【文徒】2017年(平成29)年6月19日(第5巻113号・通巻1042号)

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1)【記事】 大宅壮一文庫クラウドファンディングはひとまず成功するも根本解決にはあらず
2)【本日の一行情報】
3)【人事】文藝春秋 7月1日付組織改編および人事異動

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1)【記事】 大宅壮一文庫クラウドファンディングはひとまず成功するも根本解決にはあらず(岩本太郎)

一昨年あたりから公けに語られるようになってきた大宅壮一文庫の経営危機説だが、さる5月18日から「Readyfor」で始めた運営資金募集のクラウドファンディングは反響を呼び、開始からの3日間で目標金額の500万円に到達。昨日6月18日では683万3000円と、今月末の終了時までには700万円にも届くかという状況だ。集まった資金は職員の給与から施設・備品の補修や購入、雑誌記事索引データベースシステムの改修費など、ほぼ経営の全般に供されるという。ちなみに、リターンは出資額に応じて同文庫の入館料を無料にするほか、館内に出資者の名前を掲示、普段は利用者が入れない書庫内に入って閲覧できる……などだ。
https://readyfor.jp/projects/oya-bunko
メディアでもかなりこの件は紹介された。上記の「Readyfor」では「ご紹介いただいたメディア様」として朝日新聞東京新聞のほか、『WWDジャパン』『夕刊フジ』『AERA』を列挙。産経も17日付で以下のように、自らと大宅文庫との関わりにも言及しながら報じていた。
《同文庫は「一億総白痴化」など、時代を鋭く切り取る造語を生み出した戦後を代表する評論家、大宅壮一(1900〜70年)が、サンケイ新聞(当時)で連載した歴史紀行文「炎は流れる」(1963年元日から444回)執筆のため20年かけて集めた明治、大正期の雑誌約17万冊と書籍約3万冊がもとになっている》
しかし一方でこの件、大宅文庫に大量の蔵書が収められている出版社系の媒体は、上の「ご紹介いただいたメディア様」の中には名前が挙がっていないんですね。私もネットで探してみたけど、それらしき記事を紹介している例は見つからなかった。上記の産経の記事も、さらにこんなふうに紹介しているのだが。まあ、私にしても最近は調べものはネット中心で大宅文庫には年に数回しか行かなくなってしまったから他人のことは言えないけど。
《「大宅壮一文庫を存続させたい」との悲痛なメッセージが掲げられるサイト内の応援コメントを見ると、『週刊誌で仕事をしていたとき、ものすごくお世話になりました』や、『職業柄なくてはならない』『インタビューの仕事のたびに…』など、やはり編集関係の仕事をしている(していた)と思われる人の声が掲載されている》
http://www.sankei.com/premium/news/170617/prm1706170006-n1.html
AERA』の記事ではアカデミック・リソース・ガイド代表の岡本真が、図書館のクラウドファンディング成功事例として松竹大谷図書館のケースを引き合いにしながら次のような見解を述べていた。
クラウドファンディングはお金の調達だけが目的ではありません。松竹大谷図書館は、持続的に応援してくれるファンを獲得した成功例。大宅文庫も、マスコミ以外の利用をどう開拓するかが鍵になる。大切なのは、支援者に継続的にアプローチして、中長期的に応援してもらう関係を作ることです》
https://dot.asahi.com/aera/2017052900065.html
フリー編集者で出版業界動向を追い続けている塚田眞周博は、一昨年夏に逸早く大宅文庫まで取材のうえ経営問題をレポートして以来の知見をもとに、今回のクラウドファンディングに対しては次のような“苦言”を呈している。
《出資者への見返りの微妙さもさることながら、資金の使い道が、そもそもの解決にはつながらないのではないか?火に油を注いだ者として、あえて苦言を。この500万円、全額とは言わないが、その一部をまわして、優秀なコンサルタントチームを組織して、改善点のグラウンドデザインを考えてもらったほうが、よっぽどいい》
https://www.facebook.com/masuhiro.tsukada/posts/1341992019188116
少し遅れて大宅文庫の担当者まで直接取材に行った私(レポートは『メディアクリティーク』2015年8月15日号に掲載)も上記の岡本や塚田の意見に近い。おそらく運営資金を集めるだけでは大宅文庫が自立的に経営再建を根本から図ることはほぼ困難だろう。「優秀なコンサルタントチーム」もさりながら、昔はよく利用したのに足が遠のいた出版業界人、ひいては自らの手元にもなくなってしまったようなバックナンバーを大宅文庫に書庫代わりに蔵書してもらっている出版社各社がそろそろ支援や再建事業への参画を図るぐらいのことも考えられて良いのではないか。

