【文徒】2018年(平成30)11月20日(第6巻218号・通巻1392号)


Index------------------------------------------------------
1)【記事】百田尚樹「日本国紀」がベストセラー街道を驀進中
2)【記事】読売が報じないこと、どの新聞も報じないこと
3)【本日の一行情報】
4)【深夜の誌人語録】
----------------------------------------2018.11.20 Shuppanjin

1)【記事】百田尚樹「日本国紀」がベストセラー街道を驀進中

忌避したり、嫌悪するのは簡単だが、何故に売れているかを説明するのは、そう簡単なことではあるまい。しかし、この問いから逃げている批判は弱いよね。百田尚樹の「日本国紀」は初版25万部に5万部の発売前重版を加えた30万部で発売され、発売日の11月12日には早くも10万部増刷が決まったというベストセラーだ。
http://www.zakzak.co.jp/smp/soc/news/181117/soc1811170002-s1.html
https://twitter.com/hyakutanaoki/status/1062365092472283136
例えば中沢けいのツイート。
「あのさ。レポートを出典明示なしのコピペで提出するとカンニング扱いになって、処分対象になるんだ。停学になるの。定価をつけて市販されている本が出典明示なしのコピペだらけって、仮に著作権侵害が成立してなくっても、版元は回収すべき事案じゃないかな。百田尚樹『日本国紀』」
https://twitter.com/kei_nakazawa/status/1063921906829557760
五月書房新社の編集委員会委員長という肩書を持つ元朝日新聞記者の佐藤章のツイート。
「百田『日本国紀』これは決定的に盗用だね。仁徳天皇の民の竈のエピソード、わかりやすく書いた新聞記事にそっくり。あまりにコピペし過ぎたために日本書紀の原にはないところまで同じになっている。変わっているのは原の敬語を普通の言葉に直したところだけ。いまや滑稽本だね」
https://twitter.com/bSM2TC2coIKWrlM/status/1063605577241157632
百田批判派にとって何故、売れているのかはどうでも良いのである。それは大衆なんてどうでも良いということだ。
一方、版元の幻冬舎の「やる気」は新聞広告を見ればわかる。朝日新聞、毎日新聞、読売新聞の三大紙に全15段広告を出稿している。編集を担当した有本香は、その筋では有名な「虎ノ門チャンネル」で次のように語っている。
朝日新聞に最も嫌われた男と言っても過言でない百田尚樹さんの日本国紀の全面広告が朝日に掲載され、『日本ほど素晴らしい歴史を持っている国はない』と朝日が書かない一が載った。記者は驚いたと思う」
https://twitter.com/take_off_dress/status/1062881164749406210
百田尚樹はテレビの構成作家としての才能を如何なく発揮しているのである。「デイリーニュースオンライン」でロマン優光が「百田氏にあるのは思想ではなく、テレビ人として培われてきた『ウケればいい』という発想と、『日本・日本人最高』という気分だけなのではないかという疑念が浮かんでくる」と指摘しているが、これは案外鋭いのではないか。
「百田氏の政治的発言、歴史に対する発言というのは、根底に強固な思想があるというよりは、人付き合いやビジネスの中でのポジション・トークであったり、単純に『ウケるから』といったものから発生している節がある。過剰に差別的な発言や、大げさなデマといったものも、あれはウケるから言ってるだけなのではないだろうか? 根底に思想がないから、雑に天皇を扱ってしまったり、『こっちの方が面白い』という理由でリベラル的な史観に基づくともいえる説を採用してしまうのではないか。そもそも、保守もリベラルも右翼も左翼もちゃんと認識できてない、真摯に考察し定義付けるような作業をしたことがないのではないか」
http://dailynewsonline.jp/article/1573426/?page=all
百田尚樹が依拠しているのは頼山陽流儀の「豪傑史観」にほかなるまい。百田が長州を苦手とするのも、長州から生まれる才能は吉田松陰が典型的なように「豪傑」と呼ぶには「狂気」に絡めとられ過ぎているのである。八幡和郎が「アゴラ」に発表した「百田尚樹氏は強烈なアンチ長州のようだ」も面白い指摘である。
「薩摩や佐賀などがどうして勃興してきたかは詳しく紹介されるが、長州は突然に登場するだけ。吉田松陰は1行だけだし、尊王攘夷思想もあたかも無謀な保守反動思想のように扱われ村田清風、吉田松陰高杉晋作らの目がしっかり世界に向けられていたことなど無視だ。征長戦争の勝利も坂本龍馬と薩摩が武器を横流ししてくれたからといわんばかりの扱いだ」
http://agora-web.jp/archives/2035754.html?fbclid=IwAR1eCL0IONt_BJ6V822yhOByniPC7BPNLBXPbXsZNkusAJlwOTMjFi3Hhbw

