【文徒】2016年(平成28)9月6日(第4巻167号・通巻854号)

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1)【記事】『ビジネスジャーナル』捏造問題でフリーライターが怒る(岩本太郎)
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】『ビジネスジャーナル』捏造問題でフリーライターが怒る(岩本太郎)

サイゾーが運営するネットメディア『ビジネスジャーナル』の8月25日付記事「NHK特集、『貧困の子』がネット上に高額購入品&札束の写真をアップ」におけるコメント捏造事件については、さる1日付の当『文徒』でも紹介した。取材してもいない相手のコメントを記者が勝手に捏造して掲載したことの悪質さはもちろん、人権侵害までしでかしたとの指摘については既に言及された通りなので繰り返さない。
この一件でフリーライターである私がサイゾーによる「お詫びと訂正」を読みながら、怒りと同時に他人事とは思えず身につまされたのは以下の部分だった。
《当該記事は外部の契約記者が執筆したものであり、NHKに取材をして回答を入手したと記述しておりましたが、実際には回答を入手しておらず、当編集部も確認を怠った責任があります》
http://biz-journal.jp/2016/08/post_16526.html
「外部の契約記者が執筆した」と他人事かつ言い訳のように前振りしながら末尾で「当編集部も確認を怠った責任があります」との書き方に何ともいやらしさを感じる一方、「そこに本音がにじんでいるよな」と、思わず溜め息もつきたくなる。さらに、これで「やっぱりネットのニュースメディアってのは外部の記者が取材したかどうかもわからない記事を、編集部が確認もせずに載せちゃういい加減な媒体なんだな」との見方が広まってしまう(けれども言い返せなくなる)んだろうな、とも。
ただ私よりもここ数年、取材の成果を発表できる紙媒体がどんどん減っていく中でネットメディアに活路を見い出し、紙媒体時代よりも桁違いに低いギャラでヒイヒイ言いながらも取材に走り回ってきた「外部の記者」たちは今回の件をさぞや苦々しく受け止めたに違いない。
そう思っていたら、やはりフリーランスライターの畠山理仁が自らのツイッターアカウントでさっそくこの件についての所感を、問題発覚後の8月31日〜9月1日にツイートしていた。
https://twitter.com/hatakezo
1973年生まれの畠山は大学時代から週刊誌を中心に取材活動をしており、特に5年前の東日本大震災以降は東京電力の記者会見に通いつつ、福島第一原発のプレス向け現場公開にもフリーランス記者枠(東電会見参加者を対象に、当初2名の枠で設けられたと聞いた)にも参加するなどしながら、ネットも駆使しつつ精力的に発信してきた。そんな彼が、『ビジネスジャーナル』の件で感じた悲痛さを滲ませつつ一晩かけて立て続けに以下のように(たくさんあるので一部省略するが)ツイートしていたのだ。
《今回は運が悪かった、今後は気をつけつつ運を天にまかせる、っていうのが正直なところではないか。記事一本書いて原稿料がいくらもらえるかを考えれば、そこまで手間暇かけてファクトチェックする人も金も覚悟もないだろう。そもそも大幅にコスト削減するために現場に行かず記事を書かせてんだから》
《必要な経費を必要なところに投入できない媒体が増えてきた印象。安い報酬で無理をさせれば当然質は落ちる。コストの問題で現場に行かせないなら、せめてプロの校閲を雇うとか、ファクトチェック担当を置かないと質は保てない。本来、取材して報道するって、金か時間か命がかかった贅沢な業態なの》
《当該記事の制作コストはいくらだったのか。そもそも「原稿料は払わない」と公言するWeb媒体もあるから、そんなに高くないだろう。それで捏造記事を書かれた側は甚大な被害を受ける。迷惑をかけないためにも予防策に手間ひまかけるのは必要経費だ。そこにお金をかけない媒体はとっとと辞めてほしい》
《一つの記事につき万単位で原稿料を出せるWeb媒体は、Web業界では優良な部類だろう。でも少ない。私は原稿料の多寡だけでなく、担当編集者とテーマで仕事を受ける。外部記者にそう思われるためには、編集者が媒体から大事にされていなければならない。媒体やるって本当にお金がかかるんだよ》
《ビジネスジャーナルの件。お詫びと訂正には「当該記事は外部の契約記者が執筆したものであり」とあったが、キャッシュ見たら「文=編集部」だ。取材してないのに取材したと主張した記者って誰よ。非常に迷惑》
本当ならこれはひどい。「文=編集部」と明記した記事の誤報で「外部記者が執筆した」などという言い訳が通るか!? 記者どころか編集部も悪質だ!
《取材していないのに取材した、というのは記者として完全にアウト。この禁じ手を使える人物は呼吸をするように変幻自在な嘘をつく。つまり話が面白いので編集者もだまされる。一つの媒体で問題を起こして出禁になっても、情報がなければ別の媒体でまた同じ問題を起こすだろう。実際、過去にあったよね》
