【文徒】2014年(平成26)12月17日(第2巻237号・通巻439号)

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1)【記事】「ぼくらの時代の本」とボイジャー
2)【記事】セブン−イレブンが元旦に「週刊文春お正月スペシャル号」を発売
3)【本日の一行情報】
4)【深夜の誌人語録】

                                                                            • 2014.12.17 Shuppanjin

1)【記事】「ぼくらの時代の本」とボイジャー

12月15日、私は神保町を午後7時40分に出て、代官山の蔦屋書店に向かった。午後8時の定刻には遅れてしまったが、乾杯には充分間に合った。クレイグ・モドの「ぼくらの時代の本」出版記念イベントが開催されたのである。
まず私を驚かせたのは、モドが日本語ペラペラであったことだ。内沼晋太郎とのトークでも、モドの「本」に対する思いが充分過ぎるほど伝わってきた。
「ぼくらの時代の本」は、わが国の電子出版のパイオニアといって良いボイジャーから刊行された。その内容からしてもボイジャーらしいというか、ボイジャーならではの、一冊だと思う。
ボイジャーは電子出版市場のプレイヤーにあって異色の存在である。どこが異色かといえば、「本」に対する愛情が半端ではないという点である。
もちろん、ビジネスである以上、利益をあげなければ市場から退場を迫られるにしても、「金儲け」しか頭にないような連中が電子出版市場を跋扈するなか(紙の出版でも、実は似たようなものであるけれど)、臆面もなく「本」に対する愛情(より性格にいえば偏愛だ)を吐露してきたプレイヤーなのだ。萩野正昭を見よ!鎌田純子を見よ!何しろ創業の翌年には日本語版エキスパンド・ブックとして稲垣足穂の「タルホ・フューチュリカ」を刊行しているのである。
ボイジャーが積み上げてきた仕事は、「本」の歴史に対するリスペクトを失わせずに「本」を進化させようとしてきたといって良いはずだ。過去、現在、未来を分断するのではなく、これを繋げていこうとしているのである。モドの「ぼくらの時代の本」も、そうした姿勢なしには書かれなかった一冊であろう。
「…ぼくらの時代の本とは紙の本と電子本のどちらのことも指し、著者と出版社と読者の関係を進化させるには、そのどちらにも重要な役割があるということだ」
http://www.voyager.co.jp/hodo/141201_press_release.html

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2)【記事】セブン−イレブンが元旦に「週刊文春お正月スペシャル号」を発売

1月1日にセブン−イレブン限定で「週刊文春お正月スペシャル号丸ごと1冊タンマ君」を発売されることになった。これまで出版業界は、年末に雑誌の臨時増刊号や合併号を発売して、元旦には出版物を発売していなかった。文藝春秋によれば、セブン−イレブンから元旦発売向けの雑誌を作れないかと、相談を持ちかけられたという。むろん、取次のトーハンも協力する。定価は350円。
http://www.sej.co.jp/products/bunshun1412.html
こういうセブン−イレブンの取組は、他のコンビニ(日販帳合のコンビニである)にも波及することだろう。CCCなども黙ってはいまい。紙の市場が縮小する状況に直面してトーハンも、日販も生き残りに必死なのである。もっとも、その一方で元旦発売の企画から疎外された書店の経営は、ますます厳しくなるはずだ。書店からすれば雑誌の売上はコンビニに浸食され、書籍の売上はアマゾンに浸食されるという構造は強まりこそすれ、弱まることはあるまい。
「街の本屋」と呼ばれる独立系の書店は、これから10年で半減するのではないか。いや、半減にとどまれば、まだ良いほうなのかもしれない。その結果、日販、トーハン以外の取次の経営も、急速に悪化するはずである。大阪屋は楽天とのパートナーシップを強化すれば、何とか命脈を保てるにしても、栗田出版販売や太洋社は現状のままでは悲劇的な結末が待っていることは容易に察しがつくというものだ。

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3)【本日の一行情報】

◎開票前に出口調査による当選を報じるのは、止めたほうが良い。NHKテレビ朝日が「当選」で誤報をしでかした。被害にあったのは東京21区の長島昭久、と山形2区の近藤洋介。ともに民主党。二人とも比例で復活当選した。
http://www.yomiuri.co.jp/national/20141215-OYT1T50033.html
テレビ東京の「池上彰の総選挙ライブ」が番組平均視聴率10.1%を獲得。池上は「萎縮」とは無縁の質問を次々に繰り出していた。
http://www.oricon.co.jp/news/2045937/full/
佐藤優池上彰の対談からなる「新・戦争論」(文春新書)も売れている。
http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166610006
孫崎享佐藤優の対談本が読みたくなるのは私だけであろうか。

◎スペイン政府はグーグルに対して、Google Newsにニュースコンテンツが現れるたびに、グーグルはニュース提供者に料金の支払いを義務づける法律を施行した。これに対して、グーグルはスペインでGoogle Newsを閉鎖してしまった。
http://jp.techcrunch.com/2014/12/15/20141214spanish-newspapers-want-google-news-back/

衆議院選挙中にツイッターで最も話題になった政党は自民党であった。「ITmediaニュース」によれば
「候補者や政党からのツイートのうちRT数が最多だったのは、自民党広報アカウント(@jimin_koho)が投稿した、安倍晋三首相が出演する党のCM動画付きツイート。2位、3位は安倍首相のアカウント(@AbeShinzo)の投稿で、2位は新千歳空港で首相がスープカレーを食べる写真、3位は首相が伊丹空港で豚まんを食べる写真付きツイートだった」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1412/15/news095.html

在特会ニコニコ動画で公式チャンネルを開設した。月額540円だそうだ。12月26日までは無料。
http://matome.naver.jp/odai/2141830178229902701
http://ch.nicovideo.jp/zaitoku

朝日新聞東京本社に「売国朝日新聞に告ぐ」と題された脅迫文と小刀が入ったレターパックが届けられていた。
「文書はA4判1枚。『売国朝日新聞に告ぐ』と題し、投票日の14日正午までにテレビで謝罪放送をするよう要求。『(応じなければ)あらゆる取材現場に出向き朝日新聞の記者を見つけ次第殺す。日本民族精神再建の第一歩だ』と書いてあった。小刀は木製のさやに入っており、全長約18センチ。アルミホイルで全体を包んであった」
http://www.asahi.com/articles/ASGDH5V63GDHUTIL045.html

◎ハーレクインのキャストノベルは通常のテキストのみならず、人気声優がさまざまなキャラクターを演じ分けながら朗読する音声データも楽しむことができる。トゥ・ディファクトは、「honto」で朗読コンテンツ「キャストノベル」第2弾「愛の使者のために」をリリースした。
http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1412/15/news103.html

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4)【深夜の誌人語録】

いつまでも青臭くいようと思うのであれば、老獪たれ。