【文徒】2018年(平成30)9月11日(第6巻171号・通巻1345号)

Index------------------------------------------------------
1)【記事】毎日新聞の報道で急浮上した「ハゲタカジャーナル」問題
2)【本日の一行情報】
----------------------------------------2018.9.11 Shuppanjin

1)【記事】毎日新聞の報道で急浮上した「ハゲタカジャーナル」問題(岩本太郎)

毎日新聞が9月3日付「粗悪学術誌 論投稿、日本5000本超 業績水増しか」で報じた「ハゲタカジャーナル」の問題が学術関係者を中心にバズっているようだ。
「ハゲタカジャーナル」は英語で「Predatory Journal」、要は内容の信頼性を問わずに金さえ払えば正式な学術論としてそれを掲載してしまう、いわば学術論における「フェイクニュース」の発信源だ。
毎日が独自にそうした学術誌を多数発行する海外の出版社を調べたところ、《日本から5000本超の論が投稿されていた。九州大と東京大、大阪大、新潟大からは各100本以上を確認した》。
出版社の名前は明かされていないが《本社所在地を中国と自社サイトに表記。医学や化学、物理学、経済学など幅広い分野でオープンアクセス型の320誌以上を発行し、米国の研究者が粗悪な学術誌を発行する世界の「ハゲタカ出版社」をまとめたリストに名を連ねる》。ただし同社は取材に対して《リストは認められない。我々は有力な出版社の一つだ》と主張したそうだ。
https://mainichi.jp/articles/20180903/k00/00m/040/110000c
さっそく、その社名を詮索する投稿もTwitter上にはいくつか上がっていた。いずれも研究者(あるいはそれと思しき人物)のツイートだ。
https://twitter.com/rarara_chem/status/1036932269234159617
https://twitter.com/shiraga0516/status/1038348092565848064
https://twitter.com/hirotaka_ono/status/1036597821779001344
同じ名前が、4年前には国立研究開発法人「科学技術振興機構」のサイトでも米国コロラド州の図書館員が作成した《金目当ての(疑いのある)出版社リスト》に追加された《スイスに本拠を置く中国系出版社》として紹介されていた。ネット上で学術論を無料公開する“オープン(OA)アクセスジャーナル”の有力版元として知られる会社だ。もっとも、同社は2017年末までには「オープンアクセス学術出版社協会(OASPA)」の査察を受けて基準を満たすとの認定を受けたらしい。
https://jipsti.jst.go.jp/johokanri/sti_updates/?id=6965
某国立大学では、この出版社が発行するOAジャーナルに同大学構成員が論を投稿する場合《論投稿料(APC)が10%割引されます》と告知していた。
http://www.kulib.kyoto-u.ac.jp/bulletin/1378506
イギリス在住のジャーナリスト・木村正人は上記の毎日新聞の報道を受け「ハゲタカジャーナル」台頭の背景を以下のように指摘している。
《研究者は研究成果を上げて研究費を得る重圧にさらされています。「Publish or Perish(自分のキャリアを守りたければ、論を発表しろ)」というフレーズがあるほど、研究者の生存競争は苛烈です。
大学にも論数を増やして世界大学ランキングを上げ、政府からの運営費交付金助成金を獲得し、留学生を増やそうというインセンティブが働きます。自分にとって都合の良い論を使って製薬会社は自社薬品の売り上げを増やすことができ、化石燃料を売る業界は地球温暖化への疑念を拡散させることができるのです》
https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20180904-00095579/
3年前の『GIZMODE』にも「海外のエセ論誌に一番多く寄稿している日本の大学はどこ?」と題して、毎日の記事にも登場した和田俊和(和歌山大学教授)ほかによる分析結果が掲載されていた。
https://www.gizmodo.jp/2015/12/post_1212121356.html
『ハフポスト日本版』も、熊本大学など国内の大学で注意喚起の動きが広まっていることを伝えている。
https://www.huffingtonpost.jp/2018/09/02/predatorypublishers_a_23515016/
既に5年前から「ハゲタカジャーナル」と思しき版元に実際に電話して話を聞いてきたというブロガーもいた。
http://blog.livedoor.jp/dr7/archives/52223513.html
一方では「それの何が悪いの?」とブロマガで異を唱える人物もいた。毎日の記事が末尾で「中国人留学生が、中国での就職時に業績として使えるとの理由で多数の投稿を希望した」との九州大学教授のコメントを紹介していることに触れ《就職に有利だから資格取るようなもんでしょ?》と述べる。
http://ch.nicovideo.jp/hitoshinka/blomaga/ar1661024
ちなみに「ハゲタカジャーナル」という呼称に疑問を投げかける声もある。サイエンスライター粥川準二は自身がこの問題については以前より学術系媒体で何度もそれらのメディアについて「捕食ジャーナル」と訳しつつ取り上げてきた経験から、上記の毎日の記事を「いい仕事だ」と評価しつつも《「ハゲタカ」はハゲワシの俗称で、死にかけの獲物に群がるもの、を比喩している》と、直訳の「捕食」とは意味が明らかに異なることを、同じ毎日新聞のコラムで指摘していた。
https://mainichi.jp/articles/20180905/dde/014/070/015000c
わかりやすい言葉で問題が広がることは歓迎だが、専門分野に詳しい人物はやはりこうした言葉の使い方にも敏感なようだ。いずれにせよ学術分野版の「フェイクニュース」問題として今後さらにネット上を騒がすテーマになりそうだ。

