【文徒】2021年(令和3)2月17日(第9巻30号・通巻1927号)


Index------------------------------------------------------
1)【記事】中日新聞西日本新聞による連携スクープの衝撃
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】
4)【お知らせ】 
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1)【記事】中日新聞西日本新聞による連携スクープの衝撃

中日新聞は2月16日 2時00分付で「名簿の束『書き写して』、会議室に数十人 リコール署名偽造、バイト男性証言」を掲載している。スクープだ
《愛知県の大村秀章知事のリコールに向けた署名集めに関連し、名簿書き写しのアルバイトに参加した福岡県久留米市内の契約社員男性(50)が本紙の取材に応じた。男性は登録している人材紹介会社から「簡単な軽作業」「名簿を書き写すだけ」との趣旨の電子メールを受け、十月中旬から下旬にかけて佐賀市の貸会議室で、時給九百五十円で作業をした。五百円の交通費も支給された。》
https://www.chunichi.co.jp/article/202744
中日新聞の森若菜によれば、2月16日付の紙面で一面トップを飾ったのは、この記事であった。
https://twitter.com/wakanara/status/1361444564922368001
実は、このスクープを生んだのは西日本新聞との連携によるものであった。西日本新聞は2月16 日6時00分付で「署名偽造、佐賀で大量動員 愛知知事リコール問題」を掲載している。
《愛知県の大村秀章知事のリコール(解職請求)に向け、美容外科高須クリニック」の高須克弥院長らが同県選挙管理委員会に提出した署名簿に、偽造が疑われる大量の署名が含まれていたことが分かった。
西日本新聞「あなたの特命取材班」に寄せられた情報を基に中日新聞が取材したところ、多数のアルバイトが愛知県民らの名前や住所が書かれた名簿を、リコール活動団体の署名簿に書き写していた。名古屋市の広告関連会社の下請け会社が、大手人材紹介会社を通じてアルバイトを募集。佐賀市内の貸会議室で書き写させていた。》
https://www.nishinippon.co.jp/item/o/693460/
ライターの松本創が唸る。
中日新聞の第一報。16日午前2時にアップ。見事なスクープだと思ったら、西日本新聞との連携だったという。さらに見事だ。》
https://twitter.com/MatsumotohaJimu/status/1361474318329212928
朝日新聞の三浦英之は、ここに新しい時代の新しいメディアのあり方を見ている。
中日新聞西日本新聞が連携して放った見事なスクープ。地方メディアが連携しあい、単独ではなしえなかった調査報道を展開する。新しい時代の、新しいメディアのあり方。中央を担う大手メディアの奮起も期待したい》
https://twitter.com/miura_hideyuki/status/1361505494129545221
朝日新聞の杉原里美も大いに評価している。
《このスクープがすごいのは、西日本新聞の「#あなたの匿名取材班」へ寄せられた情報を端緒に、他社の中日新聞と連携して報道したところ。新しい報道のスタイルが奏功している。同業者として、拍手を送りたい。》
https://twitter.com/asahi_Sugihara/status/1361487536732835841
NHK記者の高橋大地も驚いている。
《リコール問題の特ダネ、西日本新聞の元に届いた情報を元に中日新聞が取材という経緯が素晴らしい。地域が離れているとはいえ、他社とネタを共有ってなかなかできることではない。》
https://twitter.com/Daichi_news/status/1361490207313256448
「P記者」が解説している。
《愛知県知事のリコール署名問題に絡み、署名偽造に「バイトを動員」してたという特ダネ。
ネタそのものもも凄いが中日と西日本新聞の協働というのが業界的には激アツなんだにゃ。西日本の「あなたの特命取材班」的取材手法の有用性を示した記事でもある。今後も目が離せぬ》
https://twitter.com/nekowhisperP/status/1361460471732129795
西日本新聞デスク兼記者の竹次稔は中日新聞に感謝の辞を述べる。
《現場は佐賀市でした。西日本新聞「#あなたの特命取材班」に寄せらた情報提供がきっかけでした。友好紙の中日新聞さんの取材力には頭が下がります》
https://twitter.com/MinoruTaketsugu/status/1361467728603738112
当事者からすると、それほど驚くことでもないようだ。西日本新聞中日新聞は「友好紙」という関係にある。西日本新聞の中原岳がツイートしている。
《ご存知の方も多いかもしれませんが、弊紙と中部地方のブロック紙、中日新聞さんは友好紙の関係にあり、記事の交換や提供を受けての掲載を行うことがあります。
今回の愛知知事リコール署名偽造問題に関しては取材や編集に全く関係していませんが、地方紙が連携する意義、強みを改めて実感しました。》
《私も長崎総局勤務時に、長崎原爆の記事を中日新聞さんに掲載していただいたことがあります。
弊紙では他に河北新報さん(仙台市)や新潟日報さん(新潟市)、中国新聞さん(広島市)などの記事が載ることがあります。》
https://twitter.com/GakuNnp/status/1361505043623550977
https://twitter.com/GakuNnp/status/1361506768614952961
秋田魁新報の松川敦志は、今後の展開に期待している。
中日新聞西日本新聞による見事なスクープ。
全国メディアが後追いするかどうかで今後の展開は決まると思います。朝日新聞毎日新聞、読売新聞、共同通信……そしてNHK心ある記者、デスク、胆力の見せどころ。》
https://twitter.com/matsukawa_a/status/1361471928725172224
私は東京新聞を購読しているが、東京新聞の2月16日付朝刊の一面は福島の地震。親会社の大スクープは紙面のどこにも掲載されていなかった。江川紹子のツイートが私の見落としでないことを証明している。
東京新聞にはなぜ載ってないんだろ…》
https://twitter.com/amneris84/status/1361453764259897348
蛇足ながら清義明の次のような連ツイも投稿されている。
https://twitter.com/masterlow/status/1361398960615657472

