【文徒】2014年(平成26)5月26日(第2巻95号・通巻297号)

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1)【記事】小学館の決算と役員人事
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

                                                                            • 2014.5.26 Shuppanjin

1)【記事】小学館の決算と役員人事

小学館の第76期(2013年3月〜2014年2月)決算が次のように発表された。

総売上高   1025億5000万円 前年比96.3%<内訳>
雑誌       600億5400万円 前年比98.3%
書籍       154億0100万円 前年比85.6%
広告収入    127億1700万円 前年比93.0%
その他      143億7800万円 前年比105.1%

経常利益     7億3600万円(前年比55.4%減)
当期純利益   4億6300万円(前年比63.9%減)

減収減益の決算である。しかし、減収であっても利益を確保しているという意味では小学館の経営体質は、この間、相当な筋肉質化を果たしたといえるだろう。
雑誌の売上高を構成するコミックスは268.88億円で前年比100.3%と3年連続で売上を伸ばしている。少女コミックのシェアはナンバーワンだし、「銀の匙」「マギ」といった大ヒットも生まれている。「コロコロコミック」や「ちゃお」も絶好調である。
書籍の落ち込みは映像・ゲーム関連のパッケージメディアのヒットがなかったこともあって目立つが、「文庫・新書」などは池井戸潤作品のヒットもあり、前年比122.4%と大きく伸ばしている。子どもたちの間では「妖怪ウォッチ」「アイカツ!」が大ブームになっているのも周知の事実である。
反転攻勢のタネはいたるところに蒔かれているのだ。デジタル領域においても、コミック配信は毎月、新記録を打ち出しているし、11月にスタートさせた雑誌のデジタル化も数字の単位は小さいとはいえ、予想よりも大きい数字であったそうだ。小学館アジアも順調に動き出している。「その他」の売上は書籍に迫るほど膨らみつつある。消費税アップのダメージもそれほどなかったようである。

役員人事では役付き役員が刷新された。白井勝也副社長、広岡克己専務、平山隆常務、佐藤正治取締役が退任することになったのである。ただし新任は第一コミック局を担当する丸澤滋取締役だけであった。
白井勝也副社長が最高顧問になり、山岸博常務が専務に昇任し、「編集・管理・営業 統括」を職掌とすることになった。わかりやすく言えば白井副社長に代わって、山岸専務が小学館の番頭をつとめることになる。常務に昇任したのは秋山修一郎、黒川和彦、横田清、宮下雅之の4氏である。大木武志常務は監査役に就任する。
秋山修一郎常務は、これまで担当していたポスト・セブン編集局に加えて、ライフスタイル誌編集局を担当することになった。加えて、これまでライフスタイル誌編集局を担当していた海老原高明取締役もポスト・セブン編集局を担当することになったことも話題の一つであろう。
黒川和彦常務は「児童・学習編集局、デジタル事業局、出版局、コミュニケーション編集局」を担当する。横田清常務は「第一コミック局、第二コミック局、第三コミック局、マルチメディア局」を担当する。相賀信宏取締役は児童・学習編集局では黒川常務とコンビを組み、マルチメディア局では横田常務とコンビを組むのも話題のひとつである。宮下雅之常務は「経理局、制作局」を担当する。
桶田哲男常務、片寄聰常務の担務にも変更がある。桶田常務は「マーケティング局、広告局、女性誌編集局」を担当し、片寄常務は編集担当をはなれ「社長室、総務局、法務・知財局 関係会社統括」を担当する。
私が小学館の決算や役員人事を見ていて思ったことは、小学館は現状に危機感を持つ必要はあるが、その未来を安易に悲観したり、根拠なしに絶望したりする必要はないということである。取り組むべきは現状に安住せず、危機感をもって、小学館の未来を切り拓くためのタネを蒔きつづけることである。テーマは二つ。デジタル化とグローバル化に対応した成長戦略を描くことである。

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2)【本日の一行情報】

◎「本屋図鑑」を刊行した夏葉社の島田潤一郎が年末に「本屋会議(借)」の刊行を目指している。
http://machihon.hatenablog.com/entry/2014/05/21/171704

◎今年は「電子図書館」元年である。現在、全国で20を超えた電子図書館が稼働しているという。
「…2014年4月に大日本印刷日本ユニシス図書館流通センター丸善の4社が共同でクラウド型の電子図書館サービスの提供を開始しました。サーバーの管理などが基本的に必要なく、図書館側に大きな負担が生じないことから、いくつかの図書館で採用されサービスが始まっています」
栃木県高根沢町にある「高根沢図書館」の電子図書館では、自宅で印刷できる絵本もあるそうだ。
http://www.pictio.co.jp/museum/picturebooks-news/6785

