【文徒】2017年(平成29)年6月14日(第5巻110号・通巻1039号)

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1)【記事】上原正三「キジムナーkids」をご存じでしょうか?
2)【記事】雑誌情況への提言:何もかもが劣化し退化していくのか?だったら雑誌は滅べ!
3)【記事】小学館が新星出版社にタイトルが一字しか違わない類書の販売停止を求める
4)【本日の一行情報】
5)【人事】主婦の友社6月27日付社長人事
6)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】上原正三「キジムナーkids」をご存じでしょうか?

現代書館から上原正三の「キジムナーkids」が刊行された。
http://www.gendaishokan.co.jp/goods/ISBN978-4-7684-5804-4.htm
上原正三による、これはウチナーイクサ(沖縄戦)の傷痕を背景とした「オキナワングラフィティー」である。少年の目を通じて沖縄の絶望と希望が活写される。むろん、その少年は上原正三その人である。
上原正三は沖縄出身の脚本家である。夭折した金城哲夫ともども「ウルトラQ」「ウルトラマン」などの円谷プロによる特撮ドラマを支えて来た脚本家のひとりである。「無常」で知られる映画監督の実相寺昭雄も「ウルトラマン」の演出をしていたし、大島渚率いる創造社に属していた佐々木守石堂淑朗もこのシリーズには脚本家として参加しているし、市川森一も「ウルトラマン」シリーズの出身だ。他に小山内美江子長坂秀佳も上原がメインライターをつとめた「帰って来たウルトラマン」の脚本を書いている。
現代書館は「上原正三シナリオ選集」も刊行している。
ウルトラQ」「ウルトラマン」「ウルトラセブン」「シルバー仮面」「スーパーロボット レッドバロン」「イナズマン」「秘密戦隊ゴレンジャー」「ジャッカー電撃隊」「宇宙刑事ギャバン」「柔道一直線」「がんばれ! レッドビッキーズ」「ゲッターロボ」「宇宙海賊キャプテンハーロック」など、上原が脚本を手がけた子供向け番組は1000本に及ぶが、そのなかから50作品を精査している。
http://www.gendaishokan.co.jp/goods/ISBN978-4-7684-7667-3.htm
上原正三シナリオ選集」という下地があったからこそ現代書館は「キジムナーkids」を刊行できたのである。
ちなみに切通理作のデビュー作は「怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち」であるが、タイトルからし上原正三に対するオマージュが込められている。「帰って来たウルトラマン」のなかの「怪獣使いと少年」は上原の代表作である。差別問題と正面から向き合っている。
http://www.yosensha.co.jp/book/b194602.html
上原自身が「怪獣使いと少年」について語っていた。
「登場人物の少年は北海道江差出身のアイヌで、メイツ星人が化けた地球人は在日コリアンに多い姓『金山』を名乗らせた。1923年の関東大震災で、『朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだ』『暴動を起こした』などのデマが瞬く間に広がった。市井の善人がうのみにし、軍や警察と一緒になって多くの朝鮮人を虐殺したんだ。『発音がおかしい』『言葉遣いが変』との理由で殺された人もいる。琉球人の俺も、いたらやられていた。人ごとではない」
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/26034
上原正三切通理作の対談動画がYouTubeにアップされている。
https://youtu.be/U7ULEXXsi-E
https://youtu.be/f78O0Pk6yUU
今年、創業50年を迎える現代書館は良い作品に出会ったものである。

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2)【記事】雑誌情況への提言:何もかもが劣化し退化していくのか?だったら雑誌は滅べ!

