【文徒】2019年(令和元)8月9日(第7巻143号・通巻1563号)


Index------------------------------------------------------
1)【記事】「表現の不自由展」中止、実行委員会と津田大介との"溝"
2)【本日の一行情報】
----------------------------------------2019.8.9 Shuppanjin

1)【記事】「表現の不自由展」中止、実行委員会と津田大介との"溝"(岩本太郎)

今年3月24日、「あいちトリエンナーレ2019」芸術監督に就任した津田大介が、その抱負を語るのを私は生で見聞した。『DAY JAPAN』編集長だった広河隆一の性暴力問題をテーマに早稲田大学で開かれたシンポジウムの質疑応答時間に彼が会場から発言した時のことだった。メディア業界におけるジェンダーバランスの問題に関連し、5カ月後に開幕するトリエンナーレでは参加作家の男女比を男女ほぼ同じにするなどのコンセプトを紹介。同じ時期に応じたメディアのインタビューでもそれを含めた同展のコンセプトを熱心に語っていた。
https://www.buzzfeed.com/jp/akikokobayashi/days5
美術手帖』も当時《あいちトリエンナーレという日本中から注目を集める国際展において、これまでの美術界の常識を打ち破る動きができたのは、ジャーナリスト・津田大介だからこそ》と称賛していた。
https://bijutsutecho.com/magazine/news/headline/19606
その5か月後、まさかあのように苦渋に満ちた表情の津田大介を報道を通じて見ることになるとは思わなかった。開幕翌日の2日夜、「表現の不自由展・その後」中止を発表する説明する記者会見の席上、津田は自身の責任に言及する中で《ジャーナリストとしてのエゴだったとも感じています》と述べた。
https://www.huffingtonpost.jp/entry/tsuda-art_jp_5d455808e4b0aca3411e3f5f
はたしてその「ジャーナリストとしてのエゴ」という言葉の使い方に、他の「ジャーナリスト」たちはどんな感想を抱いたことだろうかと思うのだが、そこはひとまず措く。とはいえ、今回の展示中止をめぐる攻防の背景には芸術監督である津田と主催者である愛知県、さらには「表現の不自由展・その後」実行委員たちそれぞれの間の思惑や認識のずれが事態をややこしくしている面があるのではないか。
まず関係者間で単純な意思疎通や、事実関係についての認識共有が上手くできていなかったのではないかと思える節がある。例えば津田は、例の脅迫で愛知県警に被害届を出した件に関し4日に自身のTwitterアカウントで次のように説明した。
《もちろん公開する選択肢もありましたしあのFAX以外にも脅迫やテロ予告と取れるものはありましたが、それを丸々公開すると犯人や見た人を刺激して更に危険が高まるためやめた方がいいと警察に止められているんです。FAXはネット経由で匿名化されて送られていましたね。手段をよく知ってる人の犯行です》
https://twitter.com/tsuda/status/1157805658554527744
しかし7日に愛知県警により逮捕された容疑者は、朝日新聞が以下で報じたところによると、会場の名古屋市のすぐ隣り町である一宮市のコンビニエンスストアから《大至急撤去しろや、さもなくば、うちらネットワーク民がガソリン携行缶持って館へおじゃますんで》などと記した書をFaxで送ったことを防犯カメラを使った捜査によって見つけられたという人物だった。
https://digital.asahi.com/articles/ASM8777BYM87OIPE028.html
こうした警察とのやりとりに関する情報共有、あるいは脅迫の公開の是非についての議論などが、はたして津田と実行委員会の間でどれだけ行われたのか。
津田は発売中の『週刊新潮』8月15・22日号で展示中止の件についての取材を受ける中で次のように語っている。「表現の不自由展・その後」実行委員会メンバーに対して、ネットスキルを含めてあまり信用を置いていないともとれる内容だ。
《そもそも、(実行委員会のメンバーは)ITに強い方々ではなく、チャットアプリの『LINE』も使っていない。連絡はメーリングリストのやりとりです。また、メンバーは5人いるのですが、すべてが合議制で、全員が一致しないと何も始まらない。そのために契約もなかなか結べないとか、いろいろなことが決められなかった。もちろん、実行委員の5人が今回のことで非常に怒っているのはよく分かっていますが》
https://www.shinchosha.co.jp/shukanshincho/backnumber/20190807/
「実行委員の5人」とはアライ=ヒロユキ(美術・化社会批評)、岩崎貞明(メディア総研事務局長・『放送レポート』編集長)、岡本有佳(フリー編集者)、小倉利丸(評論家・元富山大学経済学部教授)、永田浩三武蔵大学社会学部教授・元NHK職員)である。永田についてはNHK時代に『ETV2001』の改変問題でNHKを批判した件がよく知られるが、小倉も『監視社会とプライバシー』(インパクト出版会・2001年)『市民運動のためのインターネット―民衆的ネットワークの理論と活用法』(社会評論社・1996年)などの編著を持っており、ウェブに関しては全員が全く疎いわけではない。
