【文徒】2016年(平成28)1月7日(第4巻3号・通巻690号)

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1)【記事】止まらない「紙」の出版不況
2)【本日の一行情報】
3)【人事】世界文化社
4)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】止まらない「紙」の出版不況

出版科学研究所の「出版月報」2015年12月号(12月25日発行)によると、15年1〜11月期の書籍・雑誌の売上高(推定)は、前年同期比5.2%減となった。
「書籍の推定販売額は前年比約1.9%減の7400億円前後となる見通し。累計240万部を超えた『火花』の大ヒットもあり、減少率は前年(4%減)より縮小した。ただ、書籍販売の約3割を占める文庫の不振が消費増税以降続いており、マイナス基調を抜け出せなかった。一方、雑誌の推定販売額は前年比約8.2%減の7800億円前後とみられ、減少率は過去最大となる。
同研究所の担当者は『週刊誌の販売が大きく落ち込むなど高齢層にも“雑誌離れ”の傾向がうかがえる。スマホの普及で情報への接し方や時間の使い方が変わる中、どう読者を取り込むかが引き続き、問われる』と分析する」
http://www.sankei.com/life/news/151229/lif1512290006-n1.html
J-CASTはこう報じている。
「2015年の1年間に国内で出版された書籍と雑誌の売上高が、32年ぶりに1兆6000億円を割り込む可能性が高まっている。市場規模がピークだった1996年の2兆6563億円の6割を下回る水準だ」
http://www.j-cast.com/2015/12/30254568.html
出版科学研究所の出版統計はすべての出版売上を集計しているわけではないが、読書人口が減っている(文化庁の2014年3月実施の「国語に関する世論調査」では1冊も本を読まない人が47.5%)のだから、取次を通さない売上を含めても市場規模がやせ細ってきているのは間違いなく、出版不況は底が見えない状態にあるといえる。それは書籍だけでなく新聞も同様で、2015年10月時点での新聞の総発行部数(一般紙とスポーツ紙の合計)は4424万部と1年前に比べて111万部も減少し、凋落が止まらない。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47271
しかし、これはあくまで「紙」の出版に関してで、電子出版はまた別だ。昨夏にインプレスが発表したデータによれば、2014年度の電子書籍市場規模は1,266億円と推計され、2013年度の936億円から330億円、35.3%増加している。電子書籍と電子雑誌を合わせた電子出版市場は1,411億円になる。
「2015年度以降の日本の電子書籍市場は今後も拡大基調で、2019年度には2014年度の2.3倍の2,890億円程度になる」
と予測している。
http://www.impress.co.jp/newsrelease/2015/06/20150629-02.html
多くの雑誌にとってデジタルシフトが必要なのは、日本の広告費の数字を見てみれば明らかである。昨年2月に発表された電通の「2014年 日本の広告費」を見ると、媒体別では雑誌広告費が2500億円で前年比100.0%と、どうにか前年並みを保ったのに対して、インターネット広告費は初の1兆円超えを記録、1兆519億円で前年比112.1%の伸びを見せている。雑誌はここに着目することが重要だ。
そしてデジタルシフトは、アジアシフトにつながるはずだ。例えば『non・no』がベトナムでファッションショーを成功させているように、日本の女性ファッション誌の持つ潜在力は、台湾を含む東南アジア市場で充分通用する。わが雑誌文化のデジタルシフトをもって、これらの国々に女性ファッション誌ビジネスの橋頭堡を築くことは、雑誌を擁する出版社にとって大きな課題となるはずだ。マンガで試みられたことは、女性ファッション誌でも試みられるべきだということだ。
デジタルシフトをもってアジアシフトへ――これが私たちの掲げる今年のテーマである。
(田辺英彦)

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2)【本日の一行情報】(田辺英彦)

◎アニメ・ゲーム・ライトノベルなどを手がけるオーバーラップが、2016年1月29日よりボーイズラブをテーマにした電子コミック誌「LiQulle(リキューレ)」を創刊する。
http://animeanime.jp/article/2015/12/28/26309.html

◎福島第1原子力発電所廃炉作業を担う現役作業員が描いたルポ漫画として、反響を呼んだ「いちえふ 福島第一原子力発電所労働記」(講談社)が海外で出版されることが決まった。フランス、ドイツ、スペイン、イタリア、台湾の5カ国・地域で今後、順次刊行され、欧州では計約2万部の発行が予定されている。
http://mainichi.jp/articles/20151228/mog/00m/040/050000c

◎単行本80巻発売と「ONE PIECE 無料連載公式アプリ」の100万ダウンロード突破を記念し、『ワンピース』の扉絵連載フルカラースペシャルパックを読むことができるイベントが、公式アプリにてスタートした。
http://animeanime.jp/article/2015/12/29/26324.html

博報堂グループのスティーブンスティーブンは、劇場作品から映像を活用した企業コンサルティングまで制作するアニメーションスタジオ「CRAFTAR(クラフター)」を新設した。
http://www.hakuhodo.co.jp/archives/newsrelease/25118

電子書籍レンタルサイト「Renta!」が、2015年「ジャンル別電子書籍売り上げランキング」を発表した。
■少女マンガのトップ3
1位『ヲタクに恋は難しい』ふじた
2位『毒姫』三原ミツカズ
3位『パーフェクトワールド プチキス』有賀リエ
少年マンガトップ3
1位『魔法使いの嫁ヤマザキコレ
2位『もののべ古書店怪奇譚』紺吉
3位『うちの魔王かみませんよ』おとうさん
■青年マンガトップ3
1位『累』松浦だるま
2位『会社の奴には絶対知られたくない』若竹アビシ
3位『夜の須田課長』クマザワミキコ
http://ddnavi.com/news/277282/a/
http://renta.papy.co.jp/

