【文徒】2019年(平成31)3月28日(第7巻56号・通巻1474号)


Index------------------------------------------------------
1)【記事】トンプソン出身のベストセラー仕掛人ジェイムズ・パタースンは「IP戦略家」だ
2)【記事】アップルのサブスクリプション戦略に怯えるdマガジ
3)【本日の一行情報】
4)【深夜の誌人語録】
----------------------------------------2019.3.28 Shuppanjin

1)【記事】トンプソン出身のベストセラー仕掛人ジェイムズ・パタースンは「IP戦略家」だ

「FINDERS」が公開している「『ヘイト本』だらけの出版業界になる前に。70代になっても挑戦を続ける米ベストセラー作家、ジェイムズ・パタースンに学ぶ」は日本ではなくアメリカでの話だ。「トランプがはじめた21世紀南北戦争」(晶社)の渡辺由佳里の連載「幻想と創造の大国、アメリカ(12)」として発表されている。
渡辺が紹介しているジェイムズ・パタースン、この名前は頭に刻み込んでおくべきだろう。アメリカのベストセラー作家であるのだが、彼の作品はすべて共著なのである。ビル・クリントン元大統領が政治スリラー小説を書いたと話題になったが、これもパタースンとの共著なのである。渡辺は書いている。
「刊行する本とベストセラーの数では、パタースンを超える者は世界のどこにもいない。2017年には児童書や絵本を含めて25冊、2018年には約30冊の新刊を出し、『ニューヨークタイムズ紙ベストセラーリストに最も多くの作品が入った作家』、『電子書籍の売上で初めて100万部以上を売った作家』としてギネスブックに登録されている」
私はパタースンの作品はすべて共著だと記したが、渡辺はこう説明する。
「集めた情報からは、実際に章を書く『作家』というよりも指導を与えて書かせる監督であり、『パタースン』のブランドを率いるCEOであり、表向きの顔として活躍するスポークスマンのような存在だということが見えてくる」
パタースンは、広告業界に身を置いた経験を持つ。何とJWトンプソンで役員までつとめている。パタースンが作家であり、なおかつマーケティング感覚に優れているのは、そのためだ。そんなパタースンが現在、挑んでいるのがソーシャルメディアを活用したミステリだ。タイトルは「The Chef」という。渡辺によれば、この小説の主人公は夜はフードトラックを経営しているニューオリンズのケレイブ刑事であり、この刑事がテロリストの陰謀をかぎつけるというストーリーであるようだ。
「公式のフェイスブックページにメッセージを送ると、自動的にケイレブからのメッセージが届くという形で小説が始まる。そこには、写真やケイレブがテロリストの巣窟に潜入してiPhoneで撮った映像も含まれている。
そして、主人公のケイレブがあたかも実際に存在するかのように、彼が運営するフードトラックの『Killer Chef』のインスタグラムのアカウントがある」
このようにソーシャルメディアで情報を発信し、インタラクティブな小説だということでメディアで話題になり、ファンも広がると、2月18日にハードカバーとして刊行し、ベストセラーになったという。
https://finders.me/articles.php?id=833
パタースンがSNSを駆使するのは、これが初めてのことではないようだ。こんな冨田健太郎のツイートを発見。2014年のものだ。
「ジェイムズ・パタースンがフェイスブック上で『Missing』という企画を展開中。パタースンがさらわれたという設定で、参加者はアレックス・クロスらとともに謎を解く。先週の金曜にスタートし、毎日手がかりが出され、7日間つづくという」
https://twitter.com/TomitaKentaro/status/437792684485259265
冨田は「一大産業と化している」とパタースンを評しているが、その通りである。
https://twitter.com/TomitaKentaro/status/296831687390801921
ちなみに渡辺由佳里はツイートでこんな風に呟いている。正直で良いなあ。
「個人的にはパタースンの本は好きじゃないのだけれど、共著者など彼の仕事をした人たちは絶賛する」
https://twitter.com/YukariWatanabe/status/1110136673789272066
ジェイムズ・パタースンは現在、72歳。日本流にいうと「団塊世代」とか「全共闘世代」ということになる。クリントン元大統領と組んだ「大統領失踪」は早川書房から刊行されている。
http://www.hayakawa-online.co.jp/shop/shopdetail.html?brandcode=000000014089&search=%C2%E7%C5%FD%CE%CE%BC%BA%ED%A9&sort=
http://www.hayakawa-online.co.jp/shop/shopdetail.html?brandcode=000000014090&search=%C2%E7%C5%FD%CE%CE%BC%BA%ED%A9&sort=
「大統領失踪」は朝日新聞の書評でも取り上げられている。評者は諸田玲子。諸田は書評を「元大統領の著書を読んで歴代(とりわけ現職)大統領の資質を問いなおしたくなるのもまた、『現代の大いなる皮肉のひとつ』と言えるかも」と結んでいるが、ジェイムズ・パタースンについての言及はない。
https://book.asahi.com/article/12112127
「大統領失踪」にしても、今回の「The Chef」にしても書物だけにはとどまらない。映像化も必ず視野に入れているのだ。ジェイムズ・パタースンは続々と映像化されているのである。しかも自らがエグゼクティブ・プロデューサーをつとめる。ジェイムズ・パタースンは「IP戦略家」にほかならないのである。

