【文徒】2019年(平成31)2月1日(第7巻19号・通巻1437号)


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1)【記事】好調? 六本木「喫」をめぐるネット上の評判
2)【本日の一行情報】
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1)【記事】好調? 六本木「喫」をめぐるネット上の評判(岩本太郎)

ITMediaビジネス』が、昨年末に六本木の青山ブックセンター跡にオープンした「喫」が「好調なワケ」をレポートしている。1500円の「入場料」が必要であるにも関わらず、記事中でインタビューに応えているプロジェクトリーダーの武田建悟(日販)曰く「週末は入場制限することも。店内は90席しかないので、90人が入店すれば制限をかけることに」。
インタビュアーの土肥義則も「平日の13時に取材しているわけですが、店内にはたくさんの人がいますね」と語っている。無論、まだ開業景気だろうとの突っ込みも出てくるところだが、「入場料」の是非をめぐる武田の以下のような発言には、語調のユルさの中にもどこか挑発的な響きがある。
《書店って、ハードルが低いですよね。どんな本があるのかなと気になれば、フラリと立ち寄ることができる。そこがとてもいいところなのに、入場料を請求すればその良さを壊すことになる。(略)「入場料」というインパクトのある言葉が大きかった。なんともいえない違和感を覚えながらも、なぜか心地よい。そうなると、「やらない理由はない」という気持ちになったんですよね。ご存じの通り、書店の環境は厳しい。同じようなことをやっていても厳しい状況は目に見えているので、反対の声があっても、「入場料」を必要とする書店を開こうと決意しました》
《さまざまな意見があって、ありがたいなあと感じています。それだけいろいろな使われ方をしているのではないでしょうか。「自分はこのように使った」「このような本と出会った」「入場料を払うことに違和感があった」といった声が出てくるのはうれしい。話題にならないより、話題になるほうがいいですよね》
《1年経っても、2年経っても売れない本はどうすればいいのか。3年経ったときに「3年間売れなかった本」といったタイトルで、お客さんに見せることができるかもしれません。そのようなPOPが書かれていたら、どう感じますか?》
http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1901/30/news015.html
Twitterで「ウラゲツ」が、このインタビューの肝は聞き手である土肥の質問のほうにあると指摘のうえ「『1500円に設定すれば、本との出会いを楽しめる人が集まるかも、という話ですね』という質問は本質をついていると思います」と前置きをしながら連弾で感想を述べていた。
《そもそも本屋というのは総じて本との出会いの場ではないのか。そうした認識の前提がここでは見えにくくなっていて、まるで日販が「本と出会えない本屋がある」と内心苦慮しているかのようにも受け取れる。》
https://twitter.com/uragetsu/status/1090541035808149504
《取引先である本屋さんにとっては嫌味に聞こえかねないわけです。これはこれで日販の担当部署に真意を問いたいところですが、そこが先方の考えるポイントなのではないとすれば、土肥さんのように入場料と絡めて問うしかない。つまりこれは「客を選ぶ」試みなわけです》
https://twitter.com/uragetsu/status/1090543451165286400
《ただ「客を選びますよ」とは取次としては公言しにくい。コンセプトが先に決まったのか入場料ありきだったのかは知りません。日販が千客万来型の総合書店像に限界を感じていたのだとしたら、千客ならぬ選客という試みは選択肢としてはありえる》
https://twitter.com/uragetsu/status/1090545776701259776
《そして、興味深いことに、喫は日販にとって最重要パートナーである蔦屋書店が今まで発展させてきた複合型書店に対する一つの応答になっています。蔦屋は「化的空間」と「上質なくつろぎの時間」の提供を標榜してきたわけですが、時間と空間の提供そのものには課金してこなかった》
https://twitter.com/uragetsu/status/1090818737115062275
《客を選ばない、いわば従来の千客万来型の書店像から蔦屋書店は完全には離れていない。しかし「化的空間」と「上質なくつろぎの時間」自体に価値があるのならそれに課金してもいいわけで、そこを喫は開発しようとした。枚方蔦屋書店で頂点を迎えた複合化から次の段階への第一歩を日販自身が示した》
https://twitter.com/uragetsu/status/1090820180307931136
実際「本との出会いの場である書店に入るのに、入場料を取るなんてけしからん」という感覚のほうが、もしかしたら一般には少数派になっているのではないか? と思考実験してみる必要はあるかもしれない。女子クリエイター集団「haconiwa」が昨年末、店内の写真も多数織り交ぜながらアップしていた「喫」ルポなどを読んでいるとなおさらそんな気がしてくる。同ルポの末尾はこんなふうに結ばれているのだ。
《検索して本を選ぶ時代に、偶発的な本との出会いが演出されていて、予期せぬ発見があったり、自分じゃなかなか探しにいかないものが偶然見つかったり。みなさんそれぞれの特別な時間を過ごせるはずです。ぜひ本とじっくり向き合って、本と恋に落ちる瞬間を味わって頂きたいと思います》
http://www.haconiwa-mag.com/magazine/2018/12/bunkitsu/?utm_source=antenna
twitterでも以下のような好意的な来店記が散見される。「インスタ映えする」などというのは、私(岩本)もよく書店状況を写真をウェブにアップしつつ伝えたりしているのでよくわかる。何しろ大抵の書店では内部の撮影は本来はご法度だ。
《男子のインスタ、ツイッターフェイスブック映えな感があるんだよね。ABCだったころには足も運ばなかったけど、この業態になっておしゃれな賢そうに見える空間になって、注目されているから行くのでは?と》
https://twitter.com/_matsuki/status/1090504367373832192
《そこに居ることに対してお金を払ってるので、だらだら滞在するのにカフェみたいな罪悪感がなくて、読書にはいいかんじ。
読書はやっぱり紙が好きだし、kindle買うより好きかも。平日朝なので空いてるのもよい》
https://twitter.com/u_vf3/status/1090431063304810496
《面白そうな本がたくさんあって、想像以上の居心地の良さ。
入場料1500円。自分では買えないような高価な本ばかりあえて読む貧乏性です。
ハヤシライス美味し》
https://twitter.com/mamedanuki_mame/status/1090822950729609217
「本を買いに行く場所」以前に「本との出会いを求めて遊びに行く場所」としての書店へのニーズは、むしろ書店の数がここまで減ってしまった中では逆に対価を払ってでも享受したい。そこを書店のビジネスとして取り込んでいくには、「ウラゲツ」が指摘するように蔦屋モデルではまだ中途半端だということだろうか。
その意味ではむしろ以下のようなレポートにある、「公営」の八戸ブックセンターが地域に「本と接する場」をサービスとして提供しようとしている姿のほうが上記の「喫」と重なりあってくる気さえしてくる。八戸市の職員(まちづくり化スポーツ部まちづくり化推進室)でブックセンター所長を務める音喜多信嗣は記事中でこんなコメントをしていた。
《利用者に、飽きることなく何度でも足を運んでもらえるように、テーマの一部は頻繁に入れ替えている。ここで触発されてインターネット書店で買ってもらってもいい。その一つ手前、つまり、ほしい本を探したいときにここに来てほしい》
https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/011800093/?P=2

