【文徒】2016年(平成28)1月6日(第4巻2号・通巻689号)

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1)【記事】朝日新聞は「隠れた部落差別」と報じて、さらに差別を隠蔽?
2)【記事】ジャーナリスト寺澤有と「しばき隊」が年末年始にネット上でバトル!
3)【本日の一行情報】
4)【深夜の誌人語録】

                                                                            • 2016.1.6 Shuppanjin

1)【記事】朝日新聞は「隠れた部落差別」と報じて、さらに差別を隠蔽?

これ、年末に最初に読んだ時に「変な記事だなあ」と思ったんだ。12月24日付朝日新聞の「隠れた部落差別、今も ふるさとの料理出したら離れた客」。
http://www.asahi.com/articles/ASHDJ6WFHHDJOIPE039.html
名古屋市で居酒屋を経営する山本義治さん(38)は今年6月、生まれ育った地域で親しんできた料理をメニューとして紹介した。とたんに離れた客がいた。ふるさとは被差別部落とされた地域だ。》
《「またか。まだ差別は残っているんだな」と感じた。「出身地を恥じることはない」という信念に基づく行動だったから、メニューはそのままで「スタイルは変えない」と言う。「生身の人間を見て、つきあってほしい」》
それはその通りだろうとは思うが、しかし、そのメニューというのはいったい何なのか? いったい何でそれが差別になるのか? どうしてその「ふるさとは被差別部落」なのか? という、読者の「知りたい」との思いにフラストレーションを与える記事だ。
と思っていたら、地元の中日新聞には半年前の6月21日に以下の記事が載っていることを知った。
http://livedoor.blogimg.jp/zokuni/imgs/7/1/7134bb16.png
「かすうどん 誇りの味」とメニューの名前も、朝日の記事では載っていなかった山本さんの居酒屋の名前「とんやき でらホル」も書かれている。なぜ朝日新聞は、その名前を伏せることで、差別の実態を報じようとしたのか? 「名前を伏せる」ことが、実は被差別者への最大の侮辱であるということになぜ気づかないのか!?
かつて私は、朝日新聞若宮啓文氏による『現代の被差別部落』を読んで「なるほど、そういった差別があるのだな」とは思ったものの「で、何でそういうことがあるの?」との疑問には答えてくれないな……と思いつつ、恥ずかしながらそのテーマから遠ざかってしまった覚えがある。
朝日新聞の今回の上記の記事を全否定はしないが、「ソウルフードとしての誇り(おいしい)」が消されたところに、被差別部落の問題を扱うときの過剰に腰が引けた編集姿勢が推測される。デスクあたりが、「かすうどん」とか店名を"おもんぱかって"出さなかったのではと。それがかえって被差別部落問題へのタブー視を感じさせる記事にしたのではないだろうか。
かつて私が抱いたような思いを再生産しないような形で、記事を書いた記者には、きちんと掘り下げた続報を望む。(岩本太郎)

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2)【記事】ジャーナリスト寺澤有と「しばき隊」が年末年始にネット上でバトル

その差別に関連するが、ここ数年、都内新大久保その他でのいわゆる「ネトウヨ」による外国人排斥デモへの抗議活動にあたってきたカウンター(中心的存在だった「レイシストしばき隊」にちなんで今でも「しばき隊」と総称される)と、警察の不祥事を徹底追及してきたジャーナリストの寺澤有が、昨年末以来ネット上でバトルを展開している。
http://togetter.com/li/915656
警察批判をメインテーマとする寺澤は、もともとヘイトスピーチ規制のための法律については警察にさらなるフリーハンドを与えることになるとの見地から反対の姿勢をとってきたが、これに対して法規制の必要性をとなえるカウンター側のメンバーが反発し、twitter上では年をまたいで泥沼的な論戦というか罵倒合戦が展開されている。
この問題は、「自由のためのに規制(統制)」という、現代のパラドックスまたはアイロニーなのだが、ベタな地平で衝突しているというわけだ。
新大久保のデモとカウンターの攻防を現場で見てきた一方で、寺澤とは「秘密保護法違憲訴訟」で同じ原告席に座る私は、寺澤の「カウンターや一部在日」といった乱暴な括り方には首肯しないものの、彼が独自の「芸風」として、並みいるカウンター側からの批判ツイートに一人で応えている姿勢には「まあ、いつものことだな」と思う。
ただ、さかのぼれば寺澤がカウンターを毛嫌いする理由は、カウンター側の中心人物である野間易通が2012年以来首相官邸前で抗議行動を行っている首都圏反原発連合(反原連)による抗議行動の主要メンバーであり、その反原連が官邸前の参加者の誘導や整理において警察と相談しながら進めたことを寺澤が批判し、それに野間が応えてやりあったという過去の因縁も絡んでいると思う。
http://togetter.com/li/329833?page=2
ちなみに野間は「ぱよぱよちーん」騒動でも時の人となってカウンター勢を敵に回したろくでなし子が年末に開いた忘年会に1時間半遅れで出席し、さっそくネット上でネタにされている。
http://mera.red/x%E3%82%8D%E3%81%8F%E3%81%A7%E3%81%AA%E3%81%97%E5%AD%90%E4%BC%9A
ただ、こうした問題は寺澤や野間の言動を逐一あげつらっているだけでは追いつかないほど、その根柢にある病理が、今やネットを通じて瞬く間に拡散されていく。社会学者の古市憲寿が元旦のテレビ番組で発した「ハーフってなんで劣化するのが早いんでしょうね」との発言といった発言も、当然ながらすかさずネット上で非難を浴びている。
http://www.j-cast.com/2016/01/04254695.html
それが2016年の初めにおける今の日本のメディア状況なのだ。(岩本太郎)

