【文徒】2019年(令和元)9月20日(第7巻171号・通巻1591号)

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1)【記事】「表現の不自由展」中止、検証委員会報告から見えてきたもの
2)【本日の一行情報】
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1)【記事】「表現の不自由展」中止、検証委員会報告から見えてきたもの(岩本太郎)

「あいちトリエンナーレのあり方検証委員会」第2回会議(17日開催)の席で配布された資料が愛知県公式サイトに掲載の「議事概要」ページで公開された。https://www.pref.aichi.jp/soshiki/bunka/gizigaiyo-aititori2.html?fbclid
翌18日には江川紹子が直接会合を傍聴のうえ『Yahoo!ニュース』でこの件をレポート。検証委員会が問題の背景要因として指摘する「不自由展」の「準備の遅れ」について、津田に直接質した内容を加えつつ報告する。
《今月2日に津田芸術監督に聞いたところでは、契約書については、たとえば日付が和暦となっていることに「不自由展」実行委が難色を示し、これを認めるか西暦に改めるのかを巡って、実行委の合議がまとまって結論が出るまで待たなければならかった。それがいくつもの点で行われるために協議に時間がかかった、とのことだった。
また、津田氏によれば、作品選定の権限は実質的には「不自由展」実行委にあり、自身の意見も退けられた、という(同実行委員会は「話し合って決めた」としており、津田氏の説明に納得していない)。
それならば、「不自由展」実行委に委ねるのではなく、津田氏自らが、「表現の不自由」をテーマにした企画展を作り、作品を選び、作家1人ひとりと直接契約を結ぶ形で行えばよかったのではないか
しかし、私のこの問いに、津田氏は2015年に「不自由展」実行委員会が東京で開いた企画展を見た時の感動があり、それが原点となって今回の企画を行うことにした経緯から、同員会を「リスペクトした」とのことだった》
https://news.yahoo.co.jp/byline/egawashoko/20190918-00143212/?fbclid
そのうえで江川は《予算不足の中、不自由展を何とか実現したかったという芸術監督の熱意は理解できる。悪意があったとは思わない。しかし、公のプロジェクトのあり方としては不適切な行為である。事務局がこれを黙認していたのも問題》とした検証委員会の見解にも理解を示しつつ《こうした検証で、企画展を巡る経緯や問題点は概ね明らかになった》としている。
他方、「表現の不自由展・その後」実行委員会は、上記の会合に先立って検証委員会が先に同実行委や出展作家、一般市民あてに行ったアンケートの内容について《これは検閲行為につながるものであり、また思想調査を意味するものです》として抗議・撤回を求める声明を13日付に公表していた。
https://twitter.com/hyougen_fujiyu/status/1172513106766884865
検証委員会の上記の報告書の中に出てくる、同実行委へのヒアリグから得られたコメントは以下のようなものだ。
ヒアリングにおいて、不自由展実行委員会からは、「我々は「検閲」を狭く捉えるのではく、広く捉えている。例えば、ある表現に対して、事前だけでなく、途中で反対や規制、干渉を受けたものを「検閲」として捉えている。その状況を示して問題を投げかけるのが今回の展示の趣旨と考えている」という旨の発言があった》
展示中止を受けて開かれた集会の席でも参加者から「『検閲』よりも『暴力』による事件だと捉えて訴えていくべきでは」との声がよく挙がっていたのを私(岩本)も聞いたが、「不自由展」実行委の姿勢が津田や「トリエンナーレ」の主催者側も含めた周囲との間で、開催前から開催(中止)後まで齟齬を来すケースが見られるのが気になる。ちなみに「不自由展」実行委は13日に「展示再開」を求める仮処分を名古屋地裁に申し立てている。
https://www.asahi.com/articles/ASM9F35D3M9FOIPE002.html
検証委員会が「ジャーナリストの関心としては理解できる」というように、また江川が上記で意見として述べているように津田自身が「表現の不自由展」を見て覚えた感動から独自に展示を企画し、自分で作品を選んで個々の作家と交渉したうえで実施する形であれば事態はまったく異なったことだろう。
もちろん、そうは言っても公共の場でこそ多様な表現をどこまで保障できるかという別の課題も問われるべきである。上記の件を紹介した私のFacebook投稿に対し、編集者の中川人がコメントをしてくれたので最後に紹介しておこう。ちなみに中川は元法政大学黒ヘルのリーダーでレニングラード国立大学中退。兄の中川右介は編集者で出版社「アルファベータブックス」を経営。祖父の藤岡淳吉は日本共産党創立メンバーの1人という家系に属する。
《これ、元々の順序としては、「民間の施設でやりたいのは山々だけど、金がかかるから公立でやらせてくれ」という話して、公立でやることの意義なんて、でっち上げですよ。そのでっち上げの理屈を元に議論するから、わけのわからない話になる》
《会場だって、自民党土建政治の産物でしょう。芸術や市民のためにできたわけではない。
なんか、嘘つきと嘘つきが嘘つきあっているとしか思えないんだよね》
https://www.facebook.com/taro.iwamoto/posts/2418987354822477
なお、「表現の不自由・その後」に関連して9月26日、東京・新宿のネイキッド・ロフトでトークイベント「ロフトで考える『あいトリエンナーレ』」 が開催される。出演者は仲俣暁生(編集者、筆家)、藤田直哉芸評論家)、トモトシ(アーティスト・「あいちトリエンナーレ」出品作家)、中島晴矢(アーティスト)。
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/naked/127849
https://twitter.com/nakedloft/status/1173590797108670464
藤田は今年4月に「震災芸誌」を謳う『ららほら』を創刊。「当事者」と「被災地の言葉を集める者たち」を通じて震災を浮かび上がらせることを目標とした雑誌である。そうした視座から「不自由展・その後」中止問題をどのように語るか注目したい。

