【文徒】2018年(平成30)7月4日(第6巻123号・通巻1297号)

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1)【記事】講談社群像新人文学賞当選作である北条裕子の「美しい顔」についてのコメントを発表
2)【記事】第71回「広告電通賞」の贈賞式が開催された
3)【記事】女性週刊誌「女性自身」について考える
4)【本日の一行情報】
5)【深夜の誌人語録】

                                                                                • 2018.7.4 Shuppanjin

1)【記事】講談社群像新人文学賞当選作である北条裕子の「美しい顔」についてのコメントを発表

講談社は、6月29日以降つづく群像新人文学賞当選作である北条裕子の「美しい顔」についての各社報道等に関して、次の通りコメントを発表した。
「『群像』2018年6月号に掲載した第61回群像新人文学賞当選作、北条裕子氏の『美しい顔』における小誌の参考文献未表示の過失についてお詫びいたします。本件については7月6日発売の同8月号巻末に告知を掲載します。告知文面は別紙の通りです。
6月29日以降の一部報道により、本作と著者について中傷、誹謗等がインターネット上等で散見され、盗用や剽窃などという誤った認識を与える文言まで飛び交う事態となりました。
これらの不当な扱いによって、本作と著者およびそのご家族、新人文学賞選考にあたった多くの関係者の名誉が著しく傷つけられたことに対し、強い憤りを持つとともに、厳重に抗議いたします。
今回の問題は参考文献の未表示、および本作中の被災地の描写における一部の記述の類似に限定されると考えております。その類似は作品の根幹にかかわるものではなく、著作権法にかかわる盗用や剽窃などには一切あたりません。
石井光太氏著『遺体 震災、津波の果てに』との類似点は弊社の調査により発見し、石井氏に事情説明に赴きました。以後、石井氏および同氏の代理人である新潮社に対して、著者とともにできうる限りの誠意を尽くして協議を行ってまいりました。
しかし、協議を続けている中で、6月29日の新潮社声明において、『単に参考文献として記載して解決する問題ではない』と、小説という表現形態そのものを否定するかのようなコメントを併記して発表されたことに、著者北条氏は大きな衝撃と深い悲しみを覚え、編集部は強い憤りを抱いております。
北条裕子氏の作家としての将来性とその小説作品『美しい顔』が持つ優れた文学性は、新人文学賞選考において確たる信により見出されたものです。上記の問題を含んだ上でも、本作の志向する文学の核心と、作品の価値が損なわれることはありません。
今後弊社としては、甚大なダメージを受けた著者の尊厳を守るため、また小説『美しい顔』の評価を広く読者と社会に問うため、近日中に本作を弊社ホームページ上で全文無料公開いたします。
なお、他の参考文献の著者および関係者の方々に対しても、誠意をもって協議させていただく所存です。
また本件に関する詳細な経緯説明も、追ってご報告させていただきます」
http://www.kodansha.co.jp/upload/pr.kodansha.co.jp/files/pdf/2018/180703_gunzo.pdf
「群像」8月号の巻末に掲載される告知は次のようなものである。
「【群像八月号告知】
小誌二〇一八年六月号P.8〜P.75に掲載した第六十一回群像新人文学賞当選作『美しい顔』(北条裕子)において描かれた震災直後の被災地の様子は、石井光太著『遺体 震災、津波の果てに』(新潮社)に大きな示唆を受けたものです。主要参考文献として掲載号に明記すべきところ、編集部の過失により未表記でした。
文献の扱いに配慮を欠き、類似した表現が生じてしまったことを、石井氏及び関係各位にお詫び申し上げます。
また、東日本大震災の直後に釜石の遺体安置所で御尽力された方々に対する配慮が足りず、結果としてご不快な思いをさせたことを重ねてお詫び申し上げます。
本作の主な参考文献は以下の通りです。
北条裕子「美しい顔」群像二〇一八年六月号 主要参考文献
『遺体 震災、津波の果てに』石井光太(新潮社)
