【文徒】2016年(平成28)8月23日(第4巻157号・通巻844号)

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1)【記事】KKベストセラーズに「労働組合」が発足(岩本太郎)
2)【本日の一行情報】
3)【人事】光文社 8月22日付 役員人事および委嘱変更
4)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】KKベストセラーズに「労働組合」が発足(岩本太郎)

老舗の中堅出版社KKベストセラーズに、このほど新しく労働組合が発足した。さる8月21日、従業員の過半数が加盟する形で、東京管理職ユニオン加盟の「ベストセラーズユニオン」が結成され、「結成大会」が都内にて開催されたのだ。
http://ameblo.jp/thebestblack/entry-12192584751.html
大会を取材した連合通信社の伊藤篤が、結成大会の趣旨について簡潔にまとめている。
ベストセラーズ社は、大ヒットとなった細木数子六星占術」シリーズなどの書籍や多くの雑誌を発行する中堅出版社(従業員数約100人)だ。
《組合結成のきっかけは、編集部の山崎さんが昨年6月に突然、倉庫への配転と退職勧奨を受けたこと。駆け込んだ東京管理職ユニオンで一人争議を闘い、配転を撤回させた。今年7月には東京都労働委員会で「組合活動を認める」という内容の和解も勝ち取った。
山崎さんは「ここ3年の間に、実権を握る会長によるパワハラと退職勧奨で30人を超す労働者が辞めていった。私の闘いに対して多くの仲間が支援してくれ、36協定の従業員代表選挙でも勝つことができた」と語る。賃金や一時金、退職金の基準も不明確で、仕事で使うパソコンさえ自己負担という状況に、職場の不満がたまっていたのだ。
大会では、「就業規則を開示させたい」「社員のメール内容の監視をやめさせたい」などの要望も。 出版労連の平川修一副委員長が激励に駆け付けた》
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=1122441644488406&set=a.154846441247936.37909.100001677442468&type=3&theater
KKベストセラーズといえば、岩瀬順三(1933〜1986年)が、青春出版社を経て河出書房の子会社・KK河出ベストセラーズとして1967年に設立した出版社で、河出倒産後に独立。カリスマ創業者だった岩瀬氏を30年前に失った後、経理担当だった現在の栗原幹夫会長が経営権を手に入れる。数々のヒット作を生んだ「ワニブックス 」や、雑誌『ザ・ベストマガジン』『大人の特選街』などで知られてきた業界老舗の中堅出版社だ。
以前から栗原会長によるワンマン経営の問題点が知られてきたが、昨年には幹部社員をはじめとする大量退職が起きている。
そして、現在の会長による社内パワハラの実態が下記のように報じられている。
《「今までは細木さんでなんとか食ってたんだよ。今はもう食えない!」(会長)、「もう細木さんから見捨てられます」(社長)――稼ぎ頭の細木数子六星占術』シリーズも右肩下がりとなり、『一個人』『歴史人』などの雑誌も赤字に苦しむ老舗出版社KKベストセラーズで、2013年末頃から、栗原幹夫会長による従業員個人を標的としたパワハラ・退職勧奨が行われ、2年足らずの間に、編集者を中心に18人のベテラン社員が自主退職に追い込まれていることがわかった。
編集部が入手した複数の録音記録から、栗原会長が従業員に「辞めてくれ」「給料貰えないのが普通」「ボーナスなんか出さない」「倉庫に異動させる」「あなた達の命は残り4か月」などと恫喝している事実を確認できた。入社14年目の編集者・山粼実さんも15年6月に埼玉県深谷市にある倉庫への異動を命じられたが、個人加盟労組に加入し撤回を求め、何とか踏みとどまった》
http://www.mynewsjapan.com/reports/2219
労働組合が結成され、会社側もその要求を認めたというのは同社の近代化にとり一歩前進ではないかとも思えるところだ。
しかし、関係者は「はたして(KKベストセラーズの現経営陣)の本音がどういうものなのか」という警戒感を隠さない。表向きは経営陣と社員とが互いに歩み寄ったかの如く見えるのかもしれないが、今後の推移については予断は禁物だ。

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎新聞業界の暗部とも言うべき「押し紙」問題に切り込む調査報道は、じわじわとではあるが進捗しつつある。今春に朝日新聞のO記者(ライブドア事件など数々の経済スクープを飛ばし、原発問題でも活躍した大鹿靖明ではないかと噂されている)による衝撃の“内部告発”があって以降も、『週刊ポスト』『SAPIO』『NEWSポストセブン』は引き続きこの問題を追い続けている。今回も改めて押し紙問題でのO記者についてのコメントを朝日新聞に求めたところ、「ご指摘の記者が発言したとされる内容は、弊社の見解とはまったく異なります」とのお答えが帰ってきたとか。
http://www.news-postseven.com/archives/20160821_438024.html

◎オランダを発祥とするオンライン上でのニュースサービス「Blendle(ブレンドル)」は、今春からアメリカへも進出したかと思っていたら、既にユーザーの総数は100万を超えるところにまで拡大したそうだ。今後しばらくは更なる地域拡大はしない戦略らしいが、ユーザーがニュースを記事単位で購入できる(1記事あたり数セント)というこのモデルの今後の展開は気になる。
http://jp.techcrunch.com/2016/08/19/20160811blendle-clocks-up-1m-signups-for-its-pay-per-article-journalism-platform/

