【文徒】2014年(平成26)5月8日(第2巻83号・通巻285号)

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1)【記事】緊デジには公的な検証と総括が必要だ!
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】緊デジには公的な検証と総括が必要だ!

仲俣暁生フェイスブックに示唆を受けたので再び「緊デジ」について書いておくことにしたい。
2012年5月8日に開催された「コンテンツ緊急電子化事業」本申請説明会の席上、日本出版インフラセンターの運営委員会副委員長の肩書を持つ佐藤善孝の発言によれば、この時点ではマンガの電子書籍が念頭にないことがわかる。何故なら佐藤は緊デジの目標は6万点を予定していると述べたうえで次のように語っているからだ。
「コミックは既に20万点以上がデジタル化されていると言われているが、論文などを除けば書籍は3万点前後と言われています。これがプラス6万点となると数字上は一気に3倍となり、デジタル化に弾みがつく」
この映像はUSTREAMに記録され今も閲覧することができる。
http://www.ustream.tv/channel/jpo-infra0
出版デジタル機構を代表して説明に立った関係者が出版社では主として広告畑を歩んで来た人物であったことも、私からすると驚きのひとつであった。私の知らない間に私以上に電子書籍について詳しくなったのであろう。
あだしごとはさておき、当然のことながら、日本出版インフラセンターとしては現実として書籍6万点の電子化はできずに、コミックスが半分近い2万9861点を占めた理由について説明しなければなるまい。緊デジではパブリッシャーズフォーラム 標準化委員会 副委員長の役割を担った、ポット出版沢辺均が5月1日付でブログ「ポットの日誌」にエントリした「緊デジ、私的な総括」を読んでも、この疑問は解けない。沢辺が誠実な出版人であることは私も承知している。だからこそ私的であっても「総括」を公にすべきだと判断したのだろう。しかし、今必要な検証や総括は私的なものではなく、公的なものであるべきだ。
http://www.pot.co.jp/?p=493933661&preview=true
沢辺は私的総括で緊デジの目的のひとつである「東北の雇用の促進」は達成されたと書いている。
「『東北の雇用の促進』とは、僕流に言い換えれば、東北の会社と人たちに売上や給料というカタチでお金が流れていくことだと思う。この、東北にお金が流れていくようにすることは、基本的には成功した、というのが僕の総括だ。僕の概算だけれど、10数億円程度のお金が流れていったと思っている」
こうした沢辺の説明を私は全面的に信用する。しかし、信用すると同時に何故に東北を代表するような情報誌の編集者や編集プロダクションから「異論」が出ていることも承知している。私は、こうした「異論」を簡単に切り捨てられるとは思っていない。そのような「異論」が出る余地が緊デジのどこにあったのか。これも出版業界として公的な検証なり、総括が必要なのではないだろうか。沢辺のブログに対して次のような反応があったことも踏まえておくべきなのである。タイトルは「緊デジ、私的な総括〜東北のある制作サイドからの視点〜」である。「はてな匿名ダイアリー」を使って文章である。
「うちにとっての緊デジの結論は
・危うく倒産するところだった。というか話をそのまま鵜呑みにして法律をしっかり守っていたら多分倒産しただろう。さらに言えば、それが遠因となって倒産した福島の会社は現にある。
