【文徒】2015年(平成27)1月6日(第3巻2号・通巻447号)

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1)【記事】アマゾンと資本主義
2)【記事】ヴィレッジヴァンガードトーハンに帳合変更
3)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

                                                                            • 2015.01.06 Shuppanjin

1)【記事】アマゾンと資本主義

常識的に考えれば、アマゾンの経営は火の車である。ユーザーファーストを貫徹する限り、恒常的な赤字体質から脱することはできない。もちろん、市場を独占的に支配できるようになるまでユーザーファーストを徹底するのであれば、アマゾンは利益を手に入れることができるかもしれない。不思議なのは株式市場の反応なのである。赤字続きであるにもかかわらず、投資家はアマゾンを支持している。アマゾンの経営が安泰なのは、株価が高い水準を維持しているからである。
立命館大学教授のルディー和子によれば「アマゾンは、『消費者の利益のために、投資家グループが支えているチャリティ組織』だと、皮肉を込めた呼び名をつけたジャーナリストもいる」そうだ。しかし、そのようなチャリティ組織を認めてしまう市場は、神の見えざる手が正常に機能しなくなってしまった、資本主義の原則からすれば倒錯的な市場ではないのか。もっとも12月に入ってから、アマゾンの株価はダウントレンドに入ったらしい。もし、市場に神が実在するのであれば、アマゾンは神の見えざる手によって罰せられる可能性もあるはずだ。
http://biz-journal.jp/2015/01/post_8444.html
http://blogos.com/article/102538/
「ウォールストリート・ジャーナル日本版」の次のような記事を読むと少しは安心するというものだ。
「米ネット通販大手アマゾン・ドットコムの株価は昨年、2008年以降で最悪のパフォーマンスを示した。通年での下落率は22%に達し、ジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)の持ち分で約74億ドル(約8600億円)が消滅したことになる」
もっとも、記事は「それでも」とつづく。
「それでも、ベゾス氏の保有株数は8400万株(保有比率で18.3%)で、総額261億ドル(1ドル120円換算で3兆円超)で15年の相場を迎えることになる」
http://jp.wsj.com/news/articles/SB12659516568778773425604580372432488310208
私はアマゾンを見ていると中内功が率いたダイエーを連想してしまう。ダイエーは巨大な借金を抱えて、中内一族が経営から排除され、遂にはイオンに吸収されてしまう運命を辿ったが、ダイエーの成し遂げた「流通革命」が後退することはなかった。アマゾンにしても、アマゾンという企業がどうなろうとも、アマゾンが成し遂げてしまった「流通革命」が後退することはないということだ。

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2)【記事】ヴィレッジヴァンガードトーハンに帳合変更

もちろん、帳合変更は自由だ。取次が書店に帳合変更の営業をかけようとも、それを原則的に指弾することはできないし、書店が帳合変更によって取引条件を改善しようとも、自由主義経済において何ら問題はあるまい。しかし、現在の出版業界の置かれた現状を少しでも考えるのであれば、日販、トーハンという二大取次は、安易な帳合変更は慎むはずである。
ましてや、経営破綻寸前にまで追い込まれ、楽天と大手出版社、大日本印刷が金銭的な援助までして経営再建を図っている途上にある大阪屋が、経営再建に失敗すればどういうことになるかぐらいのことは、トーハンのヒラ社員の頭でも理解できることだろう。ところが、トーハンの経営陣は違った。そこまで想像力を働かすことができないほど冷酷であったということなのだろう。
大阪屋帳合のヴィレッジヴァンガードが2月1日をもって、何とトーハンに帳合変更することになった。ヴィレッジヴァンガードで出版物を扱う店舗は385店あるが、この総てをトーハンに帳合変更するというのだ。このことにより、大阪屋は約40億円の扱いを失うことになる。これは大阪屋にとって決して少なくない数字である。
他の産業と比べてみれば、紙の出版ビジネスなど、「中小企業」に過ぎないのだから、版元、取次とも「全体」の利益をもう少し真摯に考えるべきなのではあるまいか。そのように考えられない大取次は出版に対する愛情を欠如しているとしか思えないのである。