https://twitter.com/masterlow/status/1361484778218745862

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2)【本日の一行情報】

◎第73回広告電通賞の全入賞作品が決まった。総合賞にサントリーホールディングスが選ばれた。サントリーホールディングスは第66回以来23回目の受賞となる。
総合賞に決定したサントリーホールディングスは「フィルム広告」最高賞と銀賞、「OOH広告」最高賞と金賞、「イノベーティブ・アプローチ」最高賞、「オーディオ広告」で金賞2つと銀賞、「ブランドエクスペリエンス」で銀賞を獲得するなど、広告活動全般にわたる優れた成果が評価された。
各部門最高賞は次の通りだ。
《プリント広告最高賞》テレビ朝日東宝/『君の名は。』地上波放送(瀧と三葉が出会う新聞広告)
《オーディオ広告最高賞》大日本除虫菊/ゴキブリがうごかなくなるスプレー(G作家の小部屋シリーズ:独創性について/コミュニケーションについて/死について)
《フィルム広告最高賞》サントリーホールディングス/ボス(宇宙人ジョーンズ・平成特別篇)
《OOH広告最高賞》サントリーホールディングスラグビーワールドカップ(壁が大きいほうが倒しがいがあるじゃないか)
《ブランドエクスペリエンス最高賞》資生堂/MY CRAYON PROJECT(MY CRAYON PROJECT)
《エリアアクティビティ最高賞》ジャパンパーク&リゾート/姫路セントラルパーク(地域密着型レジャー施設のV字回復~姫路セントラルパークコミュニケーション~)
《イノベーティブ・アプローチ最高賞》サントリーホールディングス/ボス(TOUCH-AND-GO COFFEE Produced by BOSS)
https://www.dentsu.co.jp/news/release/pdf-cms/2021007_0212_re.pdf
https://www.dentsu.co.jp/news/release/pdf-cms/73LIST.pdf
プリント広告最高賞を雑誌広告が獲得する日は来るのだろうか。雑誌の金賞は味の素の企業広告(よくがんばりませんでした)だった

◎動画配信サービス「U-NEXT」の電子書籍売上規模が5.7倍に成長した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000512.000031998.html

乃木坂46山崎怜奈にとって初の書籍となった「歴史のじかん」(幻冬舎)が重版した。
https://www.oricon.co.jp/news/2184583/full/

朝日新聞デジタルは2月15日付で「ヒーロー雑誌が苦境 男の子なら通る道、じゃなくなった」(杉浦幹治)を掲載している
《特撮ヒーローとともに歩んできた、子ども向けのテレビ雑誌が苦境に直面している。今年で創刊50年を迎える老舗雑誌「テレビマガジン」(講談社)の部数は全盛期の10分の1。》
《テレビマガジンの岡本朋子編集長は「存在はまだまだ大きいが、戦隊やライダーがかつてのように『男の子なら必ず通る道』ではなくなっている」と分析する。
出版不況の中でも「おしりたんてい」といった児童書は人気だが、雑誌に追い風は吹いていない。岡本編集長は「知育ドリルを過去に載せたこともあったが、ヒーローがかっこよすぎるせいか、反応がいまいちだった」。》
https://digital.asahi.com/articles/ASP2D7DSWP2CUTIL00T.html
出版は紙からデジタルに移行する過渡期にあることは間違いないが、紙のメディアとしての完成度の高さが、デジタルへの移行を逡巡させている光景はいたる所で見ることができる。例えば、私でいえば書籍をデジタルで読むことは殆どない。
何故かといえば、メディアとして書籍は紙のほうがデジタルよりも優れているからである。雑誌の場合は逆だ。漫画に限っていっても、紙の雑誌よりもアプリのほうが優れていると、少なくとも私には思える。もちろん、紙の雑誌が絶滅するとは思っていない。それこそ10年前から主張しているように古典芸能のように生き残る紙の雑誌はあるはずだ。

