【文徒】2016年(平成28)年11月1日(第4巻204号・通巻891号)

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1)【記事】 中日新聞東京新聞が連載「新・貧乏物語」捏造問題で自己検証記事を掲載
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】中日新聞東京新聞が連載「新・貧乏物語」捏造問題で自己検証記事を掲載(岩本太郎)

子どもの貧困問題をテーマに中日新聞が5月に(東京新聞では6月に)掲載した連載記事「新貧乏物語」に事実と異なる部分(記者は「原稿をよくするために想像して書いてしまった」などと発覚当初から釈明)があった問題については、発行元である中日新聞社は去る10月12日付の両紙朝刊において「おわび」を発表するとともに、問題のあった当該記事を削除した。
そして一昨日の31日付の両紙朝刊において、「『新貧乏物語』の削除問題を検証」というタイトルの検証記事を掲載した。10月19日に東京本社へ外部委員4人を招いて開催した「「新聞報道のあり方委員会」の席上で会社側が行った検証報告と、それに対して外部委員が述べた意見や提言の収録が中心となっている。なお4名の外部委員の顔ぶれは木村太郎(ジャーナリスト)、吉田俊実(東京工科大教授)、田中早苗(弁護士)、魚住昭(ノンフィクションライター)。会社側からは菅沼堅吾(東京本社)、臼田信行(名古屋本社)の両編集局長らが出席したそうだ。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201610/CK2016103002000106.html
基本的には、既に当の29歳の記者が捏造の事実を認めていることもあってか、そこから取材当時の現場でどんなやり取りがあったのかを事後に関係者らに聴き取って確認のうえ、肉付けした内容に終始している。ただ、中には「当時内部では既に問題になっていた」「その時点である程度対応はしていた」との一部とのエクスキューズも少しは入れたいと思ったのかどうか、こんな記述もある。
《こうした撮影の経緯は、十七日付朝刊の印刷開始後、取材班全員で深夜の会食中に話題となった。初めて事実を知ったキャップは「やらせだ」として男性記者を叱責(しっせき)するとともに、後日に掲載される東京、北陸、東海の三本社向けには、写真やキャプションを差し替える措置を取った》
《キャップは取材班を前に「連載には『頑張ってください』というファクスなどが多数寄せられている。そんな読者を裏切ることをしてはならない」とあらためて注意を喚起。男性記者に原稿の事実関係を一つ一つ確認し、記者は「問題はない」と答えた》
外部委員たちも次のように批判している。
《今回の連載で捏造した記者は気が弱そうな印象を受けた。社内に圧力のようなものがなかったか。気になったのは、この記者が「新聞協会賞に応募するという話を聞いて重圧を感じていた」というところ。協会賞ありきの連載企画になってはいなかったか》(木村太郎
《記事は憐憫(れんびん)を誘うために、これでもかこれでもかと貧乏を作り上げている。これでは取材対象者の現実から懸け離れてしまう。取材対象の家族は病気が原因で生活が苦しくなった。取材を受けたのは「あなたたちだって、すぐこうなってしまうんですよ」との思いがあったからだろう。捏造(ねつぞう)は取材対象者を二重に踏み付けることになる》(吉田俊実)
《記者が「捏造(ねつぞう)は発覚しない」と考えた自信がどこから来ているのかという点が分からない。功名心などがあって、こういうことを犯したという簡単な理由ではない、別の理由が何かあるのではないか。なぜ、これだけのことをして大丈夫だと思ったのかという部分を解明しないと、会社としても、今後どうやって社員を教育していけばいいか分からないのではないか》(田中早苗
魚住昭はコメントの中では「捏造」という言葉を使わなかったが、やはり若い記者を捏造へと走らせた社内の空気に対して警鐘を鳴らしている。
《正直言って記者だけの問題ではない。編集幹部に問題をできるだけ表面化させず、小さく見ようという意識があったのではないか。組織のチェック機能のようなもの、言い換えると、良い記事をつくろうという気持ちや読者に対する裏切り行為はやめようという意識が、薄いのではないかという感じを持った》
さらに、この検証記事を読んでさらに強く批判しているのが、NPO放送局OurPlenet-TV代表理事の白石草だ。もともとテレビ技術会社出身で国会内の記者クラブ勤務も経験した後、開局当初の東京MXでディレクターを務めた後に独立した彼女はこうした組織内にはびこる欺瞞に敏感だ。
ちなみに上記の検証記事が載る前日の30日には東京新聞紙上で、彼女がここ数年行ってきた福島取材について長尺のインタビューを受けており、そのことを冒頭で断ったうえでの愛の鞭だ。
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=1413727621971566&set=a.593085217369148.1073741828.100000030249122&type=3&theater
東京新聞にデカデカとインタビューが掲載されたその日に書くのは気が引けますが、中日新聞批判をします》
《ようやく掲載された今回の検証記事ですが、実は年二回定期掲載される「新聞のあり方委員会」の紙面なんですよねー。これはかなり問題。
記事によると、通常の「報道のあり方委員会」は10月4日に開催され、参院選や障害者殺傷事件の報道について議論したそうです。しかし、12日に「お詫び記事」が掲載されたのを受け、委員会が再会議を要請し、今日の記事に至ったというのです。
いやー、どうなのこれ。
記事には、「お詫び」の掲載時期が延びた理由について、捏造した記者が体調を崩したとか、正確を期すために遅れたとありますが、これ自体がかなり信じがたいです。5月の記事ですよ?
この経過を見ると、「新聞のあり方委員会」が言い出さなければ、中日新聞は、「新貧乏物語」の検証記事を掲載しないで済ませようとしていたのではないかと疑いを抱きます。
ちなみに、お詫び記事は、何がどう問題だったかまるで分からない記事でした。あと、今日の検証記事もなぜ「「新貧乏物語」の削除問題を検証」なの?》
《(「やらせ」が乗った朝刊の印刷開始直後、深夜の会食中に記者を叱責した件について=引用注)これ。校了後、早刷りを見ながらの、軽い一杯の席ですよね。連載開始祝いというか。ここでいう「叱責」とはどういうものだったのでしょうか。
「お前〜それはマズイよ〜。ヤラセになるだろ!」程度の、酒席での軽いものだったのではないかと疑っています。もしかすると、「そんなことがバレたら、新聞協会賞はないぞ」くらいなことも、言ってたかも。
この連載は最初から、新聞協会賞狙いだったと、中日新聞の関係者から聞きました。実際、今日の検証記事にも、それが記者にプレシャーだったと書かれています。取材班には、おそらく、社会部のエースたちが投入されていたのではないでしょうか。問題の記事を書いた、最年少の29歳の記者も、大抜擢だったはずです》
えてして新聞社でもテレビ局でも、不祥事があった後で出る検証記事とか検証番組というのは「これより先はもう検証しません」という宣言みたいなものだが、今回の件もどうやらこれで幕引きを図ろうとの思惑が透けて見えるようだ。