ライブドア事件が起きた時、ライブドアのニュース部門は事件を取材する側に立った。サイゾー系列の媒体は価値を落としたくないならビジネスジャーナル問題をきちんと取材して報道すればいい。私もサイゾー系媒体に協力したことがあるけど、以前は確実に取材していた。今回の件が特殊であると願いたい》
《ネット記事にコメント引用するなら一言連絡してほしいものだ。一応いい加減なことは書いてないつもりだけど、おれのアカウントはツイッター社に本人認証されたアカウントじゃないし、気づかずツイート削除しちゃうかもしれないよ?連絡一本で事故防止。手間を惜しまないことが記事の信頼性を高める》
《私が新聞の記事をわりと信用してるのは、やっぱり記者を現場に行かせたり、現場に行けなかった場合は確認の連絡を入れたりしてるのを知ってるから。取材される側は「さっき別の社の記者にも同じこと言った」ってなるけど、そうやって確認作業をする。雑誌も同じ。面倒だけど必要な工程だと思う》
《メディアを運営するなら訴訟のリスクは必ずある。裁判になると本当に大変なんだよ。お金も時間もかかる。訴訟のために再度関係者に聞き取りして陳述書を準備したりする必要も出てくる。その時に困らないためにも、ちゃんとした取材や確認作業は必要だと思う。》
《なんでこんなことを書いているかというと、自分が言ったことや書いた記事が信用されなくなることが嫌だからです。もしそうなれば、これまで取材してきた人たちに対しても申し訳ない。あと、もう一つは自己保身です。信用されない記者は食えなくなります。》
《ほんのわずかなギャラを得るために一人のライターがついた嘘が当事者だけでなく周囲をも巻き込む。サーバとシステム借りてただけのリテラにまで影響が及んでいる。意見の違いは許容できるけど「取材しないで取材したことにする」という嘘は許せない。それやると楽だろうが。記者なめんな》
《今日は会う人会う人に「怒ってるねえ」と言われたけれど、怒っているわけではありません。コメント謝礼もいりません。ひと手間かけるだけで惨事を避けられると言いたかっただけです。新聞記者には「そんなことも確認するの?」と驚かされますが、ネットニュース記者にはそれがない。手間を惜しむな》
《問題はそうした「ひと手間かけた確認」が記者個人の属人的な資質だと媒体側にも思われていること。そうじゃないよ。記者の基本だよ。ひと手間かけてもいいと思えるくらいの報酬を出せばいい。他人が手間ひまかけた取材を軽んじすぎてやしないか》
《【重要】まとめサイト、ネットニュースなどへの、私のツイートの無断転載はお断りします。事後報告でも憤慨します。お互いのためです。どうしても転載したい方は事前にDM等でご連絡下さい。DMはどなたからでも受け付ける設定です。お仕事依頼もどうぞ。自営業は信用商売のため、ご理解願います》
最後の件りは私も気になったので、引用に際して畠山に事前にDMで連絡をとった。彼とはジャーナリスト約40名による「秘密保護法違憲訴訟」で共に原告に名を連ねているというつながりもあったのだが、ほどなく「引用、なんの問題もありません」との返信をいただいた。私信であるのでそれ以上の内容を紹介することは控えるが、畠山がまとめサイトやネットニュースへの無断転載を断る理由は、津田大介が今回の事件後に発した以下のツイートの内容とも通じるように思えた。
https://twitter.com/tsuda/status/770853092082458625
https://twitter.com/tsuda/status/770892314768134144
同じくフリーライターで『セブンイレブンの正体』という共著(トーハンから当初配本を拒まれたらしい)を持つ古川琢也(今年40歳)もfacebookでこんなことを書いていた。もとより彼にも事前に問い合わせたうえで「投稿はどのように使ってくださっても結構です」との返信をもらっての引用だ。
《ビジネスジャーナルには一度だけ書いたことあるけど、「外部の契約記者が書いた」という言い分が仮に本当ならば、今回のようなことはいずれ起きそうな額の原稿料だった。
編集者もそのへんはわかっていたようで、「この額で新規に取材して書くのは厳しいと思うので、他媒体に書いた内容をアレンジして…」と言っていた。でもそれをやると、まともな原稿料払ってくれる媒体がバカを見て、最終的には自分自身の首を締めることにもなるわけなので安易に応じる訳にはいかないんである》
https://www.facebook.com/furukawatakuya/posts/1206474266041213?pnref=story
厳しい環境を苦心惨憺かきわけながら奮闘している「外部の筆者」たちの存在を、先のサイゾーの「お詫びと訂正」だけで「結局そんなもんなのね」とすぐさま切り捨てる前に、せめて上記に引用したメッセージの数々をご一読いただきたいものである。

