【文徒】2016年(平成28)7月26日(第4巻138号・通巻825号)

ひとり出版社を立ち上げました。第一弾は「知られざる出版『裏面』史 元木昌彦インタヴューズ」です。刊行にあたりクラウドファンディングを立ち上げ、広くパトロンになってくれる方々を募集しています。何とぞ宜しくお願い申し上げます。
https://camp-fire.jp/projects/view/9683


Index--------------------------------------------------------
1)【記事】読売新聞「子宮頸がんワクチン訴訟」記事を、「被害者の親」がブログで批判(岩本太郎)
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】読売新聞「子宮頸がんワクチン訴訟」記事を、「被害者の親」がブログで批判(岩本太郎)

読売新聞7月13日付朝刊記事「子宮頸がんワクチン被害64人、27日提訴へ」について、あるブログが話題になっている。ブログ主は同ワクチン被害を受けた娘を抱える個人の女性。電話で記事への問合せをした際に読売新聞から受けた対応を告発している。そのブログ主「キャロリン」が問題にした13日付の記事を見てみよう。
今月27日、子宮頸がんワクチン接種後に体の痛みや運動障害など重い症状が出た15〜22歳の女性64人が、国と製薬企業2社に損害賠償を求める集団訴訟を東京など4地裁で起こした。原告側弁護団の主張は以下。
≪接種後の副作用の報告(10万回当たり約30件)が他のワクチンより多く、ワクチンに含まれる成分が体内で免疫異常などを引き起こしたことが原因だと主張。子宮頸がんの原因となるウイルス感染の5割程度しか防げないなど効果は低く、「ワクチン接種の危険性を上回る有効性はない」とする。
海外でも副作用の報告があったのに、国は2009〜11年に2種類のワクチンの製造販売を承認し、10年以降は、補助事業や定期接種で被害を拡大した責任があるとしている。危険性の高いワクチンを販売した製薬企業の責任も問う方針≫
続いて厚生労働省側の意見。
厚生労働省によると、同ワクチンの接種者は約339万人。このうち2945人について、今年4月末までに頭痛や筋力低下、記憶障害などの副作用の報告があった。同省は、症状の原因はワクチンの成分ではなく接種時の強い痛みや不安をきっかけに体が反応したものという見解。ワクチン導入で、子宮頸がんの死者数が5600〜3600人減るとの推計を出し、効果は十分としている≫
http://www.yomiuri.co.jp/national/20160712-OYT1T50121.html
(※記事後半は読売プレミアム要登録)
これに前記「キャロリン」は、ブログ『子宮頸がんワクチン副反応から祈り〜あなたの未来が輝くように』の7月21日付エントリ「故意?読売新聞と世界中の大人たちへ」にこう書いた。
≪どうして、販売後10年しか経っていないのに、この数字が弾き出せるのか?
しかも、心理トリックを勘案した数字を大きい数字を頭に出して来ている。
子宮頸がんで亡くなる人は、50、60、70、80代の人が殆どなのに、どうやって推計を出せたのだろう。
厚労省のどこの発表なのか?
だいたい、引用したら、カッコで引用先がつくのが普通だと思うのですが?
厚労省は、ワクチンの成分ではない、接種時の痛みと言っているというが、では、なぜ、今、研究班を立ち上げて研究したり、疫学調査などを行っているのか?
治療法も確立されていないし、診療して治療してくれる病院もないのが現実なのだ。
既に、娘も最初に接種して5年になる。
2900人以上の子どもたちが、もう5年近くも苦しんで、青春も棒に振って過ごしている。
何で、薬だけは製造物に責任を取らなくて良いのか?
これだけの少女が、苦しんだ挙句、一生懸命お願いして、助けてと言っているのに、グラクソスミスクライン社もメルク社も、一度たりとも、電話もなければ、見にも来ない。
お見舞いじゃなくても良いのです。自分たちの作ったワクチンでどのような不具合が出ているのか、見に来て欲しい≫
http://ameblo.jp/carolyn-kidman/entry-12182654980.html
さらに「キャロリン」は、上記の問合せを電話で行った際の読売新聞側の次のような対応を紹介している。何でも「お客様窓口」の担当者の答えは「厚労省に聞いてください」だったとか。
≪最初に書こうと思ったのは、このグラクソスミスクライン社やメルク社と同様の受け答えを読売新聞にされたので、ビックリしたのです。
「この出典を教えてください。」
と読売新聞のお客様窓口に聞いたら、厚労省からなので、厚労省にお聞きください。と言う。
厚労省の何局の誰の発表ですか?
この文を書いた記者は?
あなたの名前は?
いづれも答えられないということと。しかも、あなたのような変な人には言えない。とまで言われてしまった。
厚労省に聞いての一点張り。
書いた記事(引用元ママ)の名前も無い。他社は、朝日新聞でも、毎日でも、東京も、書いてあるのに。
こんな対応されたお客様窓口の方は、初めてだったので、ビックリしました≫
無論、匿名ブログでもあり、ここに書かれている読売とのやりとりの内容がどこまで正確かは確かめようもない(ワクチン被害者の親だという立場などから匿名にせざるをえないという事情もあるのかもしれないが)。また、読売側の「厚労省に聞いてください」という回答も、確かに「厚生労働省によると」と前置きしつつ厚労省の見解をそのまま書いたのだから正直にそう答えたまでだ、ということかもしれない。国と製薬企業2社に損害賠償を求める集団訴訟が起こされたという事実を、原告側と被告側の双方の主張を両論併記しつつ簡潔に第一報として報じたという点では、前記の読売の記事は特に過不足なくまとまっているようにも見える。
とはいえ子宮頸がんワクチン被害にあった娘を抱えるという、この「キャロリン」という筆者に対する読売側の対応に全く落ち度がなかったのかどうかも、この記事以外に裏を取って確認する術も今のところないだけに何とももどかしい。「あなたのような変な人には言えない」という発言も、本当にその通りだとしたら「お客様窓口」の担当者の発言としていかがなものかとは思うが。
ただ、悩ましいのはこうした外部から日々寄せられる声に対して企業側の窓口となった担当者がきちんと対応しなかったことから後々その企業側の傷口を広げる結果を招いたという事例が、この国ではこれまで繰り返されてきたからだ(1999年の「東芝クレーマー事件」や、さらに遡れば1989年の朝日新聞を舞台にした「サンゴ記事捏造事件」でも、そうした初動対応の不味さが後々まで指摘されてきた)。
子宮頸がんワクチン被害の問題は深層において非常に複雑なものがありそうだが、だからこそ、それを伝えるメディア側と、関係者を含めた社会の側との密なコミュニケーションを通じたうえでの報道が待たれるところでもある。その意味では今回の読売新聞と「キャロリン」とのやり取りが、後から「あの時にきちんと互いにコミュニケーションを図っておけばよかった」などと顧みられるような結果にならなければいいが、という一抹の懸念も現段階では覚えるところだ。