◎それこそ初版を500部か400部にするかどうかで頭を悩ませている出版社からすれば、別世界の出来事であろう。吾峠呼世晴マンガ「鬼滅の刃」の電子版を含むコミックスのシリーズ累計発行部数が、1億5000万部を突破したという。「ORICONNEWS」によれば《昨年2月4日時点で4000万部、12月4日(最終23巻発売時)時点で1億2000万部だったため、この1年で+1億1000万部(3.75倍)、2ヶ月で+3000万部(1.25倍)》ということだ。こうなる。
19年4月6日:350万部(テレビアニメ放送時)※4月9日発売巻で500万部
19年9月末:1200万部(テレビアニメ終了時)
19年12月4日:2500万部
20年2月4日:4000万部
20年5月13日:6000万部
20年7月3日:8000万部
20年10月2日:1億部
20年12月4日:1億2000万部
21年2月15日:1億5000万部
https://mantan-web.jp/article/20210212dog00m200072000c.html

毎日新聞が2月15日付で掲載している「東京、北京 二つの五輪がもつ意味とは 国際政治学の観点で解く」で、政策研究大学院大副学長の道下徳成は次のように述べている。
《仮に東京五輪が中止となり、半年後に「コロナに打ち勝った証し」として北京で冬季五輪が開催されればどうなるか。中国は「沈みゆく太陽(日本)と天に昇る竜(中国)」というストーリーで、アジアでのパワーシフトの象徴と位置づけるだろう。だが、そうなれば中国の冒険主義を助長させるリスクがあり、日中関係や世界にとっては良くない。そうならないためにも、日本が東京五輪を開催してバランスを取る意味は大きい。》
https://mainichi.jp/articles/20210214/k00/00m/040/233000c
北京五輪に関しては新疆ウイグル自治区や香港の人権問題を世界は、どう考えているのかという視点を抜きに語ることは、国際政治学としては安直ではないのだろうか。何故、IOC東京五輪を開催したいかといえば、来年の北京五輪がそれこそモスクワの二の舞になった場合を想定してのことではないのだろうか。

毎日新聞は2月15日付で「下重暁子さんが森氏発言に見た深い闇 『多くの男性の本音では』」を掲載しているが、下重は次のように指摘している。
《一言で言ってしまえば、今もまだまだ日本は「男社会」なんですよ。暗い闇があって、いろんな問題と根っこでつながっている。森さんの発言は一時的にふってわいたものではありません。》
https://mainichi.jp/articles/20210214/k00/00m/040/231000c
むろん、新聞社も「深い闇」を抱えていると言わねばなるまい。毎日新聞が2月15日
付で掲載した元「サンデー毎日」編集長・山田道子の「メディア万華鏡 森喜朗氏の『女性蔑視発言』マスコミ報道のお粗末さ」は次のように書いている。
毎日新聞2月4日朝刊社会面の初報記事「『女性多い会議 長い』 五輪組織委 森会長が私見」は、「女性蔑視とも受け止められる発言で波紋を広げそうだ」と書いた。
「女性蔑視とも」という逃げ、「波紋を広げそうだ」というお決まりの表現に、問題の重大性をどこまで感じているか伝わってこなかった。森氏の発言撤回・謝罪発言を伝える同5日朝刊1面は「女性を蔑視した発言」となった。
同じ2月5日の朝日新聞朝刊1面は「女性を蔑視したと受け取れる発言」。東京新聞も2面に「女性蔑視とも受け取れる発言」と書き、同じ2面に「森氏発言『性差別』『時代遅れ』 海外でも批判噴出」との記事を載せた。
「とも」とか「受け取れる」は逃げではないか。ちなみに読売新聞2月5日朝刊1面は「女性に対する自身の発言」、社会面は「女性に対する不適切な発言」と断固「蔑視」を避けていた。》
https://mainichi.jp/premier/business/articles/20210212/biz/00m/020/006000c
では、テレビ局は?、では、出版社は?ラジオは?と問わねばなるまい。「深い闇」は局所的に存在するのではない。いたるところに存在するから「根深い」のだ。