◎文徒の新年の挨拶で「浅学菲才の身なれば……」と記したが、百田尚樹も『週刊文春』の新連載小説「幻庵」の内容に一部事実誤認があったと浅学非才の身を嘆いている。
http://www.j-cast.com/tv/2015/01/06224613.html
https://twitter.com/hyakutanaoki/status/551694154825084929

電通(マレーシア)がWWF世界自然保護基金)で受賞したポスターにパクリ疑惑が浮上し、ネットで話題となっている。
http://netgeek.biz/archives/63089

JTBは2016年4月1日付で新会社「JTB コミュニケーションデザイン」を創設することを発表した。ワンストップでMICEや広告・宣伝、人材育成といった法人コミュニケーション分野の需要に対応する。
http://www.travelvoice.jp/20160101-58003

◎前日の文徒で青空文庫江戸川乱歩の「二銭銅貨」がアップされたことを伝えたが、そのほかにも谷崎潤一郎春琴抄」など計13作品が公開されている。しかし、今後、青空文庫著作権の保護期間延長問題に直面しなければならない。
「TPP(環太平洋経済連携協定)の大筋合意がなされた結果、多くの本のパブリック・ドメイン化が20年先延ばしになるおそれがあります。著作権の保護期間が延びることは、ごく一部の本の収益が継続される利点がある反面で、そのほか大半の本の死蔵が進んでしまうデメリットもあります」
http://www.aozora.gr.jp/soramoyou/soramoyouindex.html
海外では「アンネの日記」の著作権で論争も起こっている。
http://www.afpbb.com/articles/-/3071943?cx_part=txt_topics

◎フランス・パリでホームレスをしていた男性が書いた本が5万部のベストセラーになり話題だという。
http://news.aol.jp/2016/01/03/homelesswriter/
http://www.odditycentral.com/news/french-homeless-man-becomes-bestselling-author-after-writing-book-on-being-homeless.html

電通の新年仕事始式での石井社長の挨拶。
現代社会を取り巻く変化を端的に示すキーワードは『Digitalization(デジタライゼーション)』だ。企業にとってのデジタル化の要諦とは、さまざまな技術や発想を駆使し、ビジネス自体を価値あるものに進化させることにある」
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2016/0104-008613.html

湊かなえのベストセラー小説「少女」(双葉文庫)の映画化が決定。主演は本田翼と山本美月。今秋、東映系にて公開予定。
http://www.toei.co.jp/release/movie/1206808_979.html

小学館のマンガアプリ「マンガワン」主催の新人賞はトーナメント制で、勝ち抜けば連載作家になれる。賞金制度も導入され、優勝者には原稿料以外に賞金50万円が進呈される。
http://natalie.mu/comic/news/171453

◎日販が年末年始(12月29日〜1月3日)の6日間における1697店の売上げ実績をまとめた。「雑誌」は前年比2.4%減、「書籍」は同3.1%増、「コミック」は同3.6%減、「開発商品」は同9.3%増。総合で0.4%増となった。
http://www.nippan.co.jp/wp-content/uploads/2016/01/2015-16report_20160106.pdf
「開発」は松岡修造の日めくりカレンダーが売上を牽引したようだが、「書籍」も売上1位こそ又吉直樹『火花』だが、日記・日誌が好調だったに過ぎない。文庫は村上春樹色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文藝春秋)が売上を牽引したとはいえ前年比97.3%とマイナスだ。

◎IT出版の翔泳社は1月5日より、AmazonのPOD(プリント・オン・デマンド)による書籍の販売を開始した。
http://www.shoeisha.co.jp/press/detail/291

◎米Digital Book Worldによると、楽天グループの図書館向け電子書籍プラットフォーム大手OverDrive社が2015年の実績報告を発表した。提携する公共図書館などでの電子書籍(オーディオブック含む)の貸し出し総数は1.69億回で、前年比で+24%の成長という。
https://hon.jp/news/1.0/0/7149
http://www.digitalbookworld.com/2016/libraries-lend-record-numbers-of-ebooks-and-audiobooks-in-2015/

凸版印刷株式会社が運営する電子チラシサービス「Shufoo!(シュフー)」は、「電子チラシ」を配信する仕組みを活用して、訪日前および訪日中の外国人に対して流通企業のチラシをはじめとする買い物情報を届けるサービスを開発。2016年3月から情報提供を開始する。
http://www.toppan.co.jp/news/2016/01/20160106.html

◎カカクコムが運営するグルメサイト「食べログ」が、月額制のユーザー向け有料サービスの加入者数が130万人を突破したと発表した。
http://corporate.kakaku.com/press/release/20160104
http://tabelog.com/

Twitterは 最大1万文字まで書けるオプションを付け、最初の140文字だけをタイムラインに表示させる機能を検討しているという。
http://blogos.com/article/153367/
http://jp.techcrunch.com/2016/01/06/20160105information-density/

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3)【人事】世界文化社

小林公成専務取締役は昨年12月31日付をもって退任し、退職した。

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4)【深夜の誌人語録】(田辺英彦)

酔っているからといって、思わず漏らした言葉が本音であると考えるのは早計だ。酔った姿そのものが、巧妙な計算づくでないとも限らない。