【文徒】2014年(平成26)4月7日(第2巻63号・通巻265号)

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1)【記事】民衆を食い物にした「ガレキとラジオ」と朝日新聞
2)【記事】雑誌社の垣根を越えた米「NextIssue」の挑戦
3)【本日の一行情報】
4)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】民衆を食い物にした「ガレキとラジオ」と朝日新聞

ドキュメンタリー映画「ガレキとラジオ」に出演した被災者が代理人弁護士を通じて4日までに、「やらせ」と報じた朝日新聞社に対し、質問状を送っていた。
「質問状は、被災者は報道されたような『演技』をした認識はなく、『映画を見た人に申し訳ない』と話したこともないため、記事は事実に基づいていないとしている」
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2014040400912
「ガレキとラジオ」は民衆のひとりとして東日本大震災に遭遇した何の罪もない70代の女性を自らの「やらせ」の共犯者に追い込んだという意味において、「ガレキとラジオ」はドキュメンタリー映画として許してはならない作品だと私は思っている。
彼女をはじめとした南三陸町の人々に「なぜ大事な映画まで奪い、さらなる苦しみを負わせるのでしょうか」「彼女に映画を返してください」「南三陸町に映画を返してください」と言わしめるほど追い込んでしまったことに私は怒りすら覚える。朝日新聞の取材に問題があったにせよ、その原因を作ってしまったのは「ガレキとラジオ」というドキュメンタリー映画における「やらせ」なのである。南三陸の人々が本気で「ガレキとラジオ」を自らの映画として奪還したいのであれば朝日新聞のえげつない取材手法を否定するだけでは駄目なのである。
「ガレキとラジオ」はドキュメンタリー映画だなどと名乗らなければ良かったのである。被災者自身が出演するドラマを名乗っていれば何の問題もないのである。しかし、この映画を制作した広告代理店たる博報堂のいわば「復興キャンペーン」からすれば、ドキュメンタリー映画でならなければならなかったのである。
要するに「ガレキとラジオ」はレニ・リーフェンシュタールの「民族の祭典」がナチスプロパガンダに加担したように(作品の出来栄えは「民族の祭典」に及ぶべくもないが)復興プロパガンダ映画だったのである。だからこそ「希望」を象徴するシーンを「やらせ」としてデッチ上げる必要があったのである。博報堂という広告代理店が自己増殖させた「欲望」が被災地の小さな「希望」を食い物にしたのである。それは東日本大震災の本質的な悲劇を隠蔽することでもあった。そう「ガレキとラジオ」を南三陸の人々が心の底より取り戻したいと願うのであれば、朝日新聞の取材手法を批判すると同時に「ガレキとラジオ」をドキュメンタリー映画として公開してしまった博報堂に対しても「落とし前」をつけさせなければならないはずである。

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2)【記事】雑誌社の垣根を越えた米「NextIssue」の挑戦

他人事ではない。
「米国の新聞やテレビなど報道機関全体の収入が、2006年と比べ3割以上落ち込んだとの調査結果を、米調査機関ピュー・リサーチ・センターが3日発表した。広告収入の激減が主因」
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140404/amr14040412410005-n1.htm
新聞は55%の激減だ。既存メディアは、ただ座して死を待つのではなく、果敢に挑戦することで情況を打開しなければなるまい。「NextIssue」もそんな挑戦のひとつであろう。
「NextIssue」は月額9.9ドルで124の様々なジャンルの雑誌がスマホタブレットで読み放題になるというサービスであり、「情報のHulu」と呼ばれているそうだ。注目すべきは「…ライバルである雑誌出版社が、雑誌という資産と現代の潮流であるテクノロジーを融合させるべくタッグを組ん」で誕生したサービスであるということである。
「一度選択した雑誌はアプリに記憶され、最新号リリース時には案内メールが届く。自動ダウンロードの設定をすれば、それをチェックをする必要もない。最新号のみならず、約1年分のバックナンバーも選択できるのだからまさに読み放題だ。
さらに1つの契約で、最大5台の端末を利用できる。同期機能こそないが、それぞれの端末にちがう雑誌を登録することもできる。利用する端末が5台以内なら、同じアカウントで両親と子供がそれぞれ好きな雑誌を好きなときに読むような家族利用もできるというわけだ」
雑誌がインターネット時代に生き残るには、企業の壁をぶち壊し、協業することも必要なのではないだろうか。あらゆるチャネルに関与し、塵も積もれば山となるようなビジネスに転換することが雑誌に求められていることは間違いないと私は考えている。
http://blogos.com/article/83770/