『3.11 慟哭の記録 71人が体感した大津波原発・巨大地震』金菱清編/東北学院大学 震災の記録プロジェクト(新曜社
『メディアが震えた テレビ・ラジオと東日本大震災』丹羽美之/藤田真文編(東京大学出版会
『ふたたび、ここから 東日本大震災石巻の人たちの50日間』池上正樹ポプラ社
文藝春秋二〇一一年八月臨時増刊号『つなみ 被災地のこども80人の作文集』(企画・取材・構成 森健/文藝春秋)」
「ニッポンの音楽」や「ニッポンの文学」の佐々木敦が早速、反応した。
「北条裕子「美しい顔」にかんする問題についての講談社のプレスリリースです。
一読し、群像編集部と講談社が新しい才能を守る決断をしたことに心から感動しました。 僕は完全に同意見です。 読みもせず誹謗中傷してる連中は恥を知りなさい。
http://www.kodansha.co.jp/upload/pr.kodansha.co.jp/files/pdf/2018/180703_gunzo.pdf
https://twitter.com/sasakiatsushi/status/1014074813416013824
「AbemaTIMES」が「芥川賞候補作『美しい顔』の表現がノンフィクションに類似?それでも“著作権侵害“を問うのが難しい理由」を掲載している。
著作権に詳しい福井健策弁護士は『美しい顔』について「『遺体』と読み比べてみて、すごく似ているという印象を持たれた方は少なくないと思う。ただ、このくらいだと著作権侵害にあたらない可能性が高い」と話す」
https://abematimes.com/posts/4479857
毎日新聞記者でBuzzFeed Japanも経験している石戸諭は「リスクと生きる、死者と生きる」(亜紀書房)の著者であるが次のようにツイートしている。
「「お詫び」はしているけど、かなり挑戦的は発表文。要するに法的には問題ないし、新潮社が求めた「修正」要求に反論したいということ→疑惑の芥川賞候補作「美しい顔」講談社が全文公開へ 「盗用や剽窃にあたらない」」
https://twitter.com/satoruishido/status/1014076117412540416
石戸は「芥川賞候補作『美しい顔』の表現がノンフィクションに類似?それでも“著作権侵害“を問うのが難しい理由」にも登場している。
「 ノンフィクションライターの石戸諭氏は『どこを事実として切り取ってくるのか、そしてどういうふうに切り取るのかがノンフィクションの書き手として腕の見せ所。事実を独占できないということはその通りだと思うが、同じように切り取って、同じような描写や表現になるかといえばそうではないと思う。僕だったら"何だよ"という気持ちになる』と指摘する」
群像新人文学賞の下読み選考にかかわった仲俣暁生フェイスブックで次のように述べている。
講談社の説明と抗議は論理的におかしい。他の文献を参考にしたこと、配慮を欠く表現で利用した箇所があること、しかしそこは作品の根幹ではないこと、ここまで認めておいてなぜ、簡単な修正に応じないのか。むしろ作者は自ら望んで手を入れたがるはずではないか。新人作家がその能力ないし意欲を欠くか、あまりにそのような箇所が多くて作品を維持できないか、どちらにせよ、現状の作品をそのままネット公開されたら、新潮社は対抗手段を取らざるを得なくなる。せめて選考委員とは協議したのか。新人作家を盾に背水の陣をいきなり敷いてどうするよ」
https://www.facebook.com/NakamataAkio/posts/10216604231599089
毎日新聞は7月2日付で「芥川賞候補 別の類似の出版社・新曜社『誠意ある対応を』」を掲載している。
芥川賞候補になっている北条裕子さん(32)の小説『美しい顔』の文章の一部が既刊本と類似している問題で、新曜社(東京都千代田区)は2日、同社刊の「3・11 慟哭の記録」と十数カ所似た表現があると指摘し、『誠意ある対応を求めたい』『開かれた議論が求められている』などとコメントした」
毎日新聞によれば「3・11 慟哭の記録」の編者である金菱清も新曜社を通じ「単なる参考文献の明示や表現の類似の問題に矮小化されない対応を、作家と出版社に望みたい」とコメントしている。
https://mainichi.jp/articles/20180703/k00/00m/040/033000c

