【文徒】2017年(平成29)12月5日(第5巻228号・通巻1157号)

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1)【記事】講談社『健康格差』全章ネット公開プロジェクトが提示した可能性
2)【本日の一行情報】

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1)【記事】講談社『健康格差』全章ネット公開プロジェクトが提示した可能性(岩本太郎)

先月27日付の一行情報でも一度紹介しているが、講談社現代新書から11月15日に発売された『健康格差 あなたの寿命は社会が決める』(NHKスペシャル取材班 著)では有力ウェブメディア7媒体が、同書の中身を順次1章ずつ掲載する”全章公開プロジェクト”が行われた。
まず11月13日に版元である講談社『現代ビジネス』が「はじめに」を公開したのを皮切りに、27日から12月2日まで『日経ビジネスオンライン』『ダイヤモンド・オンライン』『プレジデントオンライン』『東洋経済オンライン』『BUSINESS INSIDER JAPAN』『ハフポスト日本版』の順で各章連日公開された。もちろん全て無料での公開だ(ただしチェックシートやコラムは書籍版にのみ掲載)。
以下の11月24日付『現代ビジネス』の記事には各日毎の記事URLのほか、各メディア編集長がこの企画に参加するに際しての抱負も掲載されていた。例えばこんな具合だ。
《有意義な取り組みに参加できて光栄です。ウェブ上で「確かな情報」へのニーズが高まるなかで、「悪貨」を駆逐するためのチャレンジだと受け止めました》(『プレジデントオンライン』編集長・鈴木勝彦=第3章を掲載)
週刊東洋経済は2016年7月2日号において「健康格差」と題する大型特集を組んでおり、これはNHKスペシャルの参考文献にもなっています》(『東洋経済オンライン』編集長・山田俊浩=第4章を掲載)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53493
企画のアイデアを思い付いたのは著者の『Nスぺ』スタッフの一人であるNHKディレクターの神原一光。『健康格差』のテレビ放映時にもTwitter上で「#健康格差」というハッシュタグを設けながら1万件を超える質問や意見を集めており、本の出版に際しても「テレビ局も出版社もリーチできない人がいる。そんな人にこそ読んでほしかった」との思いから「変なことをしよう」と出版社側と話し合ったという。
講談社としては新書の無料公開は初の試みだったが、担当編集者の小林雅宏は以前に『アフタヌーン』編集に所属していた時代にマンガの1・2巻無料公開を通じて手応えを感じていたことから社内で検討を開始。「今まで通りではダメだという思いが強かった」(講談社現代新書編集長の青木肇)、「仮に全章を自社のウェブメディアで公開しても、読者層と違う内容なら読まれない。だったら、色んなメディアと連携する方が、多くの人に知ってもらえると考えました」(『現代ビジネス』編集長の阪上大葉)などの賛同の声も得ながら実現にこぎつけた。
https://withnews.jp/article/f0171124003qq000000000000000G00110701qq000016327A
NHKが『Nスぺ』など番組企画の書籍化で様々な出版社とのつきあいがあり、従来からメディアミックス的な展開に慣れているといったことも、あるいは上手く作用したのかもしれない。また、企画がスタートするや各メディアの編集者たちもTwitter上でツイートしながら盛り上げていた。
NHK神原さんが中心となって手がけられた現代新書の新刊『健康格差 あなたの寿命は社会が決める』。売り方も工夫されるとのことで楽しみです》(『現代ビジネス』編集部の佐藤慶一)
https://twitter.com/k_sato_oo/status/930066416832692224
《メディア横断の新しい「公共情報」の共有。日経ビジネスオンラインも参加しています。こういう取り組み、もっといっぱいあるといい!》(日経BP社の柳瀬博一)
https://twitter.com/yanabo/status/934913489893670912
あの元NHK堀潤も古巣の後輩たちの著書でもあるだけに、さっそく応援メッセージ。
《皆さん、NHK神原チーム渾身の一冊「健康格差」、よろしくお願いします。講談社現代新書からです!》
https://twitter.com/8bit_HORIJUN/status/931905355444928512
『プレジデントオンライン』に掲載された第3章「"健康格差"イギリスと足立区の具体的成果」については、ご当地ということで足立区の地域情報を発信しているユーザーによって拡散されていた。
https://twitter.com/Adachiku_Guide/status/935717660742037504
腎臓病や透析の問題に取り組む「じんらぼ」も、『東洋経済オンライン』掲載に掲載された「健康格差の解消には『楽しい仕掛け』が必要だ WEBメディア全文公開プロジェクト 第4回」に呼応する形でRTしていた。
https://twitter.com/Jinlab_jp/status/936067369352523776
つまり、本来なら一つの出版社が出す一冊の紙の新書の中にパッケージされていた内容が複数のウェブメディアを通じて公開されることにより、各メディアや地域の周辺に存在する様々なコミュニティに伝わり、そこにファンや応援団を形成することに成功したのだ。
プロジェクト最終日の2日に『ハフポスト日本版』に掲載されたレポートで、ニュースエディターの生田綾による「ネットで読めてしまえば、ますます本が売れなくなるのでは?」との問いかけに対し、前出・講談社の青木と小林は《(社内の)営業担当からは、ネットで全文公開することに反対意見もあがった》と認めつつ、次のように答えている。
《ハッキリした物言いになりますが...その本が売れなかったとしたら、ネットで施策を打とうが打つまいが、おそらくその本はそんなに売れなかっただろう、という話です。今の時代、何かをやらないと、本は売れません。多少のリスクを負って、新たなチャレンジをしていかないと》(青木)
《本の無料公開をするために、競合メディア7社が繋がったのは、問題意識を共有できたからだと思います(略)Twitter的に言うと、同じハッシュタグで繋がりました》(小林)
http://www.huffingtonpost.jp/2017/12/01/kodansha-interview_a_23293563/
このプロジェクトが最終的にどれだけの成果を挙げられるかは未だこれからだろうが、既に11月27日の時点では講談社現代新書編集部が公式アカウントで『健康格差』が2刷に到達したことを報告していた。
https://twitter.com/gendai_shinsho/status/935001245059706880

