【文徒】2021年(令和3)1月7日(第9巻3号・通巻1900号)

Index------------------------------------------------------
1)【記事】「婦人公論」に殴り込んだ「藝春秋」の菊池寛
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】
----------------------------------------2021.1.7 Shuppanjin

1)【記事】「婦人公論」に殴り込んだ「藝春秋」の菊池寛

中央公論新社の「婦人公論」は1月4日に発売された1/26号をもって創刊105周年を迎えた。創刊は大正5年(1916年)。ロシア革命の前年に「自由主義と女権の拡張」を目指して創刊された。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000011.000065430.html
藝春秋の菊池寛が「婦人公論」の掲載した広津和郎の小説「女給」のモデルにされたことに激怒し、編集部に押しかけ、「婦人公論編」集主任福山秀賢氏の頭部を拳固で殴りつけるという事件を起こしたのは1930年8月15日のことであった。こういう「やんちゃな化」は雑誌ならではのものである。
春オンライン」が昨年、この事件を取り上げていた。
《「女給」の第1回は1930年7月16日発売の婦人公論8月号に掲載された。発行元の中央公論社は発売前、新聞に大々的な広告を打っている。「吉水薫、子どもも知る壇の大御所。小夜子の言葉を借りれば、太ってがっしりした実業家のような格好の人」「吉水薫が誰であるかは、この物語を一読してただちに分かるという。その吉水の赤裸なこの姿!」。
7月16日付東朝朝刊1面にも「婦人公論八月号」の広告が載っているが、ここでも「太って実業家のような壇の大御所に拉(ら)っし去られた小夜子が嬌笑の悲歌は全日本を涙させる!」とある。こう見ただけでも、「モデルが誰か」で読者の興味をあおる、やややりすぎの宣伝に思える。このあたりにもトラブルの火種はあったのだろう。》
https://bunshun.jp/articles/-/39059
大正14年(1925年)の「カフェー・ライオン」の厄介客番付では広津和郎菊池寛も前頭として位置づけられている。
https://twitter.com/oldpicture1900/status/1261315178680840196
周知のように集英社版の日本学全集の第29巻は「菊池寛 広津和郎集」であった。ただし、「女給」は収録されていない。
そうそう藝春秋は新年の新聞広告でマスク姿の菊池寛を登場させていた。
https://twitter.com/bunshun_senden/status/1344807568305078272
実はスペイン風邪の折り、菊池はこう書いている。
《自分は感冒に對して、脅え切つてしまつたと云つてもよかつた。自分は、出來る丈豫防したいと思つた。最善の努力を拂つて、罹らないやうに、しようと思つた。他人から、臆病と嗤はれやうが、罹つて死んでは堪らないと思つた。》
《伝染の危険を絶対に避けると云う方が、明人としての勇気だよ。誰も、もうマスクを掛けて居ないときに、マスクを掛けて居るのは変なものだよ。が、それは臆病でなくして、明人としての勇気だと思うよ。》
庫から菊池寛の「マスク スペイン風邪をめぐる小説集」が刊行されたのだ。
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167916138
時事通信は1月6日付で「緊急宣言、東京五輪の開催判断に影響せず=加藤官房長官」を掲載している。
加藤勝信官房長官は6日の記者会見で、新型コロナウイルスの緊急事態宣言発令は、夏の東京五輪パラリンピックの開催判断に影響しないとの認識を示した。》
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021010600610&g=pol
東京五輪パラリンピックを開催することが「明人としての勇気」なのか、それとも開催を断念することが「明人としての勇気」なのか。

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2)【本日の一行情報】

◎出版社にとっても動画戦略が必要になってくることは間違いあるまい。KADOKAWAは、「大人の最強雑学1500」「地球の雑学」「まさか!の雑学500」などの雑学本をアニメーション動画にしたYouTubeチャンネル「最強雑学クイズ」を開設した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000007969.000007006.html
「出版から動画へ」のみならず「動画から出版へ」という二つの流れに対応しなければならないはずだ。KADOKAWAが動画戦略に自覚的であることに間違いはあるまい。KADOKAWAは、「お魚系」YouTubeチャンネルとして知られる「きまぐれクック」を書籍化し、3月1日に「さばいていくっ! ~きまぐれクック流 魚さばきの楽しみ方~」として発売する。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000007949.000007006.html

