【文徒】2019年(平成31)2月27日(第7巻36号・通巻1454号)


Index------------------------------------------------------
1)【記事】今回の「アカデミー賞」で知っておきたい豆知識
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】
----------------------------------------2019.2.27 Shuppanjin

1)【記事】今回の「アカデミー賞」で知っておきたい豆知識

第91回になるアカデミー賞が発表された。「ROMA/ローマ」アルフォンソ・キュアロンが監督賞ばかりか撮影賞まで獲得してしまった。キュアロンは「ゼロ・グラビティ」で監督賞と編集賞獲得しているから、都合4つもオスカーを手にしている。監督賞と撮影賞の同時受賞は史上初のことであるという。トランプ大統領メキシコとの国境に「壁」を作る前にハリウッドはアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ、ギレルモ・デルトロ、アルフォンソ・キュアロンの三人のメキシコ出身監督に制圧された。蛇足ながら言えばエイゼンシュタインブニュエル、ペキンパーにとってもメキシコは聖地であった。
今回のアカデミー賞はアフリカ系映画人のパワーも炸裂したと言って良いだろう。助演男優賞は同性愛者の黒人ピアニストとイタリア系運転手の実話に基づいた交流を描く「グリーン・ブック」マハーシャラ・アリが二度目の受賞を果たし、助演女優賞は無実の罪で投獄されたアフリカ系アメリカ人の苦悩を描いた「ビール・ストリートの恋人たち」のレジーナ・キングが受賞した。「ブラックパンサー」も3部門でオスカーに輝いた。マハーシャラ・アリは2年前、「ムーンライト」でイスラムとして初めて助演男優賞を受賞している。
https://theriver.jp/91th-oscar-info/
更に既に名誉賞は受賞している黒人監督のスパイク・リーだが、初のオスカーを監督賞ではなかったものの、脚色賞で獲得した。受賞スピーチの決め台詞は、大統領選挙で「ドゥ・ザ・ライト・シング」を呼びかけることであった。むろん「ドゥ・ザ・ライト・シング」はスパイク・リー出世作のタイトルである。
https://www.sankei.com/entertainments/news/190225/ent1902250024-n1.html
早速、トランプ大統領は例によってツイッターで「スパイク・リーのスピーチは人種差別的攻撃」だと反論したそうである。
https://www.huffingtonpost.jp/entry/spike-trump_jp_5c7491f6e4b02efbde1d7cc3
ただ「グリーンブック」は人種問題について「ホワイトスプレイニング」(白人による説教)だという批判もあり、この作品が作品賞受賞を決めた際には、スパイク・リーは会場を一時、退出していたそうだ。
http://www.afpbb.com/articles/-/3212892?cx_part=top_topstory&cx_position=4
私たちが忘れてはならないのは「ROMA/ローマ」がネットフリックスの作品であったということだ。ネットフリックスとしては初のオスカーを獲得したことになる。伝統が牛耳る映画界にもデジタルシフトの波が押し寄せようとしているのかもしれい。
日経トレンディネット」が公開した「アカデミー3部門受賞 Netflix『ROMA』がざわつかせた業界事情」によれば、ゴールデングローブ賞授賞式のバックステージでアルフォンソ・キュアロンは「バラエティ」の記者に次のように言い放ったそうである。
「人種も言語もさまざま、スターが出演しないメキシコ作品がどれだけの映画館で上映されていると思いますか? 今、多くの映画人がプラットフォームと仕事をしている理由のひとつにあるのが、こうした映画を製作することにひとつも恐れないからです。今後も『ROMA』のような多くの作品が上映の機会を作り出されていくことを願います」
https://trendy.nikkeibp.co.jp/atcl/pickup/15/1008498/022501670/
スパイク・リーのスピーチに象徴されるように今回のアカデミー賞は「トランプ嫌い」が勢ぞろいしたような政治ショーでもあった。ハリウッドは昔から物語を政治に従属させるのが好きだし、得意としてきた。映画批評において物語批判は映画を政治から解放する役割を果たしたとは言えよう。

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2)【本日の一行情報】

◎エブリスタが運営する「monokaki」に連載されている仲俣暁生の連載「平成小説クロニクル」が福井晴敏百田尚樹を取り上げているが、次のように結ばれている。
「どんなに優れたストーリーテラーであっても、物語を政治に従属させてしまえば、その輝きは失われてしまうということだろうか」
https://monokaki.everystar.jp/column/heisei/2129/?fbclid=IwAR1cpS7dTmAgXSZc-TC0KbhdsYNZz8EYwdXb6DIoJjSAUnUYLWtbCwUX930
百田尚樹あたりはプロレタリア学のヤリクチをなぞっているのである。