・ようするに、こりごりだ。二度とやりたいとは思わない」
確かに東北に十数億円は流れたのかもしれない。しかし、このブロガーは、その流れ方を問題にしている。
「結局、私を人間不信にさせるほど困憊させたのは発注元の会社と経産省だ。揃えろと高圧的に言うものだから、揃えたさ。何十人も。毎日毎日『まだ仕事始まらないんですか?』と雇った人達を不安にさせながら。この会社大丈夫か?と思われながら。
そのたびに答える『実はこの案件は緊デジといって、経済産業省の助成事業なんです。だから何も心配要りませんよ』とな。だが、それは間違いだったんだ。発注元(東京の超大手企業)が、なんと東北の地の子会社で独自に募集して、自分達でやってたんだよ」
http://anond.hatelabo.jp/20140501223619?utm_source=dlvr.it&utm_medium=twitter
この文章に対して早速、反応があった。これまた「はてな匿名ダイアリー」を使っての「お役所と仕事をすると言うこと」である。
「『文書でコミットしたこと』が絶対ってことは、基本的に口約束は軽いし、その場限り。
だから、東北の雇用がとか、地元にカネをとか、口では言う。文書の目的には絶対に書かない。
ただ、勘違いしちゃいけないのは、官僚は有能で、情熱を持った人が発案者でってことが、圧倒的に多いことだ。
だから、情熱を持った善意の人が『自分のできる範囲で自分のやりたいことと復興を結びつけて、国からカネを引っ張れれば素敵だ』と思って行動してることが多い。
もちろん、ソレを取り巻くあれやこれやで歪んだり骨抜きになったり意味が無くなったりすコトが多いんだけど。
とりあえずおいておくとしても、緊デジはその目標から、既になんかおかしいわけだ。
東北のある制作サイドからの視点の人(以後は、『制作会社の人』と呼ぶ)が言うように、雇用とか復興とかってそうじゃない。
とりあえず失業者囲って金を払うってコトが雇用創出とは呼ばない」
http://anond.hatelabo.jp/20140502130041
緊デジで書目選定審査委員長をつとめた永江朗は「週刊文春」4月24日号の自らの連載のなかで次のように書いている。断腸の思いのこもった文章だ。
「ぼくはこれまでの人生でたくさん過ちを犯してきたけれど、この緊デジに関わったこと、復興予算の流用を止められなかったことは、最悪の間違いだ。悔やんでも悔やみきれない。納税者の皆さんにお詫びします」
出版業界は永江ひとりにこのような文章を書かせてまでも沈黙しつづけるつもりなのだろうか。
5月22日午後6時から仙台市青葉区中央市民センターで永江朗仲俣暁生によるトークライブ「<緊デジ>ってなに!?」が開催される。司会・進行をつとめるのは荒蝦夷の土方正志と「Kappo 仙台闊歩」編集長の川元茂である。
http://homepage2.nifty.com/araemishi/kindeji.htm
土方正志のツイッターアカウントは「あらえみし」だが、そのタイムラインを一度目を通すべきである。
https://twitter.com/araemishi
「あらえみし」によってリツイートされた投稿を少し拾ってみようか。
「緊デジについては、東北からはいい話がほとんど聞こえてこず、東京からは『そうはいうけれど、私たちは努力したんだ』という言葉ばかりが聞こえてくる印象がある」(西田宗千佳)
https://twitter.com/mnishi41

