「私の映画ベスト100」のオマケ

ブログの良いところは何がしかのギャラをもらって文章を書かないで済むところにある。だから、私の勝手な都合で内容が中途半端なままでもエントリしてしまえるわけだ。実は、私はゴールデンウィークを前に秘かに「私の映画ベスト100」なる企画を立てていた。これまで見てきた映画の中からベスト100を選んで、その一本一本にコメントしてしまおうという野蛮な企画である。ところが昨日、目出度く自宅で卒寿を迎えることになった親父がベッドから落下し、入院するという事態が生じ、この企画は頓挫するのだが、取り敢えず100本だけでも紹介しようと、5月15日にアップしたのが「私の映画ベスト100」(http://d.hatena.ne.jp/teru0702/20120515/1337060567)であった。
もともと私は16歳から25歳くらいまでの間のことだが、映画を年間500本以上は確実に見ていた相当なシネフィルであった。特に松田政男の「趣味」に影響を受け、『映画批評』という雑誌や日刊ゲンダイに連載された「日付のある映画評」は欠かさず見ていたクチである。『シティロード』という『ぴあ』のライバル誌では毎号、見開きで映画の採点表が掲載され、ここでも松田の星取りに毎号、頷いていた記憶がある。そういう意味では映画を映画それ自体の運動として見る蓮実重彦には距離を取っていたクチである。その辺りが今回の100本にも微妙に反映されているように思う。何しろ黒沢明黒沢清というダブル黒沢を欠如させたベスト100なのである。
何故、こんなことを書き始めたかと言うと、私にとってブログの大先輩というか、師匠筋(勝手にそう位置づけている)にあたるtanu_kiさんが自らのブログ「新・リストラなう日記 たぬきちの首」(http://d.hatena.ne.jp/tanu_ki/)で取り上げてくれたからである。ま、tanu_kiさんのコメントに対して「言い訳」をしようという次第である。
①『地獄に堕ちた勇者ども』とか『愛の嵐』が上位に顔を出すのは、専ら私の「倒錯趣味」による。加えて言えば二作とも『さらば愛しき女よ』(ディック・リチャーズ 『男の出発』の監督である)のシャーロット・ランプリングが出ているところもキモなんだよね。
テレンス・マリックには『天国の日々』という美しい映画もあるのだけれど、宗教的という意味では、むしろ『地獄の逃避行』だと思う。しかも『キャリー』のシシー・スパイセクのデビュー作であるということもテレンス・マリックでは『地獄の逃避行』を選んだ大きな理由であると言っても良いだろう。
③『ワイルドバンチ』のウィリアム・ホールデンにはアーネスト・ボーグナイン(アルドリッチの『北国の帝王』の主演である)をはじめベン・ジョンソンウォーレン・オーツなど連帯する仲間がいた。最終的には追手のロバート・ライアンまでにも連帯の輪を広げてしまう。そこが『ワイルドバンチ』の良さだとすれば、『ガルシアの首』の良さはウォーレン・オーツがまさに「たった一人の蜂起」を決行するところにある。映画史的に言えば、『ガルシアの首』における池辺良の不在はもっと真剣に論じられるべきではなかったのか。そうした偏った問題意識からペキンパーでは『ガルシアの首』を選んだ次第である。
④『時計じかけのオレンジ』を丸の内ピカデリーで見てから、スバル座でペキンパーの『わらの犬』を見た。デートでこの組み合わせは殆どあり得ないはずだ。案の定、振られた。『時計じかけのオレンジ』はクラシックの使い方も見事だったが、ジーン・ケリーの「雨に唄えば」を口ずさみながら陵辱するなんてパンクそのものである。マルコム・マクダウェルの「ベルトから下の階級闘争」は結局、敗北してしまうのだけれど…。
マイケル・チミノには『ディアハンター』にしてもそうだったけれど、「右からの革命」の可能性を感じてしまうんだよね。どちらにしようか迷いはしたが、ユナイトというスタジオを倒産させてしまったという点において「呪われた映画」としての威厳を持つ『天国の門』を選んだ。
ベルトルッチの『シェルタリングスカイ』とかアントニオーニの『さすらいの二人』も好きなのだが、官能的という意味においては『ヘカテ』である。ディオールの衣装をまとったローレン・ハットンの手すりをつかんだままでの「後背位」の美しさに私は圧倒された。アダルトビデオの「立ちバック」がいかに下品なものであるかを『ヘカテ』は教えてくれる。
⑦天才ロバート・アルトマンから何を選ぶかは相当迷った。作品の完成度からすれば『ナッシュビル』『ボウイ&キーチ』『三人の女』『ギャンブラー』といったところになるのだが、チャンドラーの小説を映画としてここまで「脱構築」できるのはアルトマンしかいないはずである。マーロウを演じるのが『マッシュ』のエリオット・グールドであるというところもアルトマンならではの凄さではないのだろうか。