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

クックパッドが始めた料理動画サービスについて、『東洋経済オンライン』は「今さら感」との評を交えながらレポート。動画進出への遅れや業績低迷の背景に、2年前までの”お家騒動”の影響が今なお経営の安定感を奪っていることがあるのではないかと匂わせている。
http://toyokeizai.net/articles/-/199548?utm_source=Twitter&utm_medium=social&utm_campaign=auto

◎「10年後には博報堂が代理店と呼ばれなくなっているのが目標」。それが、博報堂で9月に立ち上がったコンサルティング・ユニット「TEKO」の姿勢だという。クリエイティブディレクター4人とマーケティングディレクター1人で構成されるチームでリーダーを務める大澤智規氏は「代理店とクライアントの間でありがちな分断化された仕事のやり方を変えるため」だと結成の動機を説明。クリエイティブで事業戦略を牽引する吉澤到も「クライアントはマーケティングをコストと見なしているので、削減できるという考え方なのです」「我々が目指すのは、クライアントと共に成長していくこと。新たなプロジェクトを立ち上げ、収益を共有することです」などと述べる。『campaign』日本版によるレポートだ。
http://www.campaignjapan.com/article/大手広告代理店のビジネスモデルを変えられるか-博報堂-teko-の挑戦/441350?utm_content=buffereaa69&utm_medium=social&utm_source=twitter&utm_campaign=CAPJP_social_daily

朝日新聞の報道姿勢を批判していた長崎県平戸市黒田成彦市長が、市長室での朝日新聞の購読をやめたと自身のアカウントでツイートしたところ《一気にフォロワーが1千人近く増え》たことから《改めてこんなに嫌われている新聞なのだと実感した。でもなかなか廃刊にならない不思議も残った》などとさらに続報して話題に。それを『産経抄』が紹介。
https://twitter.com/naruhiko_kuroda/status/935173776827805697
https://twitter.com/naruhiko_kuroda/status/936122285345214464
http://www.sankei.com/column/news/171202/clm1712020003-n1.html
これに対して民進党参議院議員小西洋之が《市長の個人的見解で特定の新聞を排除する行為は、市政における適切な情報収集を妨げるものとして住民監査請求の対象になり得るのではないか。また、まかり間違うと行政権力による言論弾圧にもなりかねない行為である》と反論ツイート。さらに産経新聞やネット上で話題に。小西も産経に対し《法的措置を検討する》と批判。
https://twitter.com/konishihiroyuki/status/936908490634706945
http://www.sankei.com/politics/news/171203/plt1712030005-n1.html
https://twitter.com/konishihiroyuki/status/937249288287010816
https://twitter.com/konishihiroyuki/status/937258270703546368

