【文徒】2017年(平成29)年4月18日(第5巻72号・通巻1001号)

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1)【記事】「ツタヤ図書館」問題の背景にある地方社会の変質
2)【本日の一行情報】

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1)【記事】「ツタヤ図書館」問題の背景にある地方社会の変質(岩本太郎)

ジャーナリストの日向咲嗣は、ネットメディア『ビジネスジャーナル』でなおも“ツタヤ図書館”の運営をめぐる問題を追求し続けている。
昨17日付のレポートでは今年2月に開館した岡山県高梁市立図書館の運営をめぐり、同市の教育次長(当時)が2015年3月の市議会で「採用しない」と答弁したはずの同館利用者へのTポイント付与(当然それらはTカード加盟店での買い物などに使われるため、そこで「税金によるCCCへの利益供与ではないか」との批判が出る)が、いつのまにか密かに導入されていた背景を、市議会関係者の次のような証言を紹介しながら報じている。
《『Tポイント付与をしない』と答弁していた元教育次長は、図書館は直営がいいと考えていた人なんです。市長は当初、スターバックスコーヒーだけ招致しようと思っていたのですが、スタバから、『うちだけでは採算が合わず出られない。武雄市みたいに図書館併設のフランチャイズなら出られる』と言われて、ある日突然、図書館をCCCに任せることにしました。そこで、直営を推奨する意見が出てくると都合が悪いので、その次長は飛ばされたのです》
http://biz-journal.jp/2017/04/post_18728.html
日向はさらに、図書館利用により付与されたTポイントがTカード加盟店で消費されてCCCに還流されていく流れをチャート図でわかりやすく示しつつ、厳しく批判する。
《つまり、CCCが図書館の指定管理者という優位的立場を利用して、グループ会社であるTPJとTポイント加盟店が得をするように仕向ける仕組みなのだ。(略)こうした仕組みを一切説明せず、「得をするのは市民」と言い放っている市教委は、いったい誰のために仕事をしているのだろうか》
まっとうな批判である。ただ、この「得をするのは市民」という言い草が、地域社会の中で得てして通用してしまうところに、今の公共図書館をめぐる問題の悩ましさもあるのではないか。
そんなことを感じさせるのが、立教大学准教授の貞包英之が13日付『現代ビジネス』に寄稿した「なぜ地方都市に『TSUTAYA図書館』が次々とつくられているのか?」と題された論考だ。社会学・消費社会論・歴史社会学を領域とする貞包には『地方都市を考える 「消費社会」の先端から』などの著作がある。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51414
この記事の中で貞包は、ツタヤ図書館に指摘されているような数々の問題があることを認めつつ、しかしそれらは《図書館業界全体の問題ともいえる》としたうえで《にもかかわらずTSUTAYA図書館だけがとくに業界の目の敵にされていることの核心には、「滞在」を特権視したその設計思想があるように思われる》と、まずは指摘する。
《(既存の図書館では)座りにくい椅子や使いにくい机を、多くの人びとが奪い合う現在の惨状も生まれている。学生や暇のある老人など一部の人を優遇できないという理由から、「滞在」は軽視されてきた。むしろ長時間の「滞在」を難しくするように、図書館の設備は(ホームレスを排除する街のベンチのように)貧弱にされているとさえいえる。
TSUTAYA図書館は、こうした図書館の「伝統」に反旗を翻した。
たんに貸出を目的とする人にとって、それは蔵書も貧弱で、本も探しにくい図書館でしかない。滞在のための時間的余裕があり、何ならスターバックスでコーヒーを買う金銭的余裕がある者が、その図書館のむしろターゲットになっているのである》
このあたりの指摘は出版業界関係者でも、例えば首都圏以外に出身地を持つ人であればどこか納得のいくものを覚えるのではないか。人口が減り商店街が空洞化し、溜まり場となるような喫茶店なども死滅し、ましてや書店などとうの昔に消滅した街に、町おこしのお題目の下に建てられた豪華絢爛なコミュニティスペースとしての公共図書館が次々に開館。しかもそこそこの利用者で賑わっている……といった光景がすぐに脳裏に思い浮かぶという人も多いはずだ。近頃では郊外型の大規模量販店が経営不振により各地で次々閉店に追い込まれているから、なおさら図書館の存在感が高まってきているところもあるかもしれない。
貞包はさらに、書籍点数や書籍発行部数、書店数の減少といった統計データも例示しながら論述した末、最後に《地方の消費環境の変化が、「滞在型」図書館の価値を高めている可能性》について言及する。
《人口減少と消費社会化に飲み込まれる地方で、図書館は本を借りることやさらに読むことさえ超え、快適に滞在するとともに、金を使わずにモードに触れ、現代社会の住人であることを確認させてくれる貴重なオアシスとして重宝されているのではないか。
つまり図書館はモードとしての情報を更新する「消費社会」からその地方が見捨てられていないことを示す証拠となっているのであり、そうして多くの人を集めることで、昨今ではまちづくりの目玉として政治家の政争の具にさえされているのである》

