【文徒】2020年(令和2)10月29日(第8巻201号・通巻1858号)


Index------------------------------------------------------
1)【記事】大城立裕が95歳で亡くなった
2)【本日の一行情報】
3)【訂正とお詫び】「出版人・広告人」11月号における事実誤認について
4)【深夜の誌人語録】
----------------------------------------2020.10.29 Shuppanjin

1)【記事】大城立裕が95歳で亡くなった

大城立裕が10月27日午前11時10分、老衰のため亡くなった朝日新聞デジタルが10月27日付で掲載している「芥川賞作家の大城立裕さん死去 作品で沖縄を問い続ける」(真野啓太)は次のように書いている。
《1925年、沖縄県中城村生まれ。中国・上海にあった東亜同書院大を中退後、米軍施政下の琉球政府で働きながら小説を書き、本土復帰前の67年、米兵による少女暴行事件を通して国際親善の欺瞞を暴く「カクテル・パーティー」で芥川賞を受賞。米統治下の沖縄と戦中の中国を重ね、被害だけでなく加害者としての自分も告発した。68年には、明治政府が琉球を日本に組み込んだことを取り上げた「小説琉球処分」を出した。》
https://digital.asahi.com/articles/ASNBW6754NBWTIPE022.html
「カクテル・パーティー」のあまりに有名な一節を掲げておこう。
《しかし、あなたは傷ついたことがないから、その論理になんの破綻も感じない。いったん傷ついてみると、その傷を憎むことも真実だ。その真実を蔽いかくそうとするのは、やはり仮面の論理だ。私はその論理の欺瞞を告発しなければならない。》
https://www.iwanami.co.jp/book/b256162.html
琉球新報は10月28日付で「大城立裕さんとの思い出『大切なことポロッと』 基地持ち帰り要求に『でぃかちゃん』 関係者惜しむ」を掲載している。
《高良倉吉琉球大名誉教授は大城さんが沖縄史料編集所所長だった頃の部下で、大城さんは結婚の媒酌人でもある。大城さんの「沖縄が抱えるさまざまな問題を考える時、沖縄の化をどう見つめられるかが大事なんじゃないか」という言葉が印象深いといい「その教えを大事にしている。大切なことをぽろっと言う人だった」としのんだ。》
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1215419.html
毎日新聞は10月27日付で掲載している「『発言に重み』『晩年まで創作意欲』『唯一無二の存在』沖縄で大城さん悼む声」(遠藤孝康 上村里花)は次のように書いている。
《大城さんは琉球王国時代に生まれた「組踊」の原作も創作。19年夏には新作が浦添市国立劇場おきなわで上演され、大城さんも観劇した。地元出版社「ボーダーインク」の編集者、新城和博さん(57)は「生涯現役で、沖縄学界にとって唯一無二の存在だった。小説だけでなく、戯曲や組踊などオールマイティーに創作し、こういう存在はもう出てこないのではないか。沖縄の揺れ動く社会状況にも発言を続け、沖縄にとって一つの指標となっていた人だった」と悼んだ。》
https://mainichi.jp/articles/20201027/k00/00m/040/315000c
毎日新聞は10月27日付で「『これから沖縄はどうなるのか』 歴史見つめ、状況憂い 作家・大城立裕さん死去」も掲載している。書いているのは元毎日新聞記者で新潮社から「魂の邂逅―石牟礼道子渡辺京二―」を刊行する米本浩二だ。
《「小説 琉球処分」は単行本化から42年後の2010年、当時の菅直人相の言及で注目され、庫になってよく売れた。「一挙に脚光を浴びましたね」と私が言うと、「日本にとっての『沖縄』が変わっていないということ。こういう作品が古びて、読まれなくなる時代がくるのがもっとも望ましい」と苦い顔で語ったのが忘れられない。》
https://mainichi.jp/articles/20201027/k00/00m/040/291000c
琉球新報が10月28日付で掲載している「大城立裕氏が死去 沖縄初の芥川賞作家 95歳 戦後史を体現、沖縄問題の根源問い続ける」は大城の遺作について次のように書いている。
《今年5月に出版され、米統治下の沖縄で高校教師をした経験を基にした自伝的小説「焼け跡の高校教師」(集英社庫)が最後の出版物となった。》
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1215225.html
集英社の版元としての奥行の深さを改めて思い知らされる。
集英社庫からめずらしく庫に書下ろしを注されたのへ、こんなものを提供したが、注の趣旨に沿ったか、の危惧がないでもない。微意を酌んでいただければと思う。
編集長の江口洋さんと編集者の伊藤木綿子さんにお世話になった。その励ましを得て、一冊は仕上がった。》
https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-08-744118-5
http://r-cbs.mangafactory.jp/c2082/c159-8979/
毎日新聞は7月11日付で「焼け跡の高校教師」の湯川豊による書評を掲載している。
《教科書は沖縄民政府が作ったガリ版刷りの粗末なもの。大城氏はそこで学青年らしく、自分の知識・教養をフル回転させて、学の力を生に伝えるのである。イモが弁当だったその生活が、「楽しかった」と述懐している。
もそれに応えた。英学の米須興(こめすおきふみ)、心理学の小橋川慧(あきら)などの世界的な学者がこの高校から出るのである。他の生のも含めて、宿題にした作がそっくり掲載されているのが、心を打つ。》
https://mainichi.jp/articles/20200711/ddm/015/070/005000c
確かに「焼け跡の高校教師」は大城立裕の圧巻にして圧倒的な自伝的小説である。日本経済新聞は7月26日付「春秋」で「焼け跡の高校教師」を取り上げている。さすが目のつけどころが大島三緒である。
《▼は人なり、とはよく言ったものだ。驚くのは国語担当の大城先生が、70年以上前に生に書かせた作を、今も宝のように慈しみ、秀作の全を小説に掲載していることだ。テーマは「終戦前後の忘れ得ぬ出来事」など。本土から切断された島に生きる一人ひとりの青春の記録に丁寧に朱筆を入れ、苦楽を分かち合った。
▼コロナ禍による異例に短い夏休みだ。私たちもまた、困難な時代に生きている。休校で日常がどう変わったのか。級友と交わした印象深い会話……。児童・生のこの夏の作は、やがて歴史になる。大城さんの作品に接し、そう感じた。感染症対策に忙殺される先生にも一読をすすめたい。指導のヒントが詰まっている。》
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO61923350V20C20A7MM8000/
毎日新聞福岡報道部記者の吉川雄策がツイートしている。
《ちょうど「焼け跡の高校教師」を読んでいたところだった。大城さんの半生と敗戦直後の沖縄が描かれた作品。噛みしめて読み終えたい》
https://twitter.com/yoshikawayusaku/status/1321032582247530497
「焼け跡の高校教師」の解説を書いているのは歌人にして高校教師の千葉聡だ。
手を振られ手を振りかえす中庭の光になりきれない光たち
千葉は書いている。
《あなたが教師なら、この本は心のお守りになるでしょう。あなたが生なら、この本は、人が輝くというのはどういうことかを教えてくれる一冊になるでしょう。》
https://twitter.com/CHIBASATO/status/1260942655661305857
精神のリレー(埴谷雄高)という言葉を噛みしめたい。
蛇足ながら記しておくと大城立裕の「カクテル・パーティー」は「コレクション 戦争と学」の第20巻「オキナワ 終わらぬ戦争」にも収録されている。
https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-08-761054-3