オリコン「アニメ&ゲーム」が公開している「ヒット生む?LINEマンガ編集長が明かす“マンガアプリ”の現在地…『電車ひと駅分で興味呼ぶ』」で、「LINEマンガ」編集長の中野崇は次のように語っている。中野はスクウェア・エニックスの「ヤングガンガン」「ビッグガンガン」の元創刊編集長である。
「アプリやウェブ媒体で人気のあるのはデスゲーム系やサスペンスなど刺激が強い作品が多い。また隙間時間に読むので1話は20ページ以下。刺激の強さでいうと、LINEマンガには老若男女様々な読者さんがいるのでR指定となるような描写は描ききれない弱みはありますが、より過激な描写が必要な場合は、コミックスにしたときに規制をゆるくした描写で加筆することも。『地上100階 ~脱出確立0.0001%~』はその筆頭格で、更新日は無料連載ランキングで1位になるほどの人気です。またLINEマンガは読者の6割が女性ですので恋愛モノや少女マンガも人気があります」
https://www.oricon.co.jp/special/52466/

◎「週刊少年ジャンプ」に連載されている「ぼくたちは勉強ができない」がTVアニメ化され、4月6日よりTOKYO MXなどで放送開始される。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001549.000016356.html

◎「安倍官邸vs.NHK:森友事件をスクープした私が辞めた理由」を藝春秋から刊行した元NHKの相澤冬樹が日刊スポーツのインタビューに応じている。
「何がターニングポイントだったかと考えると、15年3月に『ニュースウォッチ9』の大越健介キャスターを、翌16年3月には『クローズアップ現代』の国谷裕子キャスターを外しちゃった。誰が見ても、おかしな外し方だったでしょ? 内部の人間だって、何の説明もないですよ。だけど、誰が見ても、あぁ…切られたんだな、と思ったですよ。もったいないですね。あの2人は、NHKの財産だったはずなのに」
NHKの記者として民放、新聞社といった他社の記者とお付き合いしていると分かるんだけど、NHKは政権に弱いかもしれないけれど、民放はスポンサーに弱い。新聞もそういうところがある。例えば、企業批判的な記事って出にくいんですよ。それは、ずっと見ていて感じるので。やっぱり、NHKという存在は、いるよな、と。不透明になっちゃっているのは、報道…特に政治絡みの報道に関わる部分だけですから」
https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/201902250000017.html
https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/201902250000025.html

◎「BuzzFeed News」の「沖縄・県民投票『まとめサイト』が大手メディア超える拡散力 知事や反対派の批判が中心」は県民投票の実施を求める署名運動開始の2018年5月から開票までの記事で、見出しに「県民投票」が入りシェア件数が1千以上の記事のトップ10を明らかにしている。1位「琉球新報」41、2位「沖縄タイムス」34、3位「YAHOO!ニュース」20、4位「Share News Japan」15、5位「産経新聞」12、6位「朝日新聞」8、6位「アノニマスポスト」、8位「日刊ゲンダイ」7、8位「毎日新聞」7
「Share News Japan」と「アノニマスポスト」という二つのサイトがトップ10に入り、「Share News Japan」は朝日新聞よりも上位に顔を出し、「アノニマスポスト」は上位に並んでいる。即ち、「『まとめサイト』が、大手メディアに劣らない高い拡散力を持っている」のである。
https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/kenmintohyo-4

日本SF大賞は、山尾悠子の「飛ぶ孔雀」(藝春秋)と、円城塔の「字渦」(新潮社)に決まった。
https://www.sankei.com/life/news/190224/lif1902240072-n1.html

ジャストシステムの調査によればスマホ利用者で「音声入力」の機能を使って検索をしている人の割合は、若年層よりも高齢層で高かった。
https://mainichi.jp/articles/20190225/k00/00m/040/108000c?fm=mnm

◎沖縄で実施された県民投票で、投票動向を支持政党別にみると、自民党支持層でも反対が48.0%と賛成の40.6%を上回っている。
https://www.sankei.com/politics/news/190224/plt1902240017-n1.html
「沖縄アイデンティティ」が「沖縄ナショナリズム」に転化する可能性があるという数字ではないのだろうか。

◎「NET IB NEWS」が「カドカワ川上社長、解任!~KADOKAWAの角川歴彦氏がドワンゴ川上量生氏に『見切り』」を掲載している。
経営統合は、ドワンゴKADOKAWAを救済するという見方があったが、逆の結果で終わった。グループは再編され、ドワンゴは4月からKADOKAWAの子会社になる。
角川継彦氏は、川上量生について、『天才、川上くん』と持ち上げ、『川上くんという若き経営者をようやく手にした』と後継者ができたことにご満悦だった。
川上氏に見切りをつけた角川氏は、後継者という難問に再び向き合うことになった」
https://www.data-max.co.jp/article/28022
ドワンゴは資本金の額を105億1630万2000円減少し、1億円とすることを発表した。
https://gamebiz.jp/?p=232413

