【文徒】2016年(平成28)6月29日(第4巻120号・通巻807号)

Index--------------------------------------------------------
1)【記事】映画「ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ」が公開される
2)【記事】女性誌の直面する危機を乗り越えるために
3)【記事】アマゾンの電子書籍読み放題サービス
4)【本日の一行情報】
5)【深夜の誌人語録】

                                                                            • 2016.6.29.Shuppanjin

1)【記事】映画「ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ」が公開される

編集者マックスウェル・パーキンズと天才と称された作家トーマス・ウルフの友情を描く映画「ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ」が今秋公開されることになった。
http://eiga.com/news/20160626/12/
トーマス・ウルフの作品は日本で殆んど紹介されていない。新潮文庫から「天使よ故郷を見よ」が、荒地出版社が「汝再び故郷に帰れず」を出していたくらいだ。
新潮文庫が「天使よ故郷を見よ」を刊行したのは1955年のことであり、今は絶版。アン・ルイスに同名の楽曲があるが、作詞家の川村真澄は、何らかの影響を受けているのかもしれない。
「汝再び故郷に帰れず」の刊行は1968年のこと。私はこれを持っている。村上春樹が翻訳する前のフィッツジェラルドの「夜はやさし」も荒地出版社から刊行されていた。昔は、こういう渋い出版社があったのだ。
荒地出版社早川書房を退職した詩人の伊藤尚志が1952年に設立した出版社であり、鮎川信夫がブレーンであった。当然、社名は詩の同人誌「荒地」に由来する。その後、新人物往来社の系列となり、中経出版に吸収され、その中経出版KADOKAWAに吸収され、今やその痕跡は跡形もなくなってしまっている。
飯嶋和一の「汝ふたたび故郷へ帰れず」(小学館文庫)に収録されている同名の小説は文藝賞受賞作だが、選考委員であった江藤淳一がトーマス・ウルフの「汝再び故郷に帰れず」を知らなかったはずあるまい。
https://www.shogakukan.co.jp/books/09403312
さて、トーマス・ウルフを発見した編集者マックスウェル・パーキンズについては、「天才の発見―名編集者マックスウェル・パーキンズとその作家たち」に詳しい。実は、これも荒地出版社から刊行された一冊である。私は、これは残念ながら持っていない。
そうそうボイジャー電子書籍アメリカン・エディターズ―アメリカの編集者たちが語る出版界の話」のなかで秦隆司はマックスウェル・パーキンズの名前をヘミングウェイの絡みでチラリと出している。こんな具合に。
「『ヘミングウェイは一度、スクリブナーの編集者だったマックスウェル・パーキンズのオフィスで、評論家のマックス・イーストマンとレスリングのマッチをしたことがあります。イーストマンが、ヘミングウェイの男らしさについて批判的な記事を書いたことが原因でした』
僕は、パーキンスのオフィスで必死に戦うヘミングウェイを想像して笑ってしまった」
https://www.amazon.co.jp/s/?field-keywords=9784862390974

                                                                                                                        • -

2)【記事】女性誌の直面する危機を乗り越えるために

光文社の女性ファッション誌「CLASSY.」の今泉祐二編集長が「WWD」で同誌の読者について次のように語っている。
「一応、結婚するためのハウツー的な読み物や、モテ企画はファッションやビューティでも入れたりしていますが、28歳以上は全ての女性がターゲットというスタンスです。実際に、『母親が読んでいるので知っている』という新入社員がいたりして、40代後半から50代女性の読者もいます。結婚している女性が3割くらいを占めていますし、『ヴェリィ』と併読している人もいるので、読者には子どもがいる人も少なくないです」
ウェブサイトについては?という問いには、次のように答えている。
「現状は何もできていないです(苦笑)が、9月にリニューアル予定です。アーカイブを生かしつつ、独立したコンテンツも作っていきます。紙でできないことをやらなければ意味がないですよね。例えば、ヘアやメイクなどは動画で見せていくのがいいのではないかと考えています。巻き髪のリバースとフォワードなどは動画で見せると理解されやすいでしょう。他にも、誌面で紹介しきれなかった情報なども盛り込めたらと。新しくて面白いことができそうなので、紙を誰かに任せて、自分が専任でやりたいくらいです(笑)」
ここいら辺りの考え方が私とは決定的に違う。「CLASSY.」のように売れている雑誌だから、これで良いのかもしれないが、現在、紙の媒体として危機に瀕している女性誌がこうした考え方にとどまるのであれば、その雑誌は早晩滅びるのではあるまいか。
私からすれば、雑誌のデジタルシフトにおいて「紙でできないこと」をやるのは当然にしても、紙でやっていることも総てデジタルでやるのである。もし、デジタルでできないことが生じたら、それは紙でやればよい。
雑誌の、特に女性誌が直面する危機を乗り越えるに際して、私の基本的な考え方は、紙が「従」であり、デジタルが「主」なのである。従来の紙が「主」であり、デジタルが「従」であるという考え方を時代情況に寄り添うために転倒させてしまうのである。課題はデジタルファーストによってオーディエンスファーストをいかに実現するかなのである。
もし、雑誌が月刊であれば、これを隔月刊や季刊に移行すると同時に大胆なデジタルシフトに打って出るべきなのである。そうしない限り、読者の高齢化にも歯止めをかけられないはずである。
https://www.wwdjapan.com/focus/interview/editor-in-chief/2016-06-27/16099

