【文徒】2019年(令和元)11月12日(第7巻204号・通巻1624号)


Index------------------------------------------------------
1)【記事】礒崎純一の『龍彦親王航海記』(白水社)は申し分のない傑作である!
2)【記事】ベネッセが儲かるだけの大学入試改革に批判続出
3)【本日の一行情報】
4)【深夜の誌人語録】
----------------------------------------2019.11.12 Shuppanjin

1)【記事】礒崎純一の『龍彦親王航海記』(白水社)は申し分のない傑作である!

『飛ぶ孔雀』の山尾悠子がツイートしている。
《『龍彦親王航海記』重版決定とのこと。おめでとうございます!
https://twitter.com/marco9mx2/status/1192603082095390725
『龍彦親王航海記』は、最晩年の澁澤龍彦に編集者として謦咳に接した礒崎純一による伝記だ。11月15日に東京堂書店で開かれる礒崎純一と東雅夫トークイベントに山尾悠子も加わった。東雅夫のツイート。
《【緊急告知】今月15日(金)に神保町の東京堂書店で開催される『龍彦親王航海記』刊行記念トーク(礒崎純一vs東雅夫)に、あの山尾悠子さんの友情出演(笑)が急遽、決定しました! 皆様ふるってのお運びをお待ち申し上げております。》
https://twitter.com/obakezukinw/status/1192652074867032064
澁澤龍彦による「泉鏡花セレクション」(国書刊行会)の解説を書いているのが山尾悠子である。山尾の礒崎評。
《『龍彦親王航海記』、童顔の編集者として長年知っていた人物がかくも立派な著者に化けおおせるとは。読み終えるのがほんとうに惜しかったことでした。この件はまた来週くらいに。》
https://twitter.com/marco9mx2/status/1191884218416058368
サリンジャーに、マティーニを教わった』の金原瑞人は11月2日付「近況報告」で『龍彦親王航海記』を絶賛している。
《ところで、礒崎純一氏の『龍彦親王航海記 澁澤龍彦伝』(白水社)が出版された。これが困る。じつに困る。とにかく仕事の邪魔なのだ。面白くてしょうがない。
礒崎氏は国書刊行会の編集者で、20世紀末、『山尾悠子作品集成』を国書から出版して、山尾悠子再評価のきっかけを作った。これを機に、山尾悠子が再起動して、次々に(という速さではないが、ぼちぼち)新作を書くようになる。礒崎氏なくして、昨年の泉鏡花賞受賞という事件はなかったはずだ
その礒崎氏が、『書物の宇宙誌 澁澤龍彦蔵書目録』という、とんでもない本を作ったのが2006年。タイトル通り、澁澤龍彦の蔵書目録だ。この本の企画をきいたとき、「だけど、そんな本、いったい、だれが買うの」ときいたぼくに、「金原さん、買うでしょう」といわれて、素直にうなずいてしまった。
そんな礒崎氏が命をかけて(おそらく)、書き上げたこの澁澤伝、見事な評伝になっている。最初は、飛ばし読みしていたのだが、途中から、最初にもどって、順に読みだしてしまった。この忙しいのに! なんでこんなおもしろい本を出すんだとぼやきながら。》
http://blog.kanehara.jp/?eid=480
これは「藤原編集室」のツイートだ。
《礒崎純一『龍彦親王航海記』(白水社)でいちばんドキリとしたのは、種村季弘が「いつか澁澤批判を書こうと思っている」と洩らした、というくだり。澁澤種村と並び称され、長い交友もあった二人だが、それぞれの愛読者ならお分かりの通り、この二人の資質、ものの見方はかなり違う。》
https://twitter.com/fujiwara_ed/status/1190786042921508865
『性愛の日本中世』や『〈悪女〉論』の田中貴子は読み終わるのがもったいなくて、枕元に置いて眺めているそうだ。
https://twitter.com/takakotanaka/status/1192294024981303297
私は澁澤龍彦を介してトロツキーの『わが生涯』に出会った。現代思潮社版の『わが生涯』の翻訳には澁澤も名前を連ねていた。何と澁澤の傑作『サド復活』は小学館の「P+D BOOKS」の一冊として刊行されている。『マルジナリア』もか
https://www.shogakukan.co.jp/books/09352202

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2)【記事】ベネッセが儲かるだけの大学入試改革に批判続出