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

東京MXテレビで放送された『ニュース女子』の沖縄報道問題については先日発行の『メディアクリティーク』の拙稿でもレポートしたが、番組を手掛けた制作会社のDHCシアターは、これまでBPO放送倫理・番組向上機構)による聞き取り調査には応じていないそうだ。
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/93311
ちなみにDHCシアターは4月1日付で社名を「DHCテレビジョン」に変更していた。エイプリル・フールではなかったようだ。
https://dhctv.jp/information/2017-04-01-294344/

ブックオフの業績不振には歯止めがかからないようだ。さる10日には社長が交代した。そういえば拙宅最寄りの新中野店(都内中野区本町)も既に閉店セール中。一駅隣りの中野坂上店も3月20日に閉店してしまった。
https://thepage.jp/detail/20170412-00000002-wordleaf

サイバー・コミュニケーションズがD2Cと共同で推計した「2016年インターネット広告市場規模推計調査」によると、昨年のスマホ向け広告費は6476億円で前年比30%の伸び。2012年からの4年間で実に8倍にまで急拡大したそうだ。
http://www.d2c.co.jp/news/2017/04/17/1763/
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO15376210W7A410C1TJC000/

◎ネットメディア『COMNICO』が今年4月現在の人気SNSFacebookTwitterInstagram、LINE)の国内および世界におけるユーザー数の「まとめ」を掲載している。
https://blog.comnico.jp/we-love-social/sns-users-april-2017

◎アマゾンジャパンが去る15日、仙台市の「せんだいメディアテーク」で「Kindle ダイレクト・パブリッシング(KDP)」を体験するワークショップを開催(首都圏以外の地方都市では初めてらしい)。ジャーナリストの大河原克行が当日の模様を詳細にレポートしている。
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/gyokai/1055201.html
ちなみにこの「せんだいメディアテーク」は仙台市の中心部にある大規模な公共施設で、映像等の編集機材やスタジオ、上映会場、図書館などを備え、地元のアーチストやメディア教育関係者、一般の市民による利用も多い。
http://www.smt.jp/info/

◎1985年に創刊されて以来、ゲームの裏技や改造情報などマニア向けの情報を扱うなどして人気を博してきた月刊誌『ゲームラボ』(三才ブックス)が5月16日発売の6月号限りで休刊。公式サイトでは未だ告知はないが、編集長が『JCASTニュース』の取材に対し「ピーク時と比べると、部数はかなり落ちていた」などと休刊の理由を説明したとのこと。
https://www.j-cast.com/2017/04/14295630.html
http://dailynewsonline.jp/article/1300687/
http://www.sansaibooks.co.jp/category/gl

◎ジャーナリストの黒藪哲哉が、国勢調査の全戸告知を担当していた博報堂が新聞広告(政府広報)による告知を大幅に「間引き」していたのではないかとの疑惑についてレポートしている。
http://biz-journal.jp/2017/04/post_18727.html

◎『月刊ドライブイン』という雑誌が創刊されたそうだ。「HB編集部」としてミニコミなどを作り続けているライター橋本倫史が、2011年から各地の街道沿いにあるドライブインを訪ね歩いて写真入りのルポで伝えている。荻窪の書店「title」や下北沢B&Bなどでも扱っているとのこと。
https://twitter.com/hstm1982/status/848099275003248640
http://hb-books.net/items/58dda7811f43755496005502
http://www.excite.co.jp/News/bit/E1492085403918.html

◎沖縄の各地域ごとに異なる言葉「しまくとぅば」を紹介する電子書籍『くらべてみよう しまくとぅば』を地元出版社の沖縄時事出版が制作し、1月から「THE沖縄本.com」で公開されている。
http://www.okinawabon.com/kurabetemiyou.html
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/93428

佐藤春夫の小説『初恋びと』が連載された(1951年2月号〜翌年1月号)月刊誌『新婦人』が、佐藤の出身地・和歌山県新宮市の市立佐藤春夫記念館に寄贈された。収集家が古書店や東京の日本近代文学館などをめぐって収集した。『初恋びと』はこれまで佐藤春夫全集に第10章のみが掲載されていた“幻の作品”で、今回の寄贈により全12章で完結することが確認された。
http://www.yomiuri.co.jp/local/wakayama/news/20170414-OYTNT50245.html?from=tw

◎『PLAYBOY』創設者ヒュー・ヘフナーの人生を描く長編映画が制作されるらしい。
https://www.cinematoday.jp/page/N0090902

◎世界で唯一、北海道だけで行われている曳き馬競馬「ばんえい競馬」の、帯広競馬場で開催される全レースの生中継を、「ニコニコ生放送」が今シーズン開幕日の4月21日より開始する。
http://live.nicovideo.jp/gate/lv295437573?stop_redirection_to_live2=2d7e168807b8690f34e4613f659b3df4dccfccea&
http://itlifehack.jp/archives/9531481.html

◎2020年の東京オリンピックパラリンピック開催に伴い、メディア施設として使用される予定の東京ビッグサイトが前年から足掛け2年間に渡り利用制限されることについて、これまでビッグサイトで展示会やイベントを行ってきた主催者向けの説明会が26日に行われるそうだ。
http://kokoro.eikou.com/archives/845