「まあ、本当に後ろめたいことがないのなら、緊デジのタイトル一覧をあんな画像形式のPDFなんぞではなく、CSVか何かで公表すればよかったんじゃないですかね?と改めて嫌味を言いたくなるところではある」(盃次)
https://twitter.com/haiji_m
「個人的には、緊デジで勢いをつけた出版デジタル機構が、産業革新機構から150億円の出資を得て電書取次のビットウェイを買収、公金で作った電書を自ら流通するというスキーム(新たな既得権益)を確立するまでのシナリオを誰が考えだしたのかも聞いてみたいところ」KazuyaYasui)
https://twitter.com/nitecruise
まさに出版業界の「品位」が問われているのではないだろうか。

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2)【本日の一行情報】


◎「honto」は小学館の電子雑誌のバックナンバーが100円で読める「小学館雑誌フェア」を5月31日まで開催する。
http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1405/02/news059.html

◎「赤毛のアン」って、こんなに沢山あるの!NHK朝の連続テレビ小説花子とアン」は日本で初めて「赤毛のアン」を翻訳した村岡花子が主人公だが、丸善書店ジュンク堂書店が共同運営するネットストアが「各社読みくらべ『赤毛のアン』〜うちの「アン」はここがおススメ!〜」を企画している。ちなみに村岡花子訳は新潮社文庫、講談社青い鳥文庫、ポプラポケット文庫だが、私のイチオシは集英社文庫松本侑子訳だ。決してへそ曲がりの選択ではないよ。
http://www.junkudo.co.jp/mj/store/event_detail.php?fair_id=4936

白泉社は「花とゆめ」の創刊40周年を記念して全国の書店でサイン会を実施している。
http://www.hanayume40th.com/sign_calavan.html
またTSUTAYAでは白泉社コミックフェアを開催。購入者特典として定規メモリ付しおり3種類を用意している。
http://www.hanayume40th.com/fair/index.html

◎附録を売っていると言っても過言ではない「大人の科学マガジン」だが、その附録の制作過程を描くドキュメンタリー映画が完成した。映画の題名もスバリ「おとなのかがく」。
https://fabcross.jp/news/2014/05/20140502_otonano_kagaku.html

学研パブリッシングは「ムック1冊(80ページ相当)/40万円」の完全歩合制で料理ムックの編集者を募集している。
http://tenshoku.mynavi.jp/jobinfo-137944-4-1-1/?af=&ty=cmpa

フェイスブックの思想は「People First」なのか。ラジカルなんだよな、向こうのIT企業の経営者って。それに比べて日本はカネの亡者ばかり。それでいて天下国家を語り、民衆のことなんか頭の片隅にもなかったりして!
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1405/01/news075.html

◎アクセサリーブランド「CISOLASSE」(シソーラス)のクリエイティブディレクターは「AneCan」専属モデルの高垣麗子なんだね。
http://woman.infoseek.co.jp/news/entertainment/r25_20140503_00036017
http://cisolasse.jp/

集英社の女性ファッション誌「シュプール」は「SPUR Wedding Salon 2014」を5月28日にリッツカールトン東京で開催する。今年で二回目だ。
http://hpplus.jp/spur/clip/1969241/

◎4月の新番組でKADOKAWAは深夜枠が中心とはいえ15本ものアニメに関わっているようだ。
http://otapol.jp/2014/05/post-887.html
何でもアニメ路線という感じだが、総てが成功するということはないだろう。ラノベのトップブランドを維持するための施策もあってのことなのだろうが、悪貨が良貨を駆逐しなければ良いのだが。KADOKAWAを見ていると風船を膨らませきる経営のように思えてならない。

◎イギリスのマクドナルドはお子様向けセットのおまけに電子書籍をつけるキャンペーンを楽天Koboと提携して実施した。
http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1405/02/news099.html

◎英FHM誌は「最もセクシーな女性」にジェニファー・ローレンスを選んだ。
http://news.mynavi.jp/news/2014/05/02/260/

大洋図書の「egg」が5月31日発売の7月号をもって休刊することになった。
http://www.fashionsnap.com/news/2014-05-06/egg/

カルチュア・コンビニエンス・クラブが運営する佐賀県武雄市図書館の入館者数が5日、100万人を突破した。
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/86473

◎東京・渋谷に深夜1時まで営業する図書室「森の図書室」がオープンする。私立である。蔵書は1万冊を予定し、フェイスブックに登録すれば貸出無料である。何で儲けるかといえば飲食だ。
http://camp-fire.jp/projects/view/997

園子温監督の「TOKYO TRIBE」の主演女優に抜擢された清野菜名はブレイクしそうだな。井上三太の原作マンガは祥伝社から刊行されている。もともとは「ブーン」に連載されていた作品だ。時代の風景を変えた雑誌のひとつとして記憶されるべき「ブーン」が休刊したのは2008年のこと。
http://matome.naver.jp/odai/2139916950020359901

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3)【深夜の誌人語録】

存在感とは一にも、二にも行動によって醸し出されるものである。