【文徒】2019年(平成31)4月4日(第7巻61号・通巻1479号)


Index------------------------------------------------------
1)【記事】幻戯書房が決断した出荷正味60%の衝撃
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】
----------------------------------------2019.4.4 Shuppanjin

1)【記事】幻戯書房が決断した出荷正味60%の衝撃

幻戯書房が決断した。何と出荷正味を原則60%とすることにしたのである。田尻勉代表取締役名義でプレスリリース「出版流通健全化に向けて、出荷正味見直しについて」を4月2日付で発表した。そこには、こう書かれている。
「小社では少部数で高定価の書籍が多く、新刊は書店様から事前注に基づいて、取次会社に配本していただいており、取次の見計らいの配本は多くありません。しかしながら、配本後すぐの返品も増え、返品額も増えています。また、一部の取次は、月一度の締日を考慮することなくムラのある返品となり、小社の資金計画に支障を来しています。こうしたことから、出版流通に携わる方々も厳しい状況にあると拝察しております。
業界をあげて、先人が築いてきた出版流通の仕組みが疲弊していることに対して、表立って改善策の提案が上がっていません。小社としては、読者の方々に届けていただくためにも、取次会社・書店が機能していただくなくてはなりません。そのために、小社としては
出荷正味を原則60%
といたします(但し、お取引先からのお申し入れをいただき、詳細は別途相談させていただきます)。
小社にとって、条件が悪くなることは、避けたいところではありますが、率直な取次会社からの申し入れがあれば、取引条件の変更のお話し合いに応じたいと考えております。取次と書店のお取引に口を挟む立場ではありませんが、小社の正味引き下げが、書店様への卸正味にも反映されることを願うものです。また、高正味出版社の尻ぬぐいを低正味出版社がしているという不公平が是正されることを希望いたします」
https://genkishobo.exblog.jp/27534992/
暮らしの「オルタナティブ」を発信する出版社であるという三輪舎の中岡祐介がツイッターで、こう反応している。
幻戯書房さんの勇気ある決断。大賛成。ほんとにぼくらは『尻拭い』をしてる。うちは最安で62。がんばろう!」
https://twitter.com/yusukenakaoka/status/1113270852194172928
「海と月社」がこんなツイートを投稿している。
幻戯書房さんが、出版流通健全化の為に出荷正味を原則60%に下げられるそうです。この英断を受けて、取次各社、他の高正味出版社はどう動くのでしょうか?もしかしたら黙殺でしょうか?出版業界関係者の皆様は、幻戯書房さんのブログ拡散を!」
https://twitter.com/umitotsuki/status/1113089431311773697
いわゆる「差別正味」の恩恵を受けている「高正味出版社」の筆頭岩波書店である。今や取次にしても岩波書店の商品を扱うと逆ザヤが生じるとさえ言われている。岩波書店のような「高正味出版社の尻ぬぐいを低正味出版社がしているという不公平」が戦後、一貫して罷り通っているのである。そうしたなかにあって幻戯書房が出荷正味を原則60%と発表したことは、大袈裟にいえば「肉を切って骨を断つ」大英断なのである。大垣書店の大垣守可が「出荷正味を下げて下流に貢献してくれるとは…売らねば」と呟くのも頷けよう。
https://twitter.com/MoriyoshiOgaki/status/1113038839436599296
田尻はプレスリリースを「小社としても死活問題である出版流通の疲弊に、一石を投じたく、小社の意向を表明いたします」と書いて締めているが、「谷中・ひるねこBOOKS」は、この言を引用しながら、一言「応援したい」と呟いている。
https://twitter.com/hirunekobooks/status/1113043051021103105
「走る本屋さん 高久書店」のツイート。
「これは凄い決断だと思う。
こういう出版社が増えてくれれば」
https://twitter.com/books_takaku/status/1113029639763460096
新潮社営業部庫新書販売の「いがぐり名ばかり副部長」も一言「すごい表明」とツイートしている。
https://twitter.com/shinchosha_bsh/status/1113108059415629825
H.A.Bookstoreは松井祐輔が立ち上げた本の販売代行(取次)、出版もしている7坪の新刊書店だが、非常に示唆的なツイートをいくつも投稿している。