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

佐賀新聞の元販売店主が同紙における「押し紙」の実態を告発した裁判については、全国紙もその推移を虎視眈々と注視しているらしいと、「押し紙」問題の第一人者であるジャーナリストの黒藪哲哉は言う。
《筆者は、提訴に対する反響はあまりないのではないかと予測していたが、中央紙の関係者らは、あの手この手を使って情報を収集しているようだ。筆者のところにも、素性がよく分からない人物から問い合わせがあった。
押し紙」問題で有名な江上武幸弁護士らが原告代理人を務めていることが警戒心を強めているようだ。「押し紙」を断罪する新しい判例が生まれることを警戒しているのだろう。
この裁判では、「残紙」はすべて「押し紙」であり、独禁法に抵触するという見解を打ち出している》
http://www.kokusyo.jp/oshigami/10266/
なお、上の記事では「押し紙」が販売店から回収される場面をとらえた動画も公開されている。

◎2011年にニューヨークで生まれ、現在では世界3500社以上の出版社が参加し、8200誌以上の雑誌が配信され、150カ国以上3000万人のユーザーが利用する電子雑誌配信サイト「Magzter(マグスター)」が日本でも出版社向けにサービスを本格的に開始するという。
http://pressrelease-zero.jp/archives/99544

◎『マガジン航』で現役大学院生の山田苑子が「Kindle Unlimitedは貧乏大学院生への福音となるか?」と題して、電子書籍デジタルアーカイブを含めた現役大学院生の図書利用術を紹介する連載を開始。その第1回目でさっそく「まず最初に結論を言おう。Kindle Unlimitedは大学院生としての節約術にならない」と断言。
《調べてみたところ、直近1ヶ月でAmazonで買った本(Kindle、新品本、中古本、送料含む)の合計金額は、送料込みで12,555円だった。ここから論文には関わらない本を除くと、合計11,475円(8冊)。1冊平均約1,400円。一方、Kindle Unlimitedの利用料は]たった月額980円(税込)。このうちの1冊でも利用できるのであれば、万々歳ではないか。そう皮算用していたのである。だが、さらに調べてみると、この直近一ヶ月の8冊のうち、Kindle版があるのは1冊(白幡洋三郎『プラントハンター―ヨーロッパの植物熱と日本』、講談社選書メチエ)だけだった。Kindle版より古本が安かったのと、図版が多用されている本なので、このときは紙で買った。今回あらためて確認したところ、Unlimited対応ではない。無念。
8冊を調べただけではあまりにもデータが少なすぎるので、さらに大学院の研究やレポートのため購入した関係書籍を加え、全20冊を調べてみたが、有料課金Kindle版が存在するのは前述の1冊のみであった。電子書籍化の確率は1割に満たず、しかもその1冊はUnlimited対応ではない。残念ながらKindle Unlimitedは、大学院生としての書籍代節約術としては当面、役立ちそうにない》
http://magazine-k.jp/2016/08/23/archive-hack-01/