------------------------------------------------------

2)【記事】アップルのサブスクリプション戦略に怯えるdマガジ

朝日新聞デジタルは3月26日付「米アップル、有料動画配信参入へ ネトフリと競争」で、こう書いている。
「米アップルは25日朝(日本時間26日未明)、米クパティー市のアップル本社で、有料動画配信サービス『アップルTVプラス』を今秋、世界の100以上の国と地域で始めると発表した。また、有料のゲームサービス『アップル・アーケード』を今年中に開始するほか、有料のニュース配信サービス『アップル・ニュース・プラス』を25日から米国とカナダで始めた」
https://www.asahi.com/articles/ASM3V0J18M3TUHBI045.html
GIGAZINE」の「Appleが約1000円で新聞や雑誌を読み放題な新ニュースサービス『Apple News+』を発表」によれば「Appleがこれからのサービスにおいて重視する6つの要素は、『簡単に使えて』『細部へ注意が行き届いていて』『プライベートかつセキュアで』『キュレーションの専門家で』『パーソナライズされており』『家族で共有できる』というもの」だそうだ。
https://gigazine.net/news/20190326-apple-special-event-2019/
ロイターの3月26日付「米アップル、動画サービス参入や有料版ニュースアプリなど発表」は書く。
「最初に発表されたのは、現在無料で提供されているニュースアプリの有料版『アップル・ニュース・プラス』だ。様々なニュース記事のほか、ナショナル・ジオグラフィックピープル、ポピュラーサイエンス、ビルボード、ザ・ニューヨーカーなど300種の雑誌を掲載するという。料金は月額9.99ドル」
https://jp.reuters.com/article/apple-television-idJPL3N21C3X8
日経の3月26日付「米アップルが定額制のニュース配信 月額9.99ドル」は書く。月額9.99ドルは約1100円。
「読み放題の対象には有力誌『タイム』や『ニューヨーカー』、ファッション誌『ヴォーグ』、科学誌ナショナルジオグラフィック』などが含まれる。各コンテンツをそれぞれ個別に購入した場合には年間8000ドルに相当するという」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42902570W9A320C1000000/
「アップル・ニュース・プラス」のサービス紹介動画…カッコイイ
https://www.youtube.com/watch?time_continue=72&v=Im5c5WR9vMQ
3月26日より、アメリカとカナダでサービスを開始し、今秋にはオーストリアとヨーロッパでも開始するようだ。日本上陸については不明。「GIZMODO」の「AppleNewsに+。Appleの雑誌の定期購読サービス『AppleNews+』発表」は書いている。
「ただ雑誌をスキャンして入れ込んだだけではなく、アプリ内で快適に見られるように最適化されているのがいいですね! これは作り込みすごそう」
https://www.gizmodo.jp/2019/03/apple-news-plus.html
「Engadget 日本版」は佐々測「『Apple News+』を早速試す。月額9.99ドルの雑誌/ニュース読み放題サービス、実力や如何に(石川温)」を公開している。
「実際に使ってみると、結構便利で早く日本に上陸して欲しいと思ってしまった。まず、Newsアプリではウェブ上に掲載されている様々なメディアのニュースがまとめて読める。いますぐ読むべきニュースから、政治や経済、iPhoneAndroid、スポーツ、Foodといったトピックスごとに分類されていて、このあたりはスマートニュースなどのニュースまとめアプリとほぼ同等だ」
