【文徒】2014年(平成26)3月4日(第2巻40号・通巻242号)

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1)【記事】大阪屋の経営危機とレジームチェンジ
2)【記事】徳間書店がCCCと資本・業務提携へ
3)【本日の一行情報】
4)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】大阪屋の経営危機とレジームチェンジ

大阪屋のホームページを開いてみる。「会社概要」に社長の名前が記されていない。つい先日まで南雲隆男社長の挨拶がアップされていたが、これもなくなっている。ニュースリリースは1月28日で止まっており、2月28日の臨時株主総会で決まった役員人事の件はホームベージのどこを探してもアップされてはいなかった。
http://www.osakaya.co.jp/
大阪屋にとって2月28日の株主総会で決まった「レジーム・チェンジ」は、それほど衝撃的であったのかもしれない。大阪屋生え抜きの南雲社長、中田知巳常務が退任し、講談社から大竹深夫取締役、小学館から早川三雄顧問の2氏が経営ボードに加わり、非常勤社外取締役として、小学館から山岸博常務、集英社から東田英樹常務、非常勤社外監査役として、講談社から森武文専務が就任することになった。大竹が社長に就任する。
今年、1月の「おでんの会」で講談社の森専務らが南雲社長に引導を渡したものと推測されるが、私などからすると、大阪屋を蝕む病巣の根本的な手術を一年以上にわたって先送りし、大阪屋の「傷」をより深めたという意味で南雲社長の責任は海よりも深いように思えてならない。取次業界でいえば鈴木書店のケースが私には思い起こされるのだ。
人文書を中心に扱っていた鈴木書店も、岩波書店とみすず書店が経営再建に乗り出していった時点では時既に遅く、結局は経営破綻をもって決着してしまったし、アナウンス効果鈴木書店再建の一翼を担った岩波書店の経営を悪化させてしまった。
確かに大阪屋救済に乗り出したのは、講談社小学館集英社という日本を代表する出版社だが、そうは言っても大阪屋の決算を引き延ばすことはできないだろうし、版元の売掛債権の放棄を呼びかけるのかどうか、版元の売掛債権を放棄するとして、どういう規模で、どういう版元の顔ぶれで行うのか、難問が山積していると考えて間違いあるまい。
増資ということになれば、楽天なり、大日本印刷なり、何なり、外部の企業を大阪屋の経営に巻き込めるかどうかも大阪屋再建にとって重要なポイントとなるはずである。
また、私などが不思議でならないのは、KADOKAWAの不在である。出版業界の第3極を担うつもりがあるのであれば、当然、KADOKAWAも待ったなしの大阪屋再建に汗をかいてしかるべきではないのだろうか。

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2)【記事】徳間書店がCCCと資本・業務提携へ

小田光雄がブログで明らかにしたように徳間書店はCCCと資本・業務提携することになった。
http://d.hatena.ne.jp/OdaMitsuo/20140301/1393599641
恐らくCCCの出資は10億円規模になるものと思われる。しかし、CCCのホームページにこの件は一行も書かれていない。トップ・パートナーズ経由の出資であるのかもしれない。
CCCで代表取締役副社長をつとめる中西一雄が徳間書店の経営ボードに加わるようだが、中西はCCCが100%出資する投資会社トップ・パートナーズの社長をつとめている。中西は近畿大阪銀行の出身である。ちなみにトップ・パートナーズは音楽コンテンツを扱うアイビーレコードを傘下におさめている。
http://www.t-partners.jp/about/
小田のブログからも引用しておこう。
徳間書店の平野健一社長の見解によれば、今後委託制配本と雑誌の広告収入による出版ビジネスはそれだけでは立ちいかなくなるので、ネット配信やイベントも視野に収め、コンテンツやブランドを全方向で活用するためのCCCとの提携だという」

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3)【本日の一行情報】

ライトノベルスの販促にプロモーションビデオは有効なのだろう。「ファミ通文庫」から刊行された「リーガル・ファンタジー」(作・羽田遼亮、イラスト・三弥カズトモ)と「奈落英雄のリベリオン」(作・朝凪シューヤ、イラスト・夕薙)のプロモーションビデオが公開されたが、マンガ同様にビジネスの多角化・立体化を志向している。
「リーガル・ファンタジー」のプロモーションビデオのPVのBGMには、2009年に「ハナウタ」で投稿デビューし、12年にはメジャーデビューもしているボカロP、ピノキオPの新曲「elf」が流れる。「奈落英雄のリベリオン」のBGMは「ひとしずくP×やま△P」の「明日への系譜」だ。
もちろん、作品がヒットすればゲーム化なり、アニメ化にも駒を進めることになるのだろうし、イベントも仕掛けることが可能になる。いわば「少年ジャンプ」が試みてきたことの小型ヴァージョンを実践することでKADOKAWAは「ライシノベルズ帝国」を築き上げたのである。
しかし、マンガやライトノベルスが切り拓いてきた多角化・立体化のビジネスモデルは、マンガやライトノベルの領域のみに留めておく必要はないのである。出版のあらゆるジャンルにおいて模索されてしかるべきだし、月刊女性誌や週刊誌においても、萌芽状態に足踏みするのではなく、もっと大胆な多角化・立体化を考えるべきであろう。
http://news.mynavi.jp/news/2014/02/28/218/