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2)【記事】第71回「広告電通賞」の贈賞式が開催された

昨年度の優れた広告活動を行った企業を表彰する第71回「広告電通賞」の贈賞式が7月2日、グランドプリンスホテル新高輪で開催された。総合広告電通賞を、NTTドコモが受賞した。NTTドコモは昨年、創立25周年を迎えたが、フィルム部門で広告電通賞を獲得したテレビCM「25年後の夏」は「NTTドコモ・グラフィティ」といって良いコマーシャルであった。単なる「社史」ではなく、ケータイの技術的な革新が私たちの生活をどのように変えて来たかが、家族の歴史とともに綴られているのだ。視聴者に「いいね」と共感を呼び、ホロリとさえさせてしまう出来栄えであった。まあ、ご覧ください。
https://adawards.dentsu.jp/prize/detail/7812
NTTドコモは「OOHメディア」で広告電通賞と最優秀賞を獲得している。ちなみにNTTドコモが屋外メディア部門最優秀賞を獲得したのは、出版界ともかかわりの深い「dマガジン(世界一分厚い雑誌。)」であった。
https://adawards.dentsu.jp/prize/detail/7842
https://adawards.dentsu.jp/assets/daaDownload/daa71/71list_180620.pdf
「アドタイ」も掲載しているが、電通山本敏代表取締役社長が次のように語っていた。
「広告は社会をいい方向に変化させる、という大切な役目を果たしていると思います。デジタルの発展、広告の発想や技術そのものは進化を続けています。受賞作からは、『広告は人間に向かうものである』という本質を再認識させてもらいました」
広告が対象とするのは、これまでも人間であったし、これからも人間であるということを山本の挨拶で私は再認識した。
https://www.advertimes.com/20180702/article273502/
電通という広告会社の最大の魅力は、個々の電通マンの人間臭さであるということも再認識しておきたい。

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3)【記事】女性週刊誌「女性自身」について考える

日本舞台芸術振興会(NBS) / 東京バレエ団の代表、故・佐々木忠次を題材にした桜沢エリカのマンガ「バレエで世界に挑んだ男」が光文社から発売される。「女性自身」に連載されたマンガである。
https://natalie.mu/stage/news/289317
「バレエで世界に挑んだ男」は映像化できるよね。周知のように光文社はマンガ誌を擁さないが「女性自身」はマンガを連載し、桜沢エリカのコミックスを販売できるのだ。コミックスばかりではない。「女性自身」は雑誌としての間口が広いのである。光文社はいくつもの雑誌を擁しているが、「女性自身」よりも間口の広い雑誌はないはずである。
4月に「広島本大賞」ノンフィクション部門で大賞を受賞した「カウンターの向こうの8月6日」(光文社)は広島市内の薬研堀で著者の冨恵洋次郎が毎月6日に自らの経営するバーで、開きつづけて来た「被爆体験者の証言の会」の4000日の記録だ。しかし、2017年1月に肺がんが見つかり、冨恵は本書刊行直前に亡くなってしまう。というよりも冨恵は本書を病床で書き上げたそうだ。朝日新聞デジタルが「今夜もバーで8月6日が待つ 遺志継ぎ続く語り部の会」を掲載している。
「2年前に取材で知り合い、執筆を補助した週刊誌記者村田くみさん(48)は、代理で出席した授賞式で『彼は『不言実行』の人』と述べた。地元・東京で4月、「原爆語り部カフェ」を始めた。レストランで被爆者らと議論する。『いきなり核廃絶・戦争反対と言うと、どこか遠い。被爆者が生き抜いてきた話を目の前で聴くと考えるきっかけになる』」
https://www.asahi.com/articles/ASL6V4J3JL6VPITB007.html
村田くみは1995年、毎日新聞社に入社しているが、「サンデー毎日」編集部を経て現在はフリー。著書に「おひとりさま介護」(河出書房新社)、「介護破産」(KADOKAWA)がある。むろん、「女性自身」でも仕事をしている。
いずれにしても「女性自身」のビジネスは雑誌をもって完結するものではなく、その間口の広さからコミックス、ロングセラー、ベストセラーをスピンオフさせることなくして「女性自身」のビジネスは完結しないはずだ。

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4)【本日の一行情報】

中島岳志の「論壇時評」は「RADWIMPSの愛国ソング 霊的心性が愛国と結びつく潮流」。
「『HINOMARU』の歌詞は、そのロマン主義的傾向こそが問題とされなければならない。これは戦前・戦中期の国粋主義の特質と重なる。『HINOMARU』は、稚拙な愛国ソングとして揶揄される以上の射程を含んでいる。戦争を憎み、平和を愛し、霊的なつながりを求める心性が、ロマン主義ナショナリズムと接続する。戦前の国粋主義も、絶対平和を希求する宗教的潮流から、日本原理が称揚され、民族の一体化が鼓吹された。
スピリチュアリティと愛国が結びつく現代日本の潮流を捉える必要がある」
https://www.nishinippon.co.jp/feature/press_comment/article/429066/
果たしてナショナリズムが現実主義的なことがあるのだろうか。ナショナリズムは決してロマンティッシュ・イロニーを手放しはしない。