◎『マガジン航』で仲俣暁生が「ZINEの生態系とローカリティ」について論考。「ZINE」とはミニコミや同人誌、リトルプレスなどの自主的な出版物を呼ぶ時に用いられる呼称のひとつ(magazineの末尾4文字に由来)で、先に発売された『日本のZINEについて知っていることすべて〜同人誌、ミニコミ、リトルプレス 自主制作出版史1960-2010年代』(ばるぼら野中モモ編著・誠文堂新光社刊)の中でも用いられている。論考では同書のほか、同じく先に発売された『編む人〜ちいさな本から生まれたもの』(南陀楼綾繁 著・ビレッジプレス刊)もテキストにしながら、各地で活躍する「ZINE」の動向を紹介している。
https://magazine-k.jp/?p=23072

◎アーティスト写真やファッションブランドのモデル撮影などを手がけるカメラマン・稲垣謙一が、毎号アイドル1組を特集するという雑誌『IDOL MOMENTS』の創刊号が12月28日に「500部限定」で創刊される。稲垣がアー写を撮っている4人組ユニット「Maison book girl」が同日に都内で行うワンマンライブで200部を販売するほか、ウェブや書店でも順次販売予定とのこと。
http://natalie.mu/music/news/259288

◎『FRIDAY』初期の専属カメラマンとして戦場取材や事件取材などを幅広く手掛け、フリーランスとなってからはアザラシの赤ちゃん、最近では講談社ビーシーから刊行の写真集『シマエナガちゃん』など動物写真家として活躍する小原玲に『日刊ゲンダイ』がインタビュー。経済的な厳しさを乗り越えつつ厳寒の地への取材に通う舞台裏について語っている。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/218453

◎月刊経済誌『ZAITEN』の1日に発売された1月号は「総力特集 『幻冬舎見城徹』この顔に気をつけろ! 安倍首相をたらし込む『新型政商』の正体」。表紙に誌名よりも大きな特集タイトルを配し、見城、およびその盟友とされる早河洋テレビ朝日会長兼CEO)の素顔や人脈に迫り、さらには2人の自宅や別荘の写真まで載せてしまうという気合の入れぶりだ。
http://www.zaiten.co.jp/latest/
ところで『ZAITEN』とは老舗の『財界展望』の現在の誌名だが、この業界環境にあってはご多分に漏れず苦戦しているらしく、現在は定価も1080円までアップ。今年11月号からの誌面リニューアルに際しては、何と経済誌ではおそらく初(?)の「袋とじ」企画まで毎号設けるようになったが、巻末の編集後記によれば読者やネット上での反応は思わしくないようだ。

◎渋谷でミニシアターを運営するアップリンクとパルコが共同で、吉祥寺に新たな映画館「「アップリンク吉祥寺パルコ」を来年冬に開業するそうだ。
http://eiga.com/l/WqAGB

◎コラムニストの妹尾ユウカが、祖母宅の隣で起きた火事の様子を見ながら現場の模様を動画とTwitterにアップ。さらに、その場にやってきたテレビ朝日のスタッフに動画があるかと尋ねられて見せた際の「おー! いいですね!」との相手のリアクションを《頭大丈夫ですか?》と続けてツイートしたことで炎上騒ぎに発展。
https://twitter.com/yuka_seno/status/937141593445826560
http://buzz-plus.com/article/2017/12/03/kaji-tereasa/

◎「NAVERまとめ」を運営するネクストライブラリ(LINE子会社)は、新たな著作権管理システム「Lisah」を11月29日から導入したと発表した。昨年末のDeNA騒動などによる著作権問題への意識の高まりに応えての施策らしい。権利者が著作物の画像を登録するだけで不正利用されている著作物をAIが自動的に探索。検知率は96%とのこと。
https://lisah.jp/about
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1711/29/news139.html