【文徒】2015年(平成27)4月21日(第3巻75号・通巻520号)

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1)【記事】電通報の記事と稲垣正夫の訃報
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】電通報の記事と稲垣正夫の訃報

電通報の「松本豊三と電通満州・大陸帰り、復員軍人たち」は電通の原点を描いているので欠かさず読んでいる。ついでに佐野眞一のノンフィクション「阿片王 満州の夜と霧」(新潮社)や西木正明の小説 「其の逝く処を知らず 阿片王・里見甫の生涯」(集英社)も読むのも一興かと。
http://dentsu-ho.com/articles/2409
http://dentsu-ho.com/articles/2414
http://dentsu-ho.com/articles/2439
http://dentsu-ho.com/articles/2442
16日午前11時47分に92歳で亡くなったアサツーディ・ケイ(ADK)創業者である稲垣正夫もまた中国との関係が深い人物である。しかも、戦中から中国に関わっていたのである。
ところが、この日経の記事にしてもそうだが、戦後になってからの稲垣の経歴しか書かれていない。戦争中、稲垣は中国共産党の支配するエリアに武器も持たずに潜入しての工作活動に従事していたのは、あまり知られていない。稲垣が経営者として「中国で幅広い人脈を持ち新華社通信社と業務提携した」のも、そうした前半生と無関係ではあるまい。
また「終戦後、外務省や出版社に勤め、1956年にADK前身の旭通信社を創業」とあるが、ここで言う出版社とは講談社のことである(厳密に言えば講談社ではないのかもしれないが、講談社のために動いたことは間違いあるまい)。
私は20代の頃、残念ながら記事にはならなかったが、稲垣をインタビューしている。
日経を始めとした新聞各紙は稲垣の学歴についても全く触れていないが、稲垣は康徳学院の出身である。康徳学院とは、駒井徳三が宝塚市に設立した大陸指導者を養成するための私塾であった。駒井は、それまで「満蒙領有論」が日本国内では主流を占めるなか、「満州国独立」を早くから唱えていた人物として知られる。満州国国務院初代総務長官をつとめている。そもそも稲垣を始め旭通信社を創業した3人はみな康徳学院の出身である。
稲垣は「全員経営」を掲げていたが、私などは、そのルーツは「五族協和」なのではないかと推察している。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG18H8C_Y5A410C1CZ8000/
稲垣正夫大東亜戦争の栄光と悲惨を丸ごと背負っていた最後の経営者であるのかもしれない。

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2)【本日の一行情報】

白泉社の2周年を迎えるWebコミックサイト「ヤングアニマルDensi」が、リニューアルを実施し、「ニコニコ静画」にも配信を開始した。
http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1504/17/news126.html
ヤングアニマルDensi」の電子書籍ビューアにはセルシスの「BS Reader for Browser」が採用された。セルシスの親会社であるアートスパークホールディングスの株価が大幅高となったそうだ。
https://www.celsys.co.jp/pdf/company/press/2015/Celsys_News_2015_04_17_01.pdf

田原総一朗が「BLOGOS」のインタビューに応じている。
「僕は、いまのマスコミは非常に『弱腰』になっていると考えている。政治権力の圧力がある前にすでに、マスコミが委縮してしまっているのではないか。萎縮して、政権側につけこむスキを見せてしまっているのだ」
http://blogos.com/article/110279/
読売新聞も次のように書いている。
「ただ、テレ朝はその後、番組中で視聴者に謝罪し、早河洋会長が記者会見で『不適切な放送だった』と非を認めている。NHKも中間報告に基づき、番組で誤報部分を訂正、謝罪した。やらせの有無については、現在も調査を続けている。こうした状況下で、政権与党がテレビ局幹部を呼び出すのは、行き過ぎではないのか」
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20150417-OYT1T50160.html
小林よしのりのブログが辛辣だ。
「それから『報道ステーション』よ、最近、若手の無難な知識人をコメンテーターに呼んで、『意見』ではなく、『解説』ばっかりさせているが、あれでは古賀茂明の言った通り、官邸の脅しに屈したのかと疑われるぞ!」
「政権与党によるテレビ局への事情聴取は、放送法を武器にした巧妙な圧力である。今こそ『報道ステーション』は政権に手厳しくやるべきなのに、なぜか生温い。『NEWS23』の方が骨があるように思えてきた。権力に対しては、今よりもっと厳しい報道番組があってもいいと思うのだがなあ」
http://yoshinori-kobayashi.com/7446/
http://yoshinori-kobayashi.com/7450/
まあマスコミも昔のように儲かっていれば、「委縮」もしまい。