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3)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎差別と言えば、年末の京都での「学生版市民メディフェス」で上映されていた(ダイジェスト版だったが)ドキュメンタリー『ヘイトスピーチ』は面白かった。
大学生の「卒業制作」の作品だが、そういう先入観から斜に構えて見たりすると驚かされるぜ? 実際に「ヘイトスピーチ」をデモの現場で行なっている参加者にその場で話を聞いたり、はては主催者への単独インタビューにもこぎ着けているのだ。監督は、あの『ゆきゆきて、神軍』などで知られる原一男から薫陶を受けていて、原の言葉を胸にデモの現場でヘイトスピーカーたちに対峙した。
(同映画の公式ページが現在閲覧できない状態になっているので代わりのURLは以下)
http://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:wLYPO-kswWUJ:hatespeech-film.info/+&cd=2&hl=ja&ct=clnk&gl=jp
http://togetter.com/li/781546
http://itokenichiro.tumblr.com/post/111848598412/%E6%98%A0%E7%94%BB%E3%83%98%E3%82%A4%E3%83%88%E3%82%B9%E3%83%94%E3%83%BC%E3%83%81%E3%81%AE%E6%84%9F%E6%83%B3%E6%89%B9%E8%A9%95

◎これはなかなかディープな連載になりそうだ。「回想おおさかの夕刊紙 新大阪新聞最後の編集局長が綴るあの頃」。
http://osaka.thepage.jp/detail/20160104-00000003-wordleaf
大阪には現在地元発の夕刊紙がないが、かつては「新大阪」や「関西新聞」などが群雄割拠していた。イトマン事件に巻き込まれた関西新聞の休刊号の一面トップ見出し「本紙休刊」「巨大金融のどす黒いワナ」「問題終結後再登場を期す!!」は日本のメディア史上に残る悲しい傑作だと思う。

◎『TVぴあ』が休刊する。かつて隆盛を誇ったFM情報誌が軒並み休刊したものの、FMラジオは新陳代謝を繰り返しながらも生きてきた。テレビはこれからどうなるんだろう? とも思うが、一方で「TV雑誌の記者たちは今後どうなるんだろう?」とも思う。なぜなら東京でもNHKと民放を含めて6〜7局しかない「主要テレビ局」の部屋に毎日詰めて、局内での動きを毎日見続けてきた彼らこそが、実は放送業界の裏側をよく知る存在だったからだ。
http://www.yomiuri.co.jp/culture/20160105-OYT1T50115.html

◎FMといえば、これは年末年始における小さなヒットだろう。福島県から震災と原発事故後に同県の郡山市や各地にまで逃れてきた人々向けに、臨時災害FM局の「おだがいさまFM」が大晦日の夜に流した番組。帰りつけない故郷にあるお寺の鐘を収録のうえ「除夜の鐘」としてオンエアしたのだ。もとより、そうしたシチュエーションを生んでしまった現実こそが悲しく辛いのだが。
http://www.minyu-net.com/news/news/FM20160101-039398.php

◎元旦から、江戸川乱歩の作品が著作権フリーとなり、さっそく「青空文庫」でアップされ始めた。最初はデビュー作の「二銭銅貨」。以後も75作品が作業中という。
http://www.aozora.gr.jp/index_pages/person1779.html

オウム真理教元幹部の上祐史浩が「ネトウヨオウム真理教と同じ。弱者がカルト的なものに騙される」と発言したそうだ。
http://saigaijyouhou.com/blog-entry-9362.html
今さらという気もするが、オウムを追いかけてきたオウマ―たち(中には元オウム信者も結構いる)からは「それを言うなら共産党はオウムと同じだろう」との声も聞かれる。
https://twitter.com/a_sawaki/status/683931288944816128
というか、それをネット上で堂々と発したのは元オウム出家信者で経歴もカミングアウトしている沢木晃(仮名)で、彼が出入りしてきたオウム脱会信者たちの組織「カナリヤの会」の滝本太郎弁護士(事件当時のオウム真理教被害者対策弁護団の一人)はネット上でさんざん「共産滝本」「アカ」などと罵られてきたものの放置し、私(岩本太郎)とは過去にあれこれ論争を繰り広げてきたものの「一字違いですね。前世では兄弟だったかも」とか言われてきたので、たぶん大丈夫だろうと思う。

甘粕正彦樋口一葉に心を寄せて雑誌「女性満洲」に寄稿した記事が今日発売の集英社『すばる』に掲載される。
https://twitter.com/subaru_henshubu/status/684246056234688514
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG03H2C_T00C16A1CR8000/
http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=148335

◎「少年画報」が電子書籍になるそうだ。
http://news.ameba.jp/20151231-103/

◎教科書問題はさらに続きそうだ。数研出版も中学校長らに謝礼を払っていたという。
http://mainichi.jp/articles/20160104/k00/00m/040/036000c

◎これは必見だ! 東海テレビが制作したドキュメンタリー『ヤクザと憲法
http://realsound.jp/movie/2016/01/post-698.html

◎「新聞はいつまでも『インテリが作ってヤクザが売るもの』でいいのか?」とのタイトルや中身はいいのだが、まあ、私らはどっちかっつーと「ヤクザが作ってインテリが読む」(故・筑紫哲也が生前に『噂の真相』を評して言った言葉)に近い世界で、それでいいんじゃないのと思っているところもあるのですが。
http://blogos.com/article/152549/

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4)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

やらなくて後悔するより、やって後悔するほうが、後悔しなくて済む。