【文徒】2019年(令和元)11月22日(第7巻212号・通巻1632号)

Index------------------------------------------------------
1)【記事】「志学社選書」創刊。代表・平林緑萌たちが目指す「名著復刊」とは?
2)【本日の一行情報】
----------------------------------------2019.11.22 Shuppanjin

1)【記事】「志学社選書」創刊。代表・平林緑萌たちが目指す「名著復刊」とは?(岩本太郎)

フリー編集者の平林緑萌が昨年10月に設立した学術系出版社「志学社」が、このほど「志学社選書」を創刊。第一弾『侯景の乱始末記──南朝貴族社会の命運』をまもなく発刊することになった。著者は東洋史学者・吉川忠夫(京都大学名誉教授)、底本は1974年刊の中公新書で、新たに補篇を付けた。
https://shigakusha.jp/news/order-shigakusha001/
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784909868008
むろん、往年の名著の復刻とはいえ新興の、しかも学術書を主体とする出版社が新たに選書を立ち上げるのは容易なことではない。平林自身もそれは認識しているようで、刊行に際して「note」に「弊社出版物の流通について」と題したエントリを21日に発表していた。同書は既に志学社が直取引を行っている東方書店には入荷しているそうだが、その他の書店、とりわけ地方の書店に届くまで時間を要する事情を、自社の取引内容についても明かしながら直截に綴っている。
《弊社がお世話になっているのは神保町の八木書店さんですが、他にも地方小(地方・小出版流通センター)さんやトランスビューんを経由して刊行物を送り出している小出版社が数多くあります》
《間に八木書店さんを挟んでいるぶん、書店さんに届くのには時間がかかります。また、各書店さんの店頭着日は、同じ取次店さんを通していても、地域などによってはばらつきがあります。(略)ただ、弊社のような小さな出版社であっても、八木書店さんと取引させていただくことで、全国の書店さんからのご注が可能となり、多少の時間はかかっても、在庫さえあれば確実に入手することが可能になります》
https://note.mu/shigakusha/n/nb58c8f44e35d
1982年生まれの平林は、立命館大学大学院の学研究科を出た後、書店勤務のほか太田出版『QuickJapan』の編集者などを経て2010年7月に星海社に参加。「歴史と古典に学ぶ保守派」を自称しつつ星海社「ジセダイエディターズ」の1人として、新書の『僕たちのゲーム史』(さやわか)、コミックスの『すくみズ!』(tugeneko)『ゆかいなお役所ごはん』(くらふと)を担当するなど、ジャンルは幅広い。
https://ji-sedai.jp/editor/staff/HirabayashiMoegi.html
ちなみに父親は日本史学者で『鹿と鳥の化史 古代日本の儀礼と呪術』(白水社)、『天皇はいつから天皇になったか?』(祥伝社新書)などの著作を持つ平林章仁(龍谷大学元教授)だ。父親とは仲が良いようで、昨年末には《「雄略天皇を書け!」と言ったら「いま物部氏やってるからそのあとやな」と言われました》などとTwitterで近況報告していた。
https://twitter.com/moegi_hira/status/1079158758935162880
志学社は中国古代史の研究者・山田崇仁と共に立ち上げた合同会社だ。「中国史史料研究会」の会報の刊行も創刊号から手掛けている
https://shigakusha.jp/company/
本社は総武線市川駅から歩15分の場所に借りた一軒家。今年2月の『現代ビジネス』によるインタビューでは《既存の出版流通の仕組みにすべて依存する形から、いずれは脱却したいと考えています》と抱負を語りつつ、まずやりたいこととして「名著の復刊」を掲げていた。その第一号が今回の『侯景の乱始末記』。京都大学にすら一冊しか架蔵されていないという同書の復刊計画をこんなふうに語っていた。
《大きな出版社であれば、数千部単位で発刊しなければ採算が合わないので、こうした復刊事業というのはなかなか手が出しにくい。一方、私たちの場合、完全入稿データや電子書籍データの作成を全て内製化していますので、製造コストを最低限に抑えられます。
要は、初版1000部、本体価格1800円くらいで黒字が見込めるんですね。これは所帯が小さく、それなりの目利きや技術力があるからできることで、いかにも「日本の中小企業」らしいなと思って気に入っています》
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/59754
他方、これは3月1日付の『』でも紹介したが、平山はやはり「note」で2月に「なぜ著者や編集者は『書店で買ってください』『初速が大事なんです』と言うのか」と題し、電子書籍を含めた現在の出版業界が抱える問題点も怜悧に捉えた論考も発表している。
https://note.mu/moegi_hira/n/nea1769736db5
共同経営者である山田崇仁も志学社にかけた思いを次のようにツイートしている。
山田は現在は立命館大学ほかで非常勤講師を務めている。
東洋史(中国史)の志望者がじり貧傾向&できるだけ授業は専任に!という方針があるようで、非常勤の口自体が減らされている。(略)志学社を立ち上げたのは、そういうじり貧傾向をちょっとだけでもましにするために、興味のある人に届いて~!という本を送り出したいと言うこともある》
https://twitter.com/TakahitoYamada/status/1195924318707798017
https://twitter.com/TakahitoYamada/status/1195924722283761664
志学社選書」第二弾は来春刊行の予定だそうだ。平林は《現時点で候補は複数あるのですが、決定しだい情報を公開し、読者の皆さんや書店さんからの事前のご注が可能となるようにいたします》と、冒頭に挙げた「note」記事で述べている。大手出版社では採算が合わずに難しい名著の復刊、むしろ小出版社であることを強みとしながら、小規模でもいかに継続的にビジネス展開していけるか、注目される。