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎「ヘアヌードの仕掛け人」と呼ばれた出版プロデューサーの高須基仁(モッツ出版社長)が17日にがんのため死去。享年71。葬儀・告別式は家族のみで行うという。
https://hochi.news/articles/20190918-OHT1T50084.html
https://www.nikkansports.com/entertainment/news/201909180000400.html
https://www.sankei.com/life/news/190918/lif1909180041-n1.html
『出版人・広告人』では2017年8月号に、元『週刊現代』編集長で同じくヘアヌードブームを支えた元木昌彦との対談にゲストで登場。中央大学経済学部時代のブント(共産主義者同盟)での活動歴や映画研究会(当時の後輩に後にぴあ社長となる矢内廣など)からアルバイトを経てトミーに入社。
周囲の学生運動関係者を大量に玩具業界へと送り込みつつ「トミカ」「プラレール」などのヒット商品を立ち上げ、自販機業界とのつながりの縁で入ったエロ本の世界でヘアヌード写真集を手掛けるようになる――といった一代記を語ってもらった。
2005年には自身の青春時代などを素材にした小説集『散骨』を社から上梓している。2年前の対談の際には至って元気だったが、今年5月頃に肺がんが判明。脳に50カ所以上転移し、歩行もままならない中でもトークライブなどの現場に姿を見せていた。合掌。
https://bookmeter.com/books/1556128

◎マガジンハウスは30万部のベストセラーになった『自衛隊防災BOOK』の第2弾『自衛隊防災BOOK 2』を10月10日に発売する。
https://magazineworld.jp/books/paper/3074/

◎『出版人・広告人』の連載でPANTA頭脳警察)も紹介しているが、ロフトプロジェクトのウェブメディア『Rooftop』の人気連載「暴走対談」の最終回は「PANTA×末井昭編集者)×曽根賢(ex.『BURST』編集長)×森下くるみ筆家)」という豪華版。
白夜書房時代の末井のもとにピスケンこと曽根賢から、後にハードコア・パンク誌として脚光を浴びることとなる『BURST』の企画書が持ち込まれた当時の回顧談から語り起されている。
https://rooftop.cc/interview/190911150807.php
ちなみに頭脳警察の結成50周年記念の新アルバム「乱破」は9月18日に発売。明日21日には渋谷マウントレイニアで50周年記念ライブ第2弾も開かれる(チケットは既に完売)。
https://www.brain-police.com/

◎同じく白夜書房から出ていた雑誌『パチスロ必勝ガイドNEO』で、ニューウェイヴバンド「ロマンポルシェ。」のボーカル(説教担当)として今や大きな人気を博す掟ポルシェがアイドルなど著名人たちのエピソードを素材に連載していた『豪傑っぽいの好き』がガイドワークスから8月末に発売された。パチスロとは全然関係ないが、やはり白夜書房のこうした媒体から新たな書き手が生まれてきたのだ。
https://guideworks.co.jp/sports-culture/20190829m/index/758
https://biz-journal.jp/gj/2019/09/post_118348.html

岡山県で「リビングおかやま」「リビングくらしき」などのフリーペーパー事業を展開してきた岡山リビング新聞社が、山陽新聞社岡山放送が設立した「山陽リビングメディア」に10月1日付で事業譲渡することになった。山陽新聞社のフリーペーパー『レディア』を統合した新しい生活情報紙を年内に創刊する。親会社だったサンケイリビング新聞社から山陽新聞社が今年6月に全株式を取得のうえ事業再編を進めていた。岡山リビング新聞社は10月1日付で解散する。
https://www.sanyonews.jp/article/939629

◎『フリーライターとして稼いでいく方法、教えます。』などの著者で、新宿の壇バー「月に吠える」のオーナーも務める肥沼和之が、10月から新宿で月2回のライター講座「月吠えライタースクール」を開講する。
https://shinjuku.keizai.biz/headline/2847/

◎タレントで気象予報士かつ「健康社会学者」でもある河合薫が『日経ビジネス』に「『生かすも殺すも俺次第』フリーランス礼賛社会の光と陰」を寄稿。最近の「フリーランス」をもてはやす風潮について「『フリーター』もかつては自由を象徴するワードだった」と揶揄している。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00040/?n_cid=nbponb_twbn
80年代後半に「フリーター」という言葉を広めたリクルートの情報誌『フロム・エー』も既にない。1987年には『フリーター』なんて映画も横山博人監督、金山一彦や鷲尾いさ子の主演で公開されていた。
https://diamond.jp/articles/-/166000

◎元小学館編集者で矢沢永吉の『成りあがり』やYMO写真集のほか『SAPIO』編集長なども務めた島本脩二の仕事を展示する「『本を作る』展 デザイナーと編集者の役割」が、10月14日から11月9日まで東京・小平市の武蔵野美術大学美術館で開催される。
https://mauml.musabi.ac.jp/museum/events/15934/

◎東京の都立高校で進む図書館の民間委託に関連して偽装請負の疑いを労働局が調査のうえ指導。その調査内容を記録した都の報告書の要約を『Business Journal』が報告書現物の画像データも添えて報じている。
https://biz-journal.jp/2019/09/post_118412.html