【文徒】2018年(平成30)11月1日(第6巻205号・通巻1379号)

Index------------------------------------------------------
1)【記事】所謂NHKキズナアイ」問題について
2)【記事】東京電力「#工場萌え」炎上事件
3)【本日の一行情報】
4)【深夜の誌人語録】
----------------------------------------2018.11.1 Shuppanjin

1)【記事】所謂NHKキズナアイ」問題について

NHKノーベル賞特設サイトでバーチャルYouTuberの「キズナアイ」を使ったことについて、ネットは炎上した。佐々木俊尚が「春オンライン」に「炎上した『キズナアイ』問題 “表現の自由”を主張する前に考えたいこと」を寄稿している。佐々木が問題にしているのはネット上で議論が成立しにくい現状についてで、ハーバーマスなどを持ち出しながら次のように書いている
「私はその困難さの理由のひとつには、TwitterをはじめとするSNSの構造の難点にあるのではないかと思っているが、現状はこのような構造の中に私たちの公共圏は危うくぶら下がっている。だとすれば、そこで行われる議論はより攻撃的ではない方へ、より抑制的な方向へと意識することが必要なのだと思う。
具体的に言えば、『表現の自由』のような制限をかけやすいネガティブな方向については、より抑制的に自由を侵害しないようにすること。いっぽうで、マイノリティの包摂のようなポジティブな方向については、選別せず積極的にみんなを包摂していくこと。
いまのネットの議論では、なぜか表現の自由は制限の方向へと進みやすく、包摂は選別されやすくなっている。これは明らかに逆ではないだろうか」
http://bunshun.jp/articles/-/9492
これが「キズナアイ」を起用したNHKの特設サイト「まるわかりノーベル賞2018」。
https://www3.nhk.or.jp/news/special/nobelprize2018/index.html?utm_int=special_contents_list-items_002
これについて弁護士の太田啓子が次のようにツイートした。
「NHKノーベル賞解説サイトでこのイラストを使う感覚を疑う。女性の体はしばしばこの社会では性的に強調した描写されアイキャッチの具にされるがよりによってNHKのサイトでやめて。このサイトで女性受賞者は少ないの?とか書いてるけどこれじゃ理由わかんないんだろう」
https://twitter.com/katepanda2/status/1046917020279693312
社会学者の千田有紀もこの問題についてツイッターで数多く呟いたのだが、これは現在、消去されてしまっている。佐々木が「春オンライン」でネット上で議論が成立しにくい現状について論じたのは、こうした背景による。もっとも、まとめサイトには保管されている。
https://togetter.com/li/1273753
千田は「ヤフー!個人ニュース」に「ノーベル賞NHK解説に『キズナアイ』は適役なのか? ネットで炎上中【追記あり】」を発表している。
「個人的には、やはりノーベル賞の受賞サイトでこれは適切ではないと思う」
「このNHKのサイトで『キズナアイ』に割り振られた役割は、基本的に相槌である。それは、従来『女性』に与えられてきた役割である。ある意味で、性別役割分業を再生産していると言えるのだ」
https://news.yahoo.co.jp/byline/sendayuki/20181003-00099158/
千田は更に「『表現の自由』はどのように守られるべきなのか? 再びキズナアイ騒動に寄せて」を発表している。
「『表現』とは、他者に配慮することによって枯渇するようなやわなものではないはずだ。
本当に表現したいなにかがあるのなら、さまざまな配慮があることによって、それをくぐることによって、その表現はいっそう磨かれ、光り輝くのではないだろうか」
https://news.yahoo.co.jp/byline/sendayuki/20181004-00099263/
「遊女の化史」や「『愛』と『性』の化史」で知られる佐伯順子が「現代ビジネス」に「炎上した『キズナアイ』問題…日本化が描いてきた女性像から考える」を発表している。
「一般市民には“わかりにくい”“高度な科学的研究”を、“わかりやすく”“親しみやすい”キャラクターを利用して説明しようとする送り手側のコンセプトは理解できる。
ただし、説明をうけるキャラクターとしての『キズナアイ』と、解説する男性科学者の組合せは、“教える男性/教わる女子”という、メディアにおける男女の役割分担、特に教養的な番組の典型的なパターンに陥っている。
可愛い女子を生役にして何が悪いのか、中年女性の僻みではないか、との批判がきこえそうだが、教える側と教わる側に男女をふりわけるパターンが、上記のように、“知的な男性/男性に比べて知的に劣る女子”という発想を、無意識のうちに刷り込んでしまう可能性が問題なのである」
次のような佐伯の指摘も看過してはなるまい。
「日本のポピュラー・カルチャーで描かれる、“かわいい”女性像の海外への輸出は、日本の女性といえば、未熟で性的な存在というステレオタイプにつながりかねないという点で、いわば21世紀の『オリエンタリズム』に陥る危険性がある」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57987