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2)【記事】読売が報じないこと、どの新聞も報じないこと

政治(政権)ネタで次々にスクープを飛ばす読売新聞だが、桜田孝五輪担当相については何も報じていない!「春オンライン」でプチ鹿島が読売新聞を次のように評しているが、その通りであろう
「政権が何を考えているか、読売を読めばわかる。新聞が時の権力に近くていいのか? 官報みたいでいいのか? という議論は当然あろう。一方で政権の動向を知るには便利。利用するしかない」
http://bunshun.jp/articles/-/9675
ニューヨーク・タイムズはサイバーセキュリティー担当を兼務する桜田義孝五輪相について「パソコンを使わない人は多く、大半は国のサイバーセキュリティー担当でない。だが、1人いた。日本の政治家たちはがくぜんとした」と報じている。産経ニュースが「桜田氏PC不使用に衝撃 海外メディア相次ぎ報道」を掲載している。
https://www.sankei.com/world/news/181117/wor1811170012-n1.html
しかし、「押し紙」になると報じないのは何も読売新聞だけではなくなる。産経から朝日に至るまで「押し紙」については報じない。そうしたなか「弁護士ドットコムNEWS」は「新聞『押し紙』シンポ、保守系議員ら『必ず表に出す』 求められる自浄作用」を発表し、次のように書いている。
「集会には、自民党木原稔議員が出席。押し紙について、『明らかに不正行為、犯罪行為』と述べ、自身の見解を披露した。
『(押し紙が)なかなか世の中に出てこないのは、なぜか。新聞社の『犯罪』だからです。彼らは自分たちに不利なことは記事にしない。
『だったらテレビがやればいいじゃない』と言うかもしれませんが、やりません。クロスオーナーシップ。テレビ局の株主が新聞社だったり、役員が新聞社から来ていたりする」
https://www.bengo4.com/other/n_8857/
黒薮哲哉の「メディア黒書」が「産経新聞の内部資料を入手、大阪府の広域における「押し紙」の実態を暴露、残紙率は28%」を掲載している。
「店名は匿名にした。『定数』(搬入部数)の総計は、4万8899部。これに対して『実配数』は、3万5435部である。差異の1万3464部が残紙である。予備紙として社会通念上認められている若干の部数を除いて、残りは『押し紙ということになる。残紙率にすると28%である」
http://www.kokusyo.jp/oshigami/13465/
確かに「押し紙」はイデオロギーの問題ではない。ちなみに外国人労働者の受け入れ拡大問題も新聞とは無縁であるまい。恐らく、新聞配達も外国人労働者が担う職種のひとつになるのではないだろうか。

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3)【本日の一行情報】

小学館が運営する「次世代ワールドホビーフェア’19 Winter」の開催概要が決まった。名古屋大会が2019年1月19日と20日,東京大会が1月26日と27日,そして大阪大会が2月17日という,3会場5日間の開催である。
https://www.whobby.com/
https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20181115180/

実業之日本社伊坂幸太郎にとって1年ぶりの新作長編となる「フーガはユーガ」を刊行した。
http://www.j-n.co.jp/fuga_yuga/

◎「元朝日新聞記者・植村隆氏が記者会見(全1)言論の戦いに勝ち、判決で負けた」によれば植村は次のように語っている。
「今回の法廷では、櫻井さんの資料の引用のいんちきさが明らかになりました。それで、それは裁判の途中で『WiLL』という雑誌は訂正記事を出しました。裁判の相手ではありませんが、関連の記事で産経新聞も訂正を出しました、櫻井さんのコラムに。そして、その証人、唯一の証人である北海道新聞の元ソウル支局長は、櫻井さんの植村に対する批判に対して、言い掛かりだというふうに主張しました。つまり、ジャーナリズムの世界では、私の正しさが証明されているわけです。しかし、法廷では、裁判長は、それを認定しませんでした。だからこの判決を、私は言論戦、言論の戦いで勝って、判決で負けてしまった、悪夢のような判決だというふうに思ってます」
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181115-00010007-wordleaf-soci&p=1