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3)【本日の一行情報】

◎「週刊朝日」の表紙モデル募集。応募資格は「2014年4月2日現在で、高校または大学・短期大学に在学中の方」。今年は史上初めて男子学生も募集するそうだ。
http://dot.asahi.com/wa/2014032800061.html

◎ 「月刊アスキー」や「ログイン」の編集長をつとめた吉崎武が技術少年出版という会社を立ち上げていた。といって雑誌を創刊したわけではない。何とLegacy8080という「ビンテージコンピュータ」を発売しはじめたのである。
「Legacy8080は、21世紀の最新LSI技術で設計されたビンテージコンピュータです。39年前と同じです。これから39年後も変わりません。来年になったら16bitになっているということはありません。Legacy8080は、オーナーと共に人生を歩めるように長寿命設計を心がけました。人生を通じてあなたのお供をします。
Legacy8080は、『Altair8800』と『IMSAI8080』などのAltair8800互換機用として1975年から1980年代に開発・販売されてマイコンの歴史を創った著名なソフトウエアを多数動作させることができます」
http://www.gijyutu-shounen.co.jp/

◎雑誌って良いなあと思った。「雑誌倶楽部」(実業之日本社)は出久根達郎による「雑誌の考古学」である。写真週刊誌「FRIDAY」が創刊される5年も前に辰巳出版から「月刊フライデー」なる雑誌が刊行されていたなんて初めて知った。ただし、こちらのスペルは「FLYDAY」だ!
http://www.j-n.co.jp/books/?goods_code=978-4-408-53639-2

◎2014年度幻冬舎文庫フェアのイメージキャラクターにサッカー日本代表内田篤人が起用された。
http://www.sponichi.co.jp/soccer/news/2014/04/04/kiji/K20140404007907290.html

◎第45回大宅壮一ノンフィクション賞竹中平蔵を描く佐々木実「市場と権力―「改革」に憑かれた経済学者の肖像」(講談社)に決定。新潮ドキュメント賞に続く二冠を達成する。講談社の受賞は4作目となる。意外なのは講談社大宅賞を初めて獲得したのは1997年になってから。野村進「コリアン世界の旅」が最初だ。その後、2003年に近藤史人「藤田嗣治 『異邦人』の生涯」、2009年に平敷安常「キャパになれなかったカメラマン ―ベトナム戦争語り部たち(上下)」が続く。
今年から雑誌部門は神山典士の「全聾の作曲家はペテン師だった!ゴーストライター懺悔実名告白」(週刊文春)。
http://www.bunshun.co.jp/award/ohya/

モノクロームの映像が美しい。資生堂書体「美と、あそびま書」がYouTubeにアップされている。手書きである!こういう資生堂は大好きだ。
https://www.youtube.com/watch?v=32d91e9UN6A&list=PLAeW7D2lL7xLm0PGqdS31AuR0zw57cn9J

リクルートライフスタイルは千葉県酒々井町とコラボしてご当地フリーマガジン「酒々井町じゃらん」を創刊。
http://www.sankeibiz.jp/business/news/140403/prl1404031508066-n1.htm

◎「進撃の巨人展」が、2014年冬に上野の森美術館で開催されることが決まった。
http://www.kyojinten.jp/
TVアニメ「進撃の巨人」の劇場版が、前後編で公開されることが決定した。「前編〜紅蓮の弓矢〜」は2014年冬、「後編〜自由の翼〜」は2015年に公開される。
http://natalie.mu/comic/news/113682
実写版映画「進撃の巨人」の主演は三浦春馬軍艦島で撮影される。
http://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2014/04/03/kiji/K20140403007902100.html
進撃の巨人 for auスマートパス」も好評のようだ。講談社デジタルビジネス局の吉村浩部長は次のように語っている。
「4月9日にはコミックスの新刊(13巻)、および掲載誌の『別冊少年マガジン』が発売になります。それらの表紙をスマートフォンで写す事でアクセス可能になる、特設掲示板を公開します。これにはKDDIさんが提供するARアプリ『SATCH Viewer』という技術を利用しています。読者限定で自由にコミュニケーションがとれる場として、お楽しみいただきたいと思います。
また既刊のコミックスに対しても、SATCH Viewerを活用した『進撃の巨人』ファン向けのコンテンツを提供します。内容としては、市販のDVDには、副音声で解説を行う『オーディオコメンタリー』が特典についていることがありますよね。それをテキストベースで提供するイメージです。単行本の全ページにコメントが付く前代未聞の試みで、制作サイドとしては大変ですが、全力で取り組んでいます」
http://news.mynavi.jp/articles/2014/04/03/shingeki/
4月10日、11日、12日、ミューザ川崎ラゾーナ川崎プラザauスマートパスpresents「進撃の巨人プロジェクションマッピングを開催し、60メートル級実物大の巨人を出現させる。このイベントも当初の予想を超える来場者数が見込まれるため開催日時が一部変更となった。
http://www.au.kddi.com/information/topic/content/20140401-01.html
進撃の巨人」ビジネスで講談社の進撃が止まらない。

