【文徒】2016年(平成28)8月1日(第4巻142号・通巻829号)

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1)【記事】熊本地震被災地を悩ました情報の「まだら」現象とは?(岩本太郎)
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】熊本地震被災地を悩ました情報の「まだら」現象とは?(岩本太郎)

さる7月30日午後、都内の明治学院大学で開かれた「熊本地震から3か月 震災と住民ディレクター報告会」という集まりに参加した。『メディアクリティーク』の今年5月13日号でも紹介した、熊本・福岡を中心に住民参加型の地域おこし活動に長年取り組む岸本晃((株)プリズム代表)による先の熊本地震の際の活動報告が中心だったのだが、ここで併せて東海大学文学部広報メディア学科教授の水島久光による報告――内容的には「被災地における第一の敵はマスメディア、第二の敵はソーシャルメディアだった」というところだろうか――も聞くことができた。
水島は1984年に慶應義塾大学経済学部卒業後に旭通信社(現ADK)に入社。ダイレクト・マーケティングを担当したほか、デジタルアドバタイジングコンソーシアムの設立を手がけた後に退社しインフォシーク日本法人の設立に参加。その後は東京大学大学院情報学環にて情報学を学ぶなどしたのち、現在は「メディア環境のデジタル化とソーシャル・デザイン」を専門テーマに掲げつつ現職のもと多方面で活躍中の人物だ。
http://media-studies.bm.u-tokai.ac.jp/laboratory/mizushima.html
その水島がなぜ熊本地震をテーマにした上記の集まりで報告者を務めたかというと、熊本県阿蘇地域には東海大学農学部阿蘇キャンパス)があり、先の地震では多数の在校生らが倒壊したアパートの下敷きになって死者3名もの被害が出たからだ。
水島自身は東京にいて被害には遭わなかったものの、神奈川県の湘南校舎に置かれた災害対策本部に加わり、通信手段がやられたため当初は難渋を極めた現地との連絡にあたる一方でマスメディアによる報道の推移にも目を光らすことになった。
というのは、地震発生直後からさっそく、被害に遭った在校生たちが住んでいた建物を「学生寮」だと報じた(実際には民間のアパートだった)テレビ局が複数あり、誤認に基づく問い合わせも寄せられるようになっていたからだ。後で水島が局側に確認したところによると、局側の若い記者は「学生寮=大学が所有・運営する施設」との認識もないまま、「学生が住むアパート=学生寮」との思い込みでそう書いたらしい。
それでなくともネット上で不確かな情報が乱れ飛ぶ状況になっていたのを見かねた水島らは大学の公式サイトを緊急仕様に変更のうえ最新情報を継続的に発信することで、間違った情報を逐一打ち消す作業に追われることになる。
http://www.u-tokai.ac.jp/ex/kumamoto_earthquake/
状況がやや落ち着いた10日後、水島は熊本に飛んで現地での対応を始めたが、その時点で既に学生を含む地元の被災者たちの中には、報道陣から再三にわたってマイクやカメラを向けられたことによる精神的な二次被害(誠実に報道陣に対応した学生ほど取材後にがっくりしていたとか)が広がっていた。水島自身も東京から派遣されていた女性の記者から電話で、明日には帰京するのに「被災地らしい」画がとれないので紹介してほしいといった依頼を受けて怒ったとか。
「はっきり言って『敵はマスメディア』でした」と水島は言う。しかし彼も予想外だったのは、5年前の東日本大震災の際にはその効用がもてはやされたソーシャルメディアによる情報発信が、今回は「もう一つの敵」になってしまったことだ。というのは、前記の学生寮のことも含め、例えばどこそこの避難所では水が不足しているといった情報が、いったん発せられたら最後、ネット上で何度も「最新情報」として乱反射的に反復されてしまったのだ。
おかげで既にそこに水が到着して窮状が解消されてから久しく経った頃になって、余分な水が大量に到着して処置に困る(そのくせ本当に水が不足している他の避難所には届かない)といった事態が続発したのだ。
「例えばグーグルで『東海大学 阿蘇』と打ち込んで検索すると、まるっきり時系列を無視して関連ニュースが、それも膨大な量で表示されます。こちらとしては『量に対しては量で戦うしかない』ということでその都度打ち消すなど、地震発生から3ヵ月間はひたすらこの対応に振り回された」と水島は言う。
https://www.google.co.jp/?gws_rd=ssl#q=%E6%9D%B1%E6%B5%B7%E5%A4%A7%E5%AD%A6+%E9%98%BF%E8%98%87&tbm=nws
実際に自分も現地で確認した被災地の状況は「少し場所を離れただけで質も程度も著しく違う『まだら』状況があり、とても東京で見る側に『これが被災地です』と一言で伝えられるようなものはない」と水島は語る。
そうした被災地における「まだら」状況は過去の東日本大震災阪神・淡路大震災においても指摘されていた。ただ、水島の話を聞きながら私が感じたのは、そうした被災地という空間における情報の「まだら」に限らず、今回はソーシャルメディアが発達したことによる時間軸上での情報の「まだら」が被災者たちを少なからず惑わせてしまったのではないか、ということだ。
一方で、今回の報告会のメイン報告者であった岸本晃は、被災直後から全国各地の「住民ディレクター」たちとスマホで結んだやりとりやネット生中継を続けていく過程で、常にラジオの情報には注意しつつ「いまこの時点で、この話はどういう状況になっているか」というあたりを確認しながら発信に努めていたようだ。
時間軸上での情報の「まだら」についてはソーシャルメディアよりもマスメディアのほうが後からの訂正が利く部分がまだあるのかもしれない。このあたりは震災などの緊急事態下において、マスメディアとソーシャルメディアとでいかにそれぞれの特性に応じた形で役割分担させるべきかという課題を提起した、一つのケーススタディとして今後も活かしていくべきではなかろうか。