◎日本パブリックリレーションズ協会は2018年度「PRアワードグランプリ」を発表。グランプリには、大和ハウス工業の「『名もなき家事』撲滅へ 大和ハウス『家事シェアハウス』」(電通電通パブリックリレーションズ)が選ばれた。講談社の「よむ図鑑から“なれる図鑑”へ。『MOVE 生きものになれる展』」がゴールドを受賞した。
https://prsj.or.jp/wp-content/uploads/2018/11/praw_newsrelease2018.pdf

◎今年に入ってから今村翔吾の「羽州ぼろ鳶組シリーズ」は「狐花火」をもって4冊目の刊行となる。「鬼煙管」が2月、「菩薩花」が5月、「夢胡蝶」が8月、「狐花火」が11月である。11月16日には八重洲ブックセンター本店でミニサイン会が開催された。祥伝社にとって大きく育ってもらいたい才能なのであろう。
https://www.shodensha.co.jp/imamura/
勝木書店の本店店長も今村翔吾の「羽州ぼろ鳶組シリーズ」をイチオシしている。
「「羽州ぼろ鳶組」シリーズ第一作。
実は2度目の読了(笑) ますます深雪がいとおしくなる。主人公の源吾との出会い、復活を信じ気丈にふるまう深雪は今村さんの理想像かな(笑)一読目に気付かなかった伏線に気付いて独りほくそ笑む。今、一番大切に読みたいシリーズ」
https://twitter.com/B4Tf90j4WRknuz6/status/1062584428046643203

◎私にとって憧れの存在であった「JJ」出身のモデルである黒田知永子と、「服を買うなら、捨てなさい」などの著書があるスタイリストの地曳いく子の共著「おしゃれ自由宣言!」が発売になったのだけれど、何と版元がダイヤモンド社
https://mainichikirei.jp/article/20181114dog00m100013000c.html

◎「WWD JAPAN.com」が「仏ファッション誌『ロフィシャル』が独自の仮想通貨発行へ 100億円相当を約50万人に配分」を掲載している。
「エイメールCEOがテイスト トークンで実現したいのは、広告主、読者そして『ロフィシャル』の全ての関係者がそれぞれに合った方法で利益を受け取ることだ。広告主には商品の売り上げが伸びなかったとしても、消費者の好みや習慣などについての深い分析を必ず得られる保証があり、一方で消費者は広告主からの質問に答えることで提供する自身のデータや広告へのアクセスの対価として獲得したテイスト トークンを、オンラインでの買い物に使うことができる。
具体的には、『ロフィシャル』はテイスト トークンを1つの広告パッケージとして売る。このパッケージでは広告主となるブランドは広告費のうち10%を仮想通貨に換金して、商品を販売するかどうかを選択できる。すでに『ディオールDIOR)』『シャネル(CHANEL)』『マイケル・コース(MICHAEL KORS)』といったブランドがこの広告パッケージを購入し、それぞれジュエリー、香水、バッグを販売する予定だという。なお、商品の流通については各ブランドが担う」
https://www.wwdjapan.com/739475
女性誌ブロックチェーンは相性が良いのではないだろうか。

◎「擬人化マンガ 大学あるあるこれくしょん」(ぴあ)が面白そうだ。これもネット発のコンテンツである。
https://resemom.jp/article/2018/11/15/47720.html

一迅社は、カルチュア・エンタテインメントが運営している「T-FANSITE」において「最遊記RELOAD BLAST×Tファン」のサービスを11月28日(水)より開始する。また11月15日より、CEのECサイト「FANDAYS」でも利用登録の受付を開始した。
https://www.atpress.ne.jp/news/171045

◎40周年を迎えた魔夜峰央の「パタリロ!」(白泉社)のコミックスが遂に100巻に到達した。
http://www.dreamnews.jp/press/0000184945/