KADOKAWA日本航空KADOKAWAの海外子会社である香港角川有限公司JALサテライトトラベルの4社は、香港からの訪日観光客に向けたアニメツーリズムの推進のため、共同の商品販売を行うことで合意した。
http://press.jal.co.jp/ja/release/201902/005071.html

◎「世界の果てまでイッテQ!」(日本テレビ系)の視聴率が「ポツンと一軒家」(朝日放送テレビ朝日系)に抜かれた。2月24日の放送で「イッテQ!」が16.3%、「一軒家」が16.4%だった。0.1%の差!
https://www.dailyshincho.jp/article/2019/02251750/?all=1
2強を前にNHK大河ドラマ「いだてん」の影は薄くなるばかりだ

◎「好書好日」が「出版不況?『だったら自分で売るしかない』 開高賞作家・川内有緒さん、著書を携え東へ西へ」を掲載している。川村は開高健ノンフィクション賞受賞作である「空をゆく巨人」を「手売りキャンペーン」で「これまで660冊を売った」という。
https://book.asahi.com/article/12142201?cid=asadigi_rnavi_book

自治体直営の書店として話題になった「八戸ブックセンター」の収支は想像通り厳しい。「アエラドット」が次のように書いている
「17年度の書籍の売り上げは収入全体の1割強に過ぎず、運営費の多くを市の一般財源基金に頼る。完全に『赤字』だ」
https://dot.asahi.com/aera/2019022500083.html?page=1

◎2月下旬より期間限定で販売される森永製菓のスナック菓子「おっとっと」シリーズは「『おっとっと<うすしお味>』深海生物を探そう!」と「『ベジタブルおっとっと<コンソメ味>』恐竜に会えるかも!?」で学研プラスの「学研の図鑑LIVE」とタイアップした。商品パッケージにAR技術をベースにスマートフォン事業を手掛けるアララの手がけるARアプリ「ARAPPLI」(アラプリ)が採用されている。
https://www.atpress.ne.jp/news/178091

◎坪田信貴の「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話」(KADOKAWA)の主人公=ビリギャルのモデルとなった小林さやかの初の著書「キラッキラの君になるために ビリギャル真実の物語」が3月28日にマガジンハウスから発売される。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000068.000030125.html

神戸新聞NEXTが2月26日付で「週2日ひっそり営業 扱うのは読み継がれる良質な本、神戸の小さな書店」を掲載している。「いい本屋 COME HITHER(カム・ヒザー)」は神戸市東灘区の住宅街にある普通の民家の一室で、営業は週2日だけだ。
「開業は2017年12月。阪急岡本駅近くにあった児童書専門の名店『ひつじ書房』が、42年の歴史に幕を下ろした直後だ。児童書が充実していた神戸・元町の老舗『海堂書店』も13年秋に閉店。井伊さんは『神戸で児童学の灯を絶やしてはならないと思った』と力を込める」
https://www.kobe-np.co.jp/news/kobe/201902/0012097159.shtml

◎青春群像小説「漫画ひりひり」を小学館から刊行した大分市在住の風カオルが大分合同新聞に紹介されている。風も漫画家を志して挫折した経験を持っているそうだ。
https://www.oita-press.co.jp/1010000000/2019/02/26/JD0057821150

◎「新書大賞2019」は吉田裕「日本軍兵士――アジア・太平洋戦争の現実」(中公新書)。
https://www.yomiuri.co.jp/culture/academia/20190225-OYT8T50031/

讀賣新聞の2月26日付「妻を殺害、講談社の元編集次長に懲役15年求刑」は、こう書く。
「東京都京区の自宅で妻を殺害したとして殺人罪に問われた出版大手『講談社』元編集次長で韓国籍の朴鐘顕被告(43)(休職中)の裁判員裁判の公判が26日、東京地裁(守下実裁判長)であった。検察側が懲役15年を求刑した一方、弁護側は無罪を主張し、結審した。判決は3月6日に言い渡される」
https://www.yomiuri.co.jp/national/20190226-OYT1T50314/
2月26日付産経ニュース「元編集次長に懲役15年求刑 弁護側は無罪を主張 東京地裁」によれば、
「検察側は論告で、失禁の跡が寝室にあったことなどから『被害者が寝室で首を圧迫され殺されたのは明らか』と指摘。『4人の子供を残して亡くなった被害者の無念は察するに余りある』と述べた。
弁護側は『一次的な意識喪失で失禁することもある』として失禁と死亡は関係ないと強調。朴被告は最終意見陳述で『僕は妻を殺していません』と述べた」
https://www.sankei.com/affairs/news/190226/afr1902260017-n1.html
「他殺に間違いないという証拠は1つも出てきていない」とする弁護側と「強固な殺意で冷酷で悪質なものだ」とする検察が真っ向から対立している。
https://gunosy.com/articles/acI5o?s=t


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3)【深夜の誌人語録】

大胆に失敗せよ。