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

小学館『幼稚園』10月号の付録「紙でつくるガシャポン」が話題に。発火点となったらしいあるユーザーの2日付ツイートにはたちまち「togetter」のまとめもつき、10日までに「いいね」約8万8000、RTが約4万2000に登った。
https://twitter.com/umako_inbe/status/1036503750943289344
https://togetter.com/li/1263440
ネットメディアもさっそく反応。同誌編集部の付録担当・大泉高志が取材に応じ、企画の趣旨や実現までのプロセスなどを語っている。大泉によれば、ある書店では《最も拡散された9月4日(火)の売上が、前日比の10倍になりました。元ツイートをしてくださった読者さんに大感謝です》とのこと。
https://irorio.jp/nagasawamaki/20180905/491607/
https://www.oricon.co.jp/special/51744/
https://curazy.com/archives/224155

◎東京高裁裁判官の岡口基一が、実際の訴訟の判決に関する自身のツイート内容を問題視され、高裁長官より「懲戒相当」として処分を申し立てられ、今日11日に最高裁で「分限裁判」の審問手続きに臨むこととなった。現職の裁判官が実名でTwitter発信しているケースはやはり異例のようだ。朝日新聞の取材に対して岡田は「高裁長官にツイッターやめるよう脅された」「表現の自由への侵害だ」として争う姿勢を示している。
https://www.asahi.com/articles/ASL927RGZL92UTIL022.html
https://www.asahi.com/articles/ASL964CMGL96UTIL03H.html

NPO日本独立作家同盟は恒例のイベント「NovelJam 2018秋」(11月23~25日)に先立ち、開催支援クラウドファンディングをMotionGalleryで始めた。
http://www.noveljam.org/2018/09/4678/

◎「note」が5つのECプラットフォームサービス(カラーミーショップ、SUZURI、STORES、BASE、minne)との提携を開始。これにより「note」のクリエイターは記事の中に商品情報をカードとして埋め込めるようになった。
https://note.mu/info/n/n2c3abf909a0d

◎漫画家・サレンダー橋本が「cakes」連載「働かざる者たち」の第9回(先月29日付)で新聞業界最大のタブーである「押し紙」をテーマに描いていた。
https://cakes.mu/posts/22233

集英社女性誌や書籍編集、ECサイト立ち上げや版権ビジネスに関わってきた野村衛が、神田神保町2丁目に昨年9月に創業したBooks&Companyにおいて「電子書籍における金融機能」と謳う新たなサービス「Books&Cloud」を10日にリリースした。同社で制作した電子書籍の販売後は、実際の売上には関係なく販売月の月末に50DL分の「みなし売上」を支払うという。
http://www.books-company.com/bookscloud/
https://straightpress.jp/company_news/detail?pr=000000009.000031153

◎大阪の朝日放送テレビ(ABC)は、バーチャルYouTuber(VTuber)ユニット「KMNZ」のプロデュースを手がけるFictyと共同で、VTuber事業における共同プロジェクトを立ち上げると発表した。ABCでのテレビ番組出演なども視野に、オーディションを開催するそうだ。
https://www.moguravr.com/abc-vtuber/
https://www.abctv.ficty.net/