客 随分とご立腹だったらしいじゃないか。神保町界隈では早くも話題になっているよ。
主 ある雑誌社が先週の金曜日に広告会社向けに説明会を開いたんだよ。オレはどうしても外せない別件があり、説明会には岩本太郎記者に出席してもらったんだけど、その電話はハナから、おかしかったんだよなあ。
客 どこがおかしかったのかい?
主 まず電話に出たのがオレであることがわかると、金曜日の説明会にはご出席いただき有り難うございましたとお礼から始めるわけよ。オレは出ていなかったんだよ。また先方は「営業企画推進の飯田」と名乗ったけれど、そんな奴と名刺交換したことなんかこれまで一度もなかったけれど、そういうことはお構いなしなんだよね。オレは取り敢えずはそういう無礼には目を閉じて、その電話の主の話を聞くことにした。で、あきれ果てて、怒鳴ったのよ。
客 何にあきれ果てたのかい?
主 「文徒」に書いた記事のURLを早急に削除してくれというのさ。その言い方も、有無を言わせない物言いで、これが結構、強圧的なのよ。それでも最初は「あなたは何を言っているのか分かるのか」と注意するにとどめて、怒鳴り散らすまではしなかった。何でも自分たちがYouTubeにアップした動画は編集していなくて雑音が入っていたので「文徒」で紹介したURLを削除して欲しいというわけさ。しかも上司の指示だと。恐らく、オフィシャルな発言だけではなく、例えばその社の常務が大阪屋についてディープな話題に言及したりしていることが雑音ということだったはずだ。でも、ヨソの人間に聞かれちゃまずいことを、よくもまあYouTubeに正式にアップするよな。
客 君に電話をして来た奴って、君は一度も会ったことがなくて、その電話で初めて声を聞く人間だろ?
主 だから、電話を貰った段階では「飯田」を名乗る人物が本当にその雑誌社にいるかどうかもオレとしちゃあ確認が取れないわけよ。どんな要件であっても、そんな奴の言うことは何一つとして信用できるはずもないよね。
客 そりゃあそうだ。しかし、君も笑って済ませないとは狭量だね(笑)。
主 その社は日々の出版活動においてジャーナリズムという領域にも深くかかわっているわけよ。そういう「正論」を展開する雑誌社の社員が既にYouTubeで公にされているURLを削除してくれとは、そもそも電話一本で言って来るような用件かね。「飯田」って人にとって「文徒」がジャーナリズムであるという認識なんてないんだろうな。オレも随分と甘く、軽く見られたものだよ。
客 現在は、このURLをクリックしても「この動画はユーザーにより削除されました」と出るように、この雑誌社自らが削除しているから誰も閲覧できなくなっている。だいたいがさ、雑音を入れたままの動画をYouTubeで公にしておいて、そのURLを紹介した途端に削除しろって、その人たちはデジタルを理解しているのかね。
主 デジタルを深く理解しているつもりだから広告会社向けに説明会も開くんじゃないのかね(笑)。オレは電話で結局怒鳴り散らしたんだけれど、この「飯田」さんは事の重大さを嫌になるほど理解していないのよ。仕方ないから、オレはその会社の広報に連絡して事の次第を説明した。
客 そうしたらお偉いさんが君の事務所にやって来たと。
主 ここからまたまた信じられないようなことが起きる。まず上司と名刺交換をして、「飯田」さんと名刺交換する段になったんだけれど、この「飯田」さん、何と名刺を会社に忘れて来てしまったというんだよなあ。走って取りに帰ってもらうことにしたけれど、こいつ緊張感ゼロなのさ。こいつらの相手をしているうちにオレは次第に悲しくなって来た。
客 あぁ、その心情は理解できる。
主 ここまで雑誌広告にかかわる人間が劣化しているとは思いもしなかったからね。肩書を見ると「課長代理」とあって。単なるヒラ社員ではなかった。出版社で広告に携わる人材がこのように劣化し、退化し…こんなことじゃ雑誌は滅んで当然だとさえオレは思ったよ。ちょうど上原正三の「キジムナーkids」を読み終わったときに電話がかかってきたのも、ある意味、象徴的だと思うんだよね。これが同じ出版業界なの?と首を傾げざるを得なかった。
https://youtu.be/SiSF8b1dLOQ

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3)【記事】小学館が新星出版社にタイトルが一字しか違わない類書の販売停止を求める

小学館は、同社が刊行した「やせるおかず 作りおき」(柳澤英子)と、タイトルや表紙デザインが酷似しているとして、「やせるおかずの作りおき かんたん177レシピ」(松尾みゆき)を刊行した新星出版社に対し、販売停止を申し入れた。確かにタイトルの違いは「の」があるかどうかである。
「新星出版社書籍の外見は、判型こそ弊社ムックよりひとまわり大きいものの、タイトルは弊社ムックの『やせるおかず 作りおき』に、『の』一文字を加えただけの『やせるおかずの作りおき』であってほぼ同一であり、かつカバーデザインにおいては、写真素材、文字の置き方(タイトルが縦書きであること等)、色使いに至るまで弊社ムックに酷似しています」
https://www.shogakukan.co.jp/news/158338
新星出版は「小学館からの申し入れに対しましては、真摯に受け止め検討中」だそうだ。
「当社は創業以来80年、料理を始めとした生活実用書専門の出版社として出版活動を行っています。その長年の出版経験から、近年の読者が料理書に求める傾向を以下のように考え、料理書編集コンセプトとして様々な書籍を刊行しています。
当社の料理書は『基本・定番』『作りおき』『糖質』『やせる』『つかいきり』『かんたん・すぐ』を基本コンセプトに編集しています。また、本作りにつきましては書店が陳列しやすいように、そして読者が使いやすいようにという『店頭』『読者』それぞれの風景をイメージしてシリーズ展開や判型、価格設定をしております。
当該書籍は『たっぷり作ってずっとおいしい! ○○○○作りおき』シリーズ(既刊4点)として、それぞれのテーマにふさわしい著者に執筆していただき出版している企画の1点です。その内容は当社独自の編集方針によるものであり、小学館のコメントにもありますように、小学館書籍とは判型も含めて内容やコンセプトはまったく異なるものであることをお伝えいたします。
従いまして当社としては、小学館の書籍と混同させて販売する意図はありません。
なお、小学館からの申し入れに対しましては、真摯に受け止め検討中です」
http://www.shin-sei.co.jp/np/news/44/
デザインも似ているのは同じデザイン事務所を使っているからだ。次のようなツイートを発見。
「新星出版さんの問題、同じデザイン会社さんが作ってたのね。売れているものに傾向をあわせるのはよくある事かもだけど確かに似すぎかも。今回の問題とは逆に表紙だけ違って中身が酷似してたらどうなるのかな。難しいねいつも。デザインあふれてるから」
https://twitter.com/ehhhon/status/874508507470479360

