【文徒】2016年(平成28)年11月15日(第4巻213号・通巻900号)

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1)【記事】 JIAA「ネイティブ広告ハンドブック2017」をめぐるネット上での議論
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】JIAA「ネイティブ広告ハンドブック2017」をめぐるネット上での議論(岩本太郎)

「ネイティブ広告」をめぐる議論が盛り上がっている。発端は日本インタラクティブ広告協会(JIAA)の「ネイティブ広告部会 広告効果分科会」が11月4日に発表した「ネイティブ広告ハンドブック2017」だ。
http://www.jiaa.org/download/JIAA_nativead_handbook.pdf
これに対して「読みにくくて面白い」と応じたのがイケダハヤトだった。
《す、すげぇ、改行がぜんぜんない……。
カタカナが多い……。
その結果、何を言っているかわからない……。
括弧書きの「ブランドリフト」ってなんだろうと思って読み込んでみると、注釈を発見。ですが、なぜかここだけ英語w そして読んでも意味がわからんw「態度変容」ってことなのかな……?》
《なので、「これを読んで理解できないとプロ失格」というのは、興味深いスタンスだなぁ、と思います。すごい上から目線。
そのスタンスだと、結局誰も理解できないままで終わりそうな予感しかしません……。で、業界にはアマチュアステマがあふれるという……。
ネイティブ広告についてのハンドブックがネイティブに読みにくい、というのは皮肉です。少しでも多くの人に読んでもらいたいなら、PDFじゃなくて、せめてブログ形式にすべきでは……。
作っている側は違和感を覚えていなそうなのが、いろいろ象徴的ですね。
インターネット広告の世界も、間口が広がってきているんでしょう》
http://blogos.com/article/197041/
しかし同じ『BLOGOS』では14日に山本直人が《広告の本質を突く、「ネイティブ広告ハンドブック2017」》と題して次のように書いていたりもする。
《1章の“「ネイティブ広告」とは何か?なぜ注目されるのだろうか“という論考は、広告の本質を捉えていて、広告に携わる人や学ぶ人にとっても価値がある内容だ。
ネイティブの反対語が「エイリアン」であるとして、「広告が邪魔者・嫌われ者だったかもしれない」という議論は、いい広告を作る上で欠かせない。実は、そうした自覚があったからこそ、広告はビジネスとして発達してきたし、ときには社会全体に対してインパクトを与えるようになったのだろう。
そして人は、見るものを「これは広告だ」という了解のもとにその価値を判断する。
「何が書いてあるか」ということは、「誰が書いたのか」によってその影響力は違う。それは、日常的にもよくあることだ。
有名人の「名言」をありがたく思う人は多いけど、実は同じようなことを自分の親や学校の先生が言っていることもあるだろう。「話者」というのは、それだけでもたくさんの研究がある。
広告は、そうした前提のもとに、いわば「好かれるエイリアン」であろうとした。それが競争の大前提であり、ゲームのルールだ。今回のハンドブックは、その大切なところについて本質的な議論を提示している》
http://blogos.com/article/197867/
このあたりの議論の推移を見ていたふじいりょう(ブロガー)は以下のようにまとめている。
《個人的に注視したいのは、このタイミングでこの文書が出された背景だ》
《簡単に言うならば、現状のままならば景品表示法を所管する消費者庁による規制強化につながりかねない、というのがJIAAの「問題意識」であり「危機感」であるということだろう。規制当局に線引きをしてもらうのではなく、広告業界で自浄作用を働かすことができるということを示す、というのがJIAAがハンドブックを公開した目的であると、筆者は理解している》
《ただ、何をもって「広告」とするのか、規定をするのは難しい。2015年3月にJIAAが公表したガイドラインによると、「媒体社が広告主から対価を得て掲載する広告はすべてガイドラインの対象とする」としているが、「対価」とは何か。コンテンツを制作するのに必要な予算を提供されたことは「広告費」なのか「編集協力費」なのか(個人的には後者の立場になる)。物品を提供されたり、取材先までの交通費を負担された場合はどうなるのか。これらは関係者の間でも意見が分かれているし、このハンドブックでも「対価」について明確にすることを避けている。
こういった意見が割れている段階だと、消費者庁が十把一絡げに規制をしましょう、という方向になった場合、特定の企業が立ち上げた「オウンドメディア」までも潰れかねない(「広告」だとわかりにくいメディアは沢山存在している)わけで、そのための注意喚起の必要性に駆られてこのハンドブックは生まれたと言えるだろう》
http://bylines.news.yahoo.co.jp/fujiiryo/20161111-00064313/