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2)【記事】東京電力「#工場萌え」炎上事件

東京電力は10月29日、公式ツイッターやインスタグラムに、ハッシュタグを「#工場萌え」と付けて、福島第1原発4号機の使用済み核燃料プールの写真を投稿し炎上した。
http://www.chunichi.co.jp/s/article/2018102901002514.html
さすがに東京電力は、お詫びをツイートした。ただし、投稿そのものは「#工場萌え」の箇所を削除して掲載し続けている。
「【お詫び】この度、本アカウントの投稿により、皆さまにご不快な思いをおかけし大変申し訳ございませんでした。深くお詫び申し上げます。
不適切なキーワードを含む記事を訂正させて頂くために再度、投稿させて頂きます。今回頂いたご意見を真摯に受け止め、今後の活動に活かして参ります」
https://twitter.com/OfficialTEPCO/status/1056771082902953984
東京電力は「#工場萌え」に投稿する常連であった。何でもかんでも「#工場萌え」してしまうということは、「原発震災」を忘れてしまったということなのだろうか。それは炎上するだろう東京電力OBの蓮池透が怒りのツイートを投稿している。
「どこが#工場萌えなんだ!この写真で何訴えたいのか?不謹慎というよりも意味不明。危機感、切迫感、緊張感、当事者意識全くなし。だから、もうこんな会社要らない。アゲイン」
https://twitter.com/1955Toru/status/1056865833090113539
河出庫「福島第一原発収束作業日記 3.11からの700日間」の著者である「ハッピー」は怒りを通り越してしまったようだ。
「とにかく4号機は、幾つもの奇跡が偶然に起きて助かった号機。その4号機の写真を掲載し『工場萌え』なんて絶対にやってはいけない事。事故当事者意識も加害者意識も欠如した東電ならば、今からでも遅くないので解体すべきだと思う。怒りを通り越して情けないと云うか本当にがっかりした」
https://twitter.com/Happy11311/status/1056845501285289984
この問題で世耕弘成経済産業相が「ユーモアを見せるのは悪くないが、非常にスキルが要求される。いい教訓になったのではないか」と述べたそうだ。4号機プールにユーモアは有り得ないという認識を大臣はお持ちでないらしい。
https://www.asahi.com/articles/ASLBZ3J1ZLBZULFA00C.html
平野啓一郎が呟く。
「根本的にズレてる人たち。東電も、経産大臣も。どういう神経してるのか」
https://twitter.com/hiranok/status/1057235060921978880

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3)【本日の一行情報】

◎『週刊少年ジャンプ』の元編集長・鳥嶋和彦の分析である。「#SHIFT」が掲載した白泉社鳥嶋和彦社長インタビューの一節である。
「『少年ジャンプ』など、子ども向けの漫画雑誌はおしなべて部数を落としていますが、1つだけ部数をほとんど落としていない雑誌があります。小学館の『コロコロコミック』です。
なぜ部数を落としていないのでしょうか。私は、6~11歳の子どもをターゲットにして、内容を変えていないからだと思います。その世代は携帯電話を持っていないのでSNSの影響を受けないのです。『妖怪ウォッチ』がヒットした理由は、この6~11歳の世代にウケたからです」
http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1810/30/news005.html
鳥嶋社長の社長として最後の大仕事は、集英社から社長を受け入れることではなく、鳥嶋社長が現在の白泉社のボードから、社長という「機能」に最も相応しい人材を選ぶことではないのだろうか。

講談社の「別冊少年マガジン」で連載されている諫山創の「進撃の巨人」がハリウッドで実写映画化されることになった。監督はアルゼンチン出身で、「MAMA」「IT/イット“それ”が見えたら、終わり。」などの作品があるアンディ・ムスキエティだそうだ。プロデューサーは米人気ドラマ「HEROES/ヒーローズ」で知られる日本人俳優のマシ・オカ。日本人俳優であるのは事実だが、マシ・オカの日本語には英語訛りがあるという。
https://www.sanspo.com/geino/news/20181031/geo18103105040002-n1.html

読売新聞東京本社がMMSマーケティングの株式の一部を取得したということである。MMSマーケティングは広告主がメディアに広告を掲載するだけで終わらず、モバイルを通じて消費者を店舗へ誘導して実売に結び付けるためのMMS(Media to Mobile to Store)サービスを事業化しつつある。読売新聞からすれば、これにより新聞広告から店頭購買促進まで一気通貫のサービスを提供できることになる。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000034.000018483.html

白泉社から11月2日に刊行される絵本「ダビッコラと宇宙へ」の作者である濱口瑛士は何と16歳の少年画家である。東京大学端科学技術研究センターと日本財団の共同プロジェクト「異才発掘プロジェクト ROCKET」第1期スカラー候補生なんだって!
http://www.dreamnews.jp/press/0000183598/