NHK NEWS WEB」が11月7日付で「ベネッセ実施の英語検定試験 リスニングなどのトラブル相次ぐ」を公開している。
《来年4月の実施が延期された英語の民間試験。その事業者の1つ、ベネッセがことし実施した検定試験で、リスニングなどのトラブルが相次いでいたことが分かりました。ベネッセは関連会社が大学入学共通テストの記述式問題の採点も担当することから、公正、公平な試験ができるのか懸念が広がっています。》
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191107/k10012168571000.html
ベネッセは採点を「進研ゼミ」の「赤ペン先生」程度にしか考えていないのではないか。「日刊ゲンダイDIGITAL」は11月9日付で「英語民間試験に政官癒着 渦中のベネッセが抱える“深い闇”」を掲載している。
《民間試験活用に至る経緯もさることながら、なぜベネッセが主催する「GTEC」が採用されたのか。国語・数学で記述式問題の採点業務をベネッセの関連法人が受注したプロセスは適正だったのか――。ベネッセをめぐる疑惑が噴出している。目下、浮かび上がっているのが政官との“癒着構造”だが、真相は闇に包まれている。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/264483
「AERAdot.」は11月9日付で「共通テストに『記述式』は必要? 国立大学の9割が実施」を発表している。
《記述式の採点業務はベネッセの子会社が落札。約61億円の税金が投じられる予定だ。その一方で、入試の大前提ともいえる採点の「公平性」「公正性」が揺らいでいる構図は、延期された共通テストの英語の民間試験と同じだ。国立大学の9割が実施している以上、国語と数学の記述式も、中止や延期も視野に入れた抜本的な見直しが不可欠だ。》
https://dot.asahi.com/aera/2019110900004.html?page=1
教育・育児ジャーナリストのおおたとしまさ(太田敏正)は「YAHOO!ニュース」に9月1日付で「『新テスト』記述式問題採点をベネッセグループが落札。1民間企業に頼り切りの大学入試改革でいいのか?」を寄稿していた。
《これで、記述式問題の採点、英語民間試験の実質的に数少ない選択肢の1つであるGTEC、今後大きな話題になるであろうeポーフォリオという、大学入試改革の目玉のすべてにベネッセが大きく関わることになる。大学入試改革受託業者と呼んでも過言ではない。
一方でベネッセは、全国の高校に模試や教材を営業している。大学入試改革の混乱のなかで、現場の教員たちは、もっともたしかな情報を握っているであろうベネッセの営業マンのいいなりになるしかない。「ベネッセの模試や教材を導入しないことで、生たちになんらかの不利益があってはいけないから」という理由でベネッセを選択せざるを得ないと嘆く地方公立高校の教員の証言はすでに複数ある。》
https://news.yahoo.co.jp/byline/otatoshimasa/20190901-00140773/
芸誌や庫、児童書、辞書といった事業を簡単に手放した(というよりも投げ出した、か)ベネッセを私はどうしても信用できない。そんな企業が入試にかかわるから、入試を「食い物」にしているという批判も出て来るのである。香山リカがこんなことをツイートしていた。
《ベネッセって元は福武書店で、芸誌『海燕』や渋いラインナップの福武庫、浅田彰さんと柄谷行人さんが編集人の『批評空間』を出してたとこだよね…。日本の化をナナメ後ろからそっと支えてたところが、いま日本の教育を真上から完全に制圧しようとしてるのか…。》
https://twitter.com/rkayama/status/1192106446860632065
ベネッセの創業者・福武哲彦の長男にして、同社のトップに君臨した後、現在では名誉顧問をつとめる福武總一郎は日本で税金を払うのが嫌でニュージーランドに行っちゃったんじゃなかったっけ。日本で税金を払い続ける私たちの立場からすれば、それって非国民だし、反日じゃないの? 「しんぶん赤旗」が2016年5月9日付で掲載した「日本 超富裕層 税逃れ」は次のように書いている。
《資産額1383億円の福武総一郎ベネッセホールディングス最高顧問と妻のれい子氏は08年11月、保有する自社の株式1361万株を、総一郎氏が代表を努めるニュージーランド(NZ)の資産管理会社に譲渡。さらに09年12月、総一郎氏は自らの住所も岡山市からNZに移しました。》
日本貿易振興機構によればNZは贈与税相続税がなく、個人の所得税率は最高33%(日本の最高税率は45%)。配当金への源泉徴収税は法人の場合28%です。》
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik16/2016-05-09/2016050901_01_1.html

