【文徒】2016年(平成28)7月19日(第4巻133号・通巻820号)

ひとり出版社を立ち上げました。第一弾は「知られざる出版『裏面』史 元木昌彦インタヴューズ」です。刊行にあたりクラウドファンディングを立ち上げ、広くパトロンになってくれる方々を募集しています。何とぞ宜しくお願い申し上げます。
https://camp-fire.jp/projects/view/9683


Index--------------------------------------------------------
1)【記事】日販が発売から一定期間後の雑誌の割引販売を8〜9月に時限的に実施
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】日販が発売から一定期間後の雑誌の割引販売を8〜9月に時限的に実施(岩本太郎)

日本出版販売(日販)が8月1日から9月30日まで「雑誌夏トクキャンペーン」と題し、発売後一定期間経過した月刊誌を割引販売できる取り組みを8月1日から9月30日まで時限的に手掛けると発表した。対象となるのは出版社34社と日本雑誌協会の協力による雑誌80誌(136点)で、発売して半月から1カ月が経過した雑誌については、全国350書店が独自に値段を設定する。
http://www.nippan.co.jp/news/zasshi_natsutoku_2016/
承知の通り日販は今年4〜7月に時限再販による雑誌8誌の値引き販売を全国700書店で実施しており、今回は対象雑誌の数を大幅に増やした格好だ。例えば集英社は『セブンティーン』『ノンノ』など全ての女性向けファッション誌を含む22点を対象としているという。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ15HR0_V10C16A7TI5000/
再販制度に基づく出版物、特に雑誌の価格硬直性が、いよいよ崩れ始めてきたということだろうか。実際にここ数年は、いくつかの出版社や書店とが共同で実験的に時限再販を実施するケースが増えており、そこから上がってきたデータに手ごたえを感じている関係者も少なくないようだ。従来は時限再販を実施した場合の一番の懸念として「安くなるまで読者が買い控えるのではないか」というものが売る立場の側からはあったようだが、状況はもはやそんなことをいっていられる段階ではないだろう。
そもそも毎号特定の雑誌を書店で買い求めるような読者は、少し待って値段が安くなるうちに立ち読みされて傷んだようなものよりも発売直後のまさに新品状態で買うだろう。それよりも普段は雑誌を「ネットはタダなのに雑誌は何百円も取られる」といった理由で全く買わない読者をいかに惹きつけるかが今は課題だからだ。
例えば私たちが『出版人・広告人』の今年1月号に掲載した出版各社社長へのインタビュー特集の中でも、小学館社長の相賀昌宏が時限再販について次のような見解を述べていた。
≪書店側でも紀伊國屋書店の高井(昌史社長)さんも松原(治・前社長)さんのお考えを引き継いで「時限再販にしては?」とよくおっしゃっていますし、これからも実験を繰り返していく中で、デメリットをどの程度まで抑えられるかを見極められれば「イケる」のではないか、と。少なくともコンビニで、雑誌でということでしたら成立しうるかもしれません。雑誌の場合はもともと定価が毎号ある程度変動しますし、こちらでコントロールできるぶん、書籍のように「一度値引いたらなし崩しになるのでは?」との懸念も相対的に低いと言えます≫
無論、ここから「ではトーハンセブンイレブンは?」といった次の展開がどうなるのかが気になってくるわけだが、課題となるのは果たして書店の側に、夕飯に使う野菜をいくつか店を回って値段を比べたり手に取って品定めするお客さんに対応できるような商売がどこまでできるかということだろう。
翌16日付の『東洋経済オンライン』に掲載された「書店『存亡の危機』、また本屋が消えていく 出版不況で生き残る条件とは何か」と題された記事では、ある書店幹部の「今は出版不況と言う人がいるが、雑誌不況と言ったほうが的を射ている」との匿名コメントを前振りにしつつ、なおも中堅中小の書店ほど雑誌比率が高く、経営を圧迫している実態について言及している。
http://toyokeizai.net/articles/-/127461
同記事では時限再販の問題については言及していないが、雑誌不況に喘ぎつつも現場で奮闘している書店の事例を挙げている。たとえば名古屋市など中部地方に展開している三洋堂ホールディングスではこんな具合だ。
≪同社では文具・雑貨のセレクトショップ「style F」を売り場に導入。雑誌・書籍以外にも、文具や雑貨、玩具、古本など、多様な商材を扱うブックバラエティストアを展開中だ。ほかにも、シニア向けPC教室や児童向け英会話教室といったカルチャーセンターを運営し、本業に次ぐ柱の育成に余念がない≫
雑誌の定期購読ビジネスを手掛ける富士山マガジンサービス社長の西野伸一郎のコメントも含めた以下の部分にも、多くの書店は学んでおくべきだろう。
≪「書店で雑誌を3号連続で買った人が1年後にどうなったかを調べたら、約1割しか継続していない。定期購読を自動更新にすれば、やめる人は少なくなる。実際に7割以上の人が継続している」≫
≪定期購読の解約を抑えるため読者が喜びそうな仕組みも用意。育児中の母親が対象の雑誌なら、動物の絵柄がついた弁当容器を開発、購読継続を呼びかける。美術系雑誌なら、人気イラストレーターの絵柄が入ったトートバッグをプレゼント、という具合だ≫
≪こうした販促が可能なのは購読者の趣味嗜好を把握できているから。何をすれば響くか、わかっている顧客であれば、販促策を立てやすい。要はビッグデータの活用だ。雑誌の定期購読者は、ファッションやスポーツ、旅行、自動車などの趣味を持つ消費者でもある。効果的なターゲティング広告も出せる≫
こうした顧客と最前線で接している売り場での試みなどが、長期的に雑誌の価格弾力化の潮流が始まっていくとして、今後どのように結びついていくのかと想像もしたくなるところだ。