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎「ポケモンGO」の日本での配信が始まった翌日の朝刊1面トップは、朝日新聞が「ポケモンGO興奮上陸」だったのに対して東京新聞が「辺野古再提訴 ヘリパット着工 翁長氏『強硬政府に抗議』」。これについてノンフィクション作家で元ニッポン放送記者の高瀬毅が「新聞と娯楽雑誌ぐらいの違いがある見出し」とツイート。
https://twitter.com/seitakajin/status/756809403853004801
『出版人・広告人』で連載中の頭脳警察PANTAも、7月22日夜のTBSラジオ荻上チキ・Session-22」で荻上安田浩一が沖縄・高江でのヘリパッド工事再開で機動隊が反対派住民らを強制排除した件に触れたトークを聴きながら以下のように述べている。
≪こんなことならポケモンを工事現場に放てば、工事が出来なくなるほど無関心な雑民を集められるのに…と呟いてみたくなる≫
https://www.facebook.com/panta.zk/posts/852183161581356?pnref=story
http://www.tbsradio.jp/57253
ポケモンGOと高江の問題とを結びつけるのは不謹慎だとかいったつまらない声もまた飛んできそうだが、むしろ今こそこの両者を結びつけて展開していけるセンスこそが、実は運動の側にもメディアの側にも必要なのではないだろうか?