イーストウッドも何を選ぶか悩みに悩んだ。その底流においてゴダールに通じる初期の『恐怖のメロディ』や『荒野のストレンジャー』も捨て難いし、『明日に向かって撃て』や『俺たちに明日はない』の世界観を全面的に否定してみせた『ガントレット』も傑作ではある。しかし、やはりイーストウッドにとって最後の西部劇である『許されざる者』を西部劇好きの私としては選ばざるを得なかった。ちなみに『ミスティックリバー』とかはハナから念頭になかった。
⑨深作作品で菅原文太を軸に考えるのであれば『人斬り与太』という選択もあったろうし、『軍旗旗めくもとに』なんていう選択もあるし、青春映画という意味では『仁義なき戦い 広島死闘篇』という選択もあったろう。ただ、剥き出しの暴力に「窮民革命」の可能性を幻視するには『仁義の墓場』なのではあるまいか。
⑩私からするとケン・ラッセルは映画界のニーチェという位置づけである。『恋する男たち』『恋人たちの曲 悲愴』も好きだし、『トミー』や『リストマニア』でもラッセルはイッているものね。私が『肉体の悪魔』を選んだのはトロツキストとして最も美しい女性が主役を演じているからにほかならない。ヴァネッサ・レッドグレイヴである。
デビッド・リンチで言えば確かに『マルホランド・ドライブ』であろう。あるいは『ワイルド・アット・ハート』『インランド・エンパイア 』のほうが妥当だと思う。しかし、デニス・ホッパーの怪演をもって『ブルーベルベツト』とした。
⑫『ウッドストック』の編集を担ったマーチン・スコセッシから何を選ぶかも難しかった。当然、ロバトート・デ・ニーロが主演である必要があろう。ローリングストーンズファンとしては『ミーンストリート』でも良かったし、デ・ニーロに重心を置くのであれば『レイジングブル』や『グッドフェローズ』であろう。ちなみに『レイジングブル』の脚本もポール・シュレイダーである。そうしたなかで『タクシードライバー』を選んだのは、この作品にはブライアン・デ・パルマも一枚噛んでいるからである。ポール・シュレイダーをスコセッシに紹介したのがデ・パルマなのである。しかし、デ・ニーロもデ・パルマに紹介されていたんだよな、確か。
⑬『レザボア・ドッグズ』を選んだのはラストのドンデン返しも含めてtanu_kiさんのご指摘の通り、映画でしか実現できない演劇性を買ってのこと。冒頭、クルマのなかでマドンナを話題にしての運び方なんて、そうザラにできるものではないだろう。音楽の趣味からすると私の場合は『キルビル』だなあ。
⑭『非情城市』はコッポラだけど、『恋恋風塵』は間違いなく小津の系列だと思う。
⑮『けんかえれじい』もtanu_kiさんが察している通り。北一輝の写真に圧倒された。
⑯『灰とダイヤモンド』は主人公マチェックのサングラスと煙草において最も美しい反共映画だから選んだ。日共系の映画サークルは勘違いしていたというか、映画を見る目がなかった連中が多かったように私は記憶している。
⑰ワイダであれば『灰とダイヤモンド』と即決できるのだが、ロマン・ポランスキーだとそうもいかない。『水の中のナイフ』は『灰とダイヤモンド』を選んだので除外した。プレイボーイ資本で取られた血塗られた『マクベス』、それに『フランティック』『チャイナタウン』が残った。恐らく100本の範囲だとジョン・ヒューストンの『ロイビーン』は漏れることになるから、ヒューストンが出演している『チャイナタウン』をポランスキーでは残すことにしたのである。
コーエン兄弟では『ミラーズクロッシング』を選んだのは、まさに『子連れ狼』系だからなのです、ハイ。
アラン・レネの様式美に私はいつも勃起させられる。『報道と隠蔽』では伏線に『24時間の情事』を使ったので、今回は『去年マリエンバートで』にすることにした。
ジョージ・ロイ・ヒルの描くワイルドバンチである『明日に向かって撃て』は排除した。なぜなら、『スティング』でロバート・ショーをあそこまで貶めた男を私は今もって許す気になれないのだ。スピルバーグから選ぶとすれば『続激突カージャック』に当然なるけれど、ロバート・ショーのために『ジョーズ』とした次第。
21 セルジオ・レオーネは『夕陽のギャングたち』ではなく『ウエスタン』を選んだのは、脚本がベルトルッチとアルジェントというトロツキスト二人組であったから。そのアルジェントの『サスペリア』における極菜色の前衛主義を私は見捨てるわけにはいかなかった。ベルトルッチ(今や創価学会に転向してしまった)では『暗殺の森』を入れているし、ここでアルジェントを抜くわけにはいかなかった。
22 『俺たちに明日はない』の「奇妙さ」はロバート・タウンの脚本に起因しているのだと思う。
何でもそうだけれどランキングというのは、その日の気分でも変われば、何に重心を置くかで選択の仕方は変わってくる。今回で言えば『アルジェの戦い』とかが抜けてしまっているんだよね。