【文徒】2018年(平成30)6月22日(第6巻115号・通巻1289号)

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1)【記事】池井昌樹の写真詩集「手から、手へ」(集英社)とブックスいずみ
2)【記事】SNSで繰り広げられる「不謹慎狩り」について
3)【本日の一行情報】
4)【深夜の誌人語録】

                                                                                • 2018.6.22 Shuppanjin

1)【記事】池井昌樹の写真詩集「手から、手へ」(集英社)とブックスいずみ

「晴夜」から一貫して家族をテーマにした詩を創造しつづけてきた池井昌樹が植田正治の写真とコラボレーションした写真詩集「手から、手へ」(集英社)がNHK総合テレビプロフェッショナル 仕事の流儀」のなかで北海道の書店店主・岩田徹氏が選んだ「運命の一冊」として紹介されたこともあり、3度の重版が決まったそうだ。こういう企画の重版が決まるのは嬉しいものである。
http://books.shueisha.co.jp/CGI/search/syousai_put.cgi?isbn_cd=978-4-08-771474-6&mode=1
詩人、翻訳家、映画評論家、映画監督、首都大学東京名誉教授の福間健二がこんなツイートをしている。
「昨夜のNHKプロフェッショナル 仕事の流儀▽書店店主・岩田徹」。岩田徹とは一度だけ佐藤泰志と三人で飲んだ。あるとき、立松和平が彼の書店を訪れ、ぼくの本が並んでいるのに驚き、理由を尋ね、それを報告してくれたことがある。そのときの感動がよみがえった。池井昌樹の詩が出てきたのもよかった」
https://twitter.com/acasaazul/status/988571135351517185
俳優の寺島進が「手から、手へ」を「これ以上の本を俺は知らない」と激賞している。
https://twitter.com/susumubot/status/1009300418806013952
植田正治の「砂丘 La Mode」(朝日新聞出版)はファッション写真約70点を集めている。女性誌の編集者にとっては必見の写真集と言っても良いだろう。
https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=17889
そう植田正治写真美術館が鳥取県伯耆町にある。植田の作品はルーブル美術館にも収蔵されている。福山雅治に写真を教えたのも植田である。
http://www.houki-town.jp/ueda/
池井昌樹、植田正治とともに名前を連ねている山本純司は企画と構成を担当している。もともとは集英社の編集者であった。2011年1月に集英社を定年退職している。「ここが家だ!ベン・シャーン第五福竜丸」(日本絵本賞)や広島の被爆者の遺品を撮影した石内都の写真集「ひろしま」(毎日芸術賞)は集英社時代の山本の仕事である。
ちなみに山本は元「りぼん」の編集者である。山本はさくらももこ矢沢あい、岡田あ〜みんを世に送り出している。何しろ早大漫研出身である。
それまで面識のなかった池井と植田を結びつけたのは山本である。山本にとって「手から、手へ」は「フリーになっての初めての本作り」だったそうだ。
https://1000ya.isis.ne.jp/1207.html
http://usfl.com/2015/10/news_articles/89667
http://junjiyamamoto.cocolog-nifty.com/blog/2012/06/post-b48d.html
私が池井昌樹の詩で忘れ難いのは「ふとん」だ。「ひとりぼっちの/ふたりっきりよ」と結ばれている。むろん、夫婦のことである。そうそう池井は、自ら詩の同人誌を発行している!しかも、すべて手書きなのである。詩人の松下育男が次のようにツイートしていた。
「池井(昌樹)さんから『森羅』11号が送られてきた。すべて池井さんの手書きの雑誌。この号には私も作品を載せている。池井さんと同じ雑誌に名前が載るのは、たぶん園下さんの雑誌『Vie』以来。40年も経ってしまった。池井さんとは、20代と60代にしか会っていない。だから何だと、いうのではないけど」
https://twitter.com/fampine/status/1006886492008939525
いずれにしても出版社の販売関係者にとっては周知の事実ということになるのだろうが、池井昌樹は「ブックスいずみ」の店長であった。しかし、今や吉祥寺駅の南口のバス通り沿いに「ブックスいずみ」はない。「ブックスいずみ」が店を閉じたのは2014年7月18日のこと。
https://twitter.com/kichijoji_ziinz/status/490449191496196096
「空犬通信」は「ブックスいずみ」閉店に際して次のように書いている。
「同店は、吉祥寺の新刊書店のなかでもっともアダルト関係の品揃えが充実していることでも(その手の本が好きな方々には)知られていましたね。吉祥寺には、新刊書店がたくさん、それも、それぞれに個性の異なるすてきなお店がたくさんありますが、最近の新刊書店の傾向として、アダルト関係にはいずれも力を入れていません。そんななか、ブックスいずみは、官能小説文庫の棚をしっかりと、お店の規模やバランスからすると多すぎるぐらいにしっかりととっていたお店でした」
http://sorainutsushin.blog60.fc2.com/blog-entry-2319.html
「ブックスいずみ」は詩人が店長をつとめる「ありふれた街の書店」であった。
「電車を降りてちょっと雑誌を立ち読み、マンガを物色、平積みのエロ本にドキドキ…。そんな当たり前の本屋さんだった。今までありがとう!」
https://twitter.com/fuwaryozo/status/491512005145010177
「ありふれた街の書店」は全国いたるところで絶滅の危機に瀕しているのである。「手から、手へ」が刊行されたのは2012年10月のこと。「ブックスいずみ」は健在で、エロ本を平積みしていた。池井昌樹には、こんな詩がある。
「深夜電話が鳴って/ぼくのこえがした/ぼくはぼくのこえを/だまって聞いていた/ぼくのこえはとおく/とおくぼくを呼んで/そしてふいに切れた/うみのような深夜/くらいみみをすまし/ひとりだまっていた」