「あ、さっきRTしたのこれです。『どうせ取次の利益になるんでしょ?』と思ったそこのあなた。たぶんそのとおりだし、それは批判されるべきものではないと思うのですが、だからやらない、というのが一番かっこ悪い、ので、これは『こ こ ろ い き の も ん だ い だ』」
「すでに、トランスビューが直取引70%委託で10年以上やっていたり、子どもの化普及協会が買切(ほぼ)60%だったりしますし、直に柔軟な出版社も増えましたし、かくいうぼくも自分の出版社の本は買切60%がベースですが、重要なのはこれは取次経由といことで、仕入れる書店にも責任が求められますね
「わりとこっちのほうがぼくは衝撃で、幻戯書房みたいな本で、かつ事前注を即返品とか何考えているんだろう、責任感大事!と思っています。『新刊は書店様から事前注に基づいて、取次会社に配本していただいており、取次の見計らいの配本は多くありません。しかしながら、配本後すぐの返品も増え、』」
「ぼくは出版も取次も本屋もやっているから、安易な発注と返品は自分がされるとすごく嫌で、だからあんまり返品しないし、取次としても、返品は要了解としているですが、もちろんしっかり扱ってくれるお店もあり、その差発注の差を『大手取次』使いながら見極めるのは無理なんですよね」
「そういう疑心暗鬼があるから、『大手取次』への正味下げても雑な注が増えて逆効果かも、みたいな判断も過去にあったと思っていて、だから、こう、みんなが正直に、誠実に仕事をするというか、誠実な人と誠実な本が出会って良い循環が生まれるのがいいなぁ、と思うわけです」
「というか、もう、本で大儲けする、とかあまり現実的ではないので、大々的に、悪く言うと人を騙したりするような作り方や売り方がしたい人は、本なんかすでに効率悪すぎるから、すぐ飽きていなくなると思っていて、だから結局に誠実にやる人だけが残ると思うんですよね。未来はあかるいですね」
https://twitter.com/koya_books/status/1113049743591059456
https://twitter.com/koya_books/status/1113051412588486657
https://twitter.com/koya_books/status/1113051998465617921
https://twitter.com/koya_books/status/1113053623955611649
https://twitter.com/koya_books/status/1113054535231057920
https://twitter.com/koya_books/status/1113055594900934659
こんな呟きも発見。
「大手のなかには昨年行われた運賃協力金値上げの申し入れを、受けないところもある世知辛いご時世に、頭がさがります」
https://twitter.com/h_magara/status/1113291501650370560
これは確認するまでもないだろうが、女性誌で禄を食んでいる雑誌広告マンであれば、幻戯書房から刊行された「小村雪岱随筆集」を読んでいないなどということは、まさか、あるまいな? 小村雪岱資生堂意匠部に籍を置き、今も資生堂の新人デザイナーが入社1年目に手描きレッスンを受ける「資生堂書体」を設計したのである。
https://www.thetables.jp/story/story-1665
私が幻戯書房の本で最近、買ったのは神山睦美の「日本国憲法と本土決戦」か。https://note.mu/genkishobou/n/ne95522a5901b
「骨踊り 向井豊昭小説選」は買わなければならないと思っている。向井はアイヌを題材とした小説を書いている。サンキュータツオ朝日新聞の書評で次のように書いている。
「彼の作品群は意図的に周辺的であり、マイナーだ。だからこそ知られていない。だが、多様性の現代にあって『みんなが良いというもの』だけが無思考に注目されるなか、向井豊昭の作品は具体的で限定的だからこそ普遍性がある」
https://book.asahi.com/article/12231588
http://genshisha.g2.xrea.com/mukaitoyoaki/index.html
幻戯書房は向井の未収録短篇「竜天閣」を「note」に全公開している。
https://note.mu/genkishobou/n/n035aacf341a0
周知のように幻戯書房の創業者は歌人辺見じゅんである。角川春樹、角川歴彦の姉である。2011年に亡くなっている。
花々に
眼のある夜を晩年の
父あらはれて
川渉りゆく
http://www.genki-shobou.co.jp/company.html

