メディアクリティーク【人事の真相】世界文化社「大晦日付・役員人事」を大塚茂専務に直撃   突然の退任理由は「一身上の都合」から。『GOLD』休刊についても語る

メールマガジン『文徒』の去る1月7日号・13日号でも報じた通り、世界文化社の小林公成専務取締役が昨年12月31日付で退任、しかも退職したことが出版・広告業界に波紋を投げかけている。
そもそも年も押し詰まった「大晦日付の役員人事」で専務が退任して会社まで辞めてしまうということの「異様さ」もさりながら、そこから業界関係者の多くが案じているのは「世界文化社の内部、何か経営方針をめぐる対立があったのではないか?」ということだ。
世界文化社は、かつて映画プロデューサーで東日興業(毎日新聞系の映画製作プロダクション。後に東宝に売却されて「東京映画」社となったが現存せず)の社長も務めた故・鈴木郁三氏が1946(昭和21)年2月に「世界文化画報社」として設立して以来、鈴木家によるファミリー経営が今日まで続いている。退社した小林専務はもともと金融業界の出身だが、奥さんは現社長・鈴木美奈子氏の妹である。それがゆえに大晦日の退社については誰しも、いわゆる「お家騒動では?」などと憶測してしまいかねないところがあるのだ。ちなみに『文徒』でも報じたが、「関係者が世界文化社に確認を入れたら、社員も知らなかった」という話まであったほどだ。
また、これも『文徒』でも報じたが、小林専務の退任理由は「自分でやりたいことがあった」からだという。
その「自分でやりたいこと」とは一体何なのか。試みにウェブで検索してみたところ「第2回2016 私をスキーに連れて行かなくても行くわよ」なるサイト(http://ski80s.jp/index.html)に行き当たった。かの内閣総理大臣夫人である安倍昭恵さんを「名誉会長」に、80年代の映画『私をスキーに連れてって』を青年期に観た世代を山形蔵王温泉スキー場に呼び集めつつ、東日本大震災後の東北復興にもあてようということで大手企業各社を協賛につけながら、第2回の今年も3月4〜6日に開催されるというイベントの公式サイトである。この主催者である「80年代スキー復活実行委員会」の実行委員の一人として小林公成氏が顔写真および「国際金融の世界から出版業界に転身。以前は、高級ビジュアル誌、ファッション誌、パズル誌などの雑誌、幼児向け絵本や、数多くの実用・料理・伝統文化に関わる書籍を発行する出版社の専務取締役として経営に携わる」とのプロフィールも添えた形で紹介されていた。肩書は最初に私が確認した時点では「大手出版社役員」だったが、ほどなく「元大手出版社役員」に切り替わっていたところからも、何やら舞台裏の慌ただしさを想像してしまう。
さらに、世界文化社時代の小林氏は金融畑から来たとはいえ「編集・経理担当」の役員として、上記のプロフィールにもある通り様々な雑誌や書籍の仕事にも関わってきており、2006年末に常務から昇格しての専務在任期間も既に10年近くに及んでいた。なおかつ、その在任期間の後半となった2013年10月に、婦人向けの高級ファッション雑誌として創刊された『GOLD』が「休刊してムックに移行する」などと言われているものの、業界からは「いったい正式なアナウンスはどうなってるんだ?」など、広告会社の中では混乱も生じているらしい。
そこで1月25日(月)の15時半、大塚茂専務を市ヶ谷の世界文化社で話で直撃することにした。「16時から会議がありますので」ということで30分間の短いインタビューとなったが、以下に概略を紹介する。
『GOLD』の再出発プランは、まだこれから
――12月31日付の人事は、その前の早い段階で決まったことなんですか?
大塚 早い段階というのがいつ頃からなのかというのはありますし(苦笑)、本人がどう思ってたかはちょっと私もわかりかねますけど、具体的になったのは(昨年の)12月に入ってから……。というふうに承知してますけれど、まあ私の承知と本人の思いというか予定と、どうなのかと思いますけど……。
――お互いの認識が違っていたんですか?
大塚 いや、そんなことはないです。これはあくまでも「本人がどういうつもりでいたか」っていうのは私はわかりかねるということです。
――小林さんご本人から退社を申し出られた? 大塚専務ご自身にとっても寝耳に水だったんですか。
大塚 もちろんです、びっくりしましたよ。みなさんからも一時期お問い合わせをいただいたりしましたし、もう収まったかと思ってたところですが(笑)。
――理由としては「退社してやりたいことがある」ということだったと聞き及んでいるんですが。
大塚 あ、そうですか。それはどちらから?
――ま、いろんなところから。理由としては(会社に対して)どんなふうにおっしゃられていたんですか?
大塚 これは「一身上の都合」ということ以外何もないんですよ。
――「一身上の都合」が何であるのかについては全くお話になられなかった?
大塚 まあ、そういうことですね。
――ただ、専務まで務められ、しかも経理から編集まで担当されていた方でしたし……。
大塚 いろいろ幅広くやっておられましたからね。
――そこで業界ではやはり臆測を呼んでしまうのは、小林専務が鈴木社長の妹さんのご主人だったということです。一説には家庭内でのことがあったからではないかとも言われているのですが。
大塚 そうですね。それにつきましてはプライベートなことですので、私からは申し上げにくいし、申し上げる立場にも私はありませんので……。それでご理解いただければと思いますけどね。
――大塚専務ご自身も“ファミリー”のお一人では?
大塚 そうおっしゃっていただいても大きな違いはないとは思いますけど、遠い関係ですから(苦笑)。私自身はそういう認識は一切ありません。
――小林さんは金融業界のご出身ですよね。どちらの銀行でしたか?