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3)【本日の一行情報】

◎ベネッセは産院専用の無料情報マガジン『パパと読む たまごクラブ』を創刊し、全国約1,700の産院で配布する。また、ママだけでなくパパにも毎日赤ちゃんの成長に合わせた情報が届くアプリ「まいにちのたまひよ」をリリースする。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000762.000000120.html

◎「ハフポスト日本版」は11月8日付で「『メディアは残るが、ニュースメディアは危機的』。BuzzFeed Japan創刊編集長を務めた古田大輔さんが警告」を公開している。朝日新聞記者から「BuzzFeed日本版」創刊編集長に転身し、3年あまり経った今年5月に退任した古田大輔がインタビューに応じ、次のように語っている。
《「メディア」は残りますが、「ニュースメディア」は危機的な状況です。理由は、収入の問題です。メディアと言っても、色んなメディアがあり、規模感も様々です。人は情報を必要としているから、絶対に生き残る。あと、個々のライターたちにとっては、色んな形で情報発信ができ、生き残りやすい時代になっています
ニュースメディアはそういうわけにはいきません。ある程度の人数や資金力がないと、なかなか「突破する取材」は難しい。一方で、そういったものが必ずしも多くの人に読まれるわけではない。もしかしたら裁判沙汰になるかもしれないようなものに、喜んでスポンサーになる人はあまりいません。どう考えても、ニュースメディアはきつい。それは、日本だけではなく世界的にも同じです。世界中で生き残りをかけた真剣な議論をしています。》
https://www.huffingtonpost.jp/entry/daisuke-furuta_jp_5dc26f6ee4b0f5dcf8fd4171
エンターテインメントは残るが報道は危機的だということだろう。これは新聞に限らず、雑誌でもそうだ。週刊誌が「報道」の領域に係わりながら、どう生き残るかは新聞以上に難しい問題なのかもしれない。報道の領域において収入の間口を広げ、更には報道ではない領域で利益をあげることで、報道を支えるというビジネスモデルを確立できるかどうかである。

◎「東洋経済オンライン」が11月8 日付で池上彰の「ネットがあれば新聞不要と思う人に欠けた視点 『新聞離れ』が進んだアメリカはどうなったか」を発表している。池上も古田と同じ危機感を抱いているのだ。
《新聞の存在意義の1つは、この「取材」にあります。長い時間と手間のかかる取材をする記者がいるからこそ、記事が出来上がるのです。テレビ局では、NHKだけが多くの記者を抱えています。民放テレビにも報道部門がありますが、記者の数は本当に少ないのです。
もし本当に新聞がなくなったら、第一報がなくなり、ネットに新聞社から配信される記事もなくなってしまいます。ネットメディアには転載するニュースがなくなってしまいます。》
https://toyokeizai.net/articles/-/312178

主婦の友社は11月7日の「鍋の日」に、「小鍋」が付録についたムック「レンチン小鍋で!太らない夜遅レシピ」を発売した。これは売れそうだ。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001006.000002372.html

藝春秋の電子書籍編集部では11月15日(金)から、桐野夏生の未電子化作品「グロテスク」「柔らかな頬」「夜の谷を行く」など15作品の電子書籍版の配信を開始した。
https://www.atpress.ne.jp/news/198047

◎宝島社は、『このミステリーがすごい!』大賞シリーズより「珈琲店タレーランの事件簿6 コーヒーカップいっぱいの愛」を11月7日に発売した。「珈琲店タレーランの事件簿」は、累計210万部を超える人気シリーズだ
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000946.000005069.html

日本流通産業新聞が11月7日付で「新潮社/通販売上は2.2億見込み/人気小説グッズが伸長」を掲載している。
《「週刊新潮」と連動した通販カタログ「優越感具現化カタログ」は、通販売り上げの半数以上を占めている。会員数は約6万人で、発行部数は約4万5000部。》
https://www.bci.co.jp/nichiryu/article/6156

主婦の友社の女性ファッション誌「Ray」は初めてのWebモデル部を結成した。公式インスタグラムのアンケートによって、決定したグループ名は「Raygirl」(レイガール)。デジタル上のコミュニケーションに特化した女子5名で始動する。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001010.000002372.html