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2)【本日の一行情報】

◎スポーツ報知が10月26日 9時56分付で発表した「玉川徹氏、菅首相の著書一部削除は『春は『ここを落としたら話題になる』って読んでやっている』」は同日放送のテレビ朝日系「羽鳥慎一モーニングショー」における玉川徹の発言を取り上げ次のように書いている。
《「藝春秋から菅さんに言わないと、こんな(出版の)話はないですよ。菅さんから『新書にしてくれないか?』なんて言うわけないから」と続け、「そもそも(削除された部分は)朝日新聞の記者が菅さんが官房長官の時に『こういう記述があるんですけど』と聞いた部分なんですよ。ここを落とした(削除した)ら、当然、朝日新聞が聞いてくるわけじゃないですか?
だから、ここを落とすっていうのは編集部としたら、ここを落としたら絶対、話題になるって読んでやってますよ。(そこまで)読んでなかったら無能だと思う。絶対、そこまで読んでますって、春なら」》
https://hochi.news/articles/20201026-OHT1T50057.html
日刊スポーツが10月26日22時27分付で公開した「菅氏の著書削除問題で藝春秋がコメントを発表」は「特定の言の削除を意図したものではない」としている春新書編集部のコメントを掲載している。
《編集部はコメントで、新書の内容について「(単行本のうちの)菅氏の政治キャリアのわかる第一章、第二章をベースとして、菅氏官房長官時代のインタビューなどを加えて編集したもの」と主張。一方で、単行本の第三章と第四章については「野党時代の菅氏の民主党政権への批判が中心」とした上で「本の総ページ数など全体のバランスを考えた上で、編集部判断で収録しない構成案を作成した」という。
その上で「新政権誕生というタイミングで、この構成案を菅氏に示し、了解を得て出版したもの」とし、菅首相も了承していたことを明らかにした。》
https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/202010260001274.html