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4)【本日の一行情報】

◎「夕子ちゃんの近道」でその名を文学史にとどめることとなった長嶋有の作品の特徴のひとつは、実在する固有名詞があまた登場することだが、長嶋による映画評論集「観なかった映画」(文藝春秋)は映画にかかわる固有名詞を極力排除するという方法論に貫かれている「快作」である。
http://ananweb.jp/news/114089/
http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163906041
確かに映画ファンは固有名で語っちゃうのよね。昨日もオレこんなことを喋っている。…「復讐のガンマン」のセルジオ・ソリーマ監督はチャールズ・ブロンソン主演で「狼の挽歌」を撮っているけれど、この映画の脚本はソリーマと「流されて」のリナ・ウェルトミューラーによって書かれているんだよ、とまあこんな具合に。
ちなみに「狼の挽歌」のDVDにはブロンソンの出演したマンダムのCMが収録されている。このCMの演出を担っているのは「ハウス」でメジャーデビューを果たす以前の大林宣彦である。
http://www.goo.gl/crcgc7

集英社の「週刊少年ジャンプ」は全国紙に匹敵する部数を誇示していたことがあった。
「『ジャンプ』の最盛期の発行部数は、1995年の初頭に記録された653万部です。実に現在の3倍の数字です。さらに『ジャンプ』などの週間漫画雑誌は、複数の人間が読むメディアとしても知られています。3人に回覧されていたとすればおよそ2000万人が目にしていたことになります。まさに、怪物的なメディアであるといえるでしょう」
http://b-chive.com/business/career/finding-employment/industry-research/publishingindustry%EF%BB%BF/jumpsaiseikibusu.html
1995年には阪神・淡路大震災オウム真理教による地下鉄サリン事件が起きている。

双葉社にとって政治家の写真集は得意な出版物のひとつである。「小池百合子 写真集 YURiKO KOiKE 1992―2017」を刊行した。「Koizumi―小泉純一郎写真集」も上西小百合のフォト自叙伝「小百合」も双葉社の企画であった。
http://www.sponichi.co.jp/society/news/2017/06/12/kiji/20170611s00042000363000c.html

◎honto電子書籍ストア、eBookJapan、BOOK☆WALKERと3社横断でボーイズラブを題材とした川柳の募集企画を開始する。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000241.000011577.html

◎6月15日発売の「女性セブン」は「うんこ漢字ドリル」大人版の綴じ込み別冊付録を6月15日発売号で実現する。
https://www.news-postseven.com/archives/20170611_561531.html

◎メディアドゥの藤田恭嗣社長らしさとは、次のようなところに凝縮されているのではないか。
「次に、創業者である藤田恭嗣がどういう人間であるのか、私の故郷である徳島県に連れていきます。私が地元の人たちとどのように挨拶し、どんな話をしているのかを見せることで、私の人となりを見てもらう機会を作っています。
私は誰隔てなく自宅に招きます。都会育ちの人には珍しいことかもしれませんね。私が家族の関係を大切にしていることを知ってもらいたい。仕事をするのも同じで、家族と同じように接します。メディアドゥという会社がどんな価値観を大切にしているのかをこの研修で知ってもらうのが狙いです」
http://kigyoka.com/news/magazine/magazine_20170612.html

朝日新聞が13日付朝刊で「『出会い系バー』報道が波紋」を掲載し、産経の言い回しを借りるならば読売新聞にかみついた。
http://www.asahi.com/articles/ASK687F2QK68ULZU00V.html
http://www.sankei.com/life/news/170613/lif1706130019-n1.html

秋田魁新報によれば秋田県に書店は「20年ほど前は120店以上あった組合加盟店が、現在は27店まで減少」しているそうだ。
http://www.sakigake.jp/news/article/20170613AK0006/

◎2018年に創刊50周年を迎える集英社の「週刊少年ジャンプ」が、7月1日からTBSラジオで記念番組「サンドウィッチマンの週刊ラジオジャンプ」をスタートさせる。
http://mantan-web.jp/2017/06/12/20170612dog00m200025000c.html

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5)【人事】主婦の友社6月27日付社長人事

矢粼謙三
新:代表取締役社長
旧:取締役販売担当

荻野善之
新:顧問
旧:代表取締役社長

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6)【深夜の誌人語録】

コミュニケーションに欠かせないのは体温である。