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2)【本日の一行情報】

◎「BuzzFeed News」が「新元号『令和』発表時にテレ東が荒ぶっていたと話題」を掲載した。安倍首相の会見時、ネットライブ配信のテロップが配信担当者の操作ミスで「ああああああああああ」となってしまったそうである。
https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/reiwa-tvtokyo

◎韓国発の学習マンガであり、累計発行部数は日本で約830万部、全世界で約3000万部を誇る朝日新聞出版の「科学漫画サバイバル」シリーズがアニメ化される。
https://cho-animedia.jp/anime/84762/

講談社も「万葉集 全訳注原付(一)~(四)」、「万葉集事典」(全て講談社)を計1万部の重版。これに合わせ「令和」の2字入りの帯の製作も決まった。
https://www.daily.co.jp/gossip/2019/04/02/0012203677.shtml
岩波書店も岩波庫「万葉集 二」の増刷を決めた。出版界は「令和」特需!
https://www.sankei.com/life/news/190402/lif1904020034-n1.html

◎「日経xTECH」によれば「アマゾンジャパンは東京ファッションウィークの冠スポンサーを降りる方向で最終調整に入った」そうである。
https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/news/18/04593/

◎待ち遠しいったら、ありゃしないよね。1980年~81年、「漫画アクション」(双葉社)で連載され、単行本は40万部を超える大ヒットとなった矢作俊彦×大友克洋の「気分はもう戦争」の続編となる完全新作の読み切りが、38年の時を経てついに「漫画アクション」5月7日号(4月16日発売)に掲載される。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000123.000014531.html
矢作俊彦がツイートしている。
「おれが言うのも妙な話だが、ついにプロになれなかった。それが栄誉。今し方思い出したのは『はちまき』が無駄に渡哲也の真似をする萩原健一だったこと。大友くんとそう話して笑った記憶。『めがね』は無駄に大学行ってしまった乾亨。『ボウイ』はタフガイを演じるライアン・オニールだったか。あああ」
https://twitter.com/orverstrand/status/1111279313393844224

◎「BusinessJournal」が「ツタヤTV、悪質な虚偽広告で39億円荒稼ぎ…非公開のCCCの『利益』明らかに」を発表している。
「DVDレンタルや書籍販売のTSUTAYA(ツタヤ)が展開する動画配信サービス『TSUTAYA TV』で、全作品を見放題であるかのように宣伝したのは虚偽であり、景品表示法違反(優良誤認)に当たるとして消費者庁は2月22日、ツタヤに課徴金1億1753万円の納付命令を出した」
「課徴金の額は、ツタヤが違法表示を対外的に認めるまでの売り上げの3%と規定されている。この期間の『TSUTAYA TV』の売り上げは約39億円だった」
https://biz-journal.jp/2019/03/post_27296.html

◎遂にここまで来たか…。徳間書店兵頭二十八の「日韓戦争を自衛隊はどう戦うか」を刊行する。
http://www.tokuma.jp/bookinfo/9784198648374

資生堂は世界最大手Eコマース企業の一つである中国のアリババグループと戦略業務提携を締結した。
https://www.shiseidogroup.jp/news/detail.html?n=00000000002660

radikoは、4月1日(月)より、NHKが実験として実施してきたラジオ番組の配信を正式なサービスとして開始した。配信エリアは全国47都道府県で、配信コンテンツは、NHKラジオ第1(全国を8エリアに分けた8コンテンツ)およびNHK-FM(東京1コンテンツ)。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000007490.html