◎「キンプリ」の愛称で知られるジャニーズ事務所のKing & Princeのカレンダーが今年は講談社から発売されるそうだ。昨年は新潮社だった。「フライデー」「週刊現代」のジャニーズ事務所絡みのスキャンダル報道は減り、「週刊新潮」は解禁(?)となる。「週刊新潮」のビジネスからすれば、これで良いのだ。ジャニーズ事務所絡みのスキャンダルでは独走して来た「週刊春」にとっては「悪い話」である。「Business Journal」が10月26日付で「キンプリの来年カレンダー、『フライデー』発行元から発売に激震…ジャニーズ醜聞が激減か」を発表している。
https://biz-journal.jp/2020/10/post_187336.html

◎宝島社の女性ファッション誌「Sweet」11月号は二種類発売される。ヘア&メイクアップアーティスト笹本恭平監修のBARBAPAPA(バーバパパ)のピンクブラウンメイク完璧コスメセットを付録とした「増刊号」はセブン‐イレブン、またはセブンネットショッピングでの限定販売となる。税込1,500円。
https://isuta.jp/605809

◎10月7日よりAT-XTOKYO MXほかで放送されているTVアニメ「くまクマ熊ベアー」の原作主婦と生活社ライトノベルレーベル「PASH!ブックス」から刊行されている同名の小説である。
https://kumakumakumabear.com/onair/

◎4月1日に施行された改正意匠法から認められることになった「内装の意匠」で、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が出願していた蔦屋書店の内装が第1号として登録された。今回登録されたのは、天井までの高さがある書架に囲まれたロングテーブルのある内装の意匠と、CCCが「本の小部屋」と呼ぶ、書架で囲まれた小部屋が連続する空間の意匠である。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000013.000057655.html

毎日新聞は10月27日付で「『厳選の庫10作品フェア』 勝木書店グループで 『本の日』前に売れ行き上々 /福井」を掲載している。
《11月1日の「本の日」を前に、県内を中心に店舗展開する勝木書店はグループ全店の店頭で書店員らが厳選したおすすめの庫本10作品を販売する「KaBoSコレクション2020」を開催している。本には書店員らの推奨ポイントが載った帯が付いており、10月末までに最も売れた本を1日に金賞として店頭などで発表する。》
https://mainichi.jp/articles/20201027/ddl/k18/020/242000c

◎動画配信サービス「U-NEXT」は、10月26日(月)より全国のセブン-イレブンプリペイド式「U-NEXTカード」の販売を開始した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000416.000031998.html
Netflixは「Netflixプリペイドカード」を全国のセブンイレブンで7月6日より販売している。そもそもNetflixは国内サービス開始と同時にビックカメラにてプリペイドカードの販売を開始。以降ファミリーマートやローソンでも販売を行なってきている。
https://av.watch.impress.co.jp/docs/news/1263635.html
Huluも「Huluチケット」を二年前より販売している。
https://news.hulu.jp/hulu_ticket_card/
テレビはつらいよ。動画配信サービスは視聴者から時間を解放した

◎「JJ」(光社)は女子大生に「制服」を提案した雑誌だったのである。「YAHOO!ニュース」が10月27日付で甲南女子大学教授・米澤泉による「女子大生のバイブル『JJ』月刊誌終了の理由―築きあげた『お嬢さま』セオリーと立ち位置を見失った近年」を発表している。米澤は次のように書いている。
《先に創刊されていた『an・an』や『non-no』とは異なり、『JJ』は最初から女子大生をターゲットにしていた。制服着用が基本だった高校時代とは異なり、多くの大学には制服がない。どんな格好でキャンパスに行けばよいのか。おしゃれな先輩はどんなファッションで通学しているのか。今なら、SNSで瞬時にわかるキャンパスの流行も、当時は知る術がなかった。そんな大学新入生の疑問と不安に応えたのが、『JJ』だったのだ。》
https://news.yahoo.co.jp/byline/yonezawaizumi/20201027-00204672/
しかし、女子大生は今や制服を必要としていないのだ。米澤の教え甲南女子大学からしてがそうなのである。甲南女子大学はかつて「JJ」にとって「聖地」のひとつであった。

◎マガジンハウスのグラビア女性週刊誌「anan」11月4日(水)発売の2224号は乃木坂46の44人全員が登場する。表紙は、齋藤飛鳥生田絵梨花松村沙友理堀未央奈山下美月与田祐希、久保史緒里、遠藤さくら、賀喜遥香の9人が飾る。
https://www.crank-in.net/trend/item/82373/1