◎ヤフーは、厳選されたクリエイターやインフルエンサーが自身の作品や動画コンテンツなどを自由に投稿できる新たなプラットフォーム「Yahoo! JAPAN クリエイターズプログラム」を開設した。
11月1日時点で、各業界で活躍するクリエイター約200名が参加。今後、毎月500本を超える動画コンテンツを、「Yahoo! JAPAN」アプリやYahoo! JAPANスマートフォン/PC)のトップページ(タイムライン形式で表示)、本プログラムの専用WEBサイトなどで随時配信する。
https://about.yahoo.co.jp/pr/release/2018/10/30a/

◎ぴあより、「日本の絶景 秋冬編」が発売された。シビックセンターも絶景ポイントなんだね。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001012.000011710.html

◎「世界軍歌全集 歌詞で読むナショナリズムイデオロギーの時代」(社会評論社)幻冬舎新書大本営発表 改竄・隠蔽・捏造の太平洋戦争」で知られている辻田真佐憲の「安田純平氏への『自己責任論』は大本営発表を再来させる」は、こう書いている。
「太平洋戦争下の大本営発表は、実にデタラメなものだった。戦艦撃沈の戦果は4隻から43隻(10.75倍!)に、空母撃沈の戦果は11隻から84隻(約7.7倍!)に水増しされ、反対に、戦艦の喪失は8隻から3隻に、空母の喪失は19隻から4隻に圧縮された。
単なる戦時下の情報規制では説明がつかない。ここまで酷くなった大きな原因のひとつは、当時のジャーナリズムが機能不全に陥ったことだった」
http://bunshun.jp/articles/-/9496

◎エイリム、トライエース集英社キャラクタービジネス室は、3社で展開する合同プロジェクト「MIST GEARS」(ミストギア)」でゲームアプリ版(iOS / Android)配信時期が11月下旬に決定したことを発表した
小説「MIST GEARS GHOST」(ミストギア・ゴースト)」は既に発売され、マンガ「MIST GEARS BLAST」(ミストギア・ブラスト)」の連載が「少年ジャンプ+」でスタートしている。
https://www.4gamer.net/games/430/G043011/20181029090/

◎インサイダー容疑で証券取引等監視委員会から東京地検に告発されたのはアサツーディ・ケイの土屋誠元執行役員であった。アカウント・マネジメント事業セクター統括補佐をつとめていた人物である。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO37128500Q8A031C1CC1000/

電通は、10月30日、セプテーニ・ホールディングスの普通株式を金融商品取引法に定める公開買付けにより20.99%取得することを決定した。取得総額は約70億円。
http://www.dentsu.co.jp/news/release/pdf-cms/2018110-1030.pdf

電通100%子会社のメディアレップ、サイバー・コミュニケーションズ(CCI)はVOYAGE GROUPと10月31日、経営統合すると発表した。2019年1月1日付でVOYAGE GROUPを持ち株会社化した新会社を発足させ、傘下にVOYAGE GROUPの事業会社とCCIが入る形になる。電通は新会社を子会社とし、VOYAGE GROUPは電通グループに入る。
http://www.dentsu.co.jp/news/release/pdf-cms/2018112-1031.pdf
http://www.dentsu.co.jp/news/release/pdf-cms/2018113-1031.pdf
http://www.dentsu.co.jp/news/release/pdf-cms/2018114-1031.pdf

ボイジャーは、11月1日から電子本直販ストア「理想書店」として生まれ変わる。
https://store.voyager.co.jp/risou/index.html

講談社は10月26日にニュースサイト「FRIDAYデジタル」を公開した。
https://friday.kodansha.co.jp/
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001918.000001719.html

◎少女漫画、TL、BLで活躍する龍本みおのコミックスが、宙出版、双葉社より10月29日(月)に2冊同時に発売された。両社は「龍本みお二社合同フェア」を開催する。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000112.000014531.html

◎この記事を読んで、これは買わなければなるまいと思った。作者不登校経験を描いた棚園正一のマンガ「学校へ行けない僕と9人の先生」(双葉社)だ。
https://withnews.jp/article/f0181031002qq000000000000000W06910101qq000018235A

白泉社はマンガ投稿サイト「マンガラボ!」を、2019年早春にスタートさせるそうだ。投稿作は同社の漫画アプリ「マンガPark」にも同時掲載され、読者や編集者の反応を見られる…ということは、読者アンケートにより人気のない作品は容赦なくワンクールで打ち切るジャンプ方式のデジタルバージョンではないか。マンガというジャンルは何だか地殻変動が起きそうであるというか、既に起きつつあるのだ。
「投稿者は300万人読者のデータを元に自身の作品をブラッシュアップが可能で、白泉社全誌の編集者からのコメントも。担当編集者とのマッチングサイトとしての役割も担う」
https://www.oricon.co.jp/news/2122414/full/

大島渚のドキュメンタリー「忘れられた皇軍」をご存じだろうか
https://blog.goo.ne.jp/gekkan-io/e/5f56a1ef2fe42564e1ee7d3fa3b9fbff
検索すると「ホンペン」が見られるかも。


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4)【深夜の誌人語録】

苦手は得意の始まりである。