◎「価格.com」が電子書籍の価格比較サービスを開始した。
http://corporate.kakaku.com/press/release/20140228.html
紙の書籍は再販制度により「統制経済」が貫徹されてきたが、電子書籍において出版物は資本主義に直面することになったということである。

◎「電子貸本Renta!」がスマホに特化した「絵ノベル」の配信をはじめたが、なかなか評判が良いようだ。電子書籍ビジネスでアマゾンに対抗するには小技の切れ味が必要なのかもしれない。
http://news.mynavi.jp/articles/2014/02/28/novel/index.html

ペプシの比較広告に度肝を抜かれた。500名のユーザーにコカ・コーラと飲み比べをした結果、61%がペプシに軍配をあげるというもの。日本では広告代理店がマルチクライアント制をとっていたため比較広告がなかなか根付かなかったが、サントリーがそのタブーに挑戦した。
http://blog.livedoor.jp/gunbird/archives/8275867.html
http://www.mylifenews.net/drink/2014/02/-tvcmoa.html

トーハンに対してアルバイトから厳しい声が上がっている。2ちゃん話とはいえ、意外に当たっているという声もある。
「桶川に転籍になった職員ってどういう人達何ですか? まともな仕事もしない。指示もできない 。バイトとまともなコミュニケーションも取れない。なのにプライドだけ一流。バイトも呆れてます 。掃き溜め?」
http://toro.2ch.net/test/read.cgi/books/1382534346/347

◎「希望の翼」は「あの時、ぼくらは13歳だった」(東京書籍)を原作とするドキュメンタリードラマでtvkの開局記念番組として韓国KBSと共同制作され、日本では昨年の3月2日に放映された。総合監督を大山勝美がつとめたことでも話題になった。
http://www.tvk-yokohama.com/tsubasa/
原作は韓国で出版されたものの、昨年8月に予定されていたドラマの放映が延期となったままである。
http://blog.livedoor.jp/tickwa-tube/archives/4010498.html
ちなみに原作の版元である東京書籍の歴史教科書は右派から「偏向」や「反日」のレッテルを貼られ、「葬り去れ」とまで批判されている。

凸版印刷の電子チラシのポータルサイ「Shufoo!」は、イシダの電子棚札を連携した「リアルタイム店内お買い得情報配信サービス」を開発した。
http://ascii.jp/elem/000/000/871/871379/
凸版印刷はバーチャル試着も西武池袋で3月23日まで実施している。
http://news.ameba.jp/20140228-611/
雑誌もリアル店舗と連動させる必要が絶対にある。

◎ いわゆる「スピリチュアル本」なのだろうが、一昨年に刊行された「幸せの選択」(マガジンハウス)の一件、まだ揉めているようだ。
http://blog.livedoor.jp/masashimotegi-magazinehouse/archives/37365739.html

◎マンガは持ち込みが普通だが、小説は出版社の敷居が高いのは常々変であると私は思ってきたが、講談社とブックリスタは共同でエンタテインメント小説の新しい才能を発掘すべく原稿持ち込みイベント「講談社文芸編集者による小説道場」を開催する。
http://www.booklista.co.jp/index.php/feature/shosetsudojo
40年前にこういうイベントがあれば私も参加していたかもしれない。10代の頃、人を殺す際に必ず吉本隆明の詩を口ずさむという殺し屋を主人公にした小説を書いたことがあるんだよね。

◎新潮社が刊行した「青森縄文王国」(1680円)が電子書籍と連動。紙の書籍から写真素材を抜粋し、電子書籍アプリ化。土偶をクルクル回したり、土器を接写した高精細画像、遺跡の3次元パノラマが楽しめるという。しかも3月31日まで200円で配信される。
http://hon.jp/news/modules/rsnavi/showarticle.php?id=5287

◎映画監督デヴッド・リンチがパリで開催される Kenzo (ケンゾー) の2014年秋向けショーのセットとサウンドトラックを制作することが決まった!
http://fashionpost.jp/archives/24776
私にとってリンチはアイドルの一人である。