大塚 当時の三和銀行(現在の三菱東京UFJ銀行)です。
――御社では経理以外に編集も担当されました。
大塚 編集もやり経理関係、製作関係、販売もやりましたし、もちろん広告も長い間やってましたんで、そういう意味では(社内における)全領域と言っていいんでしょうかね。
――『GOLD』もそうでしたかね?
大塚 その時は違うと思います。
――『GOLD』は休刊するとのことですが。
大塚 それは正式に発表していますし事実です。
――ムックに移行されると聞いていますが?
大塚 ムックに限らずウェブとか多メディアですね。まだ具体的には決めていませんが、いろいろなメディアを融合した新たな『GOLD』で再出発したいということですね。もちろんムックもございます。
――正式発表されているとはいえ、広告業界では「聞いてないぞ」「どうなるんだ」と、気を揉んでいる人も多いようですが。
大塚 そういう意味ではご心配をおかけしたり、いろいろお問い合わせをいただいているのも事実です。はっきりしたことが現段階では申し上げられなくて、もう少しピッチを速めていろいろ進めていきたいと思っているのですが……。いずれにしましても検討・研究は進めておりますので、はっきりとお話しできるようになりましたら、きちんとした形でお伝えしたいというふうに思っております。
――いつぐらいを目途に?
大塚 それは今の段階では「何月に」というふうには、ちょっと行かないので、申し訳ありませんがもうちょっとお待ちいただければと思います。我々としても急ぎたいというのはございます。
――小林氏の退任と結びつけて語る向きもあるやに思いますが?
大塚 へえ、そうですか。そういう見方をされる方もいらっしゃるんですね(笑)。びっくりしました。
――全く関係ないと?
大塚 一切ございませんので。そうご理解いただいていいと思いますよ。
――小林氏は今後全く別の道を歩まれると?
大塚 そのようですね。私は一切聞いておりませんので何ともお答えしようがないんですけど、何か違うことをやられるようですよね。
――ネットでは安倍昭恵さんが名誉会長のスキーの企画の実行委員だとの話も上がっていますが。
大塚 以前から(安倍昭恵さんを)存じ上げてるとは聞いていました。私どもでも本(『安倍昭恵の 日本のおいしいものを届けたい!』)を出しておりますし。
――あれは小林氏が手掛けたものなんですよね。
大塚 そうです。顔の広い人でしたよね。
――あるいは今後そういう人脈を活かして……。
大塚 あの、何かご存知でしたら教えてほしいくらいなんですよ。本当に(笑)。
――しかし小林氏も編集から経理まで社内の様々な分野を担当されていましたし、そうした方がいなくなるというのは……。
大塚 そういうご心配の声も多数頂戴しております。小林専務は関連会社担当もしばらくやっていました。関連会社としては編集関係で一社、ロジスティックで一社ですが、ここに関してはおかげさまでしっかりとした人間も育ってきていますし、今度取締役で担当する男もしっかり勉強する男ですから、大過なくできるだろうと期待しています。
――対外的な顔役を務めてきた役員の方がいなくなることによる損失もあるのでは?
大塚 それはありますけど、幸いにして私共は執行役員制度も敷いておりますので、そこで何とかカバーしてやっていかなければならないと思っています。
これからどうなる!?
少し話題を変えて聞いてみることにした。
――『家庭画報』新年号(12月1日発売)ははいかがでしたか?
大塚 おかげさまで非常にいい売れ行きを示しまして、販売会社さんにも大変喜んでいただけました。街なかのいろんな書店さんからも「よく売れたね〜」と言っていただきました。手元に正確な資料はありませんが、紀伊國屋さんでは(実売率)90%を超しました。羽生結弦さん(男子フィギアスケート選手)を『家庭画報』ではずっと取材を続けてきましたし、それも非常に追い風になったことも大きいですね。社内的にも非常に沸き立っているところです。
――新年号での婦人誌商戦も昔に比べればすごく厳しくなりましたが、ハースト婦人画報社さんは……。
大塚 思い切った手を打ってこられますよね。ネットでも進んでいらっしゃるし、イヴ・ブコンさん(ハースト婦人画報社社長兼CEO)は本当にご立派だと思います。講談社さんとも提携されましたし……。
――そこでまた気になるのは、『婦人画報』を擁するハースト婦人画報社が販売面で講談社と提携したとなると、では「『家庭画報』を擁する世界文化社は?」と思ってしまうんです。世界文化社と、大手の出版社との提携のような展開は? と。
大塚 まあ、ご心配いただくのは大変ありがたいんですけど(笑)、当面は『家庭画報』は『家庭画報』として歩みを進めたいなと思っています。ただ、こういう時代ですから、手を携えることによってお互いにWin-Winの関係になったり、全体としてはプラスになったりする場面も……。雑協(日本雑誌協会)さんも今いろいろ仕掛けていらっしゃいますが、出版社間の垣根がものすごく低くなってると思うんですね。そういう意味では、まあ、時によってはケース・バイ・ケースというんでしょうか、ありうると思いますね。
――現時点で何らかの動きは?
大塚 今はまだないです。共同でプロモーションをやったりということはあるかもしれませんね。
――今年度決算の見通しは?
大塚 まだ3カ月残っていますが、昨年比プラスで行けそうです。雑誌全体が厳しいとはいえ、当社に関してはまずまずです。ムックも昔ほどは出していませんが、書籍も含めて堅調に推移しています。点数自体も前期に比べて多少増えていますが、実売率も簡単に言えば「空振りがなかった」という感じで(笑)。経費面では相当厳しくやっていますし、経費に対する勉強や節減に対する意識は、伸びしろが少なくなっているぶん逆に強まるところもありますし、そこでのマイナスと売り上げ面での堅調というところに尽きると思います。幼稚園関係と通販関係での利益貢献もありますので。