◎「ダイヤモンドオンライン」が掲載した「電通は『月に1度は週休3日』に向けロボットをこう活用している」で電通の小柳肇(ビジネスプロセスマネジメント局 局長 兼 CoE推進室長)は次のように語っている。
「コピーライティングをAIにさせると、人間ではとうてい思いつかない言葉の組み合わせを提示してきます。こういう実例を見ても、AIやロボットは仕事を奪う存在ではなく、AIやロボットは気の利いたアシスタントだと思います。ポジティブな創出に関わる相棒として、喜ばれてしかるべき存在です。
それに、日本では、これからますます労働人口減少が加速します。労働力不足に備えるためにも、いまから積極的にRPAをオフィスに入れていくべきだと思います」
https://diamond.jp/articles/-/172413
大手出版社もRPAを積極的に導入すべきだろう。

◎galaxybooksは、Amazon POD(プリント・オン・デマンド)を利用した出版社を運営して来たが、三省堂書店オンデマンドにもラインナップしていき、6月末時点で50タイトルを突破した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000018.000021844.html

スタジオジブリのプロデューサー鈴木敏夫淡交社から「禅とジブリ」を刊行する。7月5日には三省堂書店有楽町店でサイン会を実施するそうだ。
https://www.cinra.net/news/20180701-suzukitoshio

◎2018年7月8日午後10時からNHK BS1でドキュメンタリー「ボクらと少年ジャンプの50年」が放映される。「週刊少年ジャンプ」を支えた作家はもちろんのこと、後藤広喜、堀江信彦鳥嶋和彦という元編集長三人も登場する。
http://www4.nhk.or.jp/bs1sp/x/2018-07-08/11/12161/2637528/
https://rocketnews24.com/2018/07/02/1084967/

黒川創が「鶴見俊輔全漫画論 1・2」(ちくま学芸文庫)を書評している。朝日じゃなくて、産経。
「漫画がもっとも低迷するのは、鶴見によると、戦時下だという。政治指導者のチョビひげを誇張して描くことさえ許さない時代となれば、もはや漫画に出番はない」
https://www.sankei.com/life/news/180701/lif1807010022-n1.html

◎ぴあと、「パンシェルジュ検定」を運営する日販は、9月15日(土)〜17日(月・祝)の3日間、横浜赤レンガ倉庫イベント広場にて「パンのフェス2018秋 in 横浜赤レンガ」を共同で開催する。今年も昨年同様に年2回の開催である。春は来場者数が約13万人だった。
https://www.nippan.co.jp/news/pannnofes_2018autumn/

◎日販は、イギリスの出版社DK社および同社の日本での総代理店であるフォルトゥーナと共同で、DK社「ビジュアルで学ぶ大人の教養」フェアを7月1日(日)より全国の書店7店舗で開催する。コーチャンフォー 新川通り店、コーチャンフォー 若葉台店、丸善 丸の内本店、紀伊國屋書店 新宿本店、三省堂書店 有楽町店、有隣堂 テラスモール湘南店、谷島屋 浜松本店の7店舗である。
https://www.nippan.co.jp/news/dk_fair_2018/

◎「週刊ダイヤモンド」編集部による「ペットボトルコーヒー大ヒットの理由、サントリーが圧倒的優位」は次のように書いている。これは「記事」だろう。
「市場では、先行者として消費者に浸透しているサントリーが、このカテゴリーで圧倒的な首位に立つ。競合品が増え市場が拡大するほど、小売りの売り場を多く占める本家が得をするという理屈だ」
https://diamond.jp/articles/-/173745
こちらは「ザ・プレミアム・モルツ」について書かれているが「広告」であろう。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55234
https://dime.jp/genre/555034/

ECCは、同社が運営する「ECCジュニア」の全生徒向けに、絵本、児童書、参考図書、学習漫画、名作・古典、育児書など865タイトルがスマホタブレットで閲覧・貸出できる無料サービス「ECCジュニア電子図書館」を7月1日から開始した。
https://ict-enews.net/2018/07/2ecc-2/

◎ハースト・デジタル・ジャパンが展開するフィットネス&ライフスタイルメディア「Women’s Health」(ウィメンズヘルス)は、7月2日よりGoogleアシスタントに対応し、「お疲れバスター」の提供をスマートスピーカーおよびスマートフォン向けに開始した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000016.000022874.html

◎学研プラスは、7月2日よりWebサイト「夏休み! 自由研究プロジェクト2018」をオープンした。
https://kids.gakken.co.jp/jiyuu/
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001705.000002535.html

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5)【深夜の誌人語録】

仕事は汗をかくものであり、仕事は涙を流すものであり、仕事は叫ぶものである。