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2)【記事】SNSで繰り広げられる「不謹慎狩り」について

「さまざまな地域に住む人が目にするSNSだからこそ、細やかな配慮が求められるのかもしれない」(女性自身)のだとしても、「有名人」の投稿を炎上させて謝罪させることに快楽を覚える愉快犯の類が増えているのではないだろうか。そうした「愉快犯」は正義を偽装して「不謹慎狩り」に熱中する。
https://jisin.jp/entertainment/entertainment-news/1640356/
J-CASTニュース」が「人気ラッパー呂布カルマ地震楽しかったっす』 不謹慎指摘で炎上も...バトルぼっ発」が掲載している。
地震発生時に大阪に滞在していたという呂布さん。発生から数時間後、ツイッターでこんな書き込みをした。
「不謹慎かもだけど地震も込みで大阪楽しかったっす ●●さん●●くんはじめお世話になった人達ありがとうございました」「地震楽しかったっすよ。すげー揺れたし、非日常は楽しいです」(伏せ字は編集部)
この書き込みが賛否を呼び、「テレビ出てるような有名人があんま軽率なこと言わんといて欲しいな」「大阪いましたけど変に自粛するよりはえーと思いますよ」といった意見が寄せられる。
だが批判は妥当でないとして、呂布さんは
「別に何を楽しもうが俺の勝手だろ」
「山で遭難して死んだ人がいるから登山楽しむのは不謹慎的な?馬鹿じゃねえの」
と反論。あらためて「地震によって麻痺した交通などの非日常感に多少なりともワクワクしたからです」と投稿の趣意を説明した】
https://www.j-cast.com/2018/06/19331681.html?p=all
不謹慎だと指摘されてもラッパーらしく反論をつづけていた呂布カルマだったが、現在、呂布の問題となったツイートは削除されてしまっているようだ。まだ謝罪はしていないのだとしても、ツイートの削除は「不謹慎狩り」に屈服したことになるのではないだろうか。
日中戦争から大東亜戦争へと突き進んでいくなか「日中和平」の道を模索しようとした「不拡大派」に焦点を当てた「多田駿伝」(小学館)で山本七平賞の奨励賞を獲得した岩井秀一郎は次のように「不謹慎狩り」を戒めている。
東日本大震災の時もそうだったんですが、こういう時に過剰な「不謹慎狩り」はやめましょう。もちろん、亡くなった人を中傷したり、被害にあった方を揶揄したりはダメですが、『昼食美味しかった』に『不謹慎だぞ!』とかはなんの意味もないんで。しかも、関係ないやつほどやりたがるんですよ」
https://twitter.com/kaminokuni_2600/status/1008691392506298368
これは「止まった時計 麻原彰晃の三女・アーチャリーの手記」(講談社)の松本麗華のツイートである。
「世界の誰かがつらいときに、楽しい人がいたらだめなんだろうか? 世界の誰かはいつでもつらいから、世界中の人はいつも暗い気持ちで過ごさないといけなくなる。わたしがつらいから、あなたは楽しまないでとは、思わないけどなぁ」
https://twitter.com/asaharasanjo/status/1009060170373087233
いずれにしても「不謹慎狩り」は岡本純子の言葉を借りれば「自分が被害者ではないのに、第三者の振る舞いや行動に対し、腹を立てて、制裁を加えようとする『Third party punishment』(非当事者による制裁)」に他なるまい。
http://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20180615-OYT8T50006.html?page_no=1

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3)【本日の一行情報】

◎雑誌やCDに埋もれるようにして亡くなったそうだ。66歳という、この男性は雑誌とCDの時代に生きた世代に属するに違いない。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2018061900947&g=oeq

◎YouTuberを中心としたインフルエンサーマーケティング事業などを行う、80名以上のインフルエンサーを擁するインフルエンサープロダクションのVAZと、インフルエンサーネットワーク「I-Nation」やTik Tokユーザーネットワーク「Tik Toker JAPAN」などの運営を行うインフルエンサーエージェンシーのWAVESは6月20日(水)にTik TokとInstagramインフルエンサーマーケティング事業における業務提携契約を締結した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000033598.html