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

西荻窪駅前にある今野書店の社長・今野英治が、7月28日に都内で行われた出版勉強会の席上で「dマガジン」について問題提起したそうだ。同書店でそれまで月に1万5000円以上雑誌を購入してきた美容院との取引が、「dマガジンへの移行」を理由に中止になったとのこと。確かに美容院と言えばこれまで雑誌、特に女性誌を利用者向けに大量購入してくれる大口顧客だったから、そこでタブレットスマホ経由で読めるからということで購入を止める店が続出してしまえば、地域の書店にとっては大打撃だ。
http://www.shinbunka.co.jp/news2016/07/160729-01.htm#PsOI7UK.twitter_tweet_ninja_m

オリコンは7月28日に発表した「2016年上半期 書籍マーケットレポート」によると、今年上半期の書籍市場の総売上額は約5001億2000万円で前年同期比では97.1%。内訳をみると「単行本」は前年同期比99.9%だったが、「ムック」が1割近く(同90.9%)落としている。出版社別の書籍総合売上ランキングの上位では新潮社が同89.2%、文藝春秋が同86.9%と1割以上ダウンしているのが目立つが、後者は『火花』の反動だろう。
http://news.mynavi.jp/news/2016/07/29/189/

◎ゴルフ雑誌の老舗『週刊パーゴルフ』を発行する(株)パーゴルフの公式サイトが「パーゴルフ+(PLUS)」としてリニューアル。新たに討論コンテンツ「みんなでジャーナリスト」もスタートした。編集部が出したテーマについてユーザーから自由な発言を募るというもので、「テーマによって本誌でさらに深く取り上げる場合もあります。また、本誌で取り上げた話題をテーマにするケースもあります」と、紙の本誌との連動も打ち出している。
http://www.pargolf.co.jp/special/114213

◎北海道帯広市にガソリンスタンド道内大手のオカモトが運営する大型書店「岡書(おかしょ)帯広イーストモール店」がオープン。TSUTAYAのレンタル店やドトールコーヒーによるカフェも併設されており、後者の店内はライブやイベント会場としても無償で貸し出すという。
http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/area/doto/1-0298220.html

◎故やしきたかじんの闘病生活を記した小説『殉愛』をめぐり、やしきたかじんの長女が「事実に反する記述で名誉を毀損された」として、著者の百田尚樹と発行元の幻冬舎(東京)に1100万円の損害賠償などを求めた訴訟で7月29日、東京地裁は同社に330万円の支払いを命ずる判決を言い渡した。
http://news.livedoor.com/article/detail/11824022/

◎2013年に東北から始まった「食べる通信」がこのほど佐賀市NPO「Succa Senca(すっかせんか)」が発行する隔月刊誌『SAGA食べる通信』として佐賀市でも創刊された。編集長は農家でもある同法人代表の横尾隆登。趣旨に共感したライターやデザイナー、まちづくりの仕掛け人たちが誌面作りに参加しているという。
http://www.saga-s.co.jp/column/economy/22901/339187

パラリンピックの正式種目である競技「ボッチャ」の魅力や日本での現状を伝える電子雑誌『ボッチャファンEブック』が創刊された。
http://cyclestyle.net/article/2016/07/29/38945.html

◎世界的には来たる2017年で遂にインターネットがテレビ広告支出額を抜いてしまう可能性が出てきたらしい。メディアエージェンシーのゼニスが7月19日に公表したレポートによれば、2015年における世界広告支出の37%をテレビが占めたものの、既にインターネットが僅差で2位の状況にあるという。
http://news.biglobe.ne.jp/it/0731/lfh_160731_9663684533.html

京都市営地下鉄の広告アニメとして人気を博した「地下鉄に乗るっ」の続編作成のための資金をクラウドファンディングで募ったところ1000万円を超える支援が集まったそうだ。
http://www.excite.co.jp/News/reviewmov/20160730/E1469810627468.html

◎大阪の毎日放送MBS)が来年4月1日より、在阪の民放局としては初めて認定放送持株会社に移行することを発表した。
http://www.sankei.com/west/news/160728/wst1607280082-n1.html

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3)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

喧嘩を恐れる友情は結局長続きしない。