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3)【本日の一行情報】

ハースト婦人画報社の付録攻勢が凄まじい。「エル・ガール」1月号通常サイズ版の付録はオリジナルポーチとレブロンのクレヨン型リップ、BIG版ならオリジナルポーチとレブロンのネイル2本が付録。「25ans」 2月号は「17℃ by BLONDOLL」の50デニールタイツが付録だ。
更に注目すべきは楽天と組んだ取り組みである。楽天ブックスで「25ansウエディングヘア&ビューティvol.12新装版」「25ansウエディング ジュエリー2015」の2冊を購入すると、プリマヴェーラのギフトセット「エロス」(ボディウォッシュ&ボディオイル/3780円相当)がついてくるのだ。雑誌は、こういう形で再販制が崩れるのかもしれない。
http://dokujo.jp/archives/51873613.html
祥伝社の「からだにいいこと」 2月号の付録、遠赤外線効果で巻くだけで肩こりに効くVENEX社の「ナノプラチナスカーフ」の評判も良かったようだ

◎街の本屋の在庫検索もできるウェブ連動の書籍管理アプリ「honto with」。欲しい本を買いに行ったが在庫切れ、という不満を解消できる。ネットで在庫切れの商品を探すにも便利。ただし、検索できるのは、hontoポイント提携店の丸善ジュンク堂MARUZEN&ジュンク堂文教堂のみ。(田辺英彦)
http://octoba.net/archives/20150103-android-app-honto-396578.html

◎出版不況の中でも比較的好調なライトノベルだが、昨年の売れ筋はいずれもインターネット発の作品だった。次のような記事を読むと、この分野においても小さなパイを奪い合うのにネットの影響力を無視できないのを感じる。
ライトノベルに精通する同店の田村恵子さんは、『購入者の中心は、30〜40歳代のサラリーマンで、(中略)面白い作品をいち早く見つけるため、新人作家の新作でもまとめ買いする傾向にありました』と話す。ところが今は、そうした世代がネット発の小説に目を向けており、その流れで、新人作家の作品を買わなくなっているのが現状だという。」
http://mantan-web.jp/2015/01/03/20141230dog00m200048000c.html
秋葉原書泉ブックタワーの売り上げランキングなので、場所柄多少のエクスキュースが必要だが、ラノベのこうした傾向は今後も強まるのではないだろうか。(田辺英彦)

◎CNNによると台湾では24時間営業の書店が人気スポットとして注目を集めているという。日本でこのスタイルが受け入れられるかどうかは微妙なところだが。(田辺英彦)
http://www.cnn.co.jp/fringe/35058533.html

◎1月15日の第152回芥川賞直木賞の発表に合わせ、下北沢の本屋B&Bで、豊崎由美×大森望×杉江松恋×ニコニコ生放送による「ニコ生with本屋B&B 〜第152回芥川賞直木賞受賞記者会見パブリックビューイング〜」が開催される。(田辺英彦)
http://bookandbeer.com/blog/event/20150115_152akutagawanaoki/

◎作家の有川浩が、映画化にタイミングを合わせた文庫化をしなかった作家を「漢(おとこ)だな!」と賞賛して次のように書いている。
「出版業界において、単行本を売り伸ばすことは業界を支えるために(平たく言えば運転資金を稼ぐために)とても大切な作業である。(中略)単行本という形態をやめてしまったら、新人作家を育てることがとても難しくなる。」
http://www.sankei.com/west/news/150103/wst1501030013-n1.html
作家だけでなく出版社も英断だろう。ちなみに映画化された「薔薇の名前」(ウンベルト・エーコ)も、昨年没したガルシア・マルケスの「百年の孤独」も、文庫化されていない。(田辺英彦)