                                                                                                                        • -

3)【記事】アマゾンの電子書籍読み放題サービス

アマゾンが電子書籍の読み放題サービス「Kindle Unlimited」を日本でも導入する方向にあるらしい。業界紙「文化通信」が抜き、朝日新聞も後を追った。
「通販大手のアマゾンジャパンが、電子書籍を定額で読み放題とする米国でのサービスを日本でも始めることがわかった。アマゾンで電子書籍を提供している複数の出版社が、サービスに同意したことを認めた」(朝日新聞)
http://www.asahi.com/articles/ASJ6W63MBJ6WUCVL025.html
マンガが中心だとすれば、アマゾンの読み放題サービスが定着するとは私には思えない。版元にしてもプロモーションの一環として位置付けることだろう。
「読み放題サービスでは、出版社側が選んだ電子書籍や雑誌、コミックスなどのコンテンツを読むことができる。例えば、漫画はシリーズの第一巻のみ、文芸書は刊行から時間が経過した本など、限定された形で提供される見通し」(東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201606/CK2016062802000278.html
「こうしたサービスの広がりで、音楽業界ではアーティストやレーベルなどの収益が大幅に減ったとの指摘がある。
電子書籍の定額読み放題サービスの開始で、音楽業界と同じように、出版社や作家などの収益機会が減るのではないかというのだ」(J-CASTニュース)
http://www.j-cast.com/2016/06/27270831.html
アマゾンの立場からすれば、マンガに加え、ラノベのラインナップを充実させたいことだろう。KADOKAWAあたりがどう出て来るか、その動向が私には気になる。

                                                                                                                        • -

4)【本日の一行情報】

◎「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の「週刊少年ジャンプ」(集英社)での連載40周年を記念して、秋本治による描き下ろしの7メートル超に及ぶ絵巻物が、今秋に神田明神に神宝として永年奉納されることになった。この絵巻物は、9月14日〜26日に日本橋タカシマヤで開催される「こち亀展」でも展示されるそうだ。
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1606/27/news077.html

◎こういうDJがいたんだなあ。仲地昌京、80歳。仲地は沖縄戦の経験者である。
「最終回を迎えたのはRBCiラジオの懐メロ番組『こんばんは!仲地昌京です』(午後7時〜10時)。1人でレコードや機械を設定するワンマンスタイルを貫き、最終回もレコードを入れ替え、表面を吹き、リクエスト曲を口ずさみながら放送を進めた。最後は後輩アナウンサーたちが拍手で見送り、涙を拭った」(沖縄タイムス)
https://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=175286

自民党18歳選挙権を意識して若者向けに6万部作成したパンフレットに掲載したマンガが「女子をバカにしている」と炎上しているそうだ。
http://www.sankei.com/premium/news/160627/prm1606270003-n1.html

◎ニューヨークのストリートでファッション写真を撮り続けて来たビル・カニンガムが亡くなった。
https://www.buzzfeed.com/davidmack/bill-cunningham-dies-1?utm_term=.rnQWwvBWOM#.rxyypVmyE1
女性誌にかかわる編集者にとって「ビル・カニンガム&ニューヨーク」は必見の映画だ。「VOGUE」編集長のアナ・ウィンターが良いんだよ。「わたしたちはビルのためにおしゃれをするの」ってね。
https://www.youtube.com/watch?v=sIw-WFX9BDk

◎扶桑社は雑誌「ESSE」編集者、「Numero TOKYO」スタッフを募集している。
http://www.fusosha.co.jp/news/info/info_article/184

博報堂の子会社である合同会社Spontena は、LINE公式アカウント上における会話AIの提供をクライアント向けに開始した。
http://www.hakuhodo.co.jp/uploads/2016/06/20160627-3.pdf
新聞記事のbot化もあっという間に進むかもしれない。発表ものやスポーツの試合経過の記事はAIに任せれば良いはずだ。
ヤマト運輸は6月27日より「ヤマト運輸」LINE公式アカウントで会話AIを用いた荷物問い合わせ機能を追加した。
https://ecnomikata.com/ecnews/9751/