https://censorship.social/statement/
ただ、上記の5人が連名で3日に発表した声明「『表現の不自由展・その後』の一方的中止に抗議する」は上記実行委員会公式サイトには8日時点でもまだ掲載されていない。
展示中止を受けて7日午後に衆議院議員会館で開催された緊急集会(「表現の自由を市民の手に全国ネットワーク」主催)には実行委員会から永田と小倉が参加者として出席のうえ、会場から発言していた。小倉は前日の7日付で「あいちトリエンナーレ実行委員会会長の大村秀章(愛知県知事)にあてて出した公開質問状について説明した(以下に一部抜粋)。
《私たちの要求にもかかわらず、今日まで正式に書での中止の通告も、理由も明示されていません。私たちが得た情報は津田大介術監督からの口頭での説明と報道のみという異常さです。会場の入り口には壁が設置されて入場不可能となっていますが、私たちは中止決定にまったく納得していません。私たちは、いつでも展示を再開できるよう、事務局の了解を得て、中止決定の後も会場内をそのまま保全しています》
小倉によれば現在は封鎖されたままの展示室内には実行委員会メンバーは入れるが、一般人はもとよりメディアが入って取材することも止められているそうだ。
上記の公開質問状も現状ではまだネット上で公開されていない。小倉は「まだブログすらない。今まで作られたサイトはあるけれど、そこから引っ越しをしなければならない」と、質疑応答の中で説明した。
なお、当日の集会の模様は『レイバーネットTV』が全編収録のうえ、以下で公開している。
http://www.labornetjp.org/news/2019/0807aiti
https://www.youtube.com/watch?v=cFdWKXxBi2I&feature=youtu.be
4年前の「表現の不自由展」では実行委員会のメンバーだったジャーナリストの綿井健陽は、展示中止の報を聞くや名古屋に飛び、展示終了直後の3日夜には壁の向こう側へと封印された展示会場の内部を撮影。さっそくFacebookに公開設定でアップした。
《今日(4日・日)から、この展示エリアは各作品を置いたままの状態で「封鎖」されるという。表現物を直に見聞きして自由に論評することが封鎖された空間と化す。これまでも日本では、「慰安婦」を巡る上映・展示・番組等は、様々な攻撃や暴力行為にさらされてきたが、このままいくと、これは長きに渡って禍根を残す「中止事件」になるだろう。
「あいちトリエンナーレ」の会期自体は、10月14日までの75日間もある。それまでに、この空間をどう変えられるか、変えられないか…。いったんは「封鎖」されたとしても、何とか多くの人が自由に展示作品を直に見聞きして、自由に話をしたり考えたりする空間に「創造」できないか。たとえ途中からでも》
《念のためですが、上記写真の展示エリアには、「表現の不自由展」実行委員会メンバーや展示出品者の「関係者」は今日(4日・日)も引き続き入っています。展示エリア入口は、高さ4メートル程の仕切り板で、壁のように封鎖されました。各展示作品は原状のままの状態とのこと。取り急ぎ》
https://www.facebook.com/takeharu.watai/posts/2360071160736216
実行委員の1人、アライ=ヒロユキ(新井博之)も展示室内部の様子を撮った写真を添えつつTwitterFacebookで公開し始めた。
《資料コーナーの年表に新たな検閲事件が加わりました。言わずとしれた、今回の中止措置です。
いま同じ実行委員の方が展示室のなかでがんばっており、その人から送られてきた写真です》
https://twitter.com/arai_hiroyuki/status/1157645351941070850
SNS投稿禁止扱いでしたが、既に展示は強制終了させられたための、ネット展示です。いずれもっとしっかりしたかたちの公開を行います》
https://www.facebook.com/arai.hiroyuki.1965/posts/2502321109831782
何かのはずみで状況が一転した途端、即座に公開展示を再開できるようにはなっている模様だ。綿井も書いているように「あいちトリエンナーレ2019」の最終日は10月14日。会期は2カ月以上も残っている。
他方で津田大介については「表現の不自由展・その後」中止発表翌日の3日、以後の来場者の安全確保を理由に《イベント出演を当面の間見合わせます》との告知が「あいちトリエンナーレ2019」公式サイト上に掲載された。4日と9日にそれぞれ津田が出演して開催されるはずだったトークイベントも中止(4日)と延期(9日)が告知された。
https://aichitriennale.jp/news/2019/004015.html
https://aichitriennale.jp/news/2019/004017.html
https://aichitriennale.jp/news/2019/004031.html