◎「ぴあ Movie Special 2019 Spring」が発売となった。ガス・ヴァン・サントの「ドント・ウォーリー」は見なきゃね。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001182.000011710.html

山本一郎が「Yahoo!ニュース」に「Twitterアカウント凍結の謎と、プラットフォーム事業者の責任について」を寄稿している。
「いくつかのご連絡を見る限り、どうやら通報されて凍結に至った理由は『逮捕された新井浩ピエール瀧との間に囲まれて写真に写っている女優・山本美月が次の逮捕者として怪しいのではないか』という第三者書き込みに対し、私が『そのような連想で逮捕情報を書くのはNG』などと引用リツイートした内容に不穏当な単語が混ざっていたことのようです」
「…Twitterではやり取りのコンテクストや意味を読み解かず、単純に単語が自動的に弾かれて凍結される被害も多発しているようです。言葉や表現、主張を扱うプラットフォームとして他国以上に日本で浸透しているTwitter社が、このような形で雑なコミュニティ管理を続けていくようであれば表現の自由に対する問題を抱えていることは疑いようがなく、単語検索と通報で適当に処理するだけの統制にならないよう切に願う次第です」
https://news.yahoo.co.jp/byline/yamamotoichiro/20190402-00120650/

◎「@DIME」は「新元号『令和』発表の瞬間、Twitter上ではどんな反応があったのか」を公開した。Twitter上では午前11:30から午後13:30までの間、「令和」に 関する会話が450万ツイートあったそうだ。「しゃん」は「明治大正昭和平成令和」とツイートしているのだけれど、これを投稿したのは「2016年7月13日」となっているんだよね。気がつきましたか?
https://dime.jp/genre/689982/

◎「Google+」が4月2日をもってサービスを終了した。Facebookに敗けたわけである。
Google+」が実現した独自機能をFacebookも実現してしまうことで「Google+は優位性を消滅させてしまうのである。「ねとらぼ」が「4月2日、Google+終了。月間ユーザー5億人、大統領やAKBも活用した『巨大SNS』の夢はなぜ破れたのか?」を掲載している。
Google+はアカウント名に実名を使うことを強制し、従わない場合はアカウントを削除するなどの強硬策に打って出たのです。これはユーザーの猛反発に合い、それを受けていくぶん緩和されましたが、これがGoogle+の最初のつまずきだったともいわれます」
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1904/02/news032.html

◎総合電子書籍ストアBOOK☆WALKERは、4月発売の新刊からKADOKAWAライトノベル作品の予約コイン10%還元を開始した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000971.000001227.html

トーハンは、幼児・小学生向け英語教育関連書の新施策「おやこのえいご」を、3月中旬より全国約500書店で展開している。
https://www.tohan.jp/news/20190402_1382.html

◎アイリッジ 、TOKAIコミュニケーションズ 、サイバード 、ISAO、クラスメソッド、アイプロスペクト・ジャパン、WHITE、TAM、ヘッドウォータースというAmazon Alexaエージェンシー認定企業を中心とした9社は合同でアマゾンジャパン協賛のもとAlexaに関する最新情報を発信・交換する初のビジネス向け大型イベント「Voice UI SHOW」を開催する。
https://vui-show.connpass.com/event/125901/

大日本印刷DNP)は、独自開発したVR制作技術を活用して、展覧会の会場を歩いているかのような体験ができるVRコンテンツを制作した。
https://www.dnp.co.jp/news/detail/1191169_1587.html

秋田書店Webマンガサイト「Souffle」に連載されている「のの湯」が実写ドラマ化され、BS12 トゥエルビ日曜ドラマ枠で放送される。
https://www.oricon.co.jp/news/2132756/full/

幻冬舎テレビ東京とnoteで、書籍化や映像化のチャンスがあるコミックエッセイの投稿コンテストを開催し、「コミックエッセイ大賞」を選ぶ。
https://note.mu/info/n/n1f2b19ef02d6

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3)【深夜の誌人語録】

共有すべきは傷みであり、感動である。