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

キネマ旬報社の公式アカウントが、「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案が成立した15日の朝、《国会死んだ》《国家権力の暴走を見た朝》や、NHKに対しても《これでは官邸の放送局だ。公共放送も死んだ》などと、末尾に「松」の一文字署名入りでツイートし、ほどなく炎上。キネ旬側は翌16日に公式サイトで《各アカウントの投稿者は複数名です。投稿の全てが、必ずしも当社の公式発表・見解を表しているものではありません》などと釈明した。
https://twitter.com/kinejun_books/status/875127045411422212
http://www.kinejun.com/kinejun//tabid/106/Default.aspx?ItemId=615
https://www.j-cast.com/2017/06/16300865.html
この件について菅野完が「実に面白い」としつつ、次のように述べていた。
《僕、電話番号認証もしくはメールアドレス認証してないアカウントのツイートが表示されない設定にしてあるんだけど、この設定だと、キネ旬の当該ツイートへのレスがほとんど表示されず、炎上どころか全く静かなもんだ。どんな輩がタカってるかよくわかるね。》
https://twitter.com/noiehoie/status/875868288433004544

◎「放射能の調査」などと称して女子中学生に触ったとして逮捕された35歳の男が「インターネットに掲載された男性漫画家の成人向け同人作品を模倣したと供述した」として、埼玉県警が同人作品を描いた作者のもとを訪ねて「模倣した犯罪が起こらないよう配慮してほしい」と要請していたと複数のメディアが報道。毎日新聞埼玉新聞は《漫画家は「少女が性的被害に遭うような漫画は今後描かない」と了承したという》などとも紹介。
https://mainichi.jp/articles/20170614/k00/00e/040/260000c
http://www.saitama-np.co.jp/news/2017/06/14/02_.html
これについて、当該の同人作品を描いたという漫画家「クジラックス」が15日夕刻以降《本当なのか知りたいという意見が目についたのでお話しします》と連弾ツイートで、県警がやってきた時のやり取りを以下のように説明した。
《実際に僕が話したことのニュアンスは、「『がいがぁかうんたぁ』を描いたのは4年ぐらい前でその後自分の描きたいものの興味も変遷していっているのでご時世関係なく『がいがぁかうんたぁ』っぽいものはもともともう描かないかもしれないと思っていた》
《犯罪者が『がいがぁかうんたぁ』をネットで見て真似たと供述している〉という報告を受けたので、僕はいよいよ『がいがぁかうんたぁ』っぽいものは描く気にならないと思う。」みたいな感じです》
《上記はあくまで僕個人の思ったことなので、「表現の自由が脅かされた」とか「警察の圧力に屈した」とか「前例ができた」とかいう類の話だとは思ってほしくないと思っています》
《警察の方の〈作品内容が模倣されないような配慮〉のお願いだって中々曖昧だと思います。僕と警察の方は、抗力も保障もない極めて曖昧なお話をしたのですが、「こんな事件2度と起こらなければいいのに」という気持ちは同じだったと思っています》
https://twitter.com/quzilaxxx/status/875275794448236545
これをきっかけに報道への批判が高まったことから、毎日新聞さいたま支局が公式アカウントで15日に反論。ただしやっぱり火に油を注ぐ格好になっているようだが。
《なんでこれで「ゴミ」呼ばわりされなければいけないんですか?この問題は、ほぼ埼玉新聞さんとうちしか報じておらず、他のマスコミは「どーでもいーよこんなの」ということです。正面から向き合ったうちがなんで「ゴミ」呼ばわりされなけれいけないのか理解に苦しみます》
https://twitter.com/mai_saitama/status/875374648925446144

晋遊舎のパソコン情報誌『Windows100%』が6月13日発売号(通巻225号)限りで休刊。1996年7月に創刊準備号を発行、98年10月から月刊化され、以来約20年に渡ってネット上のアングラ情報を中心に紹介してきた。
http://win100.jp/
https://www.j-cast.com/2017/06/14300589.html