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎卓球日本代表でリオ五輪銅メダリスト・水谷隼に対する恐喝未遂事件の報道で、共同通信20日早朝に「卓球水谷隼さんを恐喝未遂で逮捕 - 駒沢大生ら3人」と、あたかも水谷が恐喝の被害者ではなく加害者として逮捕されたかのような見出しで報道。
https://twitter.com/kyodo_official/status/1196987215835877376
批判を受けてか、同日午後には記事見出しを「卓球水谷隼さんへの恐喝未遂容疑」などと改めたが、その際にtwitterの公式アカウントでの訂正告知で《誤読の恐れがあるので、記事の見出しは差し替えました》と書いたことからさらに批判を浴びる結果となった。
https://twitter.com/kyodo_official/status/1197038546453794816
https://getnews.jp/archives/2288075
共同通信は10月10日にも速報の見出しで「ノーベル学賞は外国人に」と報じて批判を浴びていた。記事配信先に向けた速報見出しが一般向けに公開されたアカウントにそのまま載ると、こういう失敗を招きやすいようだ。
https://www.j-cast.com/2019/10/11369856.html

バイク雑誌バリバリマシンLegend』や『スピード競馬王』、プロレス雑誌の『KAMINOGE』などを発行していた東邦出版(東京・新宿区)が民事再生法適用を申請する方針を固めたそうだ。『東京商工リサーチ』によれば《11月19日付で出版取次の1社が、「(東邦出版の)民事再生手続き開始の申立て予定および返品区分変更」に関する通知を関係先に送付した》という。
https://www.tsr-net.co.jp/news/tsr/20191120_01.html
https://response.jp/article/2019/11/20/328947.html
他社への出版物の移管作業は既に着手していたらしい。『KAMINOGE』は11月1日発売の最新号から版元を玄社に移行。報道を受けて編集部がツイッターとブログで説明している。
https://twitter.com/kakutolog/status/1197288988484128768
https://kakutolog.info/media/book/6970/

◎「古き良き時代のノンフィクション書籍編集者」こと田代靖久による『その出版社、凶暴につき』は本の雑誌社からの書籍化が決定しているが、それに先立ち『本の雑誌』でも来年2月号(1月発売)から連載されることが決定した。「note」連載時とは「まるっきりガラリと改稿した長編物語」になるそうだ。
https://note.mu/eden_rrr/n/ne281f93660e6
かつて『さらば国分寺書店のオババ』などで椎名誠を世に送り出した情報センター出版局の物語が、椎名誠のかつてのホームグラウンドだった雑誌で連載されることになったわけだ。

集英社グランドジャンプ』で連載中の「キャプテン翼 ライジングサン」が、来春に同誌の増刊として新たに刊行される『キャプテン翼マガジン』(仮)に移籍することになった。来年は作者・高橋陽一のデビュー40周年にあたる。
https://natalie.mu/comic/news/356141
https://mantan-web.jp/article/20191119dog00m200058000c.html

集英社は来年1月に行われるクイーンの日本公演「QUEEN +Adam Lambert THE RHAPSODY TOUR」と、クイーンの軌跡をたどる展覧会「QUEEN EXHIBITION JAPAN」に協賛することを発表。両イベントに計1233名を招待するプレゼント企画も実施するそうだ。
https://www.shueisha.co.jp/info/20191119.pdf
https://tower.jp/article/news/2019/11/20/tg001
映画『ボヘミアン・ラプソディ』の大ヒットの余韻は3年越しで続く格好になった。