◎ベスプラが10万人以上に提供してきた認知機能テストサービスのデータを分析し、認知機能検査を説明および解説し、KADOKAWAから刊行した「これで安心! 75歳からの運転免許認知機能検査 テキスト&問題集」は、発売から1年4カ月で発行部数2万部を超えた。実用書は地道に売れていく商品だ。地道に売れていく実用書のラインナップを強化することは出版社の経営を筋肉質化するはずだ。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000034.000007987.html

日本経済新聞は1月4日付で「経費使い放題、休みは自由 NETFLIXが伸び続けるワケ」を掲載し、日本経済新聞出版から刊行された「NO RULES 世界一『自由』な会社、NETFLIX」を取り上げている。
《突出して能力の高い人材だけをプールするために、工夫を重ねて独自の職場カルチャーをつくりあげてきました。その特徴をシンプルに表すのが「自由と責任」です。優秀な人材に自由と責任を付与すれば、企業は健全に成長し続けるという考え方です。》
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO6707741007122020000000/
世界一「自由」であるということは、世界一厳しい「責任」を負うということでもあるのだろう。NETFLIXを貫徹するのはリバタリアニズムにほかなるまい。次に掲げるのは総て2020年のNetflixオリジナル映画である。
「獣の棲む家」「マ・レイニーのブラックボトム」「40歳の解釈:ラダの場合」「ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから」「これからの人生」「ザ・ファイブ・ブラッズ」「ジングル・ジャングル~魔法のクリスマスギフト~」「ウィロビー家の子どもたち」「エノーラ・ホームズの事件簿」「シカゴ7裁判」「Mank/マンク」「ミッドナイト・スカイ」「ザ・プロム」。https://movie.walkerplus.com/news/article/1015005/
私は正月に「獣の棲む家」や「マ・レイニーのブラックボトム」を見て圧倒されてしまった。「獣の棲む家」は難民について考えさせられるホラー映画だし、ジャズの世界を描く「マ・レイニーのブラックボトム」はチャドウィック・ボーズマンの遺作であるとともにアカデミー賞の主要部門にノミネートされるのは間違いない作品である。
https://www.bilibili.com/video/av415029600/
https://www.youtube.com/watch?v=ztCyOYjQ5_E

朝日新聞デジタルは東アジア怪異学会会員の榎村寛之にインタビューした「鬼滅、コロナだからヒット 怪異学で語る鬼・感染症・刀」(聞き手・佐々木洋輔)を掲載している。榎村は次のように語っている。
《映画「鬼滅の刃」は、コロナ禍だからこそヒットしたのでしょうし、これが平安時代でも大ヒットしていたでしょう。人類と感染症との戦いは、人口が密集する都市が形成されて以来、幾度となく繰り返されてきたからです。
感染症が流行すると、いつ感染するかわからないという恐怖心にとらわれます。そして、差別をしたり、疑心にさいなまれたり。恐怖心は平常心をむしばみます。
すなわち鬼は、あなたの心にすくう恐怖心そのもの。それをぶった切ってみせる「鬼滅の刃」に、私たちの心は躍るのでしょう。》
https://digital.asahi.com/articles/ASNDZ627KNDTONFB00H.html

尾田栄一郎の「ONE PIECE」が、1月4日発売の「週刊少年ジャンプ」(集英社5・6合併号で連載1000話を迎えた。「ONE PIECE」は1997年7月22日に連載がスタートし、現在までコミックスは96巻刊行されていて、全世界での累計発行部数は4億7000万部を突破しているという。
https://www.sanspo.com/geino/news/20210104/geo21010414130015-n1.html

講談社の経営を支えてきたと言っても過言ではない「進撃の巨人」の連載が4月9日発売の「別冊少年マガジン」5月号で完結することになった。
https://www.oricon.co.jp/news/2181067/full/

◎CARTA HOLDINGSのグループ会社であるVOYAGE GROUP(代表取締役社長兼CEO:宇佐美 進典)は、意思決定の迅速化とさらなる事業成長の促進を図るため電通との共同事業である運用型テレビCMプラットフォーム「テレシー」(TELECY)を会社分割し、1月4日付けで、「株式会社テレシー」(代表取締役:土井 健)を設立した。
https://voyagegroup.com/news/press/01_20210104_01/
更にVOYAGE GROUPは、より迅速な事業戦略の推進を図り、さらなる事業成長の促進を目指すため、運営する統合マーケティングプラットフォーム「PORTO」(ポルト)を会社分割し、1月4日付けで、「株式会社PORTO」(代表取締役:吉田 大樹)を設立した。
https://voyagegroup.com/news/press/01_20210104_02/