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎旅行や温泉、グルメなどについての雑誌記事や書籍の制作で定評のあった編集プロダクション「マガジントップ」に対して東京地裁が11月2日に破産開始決定。負債総額は1億9527万円。
https://news.nifty.com/article/economy/stock/12204-12610/
蛇足だが私(岩本)は23年前に一度転職した際、このマガジントップが求人広告を出していたのを見て、同社オフィスを訪ねて社長の坂本文雄じきじきの面接を受けた覚えがある(結果は不採用)。いかにも鍛え上げのプロダクション社長といった風情の坂本の下、かなり広いオフィスに大勢の社員が働くなど盛業中であることを実感させた。今回の破産は9月に坂本が急逝したことがとどめの一撃になったようだが、もとよりデジタルシフトの影響をモロに受けるジャンルを手掛けてきた会社だっただけに、末期の苦境が偲ばれる。

電通が今年12月期第3四半期連結累計期間(2016年1月1日〜2016年9月30日)の連結決算を確定。収益5,882億円(前年同一期間比0.6%増)、売上総利益5,521億円(同1.7%増)、営業利益839億円(同17.2%増)など。
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2016/1114-009077.html

小学館ビッグコミック』での長寿連載作品「総務部総務課山口六平太」の作画を担当してきた漫画家の高井研一郎が14日に肺炎のため死去(享年79歳)。赤塚不二夫らによる「東日本漫画研究会」に参加し、赤塚の代表作の一つである「おそ松くん」(「おそ松さん」のルーツ)ではキャラクターデザインや執筆にも関わった。「山口六平太」の連載も今年でちょうど30周年だった。
http://www.sankei.com/entertainments/news/161114/ent1611140015-n1.html

◎小説家・夢野久作の没後80年を記念した『定本 夢野久作全集』の第1巻が明日16日に刊行。
http://kai-you.net/article/35333
言うまでもなく夢野の父親は伊藤博文の暗殺を企てた玄洋社杉山茂丸。茂丸は大阪系の新聞の創刊にも関与したことで知られる。夢野の作品で挿絵を担当した竹中英太郎竹中労の父親。

◎『少年ジャンプ』の大ヒット連載「僕のヒーローアカデミア」(堀越耕平)の担当編集者・門司健吾に『ORICON STYLE』が取材。同作の「実写化」などについての質問に対して、次のように答えたそうだ。
《この作品の場合、連載スタート前から堀越先生がかなりストックを持っていたということもありますが、基本的にこちらから言うのは『こういうキャラが見たいです』とか『展開に合わせてライバルを出しましょうか?』という相談ぐらいです》
《この作品の場合、(スケールが大きい)アクションシーンが多いですから、実写化するにはCGなどで相当お金がかかりそうですよね。どのぐらいあればできるんですかね?(笑)》
http://www.oricon.co.jp/news/2081094/full/

イラクでの取材中に身柄拘束され、先日無事に解放されて帰国したジャーナリスト・常岡浩介の解放&帰国後の第一声を、国内メディアで最初に報じた(電話インタビュー)のは7日夜放送のTBSラジオ「荻上チキ・Session-22」だった。
http://www.tbsradio.jp/89845
常岡は10日には有楽町の日本外国特派員協会での記者会見に臨んでいるほか、ネットメディアからの単独取材も受けている。最近はテレビや新聞などがこうした話題をあまり大きく報じなくても、ラジオやネットで当人の発言内容が即座にほぼそのまま報じられたりするのでありがたい。
http://blogos.com/outline/197689/
http://www.ganas.or.jp/20161113kt/

毎日新聞校閲部が、「こけら落とし」という表現を野球場のオープンについて報じることを「屋根のない施設に使うのは適当とはいえません」とウェブサイト上で用例として指摘したところ“プチ炎上”。
http://www.mainichi-kotoba.jp/2016/11/blog-post_7.html#more
http://togetter.com/li/1046085?utm_source=dlvr.it&utm_medium=twitter

◎鎌倉を拠点に、国内外の様々な地域とコラボレーションを図ることをテーマにしたイベント連動型のフリーペーパー『○○と鎌倉』が創刊された。編集長は『DAZED&CONFUSED JAPAN』『TOKION』などを手掛け、現在は鎌倉に活動拠点を移した原田優輝。第1回目は長崎県五島列島をパートナーとした『五島と鎌倉』。
https://www.facebook.com/andkamakura/
http://machinokoto.net/inter-local-magazine/
28年前に23歳で初めて東京に出てきて出版業界に入った私としては、こういう雑誌には頑張ってほしいと思う。だいたい東京に本社を置く大手の「全国規模」の出版社の人たちが「地方」という言葉を用いる時には「東京以外」(≒報じる価値は低い)という意味なんだということは、日常的に体験してきたからね。

◎マスメディア関連企業で「残業隠し」の実態があるのは電通に限らない、朝日新聞でもあるのだと、同社労組の機関紙で報じられた記事などをもとに『日刊ゲンダイ』が報じた。
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/193485