◎3.11以降の反原発運動における象徴的存在だった霞ヶ関の「経産省前テントひろば」が、8月21日未明の強制執行によって撤去された場面はテレビ各局でも映像入りで報じられた。もっとも、5年間は普段ほとんどテントひろばを取材しに来なかったようなテレビ局のカメラマンが、テント側にも宿直者が数名しかいなかった朝の3時50分頃に、執行官や警備員たちにくっつく形で大勢押し掛けてきたのはなぜなのか? というぐらいの想像力を、報道を見る方々にも働かせて貰えるようになればと思う。
http://tanakaryusaku.jp/2016/08/00014300
田中龍作も以下の記事で「権力はマスコミを引き連れていた。警視庁記者クラブあるいは司法記者クラブへのリークであることは明らかだ」と書いているけど、これに限らず警察による容疑者宅等への家宅捜査(大抵は日の出の時刻後に行われる)がどんな早朝に行われようが、そこに必ずマスメディアの報道陣がいる(私のようなフリーライターなどはもちろん事前に連絡も貰えないからいない)という現実に異議を唱える声がほとんど出てこない現状は何だか切ない。

◎そうか、庵野秀明はやっぱり鉄道好きだったのか。大ヒット上映中の『シン ゴジラ』中に登場する鉄道場面のシーンについては首都圏の鉄道会社6社(多摩都市モノレール江ノ島電鉄東急電鉄京浜急行電鉄北総鉄道)が「撮影協力会社」として名を連ねている。
http://toyokeizai.net/articles/-/132267
ちなみに私は10年ほど前、吉永小百合が主演の『夢千代日記』のロケ地としても知られた、山陰本線の途中にある明治時代以来の独特な景観で人気を集めた「余部鉄橋」が取り壊される際に、「壊されるならいっそのこと映画の中でゴジラに壊されてくれ」ということで新作ゴジラ映画のロケ地誘致に取り組んでいた地元の町おこしグループの方々に話を聞いたことがある。実現せずに残念だったが、ゴジラと鉄道は地域おこしの強力コンテンツになりうると今でも思う。

◎その庵野秀明が「アニメ業界はもってあと数年」と発言したことにMBSが更に斬り込んだ解説をめぐってTogetterがまとめている。
http://togetter.com/li/826419
今から十数年前、その庵野出世作新世紀エヴァンゲリオン』を生み出したテレビ東京を筆頭に、在京各テレビ局の1週間のタイムテーブル中にアニメ番組が100時間近くに渡った時期ですら、私が訪ねた制作現場のアニメーターたちには年収100〜200万円という若者たちがいたが、そうした現状はおそらく今でもあまり変わっていないのだろう。

◎フジテレビが視聴率的に凋落云々といった記事には、その通りだろうとは思いつつも食傷を通り越してウンザリするが、『サザエさん』の視聴率低下はそういうものとはまた別の次元で論じられるべきものだろう。
http://top.tsite.jp/news/anime-song/o/30227161/?sc_cid=tcore_a99_n_adot_share_tw_30227161
サザエさん』のアニメ制作会社であるエイケンの株式を、ADKが2003年に70%買い取った際にADKの担当者に理由を聞いたことがある。問われた彼は傍らにいた広報担当者に「本当のことを言っていいですか?」と断ったうえで「あのままだとあの会社終わっちゃうんですよ。制作現場にパソコンが1台もないようなところなんですから」と答えてくれたものだった。

◎なるほど。ビートルズの4人は解散後に自分の持ち歌をライブその他で盛んに歌っていたけど、
SMAPは解散後もなかなかそうはいかないのだろう。
http://blogos.com/outline/187678/

◎「ポケモン GO」の“地域格差”を指摘する声は相変わらず多いようだが、対応策も既に進められつつあるようだ。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1608/22/news061.html

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3)【人事】光文社 8月22日付役員人事および委嘱変更

第72期定時株主総会および役員会で以下の通り選任・決定された。
《8月22日付 役員人事》
代表取締役社長(重任) 丹下 伸彦
常務取締役(重任) 武田 真士男(第一編集局、第二編集局、業務局担当)
常務取締役(昇任) 古谷 俊勝(総務局、経理局担当)
常務取締役(昇任) 佐藤 均(メディアビジネス局担当)
取締役 烏山 公夫(マーケティング局担当)
取締役(新任) 平山 宏(編集管理局、第三編集局、第四編集局担当)
取締役(新任) 折敷出 慎治(出版局、文芸局、コンテンツビジネス局担当)
取締役(非常勤) 野間 省伸
取締役(非常勤) 山根 隆
監査役  残間 直巳
監査役(非常勤) 牛嶋 勉
※高橋基陽氏は取締役を退任し、相談役に就任。坂井幸雄氏は取締役を退任し、顧問に就任。

《8月22日付 委嘱変更》
常務取締役 武田 真士男
=総務局・経理局担当委嘱を解き、現担当に加え第一編集局・第二編集局担当を委嘱する
常務取締役 古谷 俊勝
=出版局・文芸局・コンテンツビジネス局担当委嘱を解き、総務局・経理局担当を委嘱する
取締役  平山 宏
=編集管理局・第三編集局・第四編集局担当及び第三編集局長兼新企画開発室長を委嘱する
取締役  折敷出 慎治
=出版局・文芸局・コンテンツビジネス局担当及びコンテンツビジネス局長を委嘱する

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4)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

「明けない夜はない」「いつか夜明けはやってくる」などと部屋に籠って言っている限り、夜明けは永遠にやってこない。夜明けは自分から奪いに行くべきものである。