◎こういうところが宝島社の目のつけどころが鋭い部分だ。宝島社は日本最大の化粧品・美容の総合サイト「@cosme」の公式総合年鑑「@cosmeクチコミランキング2014年保存版」を刊行した。
http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000032.000005069.html

◎こういう方向性は間違っていないと思う。ブランド力によってニッチを開拓するという方法論だ。「将棋観戦ぴあ」。
http://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784835622958
「落語鑑賞ぴあ」なんていう企画があっても良いはずだ。

◎LINEにおける友だち数をマイナビニュースが調査。10人未満が44.4%、10人以上20人未満が10.2%、20人以上30人未満が8.6%という結果になった。
http://news.mynavi.jp/articles/2014/03/01/keitai_enquete/

◎「ラ・ファーファ」(ぶんか社)の造語能力には注目せざるを得ない。今度は「おしゃカワテディさん」と来た!言葉の力を減退させた雑誌に未来はないことを「ラ・ファーファ」の成功は教えてくれる。はじめに言葉ありき、だ。
http://news.ameba.jp/20140228-477/

◎大広が大阪市子育て支援事業に参画。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD280VL_Y4A220C1TJ2000/

◎ヤフーの広告枠に今度は名古屋銀行を騙る偽サイトが掲載された。
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00263823.html
出版社も気をつける必要がある。

三浦大輔の映画「愛の渦」がヒット!嬉しいニュースだ。
http://eiga.com/news/20140301/11/

ソフトバンクモバイルの「My SoftBank」に不正アクセスがあり、個人情報344件が流出した可能性あり。
http://www.itmedia.co.jp/mobile/articles/1402/28/news147.html
しかし、世の中、不正アクセスだらけである。広島では中学の先生が不正アクセス容疑で逮捕された。
http://www.nikkansports.com/general/news/f-gn-tp0-20140301-1264524.html
グーグルはアカウントの不正利用を未然に防いでくれるのか!
http://weekly.ascii.jp/elem/000/000/204/204079/
グーグルを単純にギャング扱いして憚らない出版人もこの業界には棲息している。
http://www.zakzak.co.jp/entertainment/ent-news/news/20140228/enn1402281808024-n1.htm
不正アクセス被害は全国で300件。「寄生サイト」も怖いぞ。
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/osaka/news/20140302-OYT8T00047.htm

◎「THE世界遺産」公式アプリは良さそうだ。
http://www.tabroid.jp/app/entertainment/2014/02/jp.co.tbs.heritage.html

ドワンゴが来春卒業予定の大学生の採用に際して「受験料」を徴収していた件で、厚生労働省が中止するよう行政指導をしていた。
http://www.yomiuri.co.jp/net/news0/national/20140302-OYT1T00197.htm?from=ylist

武田薬品にも誇大広告疑惑が持ち上がっている。
http://diamond.jp/articles/-/49558

◎出版物だけを扱っていたのでは書店の経営は苦しくなるばかりだという情況のなかで、書店にコンビニを併設する新業態が生まれたということだろう。トーハン資本の明屋書店の石井店(松山市)はセブンイレブンを併設している。セブンイレブンにとっては愛媛県初出店でもある。書店が220坪、コンビニが45坪である。西日本において、この業態は増えるに違いない。トーハンセブンイレブンならではの新業態とも言えるだろう。
http://www.tohan.jp/whatsnew/news/1_2/

◎1950年代生まれを「ベルエポック世代」と呼ぶ。「生まれた直後に高度成長が始まり、成人前後に高度成長が終わった世代」である。要するに「ポパイ」世代であるわけだが、私もその一員である。この世代の栄光と悲惨と復活を綴った福井次郎の「1950年代生まれの逆襲」が面白い。版元は「橋爪大三郎マルクス講義」の言視社である。
http://www.s-pn.jp/

北原みのり、朴順梨の「奥さまは愛国」(河出書房新社)は女性版「ネットと愛国」であった。
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309246499/

文藝春秋の宣伝プロモーション部がニューズレターで「辞書になった男」が静かな話題を呼んでいると書いていたので早速、手に入れ、読んでみた。まだ読んでいる最中なのだが、極上のサスペンス小説のように面白いノンフィクションだ。ベースとなっているのは昨年NHKBSで放映された番組、NHKは取材にカネを使えるからなあ。
http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163900155

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4)【深夜の誌人語録】

正攻法を際立たせるためには、必ず奇襲を定期的に仕掛けなければならない。正攻法だけで臨むならば、必ずマンネリに陥ってしまうからだ。