日本経済新聞が10月27日付で掲載している「グーグルは『民主的』なのか」(村山恵一)を興味深く読んだ。確かにグーグルはテクノロジーによる情報の民主化に貢献したことは間違いない。しかし、人権という観点から問題が少なくないことは、反トラスト法(独占禁止法)違反の疑いで米司法省から訴えられる前から指摘されて来たことである。こうした二面性はグーグルに限らず、GAFAと呼ばれる巨大プラットフォーム企業すべてに当てはまることである。
《インターネット検索に動画の共有、人工知能(AI)。22年前の設立以来、米グーグルは先進的な製品、サービスを次々と社会に送り込んできた。テクノロジー民主化したのは間違いない。
そんな会社を反トラスト法(独占禁止法)違反の疑いで米司法省が訴えた。検索と広告の競争を妨げ、プライバシーやデータの保護にも問題ありとみる。自由市場や公正な情報の入手、人権などいずれも民主的な社会の構築にかかわる事柄だ。
テックの民主化リーダーが民主主義のかく乱要因と批判を浴びる。皮肉な構図といえる。》
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO65471560W0A021C2TCR000/
こうした「皮肉な構図」は民主主義からすれば「必然的な構図」にほかなるまい。「皮肉な構図」を放置している社会ほど、民主主義の強度は弱いといえるだろう。さて、日本は?

◎「AERA dot.」のTwitterアカウントが炎上してしまった。「wezzy」は10月26日付で「BTSメンバーの人気ランキング企画で『週刊朝日』が炎上!『意味が全くないので中止してください』」によれば、10月22日、朝日新聞出版のニュースサイト「AERA dot.」のTwitterアカウントは、「週刊朝日」11月24日発売号のBTS特集に使うためBTSに関するアンケートを実施したが、これが原因で炎上してしまったのである。
https://wezz-y.com/archives/82454
これが、そのツイート。
BTS緊急アンケート!週刊朝日では皆さまの声でつくるBTSの特集を予定しています。回答は11月10日夜0時まで。ご協力よろしくお願いします。》
https://twitter.com/dot_asahi_pub/status/1319223264757993473
アンケートがどういうものかといえば、これがそうだが、最初に掲げられた「Q1.あなたの推しのメンバーは誰ですか? (1人選択してください)」という質問が炎上の銃爪を引いた。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSeahf-oKHGIFqXoH2Jyb9CbPO9BhWl7OzFqYYb1AWCgf7m4Dw/viewform
「wezzy」の記事は、こう書いている。
《・・・ARMYの憤りに火をつけたのは、そのアンケートによってメンバーの人気ランキングをつけようとしていたことだ。》
BTS全員に愛情を注いでいることを伝えるため、SNSでは「OT7」(「One True 7」の略。「7人だけが真実」的な意)という言葉がよく使われる。》
かくして「AERA dot.」は次のようにツイートすることになった。
《10月22日より開始したBTSに関する週刊朝日アンケートで当初、好きなメンバーをランキングにして結果を発表すると明記しましたが、グループ内で優劣をつけるとの批判の声が寄せられました。ランキングはやめ、好きなポイントを特集します。また、ツイートに不備がありましたことをお詫びいたします。》
https://twitter.com/dot_asahi_pub/status/1321021862055342081
ツイートに不備があったとは、メンバーの名前のタグからジミンが抜けていたり、「ジョングク」ではなく「ジョング」になっていたりしたことを指す。BTSAKB48乃木坂46とは対極のコンセプトにあるようだ。これって日本流と韓流の違いなのだろうか。

白泉社から刊行されている絵本作家・ヨシタケシンスケの「つまんない つまんない」「それしか ないわけ ないでしょう 」「ものは言いよう 」「あつかったら ぬげばいい 」という4タイトルの発行部数が50万部を突破した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000334.000046848.html
絵本は白泉社の大黒柱に育つに違いあるまい。絵本から児童学へという展開もあり得よう。

朝日新聞デジタルは10月28日付で「官邸、学術会議の14年選考にも関心 杉田氏が説明要求」を掲載している。
日本学術会議が推薦した会員候補6人が任命されなかった問題で、会議側が2014年の交代会員の推薦候補105人を決めた後の同年夏に、首相官邸から選考過程の説明を求められ、最終段階で候補から外れた人も含む117人の名簿を示していたことがわかった。複数の会議元幹部が証言した。第2次安倍政権発足の約1年半後には、官邸が会員の選考に関心を寄せていたことになる。》
https://digital.asahi.com/articles/ASNBW7L26NBWUTIL03K.html?ref=mor_mail_topix1