「タイトルの横に媒体のロゴが目立つよう表示されているので、『この媒体の記事だから読もう』とか『この媒体は当てにならないから辞めておこう』といった『読むべきか、読まなくても良いか』の判断がしやすい」
「トピックスやチャンネルのひとつという位置づけで、今回新たに追加されたNews+の項目が存在する。そこをタッチすると、雑誌の表紙がずらりと並ぶ。このあたりはまさにdマガジンに近い印象だ」
「このアプリが便利だなと感じたのは、スマートニュース的なキュレーションメディアとdマガジン的な雑誌読み放題サービスが、ひとつのアプリで使えるという点にある。暇つぶしや情報収集のために、ひとつのアプリを起動すれば、欲しい情報にすぐにアクセスできるというのが魅力なのだ」
https://japanese.engadget.com/2019/03/26/apple-news-9-99/
私にとって最大の関心事は日本の新聞社や雑誌社がアップルにどう対応することになるのかである。
ロイターは「米アップル、独自動画配信参入や定額ゲームサービスなど発表」も公開している。
「動画ストリーミングサービス『アップルTVプラス』では、14億台に上る同社製品やスマートテレビ、他社の端末のユーザーを対象に、自社オリジナル動画のほか、映画やテレビ番組を提供。先行するネットフリックス(NFLX.O)やアマゾン(AMZN.O)に対抗する」
「さらに同社は携帯電話やタブレット、デスクトップパソコンなどで動作する定額制ゲームサービス『アップルアーケイド』も発表した。
ウォルト・ディズニー(DIS.N)やセガ、アンナプルナ・インラクティブと協力し、『App Store(アップストア)』を通じて100種類以上の新しいゲームタイトルを提供する予定」
https://jp.reuters.com/article/apple-television-idJPKCN1R62K0
アップルもネットフリックスやアマゾンのようにオリジナル製作の映画やドラマを配信するようだ。毎日新聞によれば「オリジナル番組にはスティーブン・スピルバーグ監督ら著名人を多数起用し、世界100カ国以上で提供する予定という」。
https://mainichi.jp/articles/20190326/k00/00m/020/261000c
「BUSINESS INSIDER JAPAN」の「アップル異例の『ハード新製品のない発表会』の理由。“コンテンツ収益の追求”に舵を切り始めた」でITジャーナリストの西田宗千佳は次のように書いている。
Apple Arcadeは、iPhoneiPadMacApple TVで同じゲームが遊び放題になるサービスだ。スタート段階で100を超えるゲームが用意される。
重要なのは、その100を超えるゲームの多くが『オリジナル』だ、ということだ」
Apple TVアプリでは他社のストリーミングサービスや、映画などの単品購入作品が見られるので、Apple TV+に『既存の作品を多数入れる』必然性は薄い。
とすると、Apple TV+で提供されるのもApple Arcadeと同じく、『アップルが出資してクリエイターと共に制作した番組』が中心になるだろう」
「こうしたサービスが消費者にとって魅力的かどうかは、コンテンツの中身に加え、価格も重要だ。アメリカはともかく、他の国でどのくらい使えるのか、不透明な部分があるのも否めない。Apple Arcadeはおそらく日本でも展開されるだろうが、Apple TV+については定かではない」
https://www.businessinsider.jp/post-187999
この日アップルは「製品」の発表は何もしなかった。新型iPadなどの発表は先週ネットでひっそり済ませていたのだ。