池上彰新潮新書から「超訳 日本国憲法」を刊行。私は「月刊 池上彰」と呼んでいるが、厳密に言うと、月刊を凌ぐペースで新著を出し続けているはずだ。「主張」よりも、「解説」が好まれる時代なのだろう。
https://www.shinchosha.co.jp/book/610613/

◎福岡市早良区百道浜の市総合図書館映像ホール・シネラで「映画の新しい才能の発見と育成」をテーマにして「ぴあフィルムフェスティバル」が4月24日(金)から3日間にわたって開催される。来場者の投票により福岡会場のグランプリ「福岡賞」が決定するそうだ。久留米大学附設高等学校在学中の橋本将英による「流れる」という作品は見てみたい。
http://www.nishinippon.co.jp/nlp/event_other/article/163637
「ぴあシネマブティック」が懐かしい。

ソニー生命ビートたけしのCM、格好良いんだよなあ。「人生に幸せなんて求めること自体、勘違いなんだよ」って、北野武じゃないか。
http://fieldcaster.net/archives/2361

池井戸潤の連載エッセー広告「作家、池井戸潤。ニッポンを走る」が朝日新聞朝刊でスタートした。広告主はアウディ ジャパンだ。
http://www.asahi.com/and_M/information/pressrelease/CPRT201512976.html
ネットとも連動している。
http://www.asahi.com/ad/ikeido2015/?ref=short
こういう広告は、やはり読売新聞ではなく、朝日新聞なんだよね。オレの好きな産経や東京はハナから論外なんだろうけれど。

◎「江戸しぐさ」が「三省堂国語辞典」で落選した。何はともあれ、良かった、良かった。
http://togetter.com/li/809524

◎コルクの佐渡島庸平は、「作家の時間軸を考えながら仕事していくのが僕の仕事」だという。そういう会社がコルク以降、名乗り出ないほど、出版業界は硬直化しているのかもしれない。新たなルールを創出するよりも、これまでのルールに安住したほうが、収入の心配をしなくて済むのだろう。
「ルールを受け入れる側だと楽しくないし、僕自身が作家にとって良いルールを考えたいなと思ったんです。というのも、作家にとって良いルールを考えている人が少ない。出版社にとって良いルールとか、レコード会社にとって良いルールはたくさんあるんですけど、クリエーターにとって良いルールを作ることについて誰が考えているのだろう、と世間を見渡してみてもあまり見当たりません。ならば、僕がやってみようと考えるようになりました。そのためには1人でやるより、仲間と一緒にやるほうが良いと思い、会社を立ち上げることにしたんです」
http://www.huffingtonpost.jp/wisdom/sadoshima-yohei-cork_b_7086210.html

◎「進撃の巨人」の快進撃を利用しての、どうせ「キワモノ」だろうよ、と斜に構えて手に取ったのだが、これなかなか良いじゃない。廣政愁一の「進撃の英語」は日本語のマンガがあり、これの英語版が出て来て、文法やら語法の解説となる三段階方式で編集されている。
先行する集英社の「『ジョジョの奇妙な冒険』で英語を学ぶッ!」(マーティ・フリードマン+北浦尚彦)などを踏まえて、これを超えようとした試みだ。
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062194822

◎セブン‐イレブン、アマゾン、楽天が三すくみで、オムニチャンネルに取り組むことになるのだろう。セブンは自力で、アマゾンはローソンと組み、では楽天は?日本郵便と組むようだし、大阪屋を持つことから書店と組むことになるのだろうが、それだけでは弱い。楽天もコンビニと組む準備を始めるのかもしれない。
http://toyokeizai.net/articles/-/66896
http://toyokeizai.net/articles/-/66271

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3)【深夜の誌人語録】

基礎を軽んじてはならない。基礎を徹底的に叩き込むことによってしか飛躍もあり得ないはずだ。