毎日新聞が10月28日付で掲載した「#排除する政治~学術会議問題を考える『徹底した対話で信頼醸成を』礪波亜希・筑波大准教授」(和田浩明)で国際政治学者の礪波亜希は次のように語っている。
《私は女性向けSNSでの発信分析にもかかわっているのですが、中国や韓国に対する反感は相当なものです。日本は政策決定過程が不透明なので、デマや陰謀論がはびこりやすいのでしょう。
学術会議も内部の意思決定の過程は見えにくいし、見えても専門的な知識がないとわかりにくい。一般の理解を得るうえで改善の余地があると思います。》
https://mainichi.jp/articles/20201027/k00/00m/010/202000c

◎「ダイヤモンド・オンライン」は10月28日付で木俣正剛の「石原慎太郎『コワモテ』の裏側、身近な人が離反しない理由とは」を掲載している。木俣は石原について次のように書いている。
《実は、彼が何らかの政治行動をとるときは、必ずその前に芸春秋の純学系雑誌『學界』に小説を寄稿しているのです。都知事選の立候補しかり、石原新党の立ち上げしかり……。
政治家オンリーの人間であれば、大きな政治活動の前に、小説を書くという途方もなくエネルギーを使う作業をやるわけがありません。彼にとっては、政治とは思想の延長にある実践であり、その意味では現代日本、いや過去の日本人にも珍しい考え方を持った政治家だと思います。》
https://diamond.jp/articles/-/252535
私は石原の作品で一番完成度が高いのは短編集「殺人教室」に収録されたジャズ小説「ファンキー・ジャンプ」ではなかったかと思う。誤解を恐れずに言うが、石原は小説家としては、どこまでも破壊的な、言ってみれば「学のテロリスト」なのである。ところで、木俣は、こんなエピソードも紹介している
《ある小説誌の女性編集長に小説を書きたいと電話したそうです。結局、掲載されなかったようですが、「電話に出た編集長が『私はあなたのことが嫌いです。だから絶対掲載しません』と金切り声で叫ぶんだよ」と笑いながら話します。「そういう奴、結構俺は好きなんだ」と。》
「すばる」の編集長である。

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3)【訂正とお詫び】「出版人・広告人」11月号における事実誤認について

「出版人・広告人」11月号の特集【藝春秋・8月27日付役員人事】は、8月27日付で藝春秋の執行役員に就任した三氏をインタビューした記事だが、このうち島田真をインタビューした「藝春秋は常に真ん中にいる努力が重要です」において重大な事実誤認があったことが発覚した。もちろん、事実誤認をしてしまったのは、私たちである。まずは、その点を関係各位にお詫びしたい。誠に申し訳ありませんでした。
どこに事実誤認があったのか。p.61上段、聞き手による次の発言である。
「――意外に知られていないけれど、沢木耕太郎をTBSの『調査情報』から連れてきたのは半藤さんなんです。」
この発言が間違いであることをわざわざメールで伝えてきてくれた藝春秋OBがいるのだ。このOBによれば沢木耕太郎藝春秋に連れてきたのは、半藤一利の下にいた新井信であったのだ。
沢木耕太郎がTBSの『調査情報』に出入りしていたのは事実だが、沢木に最初に目をつけたのは「エコノミスト」だった。「エコノミスト」は沢木に「若き実力者たち」の連載を依頼する。これを新井が読み、企画会議で「本田靖春をしのぐ人物評伝の若い書き手が現れた!」と説得して「若き実力者たち」の単行本化を決めたそうだ。
ちなみに沢木が書いた初めてのルポは大学時代のゼミの指導教官であった長洲一二の紹介で筑摩書房の「展望」に書いた「防人のブルース」だった。この「防人のブルース」は庫版でのみ刊行された「地の漂流者たち」に収められている。そして、「テロルの決算」で沢木耕太郎は第10回(1979)大宅壮一ノンフィクション賞を受賞する。このとき近藤紘一の「サイゴンから来た妻と娘」も同賞を受賞しているのだが、特筆すべきは二作とも編集は新井信であったことである。
ちなみに沢木が出入りしていた頃の「調査情報」には今井明夫という編集者がいたそうである。この今井明夫が田中健五の「諸君!」に「南京大虐殺の『まぼろし』」を連載した鈴木明である。新井信は鈴木明に「リリー・マルレーンを聴いたことがありますか」「コリンヌはなぜ死んだか」の書き下ろしを依頼している。

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4)【深夜の誌人語録】

どんなに小さな違いでも、違いであることに変わりはない。