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎アマゾンジャパンが8月に始める電子書籍の定額読み放題サービスに「講談社小学館など出版大手が自社作品を提供する」と日経新聞が報道。他の大手では「KADOKAWAも検討中」だが「集英社は参加を見送る」のだという。
http://www.nikkei.com/article/DGKKZO04872310U6A710C1TI5000/

◎ブロガーのChikirinが『BLOGOS』で、dマガジンでの『週刊文春』からは紙版でのどの記事が掲載されていないかを同じ号(7月14日号)をもとに比較。紙版でのコラムやエッセイ、小説の連載がdマガジンでは掲載されていなかったのは阿川佐和子池上彰小林信彦伊集院静池澤夏樹福岡伸一平松洋子山藤章二百田尚樹。 掲載されていたのは林真理子、鷲田康、辻野晃一郎、飯島勲宮藤官九郎近田春夫みうらじゅん町山智浩、土田賢二、尾木直樹辛酸なめ子 宮崎哲弥川村元気。また、「文春図書館」は掲載されていたが、同号の坪内祐三による『山之口獏詩集』(高良勉編)の書評だけは何故か載っていないなど、かなり違いがあったと報告している。
http://blogos.com/outline/183699/

◎味噌メーカー大手のマルコメによる、丸刈りの男の子「マルコメ君」をキャラクターに起用のうえ長年続けられてきたテレビCMがいつの間にか消えていた。同社の広報は「みその消費量が年々減り、もはやCMで社名を連呼するような時代ではなくなった」と説明。
http://www.asahi.com/articles/ASJ7H4G9QJ7HULFA00W.html

都知事選に立候補した上杉隆について、元総務大臣原口一博が「私は上杉さんを本当のジャーナリストだと思っています」とツイートしたものの、「そう思われるのであれば、鳥越さんに明確に反対すべきではなかったのですか。離党覚悟で」などの反響が寄せられるや削除したと『ガジェット通信』が報道。それはいいけど、こういう時に記事のタイトルで「民主党原口一博」などと誤記をやらかさないよう気を付けたほうがなおいい。
http://getnews.jp/archives/1491620

◎人気マンガ『ゆるゆり』などが連載中の隔月刊マンガ誌『コミック百合姫』(一迅社)が11月18日発売の2017年1月号から月刊化される。同時に新連載も10本スタートさせるとのこと。
http://mantan-web.jp/2016/07/16/20160715dog00m200046000c.html?utm_medium=twitter&utm_source=twitterfeed

◎都内の新橋駅や六本木駅で配布されるフリーペーパー『TERETSU(てれ通)』の7月15日発行第4号の特集は「テレビの漫画」。表紙を桂正和、裏表紙を宮下あきらが描き下ろしているほか、特集では大橋裕之江口寿史石原まこちん谷川史子しりあがり寿梅澤春人がテレビに関する思い出などをマンガで綴っている。同誌の発行元はテレビ東京。フリーペーパーも在京キー局が発行するものとなると、ここまで豪華な面子が揃う。
http://natalie.mu/comic/news/194702