電子書籍ストアBOOK☆WALKERにて、講談社が主催する電子書籍フェア「講談社 冬☆電書2015」のコラボレーション企画として、「冬☆電書×BOOK☆WALKER 期末テスト」を実施中。講談社の人気少女コミックから問題が出題され、正解すると対象シリーズを20%OFFで購入できるクーポンがもらえる。(田辺英彦)
http://bookwalker.jp/ex/sp/w15bwtest/?adpcnt=7qM_N3f

◎スキャン代行サービスを手掛けるブックスキャンが、VRヘッドセット用のアプリ「オキュラス書店」のβテストを実施している。Windows版とMac版がある(無料)。「オキュラス書店」は、CGで作り出した仮想書店を自由に歩いて書籍情報をチェックできるアプリ。Amazonのベストセラー書籍のタイトル・内容・発売日を閲覧でき、今後は書籍の購入機能などを実装する予定だ。(田辺英彦)
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1501/05/news078.html

サイバーエージェントの子会社でスマートフォン広告事業を展開するCyberZが、台湾のOfferme2(オファーミーツー)社と資本提携することに合意した。これにより国内外における広告主のアジア進出支援の強化を図る。(田辺英彦)
https://www.cyberagent.co.jp/news/group_press/id=9827?season=2014&category=ad

朝日新聞社の渡辺雅隆社長が「信頼回復と再生のための行動計画」を公表した。社外からの記事への指摘や意見を総合的にとりまとめ、報道に生かす「パブリックエディター制度」を導入する。(田辺英彦)
http://www.asahi.com/articles/ASH154S73H15UEHF00N.html

◎読売新聞によると、森ビルは虎ノ門ヒルズの隣に羽田空港直行便が発着するバスターミナルを併設した高層ビル(高さ185m)を開業する。(田辺英彦)
http://www.yomiuri.co.jp/economy/20150105-OYT1T50009.html

◎ニューメディアリスク協会は2014年に起こった主なネット炎上などについて調査。印象に残った炎上のベスト3は以下の通り。
1位:古書店、万引犯の顔写真を公開(11.8%)
2位:インスタント食品への虫混入(10.2%)
3位:来店客がコンビニ店員を土下座させる(9.8%)(田辺英彦)
http://newmediarisk.org/news/news141229.html

公共図書館の数はここ30年で2倍以上になり、蔵書数も4.3倍に増えているが、図書購入費や年間受入冊数は減少し、利用者も増えていないという。そんな図書館に変革が起きている。ハローワーク等と連携し、貧困層・生活困窮者支援をはじめ地域の課題に取り組んでいる「図書館海援隊」など、ユニークな取り組みをビジネスジャーナルが伝えている。(田辺英彦)
http://biz-journal.jp/2015/01/post_8446.html

◎「アルスラーン戦記」(漫画:荒川弘 原作:田中芳樹講談社)のテレビアニメが4月からTBS系で放送される。原作は光文社カッパ・ノベルス。(田辺英彦)
http://mantan-web.jp/2015/01/04/20141230dog00m200118000c.html

早川書房1Fの「カフェ・クリスティ」が1月8日から2月27日まで「カフェ・ポアロ」として、「オリエント急行殺人事件」などの映画ポスターや、クリスティー直筆の手紙、「そして誰もいなくなった」の島の立体模型などを展示。ポアロに変身できる付けひげシールや、店内に隠されたキーワードから謎を解く参加型のクイズも用意。クリスティー作品に登場する料理なども提供する。(田辺英彦)
http://www.hayakawa-online.co.jp/new/2014-12-17-181549.html

◎インターネットの電子図書館青空文庫が今年新たにパブリック・ドメイン入りした著者の作品を公開している。尾崎士郎「土俵の夢」、佐藤春夫「オカアサン」、三好達治「測量船」など10作品が挙がっている。(田辺英彦)
http://www.aozora.gr.jp/soramoyou/soramoyouindex.html

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4)【深夜の誌人語録】

苦手を克服するよりも、得意をもっと鍛えれば良い。得意を鍛えることで苦手を克服すれば良いのである。