【文徒】2014年(平成26)5月14日(第2巻87号・通巻289号)

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1)【記事】「美味しんぼ」に抗議が殺到しているけれど
2)【記事】週刊誌に問われていること
3)【記事】「GINZA」6月号は買いだ!
4)【本日の一行情報】
5)深夜の誌人語録】

                                                                            • 2014.5.14 Shuppanjin

1)【記事】「美味しんぼ」に抗議が殺到しているけれど

福島県は5月12日付で「週刊ビッグコミックスピリッツ美味しんぼ』に関する本県の対応について」を発表。
「『美味しんぼ』及び株式会社小学館が出版する出版物に関して、本県の見解を含めて、国、市町村、生産者団体、放射線医学を専門とする医療機関や大学等高等教育機関、国連を始めとする国際的な科学機関などから、科学的知見や多様な意見・見解を、丁寧かつ綿密に取材・調査された上で、偏らない客観的な事実を基にした表現とするよう強く申し入れております」
http://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/01010d/20140512.html
自民党福島県連も民主・県民連合も抗議文を送ったようだ。
http://www.yomiuri.co.jp/local/fukushima/news/20140512-OYTNT50343.html
大阪市大阪府橋下徹市長、松井一郎知事の連名で「美味しんぼ」がガレキ焼却場の近くに住む住民が鼻血、目、喉や皮膚に不快な症状を訴えたとする表現に対して事実無根であると抗議文を小学館に出した。
http://www.city.osaka.lg.jp/kankyo/page/0000266273.html
NHK大阪大学コミュニケーションデザイン・センター平川秀幸教授に次のように語っている。
「…今回の問題は、放射線に関する知識の問題というよりも、原発事故後に生じた国などへの不信感が3年たった今もぬぐえず、出している情報が正しくても受け入れられない状況があることの表れと考えられ、被ばくと鼻血の因果関係の問題としてだけ捉えると、見方を誤るのではないか」
私が「美味しんぼ」について「イデオロギーを超えて支持する」と書いたのは、平山と同じような考え方をしたからである。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140512/k10014394061000.html
また、雁屋が主張していることは2011年、民主党政権時代に野党だった自民党が国会で主張していたことでもある。その辺りを「きっこのブログ」は詳細に取り上げている。
「井戸川町長が雑誌のインタビューでこんなことを言っています。『国や東電は、止める、冷やす、閉じ込めると言い張って絶対に安全だと言ってきたが、このような結果になり我々は住むところも追われてしまった。放射能のために学校も病院も職場も全て奪われて崩壊してしまった。私は脱毛しているし毎日鼻血が出ている。この前、東京のある病院に被曝しているので血液検査をしてもらえますかとお願いしたら、調べられないと断られましたよ。我々は被曝させられたのに、その対策もない検査もしてもらえない』、これは本当に重い発言だと思います」
こう発言したのは山谷えり子であったりするわけだ。森まさこにしてもそうだし、熊谷大にしても、鼻血問題を国会で取り上げているのである。
http://kikko.cocolog-nifty.com/
「週刊ビッグコミックスピリッツ」は別冊というカタチを選択してでも一冊丸ごと「美味しんぼ 福島の真実篇」を刊行する必要があるのかもしれない。

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2)【記事】週刊誌に問われていること

麻生香太郎のマスコミ=既存メディアに対する厳しい指摘。
「スポンサー大手は、1位・電気事業連合(東京電力など電力会社10社)、2位・トヨタ、3位・パナソニックと続きます。たとえば、東日本大震災をめぐる福島原発に関する報道。真実はネットにしか流れなかった。その結果、若者はマスコミにますますそっぽを向いてしまった。ただでさえ新聞やテレビを見ない世代が余計に離れた。若者は今や日本のマスコミを、新華社タス通信と同じだと捉えています。新聞・雑誌・民放といった旧来型のスポンサー依拠型メディアは将来的にはなくなると考えています」
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1405/12/news040.html
私はここで新聞やテレビについて、言及するつもりはない。麻生の発見を踏まえながら、「週刊誌」に絞って言っておきたいことがある。それは「週刊誌」が取り戻すべきは、「週刊誌」がその草創期に発揮した「破れかぶれ」のゲリラ戦であるということだ。恐らく読者は編集者が安全な場所に身を置くことを許さなくなったのである。雑誌において「スポンサー依拠型メディア」はキレイキレイの誌面を可能にしても、雑誌から「雑」を奪ってしまう危険性を孕むのである。

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3)【記事】「GINZA」6月号は買いだ!

