【文徒】2014年(平成26)3月5日(第2巻41号・通巻243号)

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1)【記事】出版組織論の基礎知識
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】出版組織論の基礎知識

出版社の役員や管理職を見渡してみるとわかることだが、複数のセクションを経験せずにそのままエスカレーター式に役員や管理職に就いているというケースが少なくない。出版社はそれほどスペシャリストを重視してきたということだが、こうした人事が縦割組織の弊害をもたらしているといっても過言ではあるまい。部であれ、局であれ、組織の名称は各社違えども、「ムラ」とルビを振るべきような実態がある。
原子力ムラ」という言い方があるが、「原子力ムラ」も真っ青になるような利益共同体たる「ムラ」が構成されているのだ。ムラを支配するのは内輪の心情論理にほかなるまい。
例えば役員は、会社全体の利益を考えてしかるべきであるにもかかわらず、自らが担当するセクションの利益しか考えないというケースを見つけることは、そう難しくない。新入社員より役員ボードに名前を連ねるまで、他部門の経験がないと、どうしても特定の「部分」の利益を優先させてしまう思考パターンに陥りがちなのである。このままでは大手出版社といえども中小企業の連合体の域を抜け出せまい。
出版市場が高度成長を遂げている時代であれば、それでも良かったろうが、組織がバラバラであることは、経営の統合力を機能不全に至らしめ、大手出版社ならではの総合力という競合優位性を削いでしまうことになりかねない。少なくとも管理職や役員には「外部」の視点が問われているということだ。
そうした「外部」の視点は自然発生的に育つものではない。「情報」の共有化によって、その一歩は踏み出されるべきであるし、何よりも管理職に昇格した段階で、それなりの研修が必要になって来るはずだ。同時に過半の社員が複数のセクションを経験できるような計画的な人事ローテーションを確立すべきである。
出版社にとって、部や局をムラ化してしまうと、人間関係に癒着を生じさせるだろうし、そうした癒着を温床とし、権限と責任を逸脱するような公私混同が堂々と幅を利かすことになる。信賞必罰の原則を摩滅させては、社員のモラルも、モラールも低下させよう。どんな組織でもそうだが、フェアネスを失った組織は個人を、社会的常識(=コモンセンス)をいとも簡単に超えて暴走させてしまうものなのである。
そうなってしまった組織を恢復させるには、組織の大胆な組み替えによるムラの解体が必要となって来るはずである。こうした局面において意識改革を唱えたところで何の意味もないのである。

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2)【本日の一行情報】

小学館は「日本の歳時記」を季節ごとに4分冊化し、7月までに順次刊行される。一冊2940円か。文庫化なり、新書化されるまで買うのは待とう。そう考える読者もいるのではないだろうか。小さくなれば吟行に持って行ける。そういう意味では、歳時記は電子書籍でも良いのである。
http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20140224-OYT8T00741.htm?cx_thumbnail=09&from=yolsp

◎後世、2014年は電子書籍撤退元年として記憶されるのかもしれない。いずれにしても電子書籍書店の閉店で読者が思い知らされたのは「電子書店で購入した本は、所有しているわけではない、ということです」。
http://news.ameba.jp/20140303-194/

◎NAVAR、核燃黒猫というペンネームがそそる。講談社が中国で人気の漫画家を日本に上陸させる。女性二人組ユニットNAVARによる近未来サスペンス「CARRIER:キャリアー」を「別冊少年マガジン」4月号から連載を開始し、核燃黒猫の「魔王全書」を「少年ライバル」に掲載する。講談社は中国でマンガ誌「勁漫画」を展開している。
http://www.yomiuri.co.jp/adv/enterprises/release/detail/00078346.html

世界文化社は読者の依頼に応じて「家庭画報」のカメラマンが、読者のもとに馳せ参じ、「家庭画報」の誌面同様のクオリティの写真を撮影し、額に入れて完成させる「家庭画報 写真館」のサービスを始めた。A3プリント2点で80万円、A3プリント3点で100万円という価格設定はハイエンドマガジンならではのものであろう。こうしたサービスは他の女性誌でも価格をもっと落として可能なのではないだろうか。
http://www.value-press.com/pressrelease/122435