広島テレビの制作で7月16日から順次全国での公開が始まった映画『碑(いしぶみ)』は、原爆で亡くなった旧制広島第二中学校1年生の遺族から寄せられた手記を女優の杉村春子が一人で朗読するという、1969年に同局で製作されたドキュメンタリー番組のリメイク。今回再編集を手掛けた映画監督の是枝裕和は、この作品についての『東洋経済ONLINE』のインタビューの中で、
「(今の)テレビは『視聴者の想像力』を信用していない」として、本作が完成するまでの舞台裏を次のように述べている。
≪スタジオでの朗読だけで構成された番組は、視聴者の想像力への信頼を前提に作られていて「すばらしいな」と。番組制作を引き受けたとき、今のテレビでこうしたものを作るのはかなりチャレンジだなと思いました。
今のテレビの多くの番組は、視聴者の想像力を信用していない作りになっているからね。「全部を説明しないと、視聴者は頭の中で想像できない」と思っているわけですよ。僕がテレビ番組の制作にかかわるようになった1990年前後からその傾向はあったけれど、インタビューの内容をすべてテロップ(字幕)で映し出して伝えるという、極端な手法を使い始めたのは15年ほど前くらいからでしょうか。
いしぶみ』をテレビ放送する際に、実は、テレビ局側から画面にテロップを出すように指示されたのですが、「出さない」と突っぱねました。テロップを画面に出したら視聴者はまずテロップを読む。それでは朗読で表現している意味がない。『いしぶみ』では、今のテレビが失いつつある「伝えること」について真摯に正面から向き合い、制作に当たりました≫
≪日本が映像教育というものをやってこなかったことに問題があるのではないでしょうか。小学校に通っていた頃、視聴覚教室でNHKの番組を見るだけの時間がありましたが、映像をどう読み解いていくか、といったメディアリテラシーを学んだ覚えはありません。今の学校教育も同じようなものでしょう。だから制作者は「視聴者の想像力への信頼」を失い、視聴者はわかりやすいものに流れる≫
http://toyokeizai.net/articles/-/127969
是枝はBPO放送倫理・番組向上機構)で放送検証倫理委員会の委員長代行も現在務めている。昨年秋に出したNHKクローズアップ現代』の「出家詐欺」報道に関するBPOの意見書が出た際、委員の一人として「私見」をネット上で公表するなど、近年はメディア界の現状や将来に向けての提言も積極的に行っている。
http://blogos.com/article/143429/

東京都知事選に「NHKから国民を守る党」より立候補した元NHK職員・元船橋市議の立花孝志による政見放送がネット民の間で話題になっている。公職選挙法の第150条は、収録された候補者の政見をそのまま放送しなければならないとNHKおよび基幹放送事業者に対して定めているが、これを逆手に取る形で立花が「私の公約はただ一つ。NHKをぶっこわす!」などとぶち上げる政見を堂々とNHKの放送番組中で流すのに成功したというわけだ。
http://togetter.com/li/1002971
https://youtu.be/2CriaY0mf7s
もっとも、立花については確かに以前からNHKの受信料問題についてネット上で盛んに発信している人物として知られてはいたものの、同時のその経歴や言動を疑問視する声も一方ではしっかり上がっている。
http://matome.naver.jp/odai/2145178990742079201
政見放送というと選挙のたびに、とりわけ都知事選では過去に外山恒一内田裕也のそれが巷の話題をさらったものだが、インパクトの点では今回のものは上記2者とも比較にならないようだ。