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎イギリスの本拠を置く大手広告会社Zenithが世界60の国・地域について分析した結果、2017年には世界のネット接続の75%がスマートフォンタブレットなどのモバイル端末に移行するとの予測を発表した。現時点でモバイルによるインターネット利用率がもっとも高い国はスペイン(85%)で、これが2018年には香港(89%)、中国(87%)、スペイン(86%)、アメリカ・イタリア(83%)、インド(82%)になると予測。ちなみに日本は上の予測の調査対象にはなっているものの上位層には名前が出てこないそうだ。
http://iphone-mania.jp/news-142852/

◎9月にニューヨークで行われた講談社アメリカ進出50周年を祝うパーティでは、村上春樹から寄せられた以下のようなメッセージが代読されたそうだ。村上は1989年に講談社インターナショナル(KI)から『羊をめぐる冒険』の英訳を刊行したのを手始めに、以後も『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』『ダンス・ダンス・ダンス』などの長編も翻訳出版している。
《KIから出版された僕の小説は、批評的にはそれなりに成功を収めたと思うのですが、正直なところ営業的には今ひとつでした。KIはもちろん一生懸命がんばってくれたのですが、アメリカのマーケットの壁は、新参の出版社にはやはり厚かったということなのでしょう(略)しかし当時のKIには『いつかブレークスルーしてやろう』というポジティブな気概があって、僕はそういう明るい雰囲気がわりに好きだった。たぶん日本という国全体に、いろんな意味で熱気があったのだと思います》
http://www.sankei.com/life/news/161030/lif1610300020-n1.html

◎この11月発売号限りでの休刊が発表されたヤンキー雑誌『チャンプロード』(笠倉出版社)だが、同誌とかつてライバル誌として鎬を削った『ティーンズロード』(ミリオン出版:99年に休刊)の編集長だった比嘉健二が、休刊に寄せて次のような回顧談を寄せている。
《実はヤンキー人口って1万人程度しかいないのに雑誌が20万〜30万部売れていたのは、ヤンキーに憧れをもっているファンが買っていたから。当時の不良たちには、彼らなりの文化や美学があって、自分のチームを誇りに思っていたんだよね》
ミリオン出版では、その後、コギャルの『egg!』やギャングファッションの『SOUL Japan』といったアウトローの雑誌を創刊するんだけど、形を変えずに作り続けていくと、どれも10年程度で雑誌としての役目を終えて寿命を迎えるんだよね。そう思うと、『チャンプロード』は形を変えずに約30年でしょ。長生きしすぎたよね》
《で、今の不良って単車じゃなくて何にお金を使ってるのかっていうと、スマホのゲームだよ。寂しい話だよね。だからさ、ライバル誌としては「不良再生に命を賭ける!」という熱い気持ちをもった編集者が現れて、復活させてくれたら嬉しいなあ》
《不良文化は地域によって違うし、熱量も地域差があるわけだからさ。関西とか北関東とかエリア限定で売れば、まだまだいけると思うよ》
https://news.nifty.com/article/magazine/12193-20161025-1223331/

