただし、結果として既存メディアには弱肉強食を強いることを考え合わせれば、既存メディアにとっては新自由主義と同じなのである。