------------------------------------------------------

3)【本日の一行情報】

◎主要IT企業22社に対するイメージを調べたところ、「働きやすい」と思う企業は1位「ヤフー」、2位「LINE」、3位「ZOZO」、4位「メルカリ」、5位「楽天」となった。
https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00602/030100008/

毎日新聞の3月25日付「『川端康成学賞』選考を休止 資金不足で」は書いている。
「川端のノーベル学賞の賞金を元手に実施してきたが、資金が尽きつつあるという。記念会は『資金問題が解決すれば再開の道もある』として、存続を模索する」
https://mainichi.jp/articles/20190325/k00/00m/040/294000c
新潮社が協力して来た賞である。

◎マガジンハウスの女性ライフスタイル誌「Hanako」は、シュガーバターの木やねんりん家でおなじみの「グレープストーン」が手がけるアシェットデセール(皿盛りのデザート)専門店「銀座ぶどうの木」、コンビニアイスで人気の「栄屋乳業とともに監修・開発したスイーツを発売する。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000078.000030125.html

◎「JBpress」が発表した「アマゾン、ネット広告市場で2強からシェアを奪う」は次のように書いている。
「アマゾンの広告収入は、グーグルとフェイスブックに次いで多いが、2社との差は依然大きい。しかし、その広告事業は、今後、2社と4位以降のシェアを奪いながら、拡大していくという。これに伴い、米国のネット広告市場は、さらに集約が進むという。eマーケターは、2021年にもグーグル、フェイスブック、アマゾンの合計シェアが、ほぼ7割に達すると見ている」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55893

江川紹子テレビ朝日の「報道ステーション」にツイッターで怒っている。
「英国のEU離脱問題で、ユリ・ゲラーを持ち出す報道ステーションは、報道番組と名乗るのはやめるべし。テレ朝は、ワイドショーでオウムに好き放題喋らせる最悪の事態を招き、看板の朝生でもオウムを招いてその宣伝番組を行い、若い人を入信させる手伝いをしてしまったことを反省してないらしい」
地下鉄サリン事件から24年、死刑囚が執行されて最初の3月20日を報じて、わずか5日後に、このザマである。あの教祖に騙され、巻き込まれ、罪を犯して命を失った人たちが、なぜあんな行為に至って、多くの犠牲を出すに至ったのかなど、なんも考えていないのだろう」
「これは、イデオロギーとか、現政権に対する賛否とかではなく、まともなメディアであろうとするのかどうか、という基本的な姿勢の問題」
https://twitter.com/amneris84/status/1110175374250409989
https://twitter.com/amneris84/status/1110177808746082304
https://twitter.com/amneris84/status/1110179607527854080
東スポWeb」が「江川紹子氏“オウムの反省なし”報道ステーションに怒り「報道番組と名乗るのはやめるべし」を掲載している
https://www.tokyo-sports.co.jp/entame/entertainment/1322647/

ハースト婦人画報社が運営し、サービス開始10周年を迎えるオンライン・セレクトショップ「エル・ショップ」は、3月28日(木)より期間限定で「サード マガジン」のポップアップショップを展開する。「サード マガジン」がオフィシャルサイト以外のオンライン・ショップでアイテムを販売するのは、今回が初めてとなる。
https://www.dreamnews.jp/press/0000191259/

ADKマーケティング・ソリューションズ(ADK MS)とプリンシプルは、データドリブンマーケティング領域において、ADK MSが有するオンオフ統合プランニングをはじめとするコミュニケーションプランニングノウハウとプリンシプルが保有するGoogle Analyticsをはじめとするマーケティングテクノロジーコンサルティングを掛け合わせ、独自のデータドリブンマーケティングソリューションを構築するための業務提携契約を締結した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000043.000004328.html

ドキュメンタリー映画東京裁判」の デジタルリマスター版がBlu-ray / DVDとして6月26日に発売される。この映画の言ってみれば編集長は、当時、講談社の宣伝局に属していた杉山捷三にほかなるまい。杉山は日刊現代の川鍋孝と親しかった。杉山自身も、もともと「週刊現代」の出身である。東京教育大学の新聞会の出身の鈴木教亢、杉山、元木昌彦というラインが「週刊現代にはあった。このとき特派記者として元木と組んだのが朝倉喬司ある。鈴木教亢は日刊現代の専務として川鍋を支え、元木は女性誌に異動となっていたが、取締役に新任した鈴木俊男により第一編集局に復帰し、「フライデー」「週刊現代の編集長を経験することになる。川鍋、鈴木俊男、川鍋孝元木昌彦の四人は、鈴木が担当役員の時代には定期的に会合を重ねていた。昨年、有楽町の居酒屋で開催された杉山の傘寿を祝う会には、鈴木教亢、鈴木俊男、元木昌彦が顔を揃えていた。
https://natalie.mu/eiga/news/325437
こういうことも書き残しておかないと「歴史」から削除されてしまうからね。そう今年は鈴木富夫が傘寿を迎える。

高橋留美子の「うる星やつら」は女性下着ブランドのピーチ・ジョンとコラボした。「うる星やつら」は、「週刊少年サンデー」(小学館)に1978年から87年に連載された。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000255.000009170.html

日本経済新聞社日経BP社は、5月18日(土)、19日(日)に東京ミッドタウンにおいて、働く女性に向けた総合イベント「WOMAN EXPO TOKYO 2019」を開催する。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001141.000012949.html
https://www.woman-expo.com/tokyo/

------------------------------------------------------

4)【深夜の誌人語録】

創造力とは勘違いする力でもある。