Loppiが発行する電子マネーWebMoneyをコンビニのローソン、ミニストップで購入すると「eBook図書券」がプレゼントされる。WebMoney2000ポイント分で324円分の、3000ポイントで540円分の「eBook図書券」が貰えるそうだ。
http://www.yomiuri.co.jp/adv/enterprises/release/detail/00078357.html
ブックウォーカーが還元率50%を謳う「キャッシュバックキャンペーン」でもWebMoneyが使われている。
http://bookwalker.jp/ex/sp/2013termend_cb/

◎日本で広告媒体としてテレビが強い理由。インターネット広告が外国ほど大きく伸びない要因のひとつでもある。
「…多くの国民がテレビで同じ時間に同じ放送を見るという状況は、欧米では生まれにくいのです。これが日本と欧米のテレビ事情の大きな違いです」
「日本では、いかにマスメディア、特にテレビとネットメディアの互いの特性をうまく組み合わせながら、最適な情報発信のプラットフォームを構築できるかがマーケティング成功の鍵です」
「なぜなら、日本での情報拡散のスタイルは、テレビという強大なデリバリーシステムに情報コンテンツが乗ることで初めて広く流通するからであり、この傾向はしばらく変わらないと思います」
統合型マーケティング・コミュニケーションに雑誌がどのように関与してゆくのかについての理論武装が出版社には求められているということだ。
http://diamond.jp/articles/-/49418

電通電通メディア・フィリピンとポスタースコープ・フィリピンを設立し、それぞれ営業を開始した。フィリピンは海外本社=電通イージス・ネットワーク絡まないようだ。
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2014/pdf/2014018-0303.pdf

◎「半沢直樹」のスタッフにより、池井戸潤の「ルーズヴェルト・ゲーム」が連続ドラマ化され、TBS系列で4月より、日曜午後9時の枠で放映開始される。
http://www.jiji.com/jc/c?g=etm_30&k=2014030200183
原作の版元は講談社
http://bookclub.kodansha.co.jp/books/topics/rooseveltgame/
テレビ放映に合わせて文庫化するのだろう。「半沢」部数にどこまで迫れるかである。

◎アプリ「マンガボックス」のダウンロード数が累計300万を突破。
http://www.venturenow.jp/news/2014/03/03/1702_021750.html
このアプリは英語、中国語にも対応している。コミックウォーカーにしてもそうだけれど、デジタルの世界においてマンガは多言語対応が常識となっていくのであろう。

インプレスの「できるシリーズ」は累計6000万部にも及ぶのか!シリーズ20周年記念フェアを展開中。主要な30タイトルが電子書籍化される。とっくの昔に電子化されていると思っていた…。
http://diamond.jp/ud/pressrelease/5313f3ff6a8d1e63a1000002

◎「PS4」の大ヒットでゲーム市場が活気づいている。2月のゲーム市場は前年同期比38.9%増の382億円。
http://www.sankeibiz.jp/business/news/140303/bsj1403031433001-n1.htm
出版業界も、この風を利用しない手はない。

◎3月2日付ニューヨークタイムズは「安倍氏の危険な歴史修整主義」なる社説を掲載。内田樹が全文を翻訳しているが、こう書き出されている。
安倍晋三首相のナショナリズムの旗印は今や日米関係に対するかつてなく深刻な脅威となりつつある」
http://blog.tatsuru.com/2014/03/03_1409.php
内田も指摘しているようにアメリカ人にとって「対米従属」(解釈改憲)と「対米自立」(靖国神社参拝&歴史観)が同居してしまう安倍という政治家は意味不明としか理解できないのである。この奇妙な同居において「論理」よりも「心情」を優先させてしまう政治が罷り通っているのかもしれない。

小学館が誇るキャラクター「ドラえもん」が同社の全51誌の表紙をジャック!アニメ映画「ドラえもん 新・のび太の大魔境〜ペコと5人の探検隊〜」の公開と藤子・F・不二雄の生誕80周年を記念し、2月15日発売の「コロコロコミック」を皮切りに、次は2月27日発売の「オッジ」というように小学館の全雑誌の表紙に「ドラえもん」が登場する。全51誌の総発行部数は700万部に及ぶという。
http://news.mynavi.jp/news/2014/03/04/149/
「遊び心」を全社員が共有できれば、この企画は大成功だろう。

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3)【深夜の誌人語録】

小さな火を心に灯し続けるのであれば、全世界を焼き尽くすことも可能であるのだから、余所見をせずに今の道を進めば良いのである。