シティグループ証券電通をグローバルで成長する稀有な大手広告会社と評価し、目標株価を3900円から4700円と引き上げた。
「国内事業では過去4年間、非マスメディア領域の収益拡大が顕著。また、今15.3期よりAegis社との協業・シナジー効果で海外事業の利益成長が加速する見通しであり、今15.3期には海外の売上総利益が国内を上回る見込み。その結果、17.3期まで連結営業利益は2ケタ成長を予想。増益率および営業利益率は世界トップクラスとなる見込みであり、電通を能動的経営で変化するグローバル成長企業の1社と考えているとした」
http://news.finance.yahoo.co.jp/detail/20140404-10000021-dzh-stocks

◎「VERY」(光文社)の天下はまだまだ続く。今度は毎日新聞が「雑誌不況の今、裕福な専業主婦から共働きの女性まで読者層を広げ、4月号の広告収入は5億円を超えた」と書いている。
http://mainichi.jp/shimen/news/m20140404dde012040002000c.html
この記事にもあるように「VERY」のキャッチコピーは「基盤のある女性は、強く、優しく、美しい」であることは知られているが、現在の「VERY」は「基盤」の意味を確信犯的に変えてしまったことによって時代の波に乗ったというべきだろう。かつては亭主が広告代理店勤務で年収1000万円以上であることが「基盤」であった。つまり「基盤」は読者の外側にあったが、現在の「VERY」は「基盤」を読者たる女性の内側に見ているということだ。

◎ブックリスタとエムオン・エンタテインメントによるコラボで生まれた電子出版ブランド「otoCoto」(オトコト)初のコンテンツとして、デジタル情報誌「Entertainment Station」を4月4日に創刊した。エムオン・エンタテインメント雑誌「デジモノステーション」の編集部が責任編集し、映画・本・音楽・ビデオ・ゲームなどの最新のエンタテインメント情報を紹介する。創刊号の価格は200円。
http://otocoto.jp/

◎4月5日付河北新報は次のように書いている。
東日本大震災の復興予算により、中小出版社や東北に関する書籍を電子化する『コンテンツ緊急電子化事業』で、受託団体の日本出版インフラセンター(JPO、東京)が電子化したとする書籍のうち、大手出版社の作品が7割近くを占め、東北関連本も全体の3.5%にすぎないことが4日、関係者への取材で分かった」
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201404/20140405_73020.html
株式会社として設立された出版デジタル機構の存在も踏まえて記事を書かないと、事の本質を「分かった」とは言えないだろう。

◎KADOKAWA2013年度の家庭用ゲームの国内市場規模が前年度比8.1%減の4113億円と発表。2年ぶりに前年を下回る。
http://www.sankeibiz.jp/business/news/140404/bsb1404041705001-n1.htm

◎アマゾンや楽天Koboにも消費税がかかるようになりそうだ。
http://mainichi.jp/select/news/20140405k0000m020098000c.html

◎創刊40周年を迎えた「花とゆめ」(白泉社)は、これを記念してTVアニメ「それでも世界は美しい」内で、著名人12名が週替わりで登場し、愛読者の女子高生にお祝いのメッセージを電話で伝えるCMを流している。第一回は徳光和夫。毎週一度きりの放送で誰が登場するかは、オンエアまで秘密だそうだ。
http://www.hanayume40th.com/soreseka_cm/

◎「ダ・ヴィンチ」の表紙にコナンが登場。コナン君はKADOKAWAの雑誌がお好きなようだ。
http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000621.000007006.html

◎「ジェシカスタイル」(マガジンハウス)の刊行を記念して、道端ジェシカのサイン本お渡し&握手会が4月25日に紀伊國屋書店新宿本店で開催される。
http://www.kinokuniya.co.jp/c/store/Shinjuku-Main-Store/20140404100005.html

◎「月刊サンデーGX」(小学館)で昨年完結した鉄道萌え漫画「ゆりてつ」は、最終回の舞台になった由利高原鉄道秋田県)とコラボして、ラッピング車両を4月19日から走らせることになった。
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1404/04/news083.html

◎若者のクルマ離れを何とかしようと、トヨタがAKBの力にすがる!
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20140403_642778.html

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4)【深夜の誌人語録】

眼前にぶら下がった利益に近視眼的に飛びつくのではなく、己が原理原則を大切にしたい。