------------------------------------------------------

2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎「表現の不自由展、その後」中止問題に関連して、津田大介とは因縁深い間柄とも言うべき山本一郎は8日、「私が『あいちトリエンナーレ』でやらかした津田大介さんをそれでも支持する理由」と題したブログエントリをアップした。
《当然、津田大介さんを芸術監督にするには愛知県知事である大村秀章さんもGOを出していたわけで、ここで大村さんや名古屋市である河村たかしさんが「津田大介ふざけるな」「いや、河村のいうことは憲法違反だろ」と揉めている以前に、お前らが選んだ津田大介さんがやらかしたんだからお前らの責任になるわけです。不用意にこの手の作品を選び、展示を敢行する判断をした津田大介さんが燃えるのは仕方がないことですが、周辺にいる大人も一緒に焼け焦げているのはどういう伝統芸能なのかと不思議に思います。
一方で、津田大介さんというのは以前から津田さんの気に入らない言説について許容しない人物で、津田さんのピュアで誠実な面もありつつ非常に狭量に見える部分もあります》
《今回は津田大介さんが手がけた作品展に対して批判が殺到したことで展示が中止になるや「表現の自由が脅かされている」と言い募っても「津田大介さん、それはいままであなたが他人に対してやってきた抗議運動と同質のものじゃないですか」という批判も出るでしょう。私個人の経験で言えば、私が書いたヤフーニュースの記事が気に入らなかった津田大介さんが、ヤフーに乗り込んでいってニュース担当者に「山本一郎に記事を書かせるな」と抗議したり、ネットニュース媒体で私が書いていない津田大介批判記事を私が書いたと思い込んで私への批判込みで記事を撤回するよう申し入れメールを送るような人なので、「右にも、左にも不自由な表現があるので平等に展示する」ということなど津田大介さんは毛頭考えていなかったことでしょう》
https://bunshun.jp/articles/-/13336

◎「表現の不自由展・その後」中止の件ではなおもあちこちの団体が次々に声を上げているが、東京・西早稲田の「女たちの戦争と平和資料館」(Women's Active Museum on war and peace=wam)が、そうした各種声明のリンク集を開設した
https://wam-peace.org/ianfu-topics/7739

青林堂の元社員が会社側からのパワハラにより精神疾患になったとして同社などに損害賠償を求めていた裁判は、7月に東京地裁和解が成立した。元社員を支援していた東京管理職ユニオンが6日の記者会見で明らかにしたところによれば、和解条項には会社、社長、専務による解決金の支払い(金額非公表)、パワハラや組合への圧力に対する謝罪などが条件として盛り込まれたという。
https://www.bengo4.com/c_5/n_9970/
ただし青林堂は現在も元社員や同ユニオンを批判する内容の書籍『ブラックユニオン』の告知を公式サイトに載せたままだ。
https://www.garo.co.jp/
時事通信もこの和解成立を報道。しかし《「ガロ」出版社と元社員和解》という見出しを今なお付けてしまう無理解はどうしたことか。確かに青林堂の公式サイトには今も「ガロ」が謳われているが、あの『ガロ』の流れを受け継ぐのは分裂して袂を分かった青林工藝舎にあることを理解しているならば、こんな見出しはつけないはずだ。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2019080601086&g=soc