ニフティが会員向けに1999年から提供してきた無料ホームページサービス「@homepage」が9月29日15時をもって終了。ニフティは他のサービスへの移行を希望する利用者への無料プランを設けるなどして呼びかけているが、仮に手続きが行われなかった場合、同日限りで約14万件のホームページが一気に自動消滅する。
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/1017094.html

札幌市西区で夫婦が営む小出版社「キコキコ商会」は、手のひらサイズに収まる「豆本」を2000年から本格的に開始。これまで絵本や写真集、雑誌など91冊を刊行してきたそうだ。
http://mainichi.jp/articles/20160902/ddl/k01/070/274000c

◎約100年前、大日本雄弁会が発行していた『現代』に「岡本地球堂」なる小売店の店主が「お客に対する希望」と題して「英國人などは商品を受取る時に必ず『サンキウ』と云ひ、受給者の對當を表現して居ります。日本の小賣商店の店員もお客様から、今少しく人間扱ひを受ける様になりたきものです」などと綴った投稿をあるユーザーがTwitterで9月1日の15時前に紹介したところ反響を呼び、共感して「つらい」などと感想を述べるユーザーなど、翌2日12時時点で1万9000件以上のリツイート、1万1000件以上の「いいね」を集めたそうだ。
http://news.livedoor.com/article/detail/11965957/

◎「こち亀」連載終了。連載開始の1976年秋に小学6年生だった私(現在52歳)にとっての主人公・両津勘吉巡査長ほか登場人物のイメージは、今でも以下に出てくるものに近い。上司の大原部長は「大正生まれ」という設定で(現在もそのままなら年齢は90歳を超える)、部下の秋本麗子巡査は派出所内をローラースケートで走りながら「子供の頃に東京ボンバーズに憧れてた」とか語ったり、三億円事件の犯人の弟(という設定の若い男性)が出演した回を読んだのを覚えている。
http://michaelsan.livedoor.biz/archives/51762433.html
ボイコット問題に揺れたモスクワ五輪の後に「超能力で犯人を見つけ出せる」といった理由で4年に一度の出勤を許された日暮巡査は、リオ五輪では『週刊少年ジャンプ』通常号ではなく臨時増刊『こち亀ジャンプ』(8月16日発売)に登場した。

出生率低下に悩むイタリア政府が、同国の若者に子づくりを奨励するキャンペーン広告を作成のうえ発表したものの、ネット上でその広告表現をめぐって「傲慢だ」「性差別だ」「弱者いじめだ」との非難を浴びたことを受けて急遽中止に追い込まれたそうだ。
http://www.afpbb.com/articles/-/3099615

◎電柱広告関連企業が組織している全国組織「全国電柱広告連合会」が1965年の設立以来50周年を迎えるのを記念した写真誌『全国 電柱広告のある風景』を発行した。同連合会には現在11団体607社が加盟しているという。
http://www.shimbun.denki.or.jp/news/local/20160902_01.html

◎法律、医療、心理など様々なジャンルの専門誌において最近、LGBTについて特集するケースが増えているそうだ。
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20160831-OYTET50024/

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3)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

新天地に旅立つ時には大きな荷物を抱えては行けない。何を選び何を捨てるかが最初の一歩だ。