サイバーエージェントは、国内の広告主企業を対象にマーケティング活動におけるインフルエンサーの活用状況に関するアンケート調査を行い、調査企業のうち56%がインフルエンサーマーケティングに活用していることが明らかになった。また、インフルエンサー施策を行う際に活用しているメディアについては、「Instagram」が64%と最も高く、次いで「YouTube」(45%)、「Facebook」(41%)となった。
https://www.cyberagent.co.jp/news/detail/id=21673

スタジオジブリ鈴木敏夫徳間書店OB。「アニメージュ」元編集長であり、「アサヒ芸能」OBでもある。6月23日(土)〜7月16日(月・祝)にかけて愛知・松坂屋美術館で「スタジオジブリ 鈴木敏夫 言葉の魔法展」が開催される。
https://animeanime.jp/article/2018/06/19/38230.html

日経BPコンサルティングが発表した「Webブランド調査2018-春夏」。総合ランキング1位は「Yahoo! JAPAN」、2位「楽天市場」、3位「Amazon.co.jp」、4位「グーグル」、5位「サントリー」、6位「YouTube」、7位「クックパッド」、8位「ウイキペディア」、9位「Tサイト」、10位「パナソニック」。
https://consult.nikkeibp.co.jp/info/news/2018/0620wb/
サントリーが一般企業であるにもかかわらず5位にランクインしているのは凄いことである。

◎今年は東京にとどまらず広島でもオープンする。小学館の女性ファッション誌「CanCam」がプロデュースするナイトプール「CanCam×Grand Prince Hotel Hiroshima Night Pool」が、7月19日(木)から9月9日(日)までの期間、グランドプリンスホテル広島で開催される。
https://www.fashion-press.net/news/40722

集英社の総力戦は迫力がある。7月20日(金)発売の「non-no」にはじまり、「MAQUIA」、「SPUR」、「UOMO」、「MORE」、「Seventeen」、「eclat」、「LEE」、「Marisol」、「MEN’S NON-NO」、「BAILA」の全11誌が、NY発の「レスポートサック」と付録企画でタッグを組んだ。全誌に2018年新作のプリント柄を使ったポーチが付録となる。
http://www.dreamnews.jp/press/0000175591/
KAT-TUNの連動企画は7誌だったが、今度は11誌である。こうした総力戦が組めることは集英社ならではの武器かもしれない。

◎「大迫はんぱないbot」のフォロワーが10万人を突破した。サッカーW杯の日本VSコロンビア戦において大迫が大活躍。「大迫はんぱないbot」はRTされた数:267614(前日比:+265351)、いいねされた数:675399(前日比:+666723)となった。
https://twitter.com/osako_hanpa
https://twitter.com/osako_hanpa/status/1009065964925644801

◎英オックスフォード大学内に設置されているロイター・ジャーナリズム研究所の「デジタルニュース・リポート2018」で、朝日新聞に対する信頼度が日本の五大紙の中で最下位となった。逆にトップは日経。木村正人は「Yahoo!ニュース 個人」に「朝日新聞の信頼度、五大紙の中で最下位 産経新聞を下回った理由とは」を掲載し、次のように書いている。
「右派メディアの産経新聞や読売新聞は『本音』をぶつけるのに対し、左派メディアの朝日新聞は『理想』を語るため、読者には夢物語のように聞こえてしまうのでしょう」
https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20180620-00086728/

◎「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)で連載されている水島新司の「ドカベン」シリーズが28日発売号でいよいよ完結する。連載が開始されたのは1972年のこと。シリーズ合計で203巻!
https://www.asahi.com/articles/ASL6N3RKZL6NUTIL00Z.html

◎これは朝日新聞デジタルの記述。
「東京都墨田区の新聞販売会社「朝日新聞東京サービスセンター」(現・朝日新聞東東京販売)から現金約1900万円を着服したとして、警視庁は20日、同社元社長の橋本敦之容疑者(50)=東京都江戸川区=と、元総務部長の鈴木宏治容疑者(58)=千葉県印西市=を業務上横領の疑いで逮捕し、発表した」
https://www.asahi.com/articles/ASL6N3FG5L6NUTIL00D.html
1900万円は「逮捕容疑」の数字だと産経は次のように書いている。
「捜査2課によると、橋本容疑者が元社員に指示し、会社名義の口座から現金を引き出していた。帳簿を改竄するなどして発覚を免れていた。着服額は少なくとも約3300万円に上り、橋本容疑者の債務の返済や遊興費にあてていたという」
https://www.sankei.com/affairs/news/180620/afr1806200029-n1.html
朝日新聞の関連会社の子会社を舞台にしたスキャンダルである。

デンソー幻冬舎は、未来のモビリティやモノづくりをテーマにして、太田忠司北野勇作、小狐裕介、田丸雅智、松崎有理という5名の作家によって書き下ろされたショートショート10篇からなる小説「未来製作所」を共同で企画・制作し、全国の書店で発売開始した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000390.000007254.html
幻冬舎は、こういうチャレンジを恐れない。

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4)【深夜の誌人語録】

温もりのない言葉から生まれるのは対立である。