◎そのABCの人気番組『探偵!ナイトスクープ』の初代プロデューサー・松本修の著書『全国マン・チン分布図考』が10月5日に集英社インターナショナルから発売。7日に大阪で松本と、同番組では探偵役を務める間寛平も出席した記者会見が行われた。23年前、全国各地における男女の陰部の呼称の分布図を番組でやろうとしたものの断念。松本が1人で全国を取材するなどして出版にこぎつけた。
https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2018/09/07/kiji/20180907s00041000293000c.html
探偵!ナイトスクープ』は関西地区で絶大な人気を誇りながらも関東地区では初期の頃にテレビ朝日ではなかなか放送されず、テレ朝での放送開始後も放送時間がころころ変わるなど冷遇されてきた末に、現在では再び首都圏独立局(東京MXなど)での放送となっている。
1975年のネットチェンジ以前はTBS系だったABCとテレビ朝日との仲の悪さを象徴する番組としても放送業界では知られる。ちなみに百田尚樹は『探偵!ナイトスクープ』のチーフ構成作家ある。

◎京都や滋賀の広告関連企業で組織する「京都広告懇話会」が、広告原稿に感謝する「版下供養」を7日に京都市中京区の本能寺で営んだそうだ。34回目だが、現在は既にデジタルに移行しているためデータの入った磁気ディスクや校正原稿を供えたとのことだ。
https://www.kyoto-np.co.jp/top/article/20180907000179

◎1965年から各地方紙に「家庭欄」の記事を送り続け、2017年に幕を閉じた家庭通信社の記録『家庭通信社と戦後五〇年史―『生き路びき』と女性の生き方』が8月25日に論創社より刊行された。著者の関根由子は1969年に同社に入社し、89年に代表に就任した。
http://ronso.co.jp/book/%E5%AE%B6%E5%BA%AD%E9%80%9A%E4%BF%A1%E7%A4%BE%E3%81%A8%E6%88%A6%E5%BE%8C%E4%BA%94%E2%97%8B%E5%B9%B4%E5%8F%B2/
https://pro.kinokuniya.co.jp/fr08001Action.do?search_detail_called=1&isbn=9784846017040&UserID=bwpguest&ServiceCode=1.0
昨年、関根は『伝統工芸を継ぐ男たち』(論創社)を上梓した際、産経のインタビューに応じ次のように語っている。
「私たちは戦後、親の化を否定してきた世代。でも、捨てたものの中に大切なものがあると、ある年齢で気付いた。これからも、日本の手作りのよさを、次の世代に伝える応援をしていきたい」
http://www.sankei.com/life/news/170917/lif1709170034-n1.html

◎昨年10月に新宿にオープンした「歌舞伎町ブックセンター」が早くも移転を計画しているらしい。ビルの建て替えによるもので、現在の店舗での営業は10月7日で終了。移転先は9月7日現在《物件が見つからず未だ決まっておりません》とのこと。
https://www.facebook.com/KabukichoBookCenter/
https://www.cinra.net/news/20180907-kabukichobookcenter

◎「BOOK AND BED TOKYO」は今秋に6店舗目を大阪・心斎橋にオープンする。
http://bookandbedtokyo.com/ 
https://www.traicy.com/20180907-bookandbedtokyo

◎月刊『ムー』は来年で創刊40周年。その記念展が10月12日から池袋のパルコミュージアムで開催される。
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1809/07/news054.html
https://www.cinra.net/news/20180909-mu

◎来年で80歳となる高杉良は現在も新作に取り組むべく取材活動中。
https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201809/0011613408.shtml 

さくらインターネットの石狩データセンターは、6日の北海道地震発生後も非常用電源で稼働を継続。8日に電力供給が再開されるまで約60時間を乗り切ったそうだ。さくらインターネットは官公庁や学術機関のほかメルカリも活用している。
http://ascii.jp/elem/000/001/738/1738515/

◎『週刊金曜日』最新号(9月7日号)の編集後記。2人の編集者が退職の挨拶(ウェブ版では1人のみ掲載)を書いている。その1人、小長光哲郎によれば《経費削減のため希望退職》に応じたとのこと。この11月で創刊から25周年を迎える同誌は定期購読が主体だが、創刊から四半世紀を経て読者の高齢化(それに伴う自然減)も深刻化しているらしい。
http://www.kinyobi.co.jp/from/20180907.php