【文徒】2014年(平成26)12月26日(第2巻243号・通巻445号)

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1)【記事】KADOKAWAが理解できずにドワンゴが理解していたこと
2)【本日の一行情報】
3)【ご挨拶】2014年の配信は今日が最後です

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1)【記事】KADOKAWAが理解できずにドワンゴが理解していたこと

KADOKAWAの「アスキー」ブランドでIT技術書を刊行していたハイエンド編集部は、リストラされるはずであった。編集長の鈴木嘉平が自らのブログで次のように書いたのは10月1日であった。鈴木は、アスキーに入社して以来、22年間にわたってプログラマ/システムエンジニアのための雑誌・書籍の企画・編集に携わってきた、いわばハイエンド編集のプロ中のプロであった。
「10月に入って情報公開制限が解けたので、書きます。_株式会社KADOKAWAは、9月末をもってアスキーブランドの書籍を作っていたいくつかの編集部を廃止・解散しました。これに伴い、私(鈴木嘉平)が編集長を務めていたハイエンド書籍編集部も解散しました。この件について、株式会社KADOKAWAからは特にアナウンスなどは行わないということです」
http://kahei.org/blog/2014/10/post-111.html
ハイエンド編集部の解散は、喩えて言うのならば、文芸出版社が純文学の雑誌を休刊してしまうようなものである。確かに儲かりはしないのだが、ハイエンド編集部を擁することは、デジタル時代におけるKADOKAWAのロイヤリティを高める役割を果たしていたはずだ。腐ってもアスキーを象徴するような編集部であったと言っても良い。
純文学に限らず、「選択と集中」というお題目のもと、採算面だけから編集部のリストラを進めてしまうと、実は利益の源泉を失いかねない。その「源泉」は赤字であっても、これを無くしてしまうことは、その「源泉」を母胎にしてしか育たない未来の才能や企画を放棄してしまうことである。そうした才能や企画が利益に多大なる貢献をすることを忘れて、安易なリストラに走ることは、得策ではないということである。
このことに気が付いたのがドワンゴであったということだろう。ドワンゴがハイエンド編集部を引き継ぎ、ドワンゴKADOKAWAで技術書の新たなブランド「アスキードワンゴ」を立ち上げることになったのだ。
http://weekly.ascii.jp/elem/000/000/283/283265/
https://twitter.com/meso/status/518024306006052866
ドワンゴにとって「アスキードワンゴ」は、岩波書店のようなものであろう。

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2)【本日の一行情報】

◎アジア・太平洋の観光客にとって、最も人気のある都市は1位が東京、2位が大阪、4位が那覇、10位が京都なのだそうだ。
http://japanese.joins.com/article/401/194401.html?servcode=A00§code=A00&cloc=jp|article|ranking_news

◎「東洋経済オンライン」でコラムニストの常見陽平が「ユーキャン新語・流行語大賞」の選考委員である「現代用語の基礎知識」の編集長である清水均に直撃取材。清水の次のような発言が印象的である。
「確かに近年はたくさんの記者の方に来ていただいて、テレビ、新聞、雑誌と、記事にしていただいています。しかし、それはありがたいのですが、『どうしてこんなに記事にしてくれるのだろう』と思うこともあります。
それは、以前にくらべて、取材にツッコミがない。記事が平板になったなとよく感じるんです。『流行語大賞』って誰でもツッコミやすい話題だし、もっと工夫できそうなネタだと思うんです。
上司からの指令だからと会場に来て発表を聴いて、記事にして、というだけの取材だと、『それでいいのかなあ』と考えてしまいます。官庁の記者発表じゃないんだから。『何のための取材なの?もっといじっていいんだよ』と、余計なことまで言いたくなる」
http://toyokeizai.net/articles/-/56483

◎宝島社は「このミステリーがすごい!」大賞の第13回大賞作品の「女王はかえらない」(降田天)を1月9日に刊行する。降田天は、プロット担当の萩野瑛と執筆担当の鮎川颯の大学生時代からの同級生コンビ。卒業後も、共同生活を続けながら作家として執筆活動をしているそうだ。
http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000121.000005069.html

TOKYO FMが提供する全国のFM局の放送を全国どこのエリアからでも聴けるスマホ向けアプリ「ドコデモFM」が、ラジオ放送アプリ初となる同期歌詞表示サービスを開始した。
http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000527.000004829.html

資生堂は国内シェアを低下させ、海外事業でも大型M&Aとして話題になったアメリカの天然化粧品大手ベアエッセンシャルが不振に陥ったし、中国でしぼむ一方である。海外依存が資生堂を駄目にしたということを理解していない悲劇と言うべきだろう。
http://biz-journal.jp/2014/12/post_8373.html
公家には公家の商売の仕方があるだろうに!プロ経営者として招聘した魚谷雅彦もたいしたことはなかったようだ。ベネッセあたりも同じことになるのではないだろうか。

◎販売部数からすれば平成の国民作家ともいうべき百田尚樹の最新作「幻庵」の連載が「週刊文春」で始まるが、文藝春秋電子書籍オリジナルとして「百田尚樹読本」をリリースした。価格は200円。「幻庵」第一話の冒頭も収録されている。文藝春秋としては「幻庵」を何としてでも盛り上げ、書籍でベストセラー、文庫でミリオンセラーを狙いたいところだ。
http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1412/24/news101.html

ソースネクストは、「アプリ超ホーダイ」に24 のアプリを追加します。このサービスは、月額固定料金360 円(税別)で、ウイルス対策からゲームまで、厳選されたAndroid アプリが使い放題となる。追加されたアプリのなかには「FujisanReader」も入っている。
http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000148.000004346.html

丸善CHIホールディングスは、完全子会社の丸善書店ジュンク堂書店を吸収合併することになった。リストラを断行したということである。
http://ryutsuu.biz/strategy/g122407.html

桐生市本町1の旧早政織物工場内でデザイン事務所を営む斎藤直己が建物の一角にオープンした書店「ふやふや堂・早政の土間店」の営業日は週に一回、月曜日の午後だけである。12月25日付東京新聞が紹介している。
「『僕の好きな本を選んだ。読んでほしいものばかり』。デザインの仕事で関わった東京や大阪の小さな出版社を含め、十社の百五十タイトルをそろえた。桐生市周辺の他の書店では扱われないような本もある」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/20141225/CK2014122502000166.html

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3)【ご挨拶】2014年の配信は今日が最後です

何とか松葉杖からは解放されたものの、医師によれば膝から痛みが取れるには3週間ほどかかると言われた。事故にあったのは12月16日だから、休み明けには不自由な生活から何とか脱出できそうである。
総武線の社内で急ブレーキによって発生した将棋倒しに巻き込まれ、救急車に一度は乗ったものの、これを拒否し、タクシーで帰宅したのは、この「文徒」の配信を休みたくなかったからだ。そのためには病院に入院する事態を何としても避けたかった。
それだけに今日の最終配信に何とか辿り着くことができてホッとしている。とはいえ、反省を怠ってはなるまい。情報の質、情報の量において、まだまだ改善しなければならない点は多い。もっとオリジナルの記事も充実させる必要もあるだろうし、批評性という意味では、この程度の切れ味にとどまっていて良いはずはあるまい。自らの非力に愕然とするばかりだが、何とか研鑚を重ねて、購読者の皆さまの期待に応えたいと思っている。
2015年の配信は1月5日からである。
最後になるが、私たちを支えて下さる会員社の方々に深く御礼申し上げて、しばしパソコンのキイボードから離れることにしたい。
「日本脱出したし 皇帝ペンギン皇帝ペンギン飼育係りも」(塚本邦雄