日本経済新聞が11月8日付で「民放キー局、20年3月期予想 4社が下方修正」を掲載している。「地上波テレビの広告出稿が落ち込み、インターネット配信などの新規事業で補いきれない」現状を反映している。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO51958820Y9A101C1DTC000/
日本民間放送連盟(民放連)の「第67回民間放送全国大会」が11月6日に開催された。東京新聞は11月9日付で「放送界『ワンチーム』 民放連全国大会 ネットに危機感、結束訴え」を掲載している。
《「放送の分野ではライバルとして切磋琢磨する関係であっても、ネットの分野においては連携し、結束することが重要。可能な限りワンチームでありたい」。大久保好男会長(日本テレビ会長)は、あいさつでネット時代の民放の連帯を呼び掛けた。》
https://www.tokyo-np.co.jp/article/entertainment/news/CK2019110902000166.html
新聞業界にしても典型的にそうだし、テレビ業界にしても、出版業界にしても「イノベーションのジレンマ」(クリステンセン)に雁字搦めに縛られてしまっているがゆえに「ワンチーム」が結成できないでいると、私などは理解している。
イノベーションのジレンマ」とは?この「ダイヤモンド・オンライン」の記事をお読みください。
https://diamond.jp/articles/-/58187

村本大輔が「note」に「手作りキンパに想うこと」を11月10日付で発表している。朝鮮学校で独演会をして来た村本がその感想を書き記している。
《…オンエア終わり信じられないぐらいのメッセージが届いた。ゴールデン、しかも、お笑いで、漫才で「朝鮮学校の無償化」と言う言葉が入ってることが衝撃的だったらしく「家族でテレビを見ていたら、急におじいさんが泣いた、それを見てお父さんが泣いて、私が泣いた」というメッセージがあった。》
https://note.mu/muramoto/n/n8c0ec012d31e
村本大輔は李政美を聞いたことがあるだろうか。李の「君死に給うことなかれ」は与謝野晶子の詩に曲をつけたものだが、美しい歌だ。「京成線」なんか涙なしには聞けない歌である。
https://www.youtube.com/watch?v=gofEgRlV-Bk
http://leejeongmi.com/
渡瀬夏彦が「手作りキンパに想うこと」について、こうツイートしている。
《だ・か・ら、村本大輔を応援しないわけにはいかんのよ^^!わかるかな、わっかんねだろうな、村本の存在を軽く扱い、俺の原稿をアホな理由でボツにした某新聞社の君よ!》
https://twitter.com/natsuhikowatase/status/1193494775472635905
渡瀬昌彦は私たちの公開質問状に一切答えようとしない。渡瀬夏彦よ! 敵はもっと身近に存在するのでは?

元木昌彦も「J-CASTニュース」で連載している「深読み週刊誌」で書いている。
《新聞やワイドショーは、週刊春にお歳暮でも届けるべきではないか。このところの重大ニュースは、ほとんどが週刊春発である。菅原一秀経済産業相河井克行法務相の辞任。今週の森田健作千葉県知事の「台風被害最中の帰宅問題」追及と、春砲がさく裂している。》
https://www.j-cast.com/tv/2019/11/08372197.html

幻冬舎はカードゲームも売っている!「キャット&チョコレート」シリーズは現在までに累計19万部を製作しているそうだが、「キャット&チョコレート 非日常編」を11月8日に発売を開始した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000054.000007567.html

◎日販が10月期の店頭売上調査を発表。全体で94.0%。雑誌 92.8%、書籍 90.2%、コミック 103.2%、開発品 98.7%。コミックだけが前年を超えた。
https://www.nippan.co.jp/wp-content/uploads/2019/11/pos_201910.pdf

AERA「現代の肖像」が「宝島」の真藤順丈を取り上げている。執筆は藤井誠二。「真藤は東京都品川区に生まれた。父親は政党機関紙につとめ、その後は党の要職もつとめた」と書いているが、真藤の父親は園田原三だ。「社会新報」の編集長をつとめていた人物であり、村山富市内閣の筆頭の総理秘書官をつとめていた。
https://dot.asahi.com/aera/2019110900012.html?page=1

スポーツニッポン新聞社は、2020年の年明けに会員制の新サイトを開設する。このローンチに先立ち、新サイトの名称をスポニチDX(デラックス)、スポニチスクエア、スポニチメンバーズ、CLUBスポニチMYスポニチスポニチアリーナという6つの候補の中から、一般ユーザーの投票で決めることになった。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000051030.html

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4)【深夜の誌人語録】

解答は複数用意しておく習慣をつけたい。