藝春秋はこれまで紙の本でしか読めなった佐伯泰英作品一挙123冊を今年4月、電子書籍化し、同時刊行することになった。
https://books.bunshun.jp/articles/-/5953

朝日新聞デジタルは1月5日付で「この声、届いてますか 第2回 化は不要不急ですか サザンも羽ばたいた地、国動かす」(吉川真布)を掲載している。「加藤さん」とは、新宿LOFTを運営している加藤梅造のことだ
新宿LOFTも観客数を絞っており、緊急事態宣言の解除後も収入が昨年比4分の1ほどの状況が続く。
加藤さんは危機感を募らせる。「音楽でも演劇でも映画でも、みんなが売れているもので満足しているわけじゃない。そんなに有名じゃなくても『俺はこれが一番好きだ』というのが、化。それがなくなるのは、化的な裾野がなくなることなんです」
国の支援策では、公演後の補助になってしまったり、公演の準備段階で補助が受けられるかわからなかったりする場合がある。「大きくて、自己資金がある団体しか使えないと思います」。加藤さんは演劇やミニシアターも含め、みんなが使いやすい一定の額を給付するような支援が必要だと考えている。》
https://digital.asahi.com/articles/ASP110CSQNDVUTFK00S.html?ref=mor_mail_topix1

凸版印刷株式会社のグループ会社である総合電子書籍ストア「BookLive!」は、ローソンとの共同キャンペーンを2021年1月5日(火)より実施している。全国のローソン店頭で対象商品を購入すると、「BookLive!」で利用可能なポイントがプレゼントされるというキャンペーンだ。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000156.000022823.html

◎「小悪魔ageha」が、1月5日からナンバーセブン運営のWebメディアとして復活を遂げた。「ねとらぼエンタ」は1月5日付で「キャバ嬢カルチャーは終わらない! 『小悪魔ageha』がWebで復刊 専属モデルオーディション開催も決定」を公開している。
《“age嬢”というジャンルを確立させた『小悪魔agehaは、もともと2005年10月に『小悪魔&ナッツ』として創刊。発行元であるインフォレストの事業停止/破産に伴い2014年5月号で休刊するも、2015年にネコ・パブリッシング(発行元はダナリーデラックス)から復刊。しかし、2016年4月号から発行元を主婦の友社に変更後、2017年10月号に再休刊となっていました。
その後、トランスメディアを発行元に2017年12月から隔月誌で復刊後、2019年5月号で再々休刊。しかし、2020年4月にナンバーセブンを発行元とする季刊ムック本で復刊を果たしていました。根強い人気だ……!》
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2101/05/news090.html

◎加藤昭と小林峻一の「闇の男 野坂参三の百年」は「週刊春」の連載から生まれたが、編集長が花田紀凱で、担当編集が木俣正剛だった。
https://diamond.jp/articles/-/258982

◎「大友克洋全集」が講談社から刊行される!
https://twitter.com/otomo_zenshu/status/1346650924295495680

奥泉光の中公庫「雪の階」の解説は加藤陽子が書いている。
https://www.chuko.co.jp/bunko/2020/12/206999.html
https://www.chuko.co.jp/bunko/2020/12/207000.html
「テクストとしての都市 メキシコDF」の柳原孝敦がツイートしている。
奥泉光『雪の階』(中公庫)では解説を加藤陽子さんが書いておられる。さすがは歴史家からの裏付けがいろいあって理解が助けられる。加えて、これが三島の『憂国』への応答であることも触れられていて、膝を打つ思い。》
https://twitter.com/cafecriollo/status/1346627917032296449

◎米グーグルの親会社アルファベットの従業員200人以上が、初労働組合を結成した。日本経済新聞は1月5日付で「Google従業員が労働組合結成 利益優先を批判」(白石武志)を掲載している。
《「これは我々が働きたい会社ではない」ーー。同社初の労組で執行委員長に就いたパルル・コール氏らは4日付の米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿の中で、経営陣が「邪悪になるな」というグーグルの創業来のモットーを軽視し、利益を優先させているとの批判を繰り広げた。
コール氏は言語解析AIが抱える倫理的な課題を指摘しようとした黒人女性研究者が2020年末にグーグルを解雇されたことなどを例にあげ、同社の経営陣が「あえて発言する者を取り締まり続け、重要な話題について労働者が公に発言しないようにしてきた」と主張。報復を恐れることなく、従業員らが意見を発信するために労組をつくったと述べた。》
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN04BCN0U1A100C2000000

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3)【深夜の誌人語録】

個性を生かすためには自分を殺す必要がある。