内閣府「消費者委員会」では現在、消費者契約法の見直しに関する専門委員会での議論の中で、「勧誘」要件の中に「広告」を含むかどうかの検討が行われているらしい。
http://www.tsuhanshinbun.com/archive/2016/11/post-2680.html

◎葬送業界誌『SOGI』がこのほど休刊。編集長で、自らを「葬送ジャーナリスト」と呼んでいるらしい碑文谷創(ひもんや・はじめ)は「この25年は、まさに日本の葬送激変期だった」と振り返る。
《同誌の創刊はバブル崩壊の時期。経済の低迷に合わせるように、葬送の風景は一変する。地方の「墓じまい」が始まり、葬儀は「低予算」が売り文句に。その一方で、「自分らしく」をテーマにした終活セミナーが盛況だ。業界を最前線で見てきて、いま、自著の題名どおり「死に方を忘れた日本人」が気になってしかたない。たとえば、近親者が故人の喪失を悲しむべき時間である通夜に、会葬者が押し寄せていいのか。葬儀をしないで火葬だけですませる「直葬」が首都圏を中心に広がるのはなぜなのか。「死から目を背け、死者に冷淡な雰囲気が広がっている」と心を痛める》
https://mainichi.jp/auth/check_login.php?url=%2Farticles%2F20161111%2Fddm%2F008%2F070%2F051000c

◎戦時中に旧日本軍属の通訳としてタイに赴き、あの泰緬(たいめん)鉄道建設で強制労働させられた連合国軍捕虜らへの慰霊と和解に修正を尽くした永瀬隆。彼が2011年に93歳で亡くなるまで、瀬戸内海放送高松市)の満田(みつだ)康弘(55)が追ったドキュメンタリー『クワイ河に虹をかけた男』の全国上映がこのほど始まった。
http://www.asahi.com/articles/ASJC25X2DJC2PTIL02W.html

◎創刊から29周年を迎え、今年6月の編集長交代依頼「攻めている!」感のある『レタスクラブ』編集長の松田紀子に『ダ・ヴィンチニュース』がインタビュー。
http://ddnavi.com/news/333082/a/

◎「アリさんマーク」で知られる運送業者「引越社」における雇用問題をめぐるドタバタがしばらく前から続いているのだが、ドタバタの模様はエスカレートする一方らしい。同社のブラック企業ぶりを労組側の立場から告発してきた「プレカリアートユニオン」や、一連の騒動の経過を映像取材してきたドキュメンタリー映画監督の土屋トカチに対して同社側は「引越社から半径500メートル内での街頭宣伝禁止」や「約1年前にユーチューブへ掲載した2本の動画を削除」せよと突きつけてきたらしい。
ちなみにプレカリアートユニオンによると、引越社は6月の団体交渉の際に「霞ヶ関で団体交渉に臨む」と伝えながら、前日の夜遅くになって会場は都心の霞ヶ関ではなく、埼玉県川越市霞ヶ関東武東上線霞ヶ関駅が最寄り)だと伝えてきたそうで、傍目には何やら悲喜劇のごとき様相を呈しつつある。
http://tokachi.jugem.jp/?eid=257
http://www.j-cast.com/2016/05/27268064.html?p=all

◎かつてNHKの報道記者やプロデューサーとして活躍し、退職後も立命館大学の教授として日本の放送におけるパブリックアクセス(一般市民がマスメディアで自らの意見や主張を発信できること)の重要性を訴えてきた津田正夫が、目下のNHKの現状に憤り、11月11日付(朝日新聞東京本社版)の「声」欄に、「受信料を地域や福祉の放送にも」と題された記事を投稿した。
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=1193969560692054&set=pcb.1193971000691910&type=3&theater
津田は今年6月に現代書館から『ドキュメント「みなさまのNHK」』を上梓している。私と旧知の津田によれば「NHK内部では『この著者は既に退職してNHKとは無関係です』との“回状”が出回った」らしいが。
http://www.gendaishokan.co.jp/goods/ISBN978-4-7684-5785-6.htm
ただ、津田が掲載に前後して私を含めた知人あてに送ってきたメールによると、朝日新聞の「声」欄担当者とは直前まで「大いにモメ」て「5回くらい書き直して、決裂寸前で妥協した」そうだ。彼は私や友人たちあてのメールや自身のFacebookでもそのやりとりをを以下のように書いていた。
《世界各地に受信料や公共料金をコミュニティやマイノリティに役立てている証拠があるか?私たちの本ではだめで、政府の公文書に根拠がなければダメだ、責任がもてないという。。これが「投書欄」の正体か?朝日のジャーナリズムの現状か、とため息が出た》

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3)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

「火事場の馬鹿力」は、平時の弛まぬ訓練なくしては身につかない。