「GINZA」6月号の特集は「ファッション雑誌を読みましょう」。雑誌ができるまでを料理にたとえた中国語の動画広告も楽しい。スタイリストの大森_佑子が2014年版「オリーブ」を10ページにわたり表現しているが、それほどファッション誌文化にとって「オリーブ」の存在が大きかったのである。実際、宝島社のファッション誌は「大人のおしゃれ手帖」に至るまで「オリーブ」のテイストを基盤にしている。
http://magazineworld.jp/ginza/
70周年を迎えるマガジンハウスのテーマは「オリーブ」と「IVY」の復権にほかなるまい。「オリーブ」をオーバー40の雑誌として復刊し、「IVY」をキイワードにジジイ雑誌を創刊する。オレだったら絶対にヤルけどね。ジジイ雑誌のタイトル?「平凡」で良いじゃん。

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4)【本日の一行情報】

プロクター・アンド・ギャンブルはドイツで売り出した洗剤の容器に「88」や「18」が印刷されていたことから、同商品の出荷停止と回収を決めた。
「アルファベットの8番目がHのため、ドイツでは「88」はハイル・ヒトラー(Heil Hitler=ヒトラー万歳)を表す隠語とされる。同様に「18」は最初のアルファベットのAと8番目のHでアドルフ・ヒトラーAdolf Hitler)を示すとされている」
ドイツではナチス賛美に繋がる宣伝が刑法で禁じられているが、プロテクター・アンド・ギャンブルは消費者の指摘を受け、自主的に判断したようである。
http://mainichi.jp/select/news/20140512k0000m030054000c.html

電通の4月度単体売上高。新聞が前年比109.4%!
http://www.dentsu.co.jp/news/release/pdf-cms/2014033-0509.pdf

宝島社文庫の安生正「生存者ゼロ」が売れている。発売三か月で55万部。
http://news.livedoor.com/article/detail/8821852/

共同通信が「英国人記者が見た連合国戦勝史観の虚妄」の著者であるヘンリー・スコット・ストークス本人にインタビューすることで、同書の虚妄を指摘し、これに対して同書の版元である祥伝社は「著者の見解」を発表。そこでストークスは「記事は著者の意見を反映しておらず誤り」と指摘。虚妄の虚妄の虚妄と相成ったわけだが、しかし、共同通信社は録音も取っており、記事は正確だと胸を張っている。
共同通信社総務局は『翻訳者同席の上で元東京支局長に取材した結果を記事化したものです。録音もとっており、記事の正確さには自信を持っています』としている」
http://www.47news.jp/CN/201405/CN2014050901001888.html
ヘンリー・スコット・ストークスなる人物のジャーナリストとしての根本的な部分での資質が問われているということだ。ちなみに、ストークスはモデル、タレントのハリー杉山の父親である。
http://ameblo.jp/harrysugiyama/day-20140510.html

◎2000年に休刊した「SINRA」が復刊する。玉村豊男を編集長に迎え、7月24日に発売される。隔月刊で、定価1200円。恐らく、「広告の力」によって実現した企画であろう。
http://www.sponichi.co.jp/society/news/2014/05/12/kiji/K20140512008146250.html

アメリカではAOL、FacebookGoogleTwitterの4社が共同で「TrustInAds.org」を設立。
「TrustInAds.orgでは、レポート『Bad Ads Trends Alert』を定期的に発表し、悪質なオンライン広告の手口などを消費者に認知させていく」
それだけネットは危険な世界であり、悪質な広告が跋扈しているということなのだろう。
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20140512_647859.html
アマゾンやアップルにおいては、その内部にとどまっている限り、安全だということなのだろう。

◎周知のようにピュブリシスとオムニコムの合併がご破算となった。そもそも合併はグーグルやフェイスブックの規模に対抗するためのものであったわけだが、広告会社において単純な規模の追及は無理であることが、これで発覚したわけだ。しかし、グーグルやフェイスブックの規模に対抗できるデジタル戦略抜きに「未来の広告会社」はあり得まい。
「昨年7月に華々しく発表された合併が見送られたことから、両社とも戦略面で正念場を迎えた。合併計画を説明する段階では、両社とも広告会社がグーグルやフェイスブックなど巨大企業と競争するためには規模拡大とデータ重視の広告技術への投資が必要だと主張していた。合併中止を受けて、両社とも単体でこうしたスケールを確保するよう取り組まなくてはならないとアナリストらは指摘する」
http://jp.wsj.com/article/SB10001424052702303352004579557212993860306.html

◎東京都はKADOKAWAの「妹ぱらだいす!2」を不健全図書に指定した。2011年7月に成立した改正青少年育成条例による初めての指定ということになる。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1405/12/news158.html
私を知る人からすれば意外に思われるかもしれないが、私はゾーニングを否定していない。同時に欧米並の「自由な表現」が許容されるべきだと考えている。今に至るも日本文化の至宝ともいうべき大島渚の「愛のコリーダ」を修整なしで見ることができないほど、日本国は欧米諸国と価値観を共有できていないことは日本が文化低国であることを如実に物語っているのだから。

◎5月9日、日本出版者協議会の会員社である緑風出版水声社晩成書房がアマゾンへの出荷停止について記者会見を開いた。
緑風出版の)「高須社長は、『ポイント付与による販売は公正取引委員会も指摘する通り、値引きにあたり、10%もの高率のポイントサービスは再販契約違反であることは明白』とした上で、『公取委によると、こうしたポイントサービスが再販契約に違反するかどうかは出版社が個別に判断することになっている』と説明」
晩成書房の)「水野社長は、公正取引委員会にも相談したが、出版社が業界団体で行動するのは『その方が問題であると、カルテルということで判断する』という警告を受けたとして、『その後は各社判断で動いている。今回の取引停止は各社判断で行っている』と述べた」
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20140512_647894.html

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5)【深夜の誌人語録】

いかに速く走るかよりも、いかに一定のペースを保つことができるかである。