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

小学館は出版業界志望の就活生に向けた自社セミナー「先輩社員への質問会」を2月20・21・22日に開催予定。参加申し込みを現在公式サイトで受け付けている。会場に「コミック誌」「児童学習誌」「ライツ・クロスメディア」「デジタル事業」「宣伝」など職種別に分けたブースを7つ設置のうえ、それぞれの現場で働く社員に直接質問(1ブースにつき30分、計3ブース)ができるという企画だ。
https://www.shogakukan.co.jp/news/200841
https://jinji.shogakukan.co.jp/2020_teiki/

◎昨年末、東京都練馬区が区立図書館に指定管理者制度(民間委託)を導入する方針を打ち出したのに対し、そこで働く50名以上の図書館専門員(非常勤職員として働く司書)の組合が反対のうえストライキ突入寸前(直前で回避)までに至った問題は、その後も両者間での交渉が続いた結果、1月21日に「大綱妥結」が成立。区側はなおも指定管理制度導入推進の姿勢を崩してはいないものの、図書館専門員全員の雇用を保証(光が丘図書館のカウンター業務への異動)する旨の回答を区側が出してきたことから、組合側も受け入れを決めたそうだ。今月11日発売の『週刊金曜日で、私も妥結成立前までの状況をレポートしていた。
http://www.kinyobi.co.jp/kinyobinews/2019/01/31/antena-407/
2月12日には練馬駅北口「ココネリ」(区民・産業プラザ)で同図書館専門員労働組合ほかが主催する経過報告会が開かれる。
https://twitter.com/msEVOVCpnYPs1gL/status/1090818311959396353
https://twitter.com/msEVOVCpnYPs1gL/status/1090820301208805376
https://twitter.com/msEVOVCpnYPs1gL/status/1090873635156287488
組合の「妥結」に疑問を投げかける向きもあるようだ。 http://blog.livedoor.jp/igrs1949/archives/1073652892.html

◎その公共図書館を支える司書などの職員が今や「6割非正規頼み」になっている現状について『東洋経済オンライン』がレポートしている。
https://toyokeizai.net/articles/-/260901
上記の練馬区立図書館も久しく常勤の司書は採用しておらず、区内で直営の3図書館(練馬・光が丘・石神井)で働く50人以上の司書は全員非常勤。だがその中には最長で在職29年の職員もいるなど、勤続20年以上のベテランが多数在籍するという話だった。