雁屋哲がブログを更新し、「美味しんぼ」休載の事情を述べている。
「『美味しんぼ』の休載は、去年から決まっていたことです。
今回色々な方が編集部にご意見を述べられていますが、そのようなことに編集部が考慮して、『美味しんぼ』の休載を決めた訳ではありません」
http://kariyatetsu.com/

電通は写真共有サイト「ピンタレスト」の日本法人と、日本における戦略的パートナーとしての業務提携契約を締結。これは電通にとって良い契約だ。
http://ascii.jp/elem/000/000/896/896738/
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2014/0522-003736.html

小学館の「コロコロイチバン!」7月号の付録は「妖怪ウォッチ」のボードゲームだ。
http://www.inside-games.jp/article/2014/05/21/76914.html

講談社が刊行したマンガ「いちえふ 福島第一原子力発電所労働記」の作者である竜田一人に対する毎日新聞のインタビューは読み応えがある。
「このコピーは初めて『いちえふ』がモーニングに載った時に担当編集者が付けたものですが、特定の何かへの当てつけで付けられたものではありません。震災以降にたくさん出てきた『真実』を暴く作品とは趣旨が違いますよ、ということです。私自身、そういった作品や報道にうんざりしていたこともあります。それに『真実』が何かなんて私にはわからないし、現場にぱっと行って『真実』を私が掴んでしまうなんてことはあり得ないと思います。繰り返しになりますが、この漫画においては『真実』を探ることよりも、私が見てきたことを描くことが重要だと思っています。福島なり1Fの一側面を記録することが全てなんです。
だから、『いちえふ』を読んで『これこそ原発事故の真実だ』っていうのも、ちょっと待ってほしいと言いたくなるときがあります。あくまで私が見てきた部分を描いていることは強調したいです。一つ、これが『真実』と決めてしまうと他のものが見えなくなる可能性があります」
http://mainichi.jp/feature/news/20140522mog00m040007000c.html

◎イギリスの映画誌が「アニメ映画ベスト75」を発表。1位は「トイ・ストーリー」だが、2位が「千と千尋の神隠し」、5位「AKIRA」、6位「となりのトトロ」と日本勢が大健闘。
http://www.cinematoday.jp/page/N0063207

◎マガジンハウスの「GINZA」に世間の注目が集まり始めた!アートディレクターにウエブで仕事をしてきた阿部洋介を起用したことも好感を持たれている。
http://matome.naver.jp/odai/2140074313630579201

◎2015年3月に創刊25周年を迎える「フィガロジャパン」は1年間を通じて記念企画を連発するようだ。「オランジーナ」と4店のパン屋とコラボし、短期連載「オランジーナと楽しむ最高の朝食」を7月号からスタートさせている。
http://www.wwdjapan.com/life/2014/05/22/00012003.html

資生堂のウエブサイト「ワタシプラス」と小学館女性誌CanCam」「Oggi」「AneCan」がコラボし、「夏の冒険コーデまるごと1ヶ月プレゼント」キャンペーンを実施している。
http://www.fashion-headline.com/article/2014/05/23/6323.html

◎ヤフーの子会社であるGyaOと協力して運営する総合電子書籍サービス「Yahoo!ブックストア」は、講談社と組んで、毎日新しい少女マンガが読める月額300円の定額制電子コミック新サービス「女子コミ!」を2014年6月5日よりスタートさせる。
http://pr.yahoo.co.jp/release/2014/05/23b/

電通NEC東京都交通局は、駅ホーム上のデジタルサイネージによる広告事業を今日から開始した。具体的には都営大江戸線六本木駅の上下線ホーム上の柱12本に各2面、計24面の65インチ縦型のデジタルサイネージ(通称「六本木ホームビジョン」)を設置し、NECの「情報・コンテンツ配信クラウドサービス」を活用して、広告を配信。広告販売、広告配信の運用・管理、コンテンツ制作は電通が担当する。
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2014/0521-003735.html

主婦と生活社の「コットンタイム」5月号が生命線ともいえる「実物大型紙」に間違いがあったそうだ。まさかネットで訂正するだけで済ますつもり?少なくとも店頭で正しい型紙と交換するべきだし、市中在庫を即座に回収するという程度の誠意を見せなければ真っ当な版元とは言えまい。「正しい型紙はこちらよりダウンロードしてください」とのことだが、読者ファーストの姿勢に欠けているのではあるまいか。販売を担当している取締役は社長経験者である。いくら銀行出身といえども、出版という仕事を舐めては困るということだ。読者にダウンロードさせれば版元としては負担にならないから良い程度にしか、この御仁は考えられないのだろうか。それにしても今頃になって気が付いたということは、読者からクレームを受けてのことだろうが、それまで編集者が気付かなかったのだとすれば、何をか況やである。
http://www.shufu.co.jp/topics/detail/693701/

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3)【深夜の誌人語録】

他人が走って急いでいるのであれば、私はゆっくりと歩くし、他人がゆっくりと歩いているのであれば私は走って急ぐことを自分のペースの基本としている。