◎マガジンハウス『クウネル』が読者ウェブサイトの「クウネル・サロン」をオープンした。ファッション、グルメ、美容、エンタメなどの情報を毎日更新で発信するほか、メンバーだけのメルマガやプレゼント、イベント招待などの特典も用意するという。「クウネル・サロンPremium Members」にはコスメブランド『fleure de fatima』の大原真樹、建築デザイナーの井手しのぶ、作家の甘糟りり子など17名が名を連ねている。
https://kunel-salon.com/

◎今週末の11月23・24日には神保町のコワーキングスペース「TAM COWORKING TOKYO」で“メディアなんでも書店”を掲げる「TRANS BOOKS 2019」が開催される。イラストレーターやアーチスト、編集者など各分野のクリエイターが集まり、電子・非電子あるいは「それ以外」の様々なスタイルの“本”を持ち込むブックフェアだ。トークイベントなども予定されている。
https://transbooks.center/
http://www.mdn.co.jp/di/newstopics/69028/

◎伊豆に「居候書店」というのがあるそうだ。元NHK職員で、2012年に退職後は伊東に移住しブックカフェ「壺中天の本と珈琲」を営む舘野茂樹によるプロジェクト。地元のカフェやホテル、ガソリンスタンドなどに本棚を置かせてもらい、ブックカフェの蔵書からそれぞれ20~30冊を持ち込んでいるそうだ。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52209580V11C19A1L61000/
舘野はNHK時代、様々なゲストを招いた10分間の解説番組「視点・論点」などの製作を担当。上記ブックカフェを拠点に、アートを中心としたリトルプレス『is』の刊行なども手掛けている。
https://forbesjapan.com/articles/detail/28611/3/1/1

◎フリーペーパー専門店「Only Free Paper」、新聞のみを扱う「Only News Paper」などを立ち上げてきた石崎孝多が、一般の書店ではあまり扱われないデザインやアート関連の書籍を新刊・古書を問わずに選んで販売する書店「タタ」を今年9月から都内の高円寺で運営している。
http://antenna7.com/portfolio/tata/
https://koenji.keizai.biz/headline/1120/

◎実業家の堀義人(グロービス・キャピタル・パートナーズ代表など)が自身の出身地である茨城のラジオ局・茨城放送の株式を取得。大株主だった朝日新聞社日刊スポーツ新聞社茨城県が譲渡に応じ、傘下企業などを通じて45.12%の株式を所有することになった。47都道府県で唯一県域テレビ局がない茨城でのテレビ開局も視野に入れているという。
https://www.ibs-radio.com/post_info/20191115-2/
https://globis.jp/article/7318
https://media-innovation.jp/2019/11/16/ibaraki-broadcast-changes-owner/
地上波の地元民放テレビ空白県の茨城でテレビ開局を目指す動きは過去にも持ち上がった。1997年には同県出身者らが都内に設立した「つくばテレビ」がCSの「パーフェクTV!」(後のスカパー)で放送を始めたが、ほどなく資金難から放送中断。外部業者からアダルトやアイドル関連のコンテンツ提供を受ける形でまったく別の内容の局として復活するという故事もあった。
https://www.tsukuba-tv.com/service/
https://www.tsukuba-tv.com/enkaku/

ブックオフが古本買い取り代金の電子マネー払いを20日から全国の125店舗で開始した。「LINE Pay」「au WALLETプリペイドカード」「Kyash」「ドコモ口座」「ソフトバンクカード」の5種に対応している。
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1911/20/news127.html

◎女優の木内みどりが18日に「急性心臓死」のために死去。享年69。訃報はサイトの『木内みどりの小さなラジオ局』で遺族より21日に伝えられた。
https://kimidori-radio.com/radio_archives/523/
https://www.oricon.co.jp/news/2149235/full/
https://www.nikkansports.com/entertainment/news/201911210000278.html
『小さなラジオ局』は木内が漫才コンビおしどりマコ・ケン」や小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)らと共に2016年4月から2018年3月末まで続けていたネット放送局「自由なラジオ」の番組アーカイブなどを収めたサイト。
さらに遡れば原発問題を精力的に報じていたMBSラジオの番組「たね蒔きジャーナル」が「経費削減」などを理由に2012年に打ち切られた後、出演者やリスナー有志らが市民団体を結成して開始した番組「ラジオ・フォーラム」(ネットのほか各地の民放ラジオ局で放送されたが2016年で終了)のコンセプトを引き継いだものである。晩年の木内は脱原発などの市民運動へのかかわりが深く、先の参議院議員選挙では「れいわ新選組」が各地で開いたイベントでも司会を務めていた。
http://www.magazine9.jp/article/kiuchi/26567/