マイクロソフトの出版部門として公式解説書など技術系書籍を30年近くにわたって発行してきたMicrosoft Pressが閉鎖。理由は「採算性の悪化」らしいが、既に出版事業については2009年以降、他の技術系出版社や大手出版社との契約に切り替えており、今回解雇された出版部門のスタッフの一部もそちらに移籍するのではないかと『ITmedia PCUSER』が伝えている。
http://www.itmedia.co.jp/pcuser/articles/1607/24/news021.html

◎『週刊女性』の人気連載『人間ドキュメント』の題字は、さる7月7日に亡くなった永六輔が手がけたものだ。同誌の8月2日号では題字を永に依頼した当時の次のようなエピソードを紹介している。
≪「多忙を極めているのはわかっていたので難しいかと思ったんですが、受けてくださることに。何種類かの半紙をお渡しすると2日後に連絡があり、6パターンの題字をいただきました。事務所の方の話では、ひと晩で書き上げたそうです」(当時の担当デスク)
 引き受ける際には、ひとつだけ条件を提示したという。
「必ず縦書きで使用すること。日本語は元来縦書きで読むものだから。横にデザインするなら、この仕事は受けません」≫
http://www.jprime.jp/entertainment/person_of_culture/29623

不登校やひきこもりの子供たちに、カメラを使った取材や映像編集を通じて体験を積ませることで将来の進学や就労につなげていくことを目的としたフリースペース「湘南ワークショップスペース」が藤沢市に今秋誕生。地元市民らによる地域情報の発信を長年手掛けてきたNPO法人「湘南市民メディアネットワーク」が運営を担う。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/kanagawa/list/201607/CK2016072202000203.html
こういうところからやがて、次代の新たなるメディアの担い手やジャーナリストが出てきてほしいものだと思う。

◎元俳優の高知東生覚醒剤取締法などの罪で起訴された件を報じたTBSテレビの情報番組『ビビット』の内容に関して、市民団体「依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク」がTBSに抗議文を送付。同番組中、逮捕時の高知がに発したとされる「来てもらってありがとう」との発言した件について、コメンテーターのテリー伊藤が「ありがとうなんて彼にとって軽い言葉だなと思っている。本当に更生したいのだったらこういう言葉は出ない。ありがとうなんてふざけるなっていう感じがします」などとコメントした部分について、同団体のメンバーで一般社団法人ギャンブル依存症問題を考える会」の代表でもある田中紀子がインタビューで次のように反論。
≪私たちの考えは違います。薬物依存症者の多くは「やめたい」「やめたい」と苦しみ続けているのです。高知被告は「これでやっとやめられる」と思い、「ありがとう」と語ったのではないか。更生したい、回復したいと思っていたからこそ、思わず出た言葉なのだと思います≫
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160721-00000001-withnews-ent

◎優れた放送番組に贈られる「ギャラクシー賞」の運営母体であるNPO放送批評懇談会が今年から維持会員(国内の放送局や制作会社、広告会社などが対象。現在約140団体)と正会員(個人が対象。現在約200人)のほかに、準会員(オンライン会員)としての「Gメンバー」という新たなカテゴリーを新設した。
正会員の年会費(15000円)の5分の1の年3000円(半年会員は2000円)を払えば、同会が発行する月刊の放送専門誌『GALAC』(旧『放送批評』。プリント版は定価780円)の電子版が読み放題となるほか、「ギャラクシー賞」の一般市民参加のカテゴリーである「マイベストTV賞」への投票権が託され、さらには同会主催の放送関連イベントやセミナー等への招待・割引参加もあるという。
なお、利用はPCとスマホで可能(ガラケーには非対応)。確かにこうしたスマホを活用して幅広い層への批評活動への参加を呼びかけることが、今後の放送番組の裾野を拡大していくうえでは必須だろう。
https://www.houkon.club/

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3)【深夜の誌人語録】

犬も歩けば棒には当たる。だが何本当たろうが、そこで学びがなければ、いつか「藪から棒」で致命傷を負うことになる。