電通は7日に開催された取締役会で、2019年度第2四半期累計期間(1月1日~6月30日)の連結決算を確定し、公表した。連結業績は前年同期比で増収減益。売上総利益も同じく増加したが、オーガニック成長の伸び悩みなどにより調整後営業利益は減少。最終損益は同88.6%減で12億円の赤字となった。今年12月期の連結純利益は前期比60%減の358億円になる見通しだとしている。
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2019/0807-009868.html
https://www.nikkei.com/article/DGXLRST0467140T00C19A7000000/
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO48325990X00C19A8DTD000/
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL07HPV_X00C19A8000000/

◎「価格1円」でも話題になった博報堂『広告』のリニューアル号(7月24日発売)は《書店では売り切れが相次ぎ、Amazonマーケットプレイスでは5千円近い価格で取引されるケースも出て》いるなど好調のようだ。編集長の小野直紀が『withnews』のインタビューに登場。博報堂でクリエイティブディレクターを務める小野だが、自身は《編集経験もなければ、雑誌もほとんど読まない》とのこと。社内外の30人近いメンバーで取り組んだという創刊号は当初3月19日発売を予定していたのが2度延期で7月までずれ込んだそうだ。
https://withnews.jp/article/f0190806003qq000000000000000W00o10101qq000019564A

◎「光社キャラクター庫」の公式サイトが昨8日にオープンした。
https://special.kobunsha.com/cbunko/
https://www.kobunsha.com/news/index.html#a000571

◎映像やゲーム、出版などメディア関連業界で人材エージェント業務を中心に行っているクリーク・アンド・リバー(C&R)社とJR東日本企画(J企)がデータドリブンマーケティング事業を推進することを目的とした新会社「jeki Data-Driven Lab」を9月に設立すると発表した。出資比率はJ企が60%、 C&Rが40%となる。
https://gamebiz.jp/?p=245396
https://www.excite.co.jp/news/article/Markezine_31743/

◎ウェブデザイン制作やコンサルティング業務などを手掛けるモノスデザイン(都内京区湯島)が、子育て中の家族を対象にライフスタイル情報をウェブと雑誌で発信する新メディア『MAU』を10月下旬に創刊するそうだ。
https://mau-mau.jp/
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000047625.html

◎先の参院選における「NHKから国民を守る党」(N国)躍進の背景についてフリーランスライターの畠山通仁が『選挙ドットコム』で2回に渡りレポートしている。党首である立花孝志をはじめ同党の動向を結党の頃から取材してきた畠山は(その成果は集英社刊『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』にまとめられ第15開高健ノンフィクション賞を受賞した)、N国躍進は単なる偶然ではないと指摘する。6年前に取材を始めた当時、立花は畠山にこう語ったそうだ。
《6年後の2019年参議院選挙で国政に1議席を持つことを目指しています。だから6年後までの選挙スケジュールをすべて調べました。供託金の安い地方選挙に候補者を立てて議席を増やし、体力をつけてから国政に挑戦します。そもそも、一度の選挙で複数人が当選する地方選挙は、供託金の没収ラインも低いから、ほとんど返ってくるんです。ローリスク・ハイリターン。畠山さんも立候補したら当選しますよ。うちから出ませんか?》
http://go2senkyo.com/articles/2019/08/06/43482.html
http://go2senkyo.com/articles/2019/08/06/43537.html

◎日販『ほんのひきだし』が同社の7月期「店頭売上前年比調査」の概要を紹介。5月期が大型連休の反動で大幅ダウンとなったものの、6月期からは持ち直し、7月期は前年比で雑誌が97.8%、書籍が97.9%、コミックが101.5%、開発品が95.4%。トータルでは98.6%となった。コミックは定価アップや既刊の売れ行きが好調だったことにより12カ月連続で前年クリアを達成した。
雑誌では月刊誌の売上が9年10カ月ぶりに対前年比プラス(101.3%)を記録し、定期刊誌の合計でも同100.5%となった。この理由について同誌は《宝島社刊行の女性誌で、定価が上がったことが大きく影響しています》と説明している。
https://hon-hikidashi.jp/more/91032/