◎今年7月発売号に掲載した「参院選特集」で「自民党支持の読者の皆さん、今回ばかりは野党に一票、考えていただけませんか」などと謳ったことで物議を醸した『通販生活』だが、11月15日に発売される2016年冬号では「前号(16年夏号)の参院選特集に関して172人の読者からご批判、ご質問をいただきました。」とのタイトルの回答記事を載せているとのこと。すでに定期購読者のもとには雑誌が届き、SNSなどで話題になっているようだ。
https://www.cataloghouse.co.jp/company/catalog/?sid=top_head_title_catalog
http://ryukyushimpo.jp/news/entry-383547.html

◎『鉄人28号』の連載60周年を記念し、扉絵やカラーページなども含めて雑誌連載当時の忠実に再現した復刻版『鉄人28号《少年 オリジナル版》復刻大全』全7巻が今月から復刊ドットコムより順次刊行される。
http://natalie.mu/comic/news/206849

◎劇場版アニメ『君の名は。』は絶好調。だが、一方でテレビアニメの世界は話題作が豊富な反面、以前から言われてきた制作現場の過酷さがいよいよのっぴきならない状態になってきたらしい。この10月改編で始まった新作群の中から、制作が追いつかずに「放送延期」に追い込まれるケースが続出しているそうだ。
http://hbol.jp/114251
http://lineblog.me/dessart/archives/12389215.html

◎アニメ『ドラえもん』のスネ夫役などで知られた声優の肝付兼太が亡くなったが、大手メディアでは「アニメ『ドラえもん』で初代スネ夫を演じた」などと報じるところがやはり多かったようだ。しかし、これは厳密には間違い。実はアニメ『ドラえもん』には1979年からテレビ朝日系での放送が続く現在の番組や劇場用映画以前に、1973年に日本テレビ系で放送が始まったものの不評でほどなく放送も終わってしまった全く別の作品があり(実は私も見ていて全然つまらなかった覚えがある)、そこで肝付はジャイアン役を演じていた。
http://www.excite.co.jp/News/society_clm/20161029/DailyNews_1218726.html
ちなみにこの幻の日テレ版『ドラえもん』については産経新聞出身の安藤健二が2007年より『映画秘宝』で行った追跡レポートが、翌年に太田出版より出た『封印作品の憂鬱』という単行本の中に、他の封印作品の事例と共にまとめられている。原作者の藤子・F・不二雄の不興を買ったという作品はいかにして生まれ、いかにして封印同然になったかについて、往時を知る小学館関係者らに直撃取材もしなが迫っている。
http://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784862483386

◎自動車関連の雑誌や書籍の専門書店として知られた高原書店(本社・名古屋市)が11月23日限りで店舗営業を終了。今後はホームページやヤフオクなどの通信販売での営業に特化する模様。目下、最終営業日までのバーゲンセールを展開中だ。自動車ニュースメディアの『clicccar』が同店を訪ね、社長の郄原英世にインタビューしている。
http://blog.takaharabooks.com/
http://clicccar.com/2016/10/30/412667/

◎上記【記事】で紹介した白石草が代表を務めるOurPlanet-TV (通称アワプラ)が設立15周年を記念したパーティを12月4日(日)15時から千代田区神田錦町で開催予定。設立以来アワプラを応援しているジャーナリストや映画監督、NPONGO関係者も多数参加の予定だそうだ。なお、このパーティーはファンドレイジングも兼ねており、当日、会場にて寄付・カンパも募集。代表の白石はなおも福島の原発被害取材を精力的にこなしているが、一方ではこうした資金集めも様々な手段を通じて継続的にきっちり行ってきたことが、NPOという形態で15年続けてこられた理由でもあろう。
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/2066
https://www.facebook.com/events/1778223682448419/?notif_t=plan_user_invited¬if_id=1477887084115858

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3)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

嘘つきは泥棒の始まりであり、泥棒にとっては苦悶を伴う真実しか語れなくなる地獄の始まりである。