◎「LINE Pay 請求書支払い」が12月14日から、大阪市の税金の支払に対応する。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001327.000001594.html
神奈川県でも来年1月から自動車税・個人事業税・不動産所得税納付に対応する。
https://japanese.engadget.com/2018/11/14/line-pay-2019-1/
LINEの展開を見ているとプラットフォームの時代からインフラの時代へと転換しつつあるように思える。

博報堂DYメディアパートナーズとデジタル・アドバイタイジング・コンソーシアム(DAC)は共同で、特定領域における専門的な情報に特化したWEBメディア(バーティカルメディア)と協業し、マーケティング戦略立案からターゲットの送客まで一気通貫で実現する業種特化型マーケティング・ソリューション「カテゴリーワークス」の開発を開始した。
http://www.hakuhodody-media.co.jp/wordpress/wp-content/uploads/2018/11/20181116.pdf

博報堂DYメディアパートナーズ、博報堂DYデジタル、博報堂DYホールディングスは、TVCMとオンライン動画広告をかけ合わせて広告効果を予測するプラニングツール「TV Cross Simulator」の機能アップデートとして、Instagram動画広告への対応を開始した。
http://www.hakuhodody-media.co.jp/wordpress/wp-content/uploads/2018/11/HDYMPnews20181116.pdf

サントリー学芸賞が決まった。
【政治・経済】阿南友亮「中国はなぜ軍拡を続けるのか」(新潮社) 君塚直隆「立憲君主制の現在」(新潮社)を中心として 韓載香「パチンコ産業史」(名古屋大学出版会)
【芸術・学】京谷啓徳「凱旋門と活人画の風俗史」(講談社) 真鍋昌賢「浪花節 流動する語り芸」(せりか書房
【社会・風俗】溝井裕一「水族館の化史」(勉誠出版
【思想・歴史】島田英明「歴史と永遠」(岩波書店) 新居洋子「イエズス会士と普遍の帝国」(名古屋大学出版会) 山本芳久「トマス・アクィナス」(岩波書店
https://www.suntory.co.jp/news/article/13320-1.html
恥ずかしながら私は韓載香「パチンコ産業史」(名古屋大学出版会)の存在を初めて知った。〝パチンコ通史〟らしい。これは買おうかな。真鍋昌賢「浪花節 流動する語り芸」(せりか書房)はツンドク状態。

◎日販は、入場料1500円を支払い入館バッジをつけて利用できる本屋「喫」を、12月11日(火)六本木の青山ブックセンターが営業していた同じ場所にオープンする。日販グループ会社のリブロプラスが運営する。人科学や自然科学からデザイン・アートに至るまで、約3万冊の書籍を販売し、一人で本と向き合うための閲覧室や、複数人で利用可能な研究室、小腹を満たすことができる喫茶室を併設する。
https://www.nippan.co.jp/wp-content/uploads/2018/11/bunkitsu_-release_1115.pdf
https://www.nippan.co.jp/news/bunkitsu_20181115/

◎「デイズジャパン」が来年2月発売の15周年記念号をもって休刊することになった。
https://www.asahi.com/articles/ASLCK4G9LLCKUCFI001.html

小学館のトレンド情報誌「DIME」1月号の特別付録はゴルゴ13のオリジナル万年筆!
これで890円(税込み)は安い。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000177.000013640.html

◎「大人計画 その全軌跡 1988→2018」(ぴあ)が発売される。周知のように大人計画の主宰者は松尾スズキ。メンバーには宮藤官九郎阿部サダヲ皆川猿時宮崎吐夢荒川良々平岩紙などが顔を揃える。そうか…平成って松尾スズキの時代だったんだね。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001032.000011710.html

読売広告社は、都市生活研究所とR&D局で、「都市生活者のワークスタイルと暮らしの変化 研究レポート」を作成した。これによればフルタイムワーカーの24.3%が5年後くらいまでには、テレワークを利用した働き方をしたい、と考え、“いつかはしたい”までを含めると半数以上にのぼる。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000031.000006104.html

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4)【深夜の誌人語録】

無謬性に囚われ視野を狭めてしまうことは失敗以下である。