鎌倉市で出版やミュージアムグッズの企画・製作・販売などを行っている「銀の鈴社」が、病児保育施設の子どもたちに児童書を届けるためのプロジェクトをクラウドファンディングを活用しつつ開始した。
http://shonan.keizai.biz/headline/2322/

◎オーストラリアのスキー場に掲出されたトヨタ・クルーガーの広告が炎上。「雪が大好きな家族を育む、最高の場所」というキャッチフレーズと共に “子供=初心者コース” 、“お母さん=中級者コース”、“お父さん=上級者コース” との情報が掲載されていたのに対し、夫と死別した後に4人の子供を1人で育てている母親が怒ってインスタグラムに投稿したのがきっかけとなり、「男女差別も甚だしい」「恥ずかしい広告だ」との声がトヨタ・オーストラリアに殺到したという。
http://rocketnews24.com/2016/07/15/773427/
私事ながら、私(岩本)も父親を早くに死別で失った4人兄弟の長男で、似たような内容のCMを子供のころに夕飯時のテレビで見て少々辛い思いをしたことはよくあった。母は怒らなかったが。

◎『ガーディアン・ニュース・アンド・メディア』編集長のキャサリン・ヴァイナーは、同誌をはじめとするパブリッシャーが規模を拡大するのをGoogleFacebookが助けたことは認める一方、未知のアルゴリズムによって自分たちが支配されている現状の行く先には悲観的な見通しを示している。「DIGIDAY」が彼女の講演をまとめているのだ。
≪人々が何を読むのか、またパブリッシャーがどうやったら利益を出せるのかという点において、ソーシャルメディア企業は圧倒的な影響力をもつようになった。Webの出現によって配信先が世界に広がったというパブリッシャーの挑戦はいつのまにか、いかに人々が留まり・費やす時間を最大化するかに腐心するプラットフォームへの対抗策に取って代わってしまった。広告主やプラットフォームにとっては、これは良いことかもしれないが、ニュース業界にとっては深刻な懸念となっている≫
≪私たちは途方に暮れている。その理由のひとつは、シリコンバレーのビジョンやルールをまるっきり受け入れてしまったからだ≫
記事は次のように結ばれている。
≪ただし、ジャーナリストが常に正しいわけではない。デジタルに関係なく人間である以上、さまざまな理由で失敗を犯す。しかし、デジタル時代においては、ウソやウワサも、事実と同じくらい広く読まれてしまうのは確かだ。しかも、多くの場合はウソやウワサの方が事実よりも過激で、人々の興味をそそるものであり、結果としてよりたくさんシェアされてしまうことがある。そんな側面をヴァイナー氏は嘆いた。『世界中にウソが飛び回ってしまう可能性が常にあることの責任は、誰がとるのか?』と、同氏は語った ≫
http://digiday.jp/publishers/guardians-katharine-viner-social-media-companies-have-become-overwhelmingly-powerful/

スティーブン・ソダーバーグが「パナマ文書」事件の映画化を企画しているという。原作はピュリッツァー賞受賞ジャーナリストで国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)メンバーの一人であるジェイク・バーンスタインの近刊『Secrecy World(原題)』だとのこと。
http://eiga.com/news/20160714/21/

◎共に101歳のジャーナリストである笹本恒子(報道写真家)とむのたけじ(新聞記者)の2人の生き様に迫ったドキュメンタリー映画『笑う101歳×2 笹本恒子 むのたけじ』が来春に公開される。
http://news.ameba.jp/20160717-105/

◎地上波デジタル化によって空いた旧アナログテレビ放送の帯域を活用した無料デジタル放送プラットフォームの「i-dio(アイディオ)」上で、日本で初めてとなるドライバー向け専門放送局を運営するアマネク・テレマティクスデザインが7月15日より「Amanekチャンネル」の本放送をスタートさせた。
http://motorcars.jp/japans-first-car-of-digital-radio-amanek-channel-july-15-began-broadcasting-in-japan20160717

◎日本交通の子会社JapanTaxiとフリークアウトがタクシーへの動画広告配信を行う合弁会社「IRIS」を設立した。
http://www.zaikei.co.jp/article/20160716/317271.html

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3)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

「ここらが限界だ」と思う先にこそ、実は新たな可能性が眠っている。