◎CCCがTカードの利用者情報を捜査当局に提供していた問題に関連して、首都圏の「ツタヤ図書館」第1号(2015年にリニューアルオープン)である神奈川県の海老名市立図書館は、同館利用者の個人情報や貸出履歴をCCCには「提供しておりません」とする「お知らせ」を、同市教育委員会教育部学び支援課と共に1月25日付で公式サイトに掲載した。同館ではTカードが貸出カードとしても使える。
https://ebina.city-library.jp/library/ja/info_page/1348
これも私が『週刊金曜日』(今日2月1日発売号)での取材で同図書館に電話で問い合わせたところ、同館の広報担当者は「こちらではお答えできませんので本社(CCCのこと)よりお答えします」と語ったものだ。追ってCCC後方から寄せられたのは、既に21日に同社公式サイトに出ていた「お知らせ」(個人情報保護方針を改訂いたしました)の反復だった。
https://www.ccc.co.jp/news/2018/20180121_005470.html

◎『週刊春』は1月31日発売号で広河隆一に対する性暴力告発記事の続報を掲載。昨年末の第1弾を受けて編集部に寄せられた新たな告発をもとに、被害に遭ったという首都圏在住の30代女性の証言を掲載している。
http://bunshun.jp/articles/-/10578
毎日新聞は1月20日に紙面掲載した被害女性の実名による手記をウェブ版にも掲載した。「広河隆一氏のハラスメント、被害女性が実名手記」
https://mainichi.jp/articles/20190131/k00/00m/040/128000c


◎「藝春秋がノンフィクション作品に拘る真意」と題し「Yahoo!ニュース『news HACK』プロジェクト」が、春でノンフィクション編集局を担当する常務取締役の飯窪成幸に『東洋経済オンライン』でインタビュー。角幡唯介『極夜行』が「Yahoo!ニュース」の第1回「ノンフィクション本大賞」を受賞したことを受けての企画で、ノンフィクション苦境の背景に掲載媒体の減少があることを認めつつ「ネットニュースサービスがノンフィクションを対象としコンペティションを主催する意義は大きい」と語っている。『極夜行』も『春オンライン』での連載から生まれた作品だった。
https://toyokeizai.net/articles/-/261729

◎映像監督で作家の森達也が、オウム真理教事件に迫ったノンフィクションとして2010年に発表した『A3』を「note」で無料公開した。単行本の担当である集英社インターナショナル高田功、庫版の担当である集英社の中山哲史、庫版の解説を書いた斉藤美奈子など関係者にも相談のうえ快諾を得たそうだ。
https://note.mu/morit2y/n/nde972b9f0eac
https://gigazine.net/news/20190125-tatsuya-mori-a3/
『A3』は2011年に第33回講談社ノンフィクション賞を受賞した。この時には森のオウム報道を批判してきた弁護士の滝本太郎やフリージャーナリストの青沼陽一郎などが講談社に抗議を送っていた。
https://sky.ap.teacup.com/applet/takitaro/20110903/archive

◎日本編集者学会が主催するセミナーの第13回「読者はどこへいった 雑誌出版の危機と読者の消滅について」が2月2日(土)午後1時半より専修大学神田キャンパス7号館で開催される。第1部は阿部重夫(『FACTA主筆)、河野通和(元『中央公論』『婦人公論』のほか新潮社『考える人』編集長。現在「ほぼ日の学校」学校長)、山田健太 (専修大学教授・ジャーナリズム論)による鼎談で第2部は質疑応答。
https://peatix.com/event/591068/view
日本編集者学会は元小澤書店社長の長谷川郁夫ら編集者が2009年1月に立ち上げた団体で、事務局は田畑書店が務めている。
http://tabatashoten.co.jp/日本編集者学会/

ファミリーマート良品計画の生活雑貨「無印良品」の販売を中止するそうだ。両社ともにセゾングループだった時代の名残が、また一つ消える。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO40653880Q9A130C1EAF000/

◎代表作『パタリロ!』が連載40周年を迎えた漫画家の魔夜峰央が『女性自身』によるインタビューに登場。『翔んで埼玉』が発表から30年以上たった2015年以降に大ブレイクする前の数年間には、税金滞納を余儀なくされるほど経済的に苦しい時期もあったそうだ。
https://jisin.jp/entertainment/interview/1705108/

◎埼玉県在住の女子高校生で漫画家の渡辺ポポが、地元をネタに新潮社の『月刊コミックバンチ』に連載した作品を同社から単行本化した『埼玉の女子高生ってどう思いますか?』が昨年10月の発売以来好調。翌月には増刷が掛かったほか、地元で原画展が開かれるほどの人気を博しているそうだ。埼玉の話題は地域も盛り上がる一方、マスメディアでも「首都圏ローカルの全国ネタ」になりやすいところはある。
https://www.yomiuri.co.jp/local/saitama/news/20190124-OYTNT50139.html?from=tw

◎出版不況の中でも児童書の販売が好調だと群馬県の上毛新聞が1月27日付で報道。高崎市で行われている「絵本フェスティバル」の模様や、地元で行われている絵本講座、読み聞かせ活動などを下支えの要因として挙げている。
https://www.jomo-news.co.jp/news/gunma/society/107740