ゲームブックや小説を電子書籍で配信する制作チーム「幻想迷宮書店」より、謎解き電子書籍『Domino』の配信が6月21日にスタート。
http://gensoumeikyuu.com/
https://www.value-press.com/pressrelease/184730

◎さる7〜9日に幕張メッセで開催された展示会「Interop Tokyo 2017」では、「radiko」のブースで「ハイブリッドラジオ」のデモンストレーションが行われた。ネット回線とFM波を併用し、電波が届くエリアでは通常のFM波で、難聴取地域ではIPサイマル放送へと切り替わることで安定した番組聴取が可能になるという仕組みだそうだ。
http://blogos.com/outline/228653/

手塚治虫鉄腕アトム』の中に出てくるエピソード「地上最大のロボット」を原作として浦沢直樹が描いた『PLUTO』がアニメ化されることが、フランスで開催された「アヌシー国際アニメーション映画祭」で公表された。現地ではアニメ化時のデザインによるキャラクターを入れたポスターも公開されたそうだ。『ビッグコミックオリジナル』に2003年から2009年にかけて連載された作品だ。
http://kai-you.net/article/42222

◎一方で、同じ浦沢が描いた原作による映画『20世紀少年』を手掛けた制作会社「アグン」が6月7日付で東京地裁から破産開始手続き決定。
http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1706/14/news099.html

◎あの『マジンガーZ』(1972年放映開始)の続編も劇場版アニメ映画になるそうだ。テレビアニメから10年後が舞台だとのこと。
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1706/16/news048.html

武富士闇金自衛隊の問題などを追及してきたフリージャーナリストの三宅克久が15日付のツイートで《安倍晋三が代表をする自民党支部が、政治資金で安倍本2000冊爆買い。》として、「自由民主党山口県第4選挙区支部」が2013年1月24日に都内の紀伊國屋書店で『約束の日』(前年夏に刊行された小川榮太郎『約束の日 安倍晋三試論』のことと思われる)を2000冊購入した際の領収書だという写真を公開。1冊1500円で合計315万円とのこと。
https://twitter.com/saibankatuhisa/status/875253862944329728

◎英国の『ガーディアン』が来年から判型をタブロイド判へと小型化するそうだ。
http://www.afpbb.com/articles/-/3131973

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3)【人事】文藝春秋 7月1日付組織改編および人事異動

〈組織改編〉
・旧メディア事業二部デジタル・ビジネス室は、メディア事業一部WEBマネジメント・チームに改編。
・旧ブランド事業部は、メディア事業三部に統合。

〈人事異動〉
阿部 雄輔
 新:メディア事業局イベント担当プロデューサー
 旧:メディア事業局ブランド事業部 部長

小林 昇
 新:メディア事業局企画出版編集室 編集委員
 旧:メディア事業局企画出版編集室 室長

石原 修治
 新:メディア事業局企画出版編集室 室長(副部長)
 旧:メディア事業局企画出版編集室 副部長

鳥山 靖
 新:メディア事業局メディア事業一部 部長
 旧:メディア事業局メディア事業二部 部長

杉野 弘治
 新:メディア事業局メディア事業二部 部長 兼 メディア事業局メディア事業総務部 部長
 旧:メディア事業局メディア事業一部 部長

日色 恵子
 新:メディア事業局メディア事業二部 副部長
 旧:メディア事業局メディア事業総務部長(副部長) 兼 メディア事業スーパーバイザー

杉下 一浩
 新:メディア事業局メディア事業一部 副部長
 旧:メディア事業局メディア事業一部 統括

田畑 亮
 新:メディア事業局メディア事業一部 WEBマネジメント・チーム 統括
 旧:メディア事業局メディア事業二部 兼 デジタル・ビジネス室 統括

佐藤 泉州
 新:メディア事業局メディア事業一部 次長
 旧:メディア事業局メディア事業二部 次長

佐藤 由樹
 新:メディア事業局メディア事業一部 WEBマネジメント・チーム 兼 メディア事業二部
 旧:メディア事業局メディア事業二部 デジタル・ビジネス室