◎「コミック百合姫」(一迅社)で連載中の「ゆるゆり」が公式Twitterアカウントを開設した。その記念すべき最初のツイートは意味不明のものであった。
「\アッカリ〜ン/ \アッカリ〜ン/ \アッカリ〜ン/ \アッカリ〜ンハアッカリ〜ン/ \アッカリ〜ン/ \アッカリ〜ン/ \アッカリ〜ン/\アッカリ〜ン/\アッカリ〜ン/\アッカリ〜ン/\アッカリ〜ン/\アッカリ〜ン/\アッカリ〜ン/\アッカリ〜ン/\アッカリ〜ン/\アッカリ〜ン」
https://twitter.com/yryr_yhc/status/746392901769256960?ref_src=twsrc%5Etfw
意味不明のため、逆にそれゆえに話題にもなったのだが、やがて次のようなツイートが掲げられた。
「【お詫び1/2】本日開始しました「ゆるゆり」公式@コミック百合姫のアカウントにて、不適切な発言と対応がございました。なもり先生および関係者の皆様、そして何より『ゆるゆり』を愛して応援して下さっているファンの皆様を不快にし、また悲しい気持ちにさせてしまい申し訳ございませんでした」
https://twitter.com/yryr_yhc/status/746569391647535104
「【お詫び2/2】今後は原作公式としての自覚と確かなリテラシーのもとに、皆様からの信頼を回復し、安心してフォロー頂けるアカウントを目指して参ります。ファンの皆様と同じ方向を向いて歩む公式にすべく精進致します。至らぬ点もあるかと思いますが、その際はご指摘頂けますと有り難く思います」
https://twitter.com/yryr_yhc/status/746569513873747968
中村成太郎編集長も「お詫び」のツイートを投稿。
「【お詫び】この度の『ゆるゆり』公式@コミック百合姫twitterにおける不適切な発言と対応は、全て編集長である私の責任です。今後は新たな担当者とともに、健全な運営を心がけてまいります。なもり先生および関係各位、そしてファンの皆様方、誠に申し訳ございませんでした」
https://twitter.com/r_yurihime/status/746573072161878016
作者のなもりもツイッターでお詫び。
「私からもお詫び致します。皆様にご心配おかけしまして本当に申し訳ありませんでした…」
https://twitter.com/_namori_/status/746570511195344897
確かに意味不明のツイートではあるけれど、こうまで「お詫び」をする必要が何故あるのか、私にはまったく理解できない。

集英社の「LEE」7月号が「『憲法』『育児・待機児童』問題 もしあなたが投票に行かなかったら……再び」という11ページの特集を組んでいることを「LITERA」が紹介している。
http://lite-ra.com/2016/06/post-2366.html
集英社女性誌は昔からリベラルなんだよね。

三栄書房自動車雑誌モーターヘッド」がアパレルブランド「KILL SWITCH/キルスウィッチ」を立ち上げ、第一弾としてオリジナルTシャツをリリースしたそうだ。
http://clicccar.com/2016/06/27/379794/

電通は、顧客企業が利用するサイト解析ツールに対して、外部調査モニターの属性データをリアルタイムに連係することができる新サービス「Agile Audience Analytics」(アジャイル・オーディエンス・アナリティクス)を開発し、電通マクロミルインサイトと共同で提供を開始した。
http://www.dentsu.co.jp/news/release/pdf-cms/2016080-0627.pdf

◎小説投稿サイト「エブリスタ」に投稿された小説「シャーベット・ゲーム オレンジ色の研究」「花屋の倅と寺息子」「ーーねぇ、柴田。」「おいしいは正義」「零の記憶」の5作品は、三交社が9月9日に創刊するライト文芸の新レーベル「SKYHIGH(スカイハイ)文庫」より、一挙に書籍化されることが決定した。
http://everystar.jp/news/1012/
小説投稿サイトは文芸出版の勢力図を塗り替えてしまうのかもしれない。その荒波を最もかぶりそうなのは新潮社か…。

◎女性向けキュレーションサービス「MERY」の月間ユニークブラウザ数は2000万を突破している。20〜30代の女性ユーザーが約7割、スマホからのアクセスが9割で、昨年7月にリリースしたアプリのDL数は500万。3月末に発売した紙の雑誌は5万部を発行し、ほぼ完売だという。「ITmediaニュース」は次のように書いている。
「誌面を作る上で強く意識したのは、MERYの“世界観”を伝えることだった。プラットフォームとしてのMERYは、あえてテイストを定めず、女の子らしいものからカジュアル路線、オフィスワーカー向けまで多様な趣味嗜好の読者に向けたコンテンツを提供することを心がけている。雑誌では逆に、想定読者層を狭め、これまで配信してきたコンテンツの中でも特に反響の大きい“ガーリーでスウィート”な雰囲気を全面に押し出した」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1606/28/news053.html
こと実用記事において「紙」の優位性は、「デジタル」に次々に奪われていくはずである。「MERY」にとって紙の雑誌は「雑貨」だそうである。

                                                                                                                        • -

5)【深夜の誌人語録】

甘えは妥協を生み、妥協は癒着を生む。