◎これも毎日新聞。2月16日付で「声をつないで 伊藤公雄氏が指摘 『ジェンダー平等』の失敗示す五輪のある場面」を掲載している。京都産業大教授の伊藤によれば、それは開会式なのだ。
《日本の五輪出場選手は、04年アテネ大会で女性が5割を超えました。その後も男女比はおおむね半々です。女性の方が活躍し、メダル獲得数が多かった大会もある。でも、五輪の開会式で各国の入場行進を見ると、日本はものすごく男性が多いでしょう。なぜかというと、役員がほとんど男性だからです。
五輪で女性の種目数が男性の半分になったのが1976年のモントリオール大会です。その頃から五輪やスポーツシーンにおけるジェンダー平等が進んできて、世界の流れは役員や指導者も含めて女性の数がすごく増えています。多くの国は女性役員が3~4割いるのが普通なのに、最近は増えているとはいえ、日本だけいまだ20%に満たない。入場行進で男性ばかりたくさん歩いているわけで、いびつな選手団です。この男女のバランスの悪さは異様な光景です。》
https://mainichi.jp/articles/20210215/k00/00m/040/263000c

産経新聞は2月15日付で「コロナ禍で人気広がる自己啓発本100万部突破も」を掲載している。
《昨年9月に累計100万部を突破した「さあ、才能(じぶん)に目覚めよう 新版」(日経BP)は、米国ギャラップ社が開発した才能診断ツール「ストレングス・ファインダー」というウェブテストで自分の「強み」を見える化し、その強みをどう使えば武器になるかを教えてくれる本。平成13年に出版した旧版を改訂した同書は、コロナ禍となる前から「働き方改革」などで注目され部数が増えていたが、昨年は前年の1・3倍の売れ行きとなった。》
https://www.sankei.com/life/news/210215/lif2102150003-n1.html

◎日販は、楽天ブックスネットワークとの協業範囲の拡大について検討を開始することで合意した。次の内容で協業範囲の拡大を検討することになる。
1. RBN一部帳合書店分の雑誌送品・書籍送品業務で協業する。
 ・物流業務を日販の流通センターで受託する。
 ・物流受託する商品の仕入業務を日販が受託する。
2. 店頭客注を支援するサービスを共同で推進する。
https://www.nippan.co.jp/news/20210215/

◎「NEWSポストセブン」は2月15日付で「『五輪は中止せよ』と明確に書かない五輪スポンサーの大新聞」を発表している。
《先進国で一番遅れているワクチン接種、東京で続く緊急事態宣言、そして森喜朗・会長の女性蔑視発言。どう見ても東京オリンピック・パラリンピックの開催は難しくなっていると思えるのだが、いまだ新聞やテレビなど大マスコミからは「中止せよ」という報道はほとんど出ていない。せいぜい識者や元アスリートに取材して「難しいのではないか」といった意見を載せるくらいだ。
その原因は、大マスコミが雁首揃えて五輪スポンサーになっているからではないか。朝日新聞日本経済新聞毎日新聞読売新聞は「オフィシャルパートナー」、産経新聞北海道新聞が「オフィシャルサポーター」に名を連ね、すでに数十億円のカネを出している。当然、その系列のテレビ局も親会社の顔色をうかがって「中止せよ」とは言いにくくなる。》
https://www.news-postseven.com/archives/20210215_1635731.html?DETAIL
朝日、毎日、読売、日経、産経と全国紙が横並びでスポンサーになるのは問題だったのではないか。

武蔵野大学学部・武蔵野学館は、オンライン創作講座「短編小説の書き方」を2月20日に開催する。講師は、芥川賞作家の三田誠広と、日本推理サスペンス大賞などの学新人賞を立ち上げてきた新潮社の編集者・佐藤誠一郎。
https://www.work-master.net/2021211536

◎デザイナーの宮越里子がツイートしている。
《『対抗言論 反ヘイトのための交差路』2号を、デザイン致しました。
表紙の写真家は松岡一哲さん。
総扉などの写真は池野詩織さん。
お二人の力強くもしなやかな作品で素敵な雑誌に仕上がりましたキラキラ
「複合差別を解きほぐす」
珠玉の論考ばかりです。
ぜひご購入下さい。》
https://twitter.com/osonodoyo/status/1361311463487381509
これがそうだ。版元は法政大学出版局
https://www.h-up.com/books/isbn978-4-588-61612-9.html
あっこゴリラ、super-KIKI、宮越里子の鼎談がある。そこでsuper-KIKIが「生まれ持った属性や社会からかけられた呪いを打ち砕くのも、ファッションの力のひとつだと思っていて」と発言している。
https://sheishere.jp/interview/201805-akkokikisatoko/
女性誌「敗戦」を見ていて思うことがある。多くの女性誌が言わば「校則」の側にあったのではないだうかということだ。何らかの属性や社会に嵌め込もうとする着回しファッションは「校則」の延長にあったのかもしれない。

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3)【深夜の誌人語録】

歴史とは未来の残骸である。

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4)【お知らせ】 

」2000号まで、あと73号。