Index------------------------------------------------------
1)【記事】匿名ツイッター記者急増中!実名・匿名論争が勃発
2)【記事】だらしないぞ!新聞!テレビ!政治報道は「文春」を中心に回っている
3)【記事】呉勝浩「おれたちの歌をうたえ」(文藝春秋)に心震わせよ!
4)【記事】電通のグローバル戦略と「のれん」
5)【本日の一行情報】
6)【深夜の誌人語録】
7)【お知らせ】
----------------------------------------2021.2.22 Shuppanjin
1)【記事】匿名ツイッター記者急増中!実名・匿名論争が勃発
「窓際三等兵」と朝日新聞の藤エリカとのツイッターでのやりとりから、今回の実名・匿名論争の火ぶたが切られたと言って良いのだろう。
「窓際三等兵」が藤に次のようにリプライした。
《内定者の分際で朝日を代表する記者である藤さんになんて失礼な口の聞き方を…。藤さんは実名と罵倒の匿名との戦いにどこまで耐えられるかの実験に日々晒されてるんですよ!あれ、他の朝日の実名記者の方で特に罵倒されてない人たちもいるけど違いは何なんだろう17歳JKにはよく分からないや…。》
https://twitter.com/nekogal21/status/1361825855073361922
これを藤がリツイート。
《現役記者であろうかと思われるこのアカウントの方からは、私への「揶揄」と受け取れるこういったリプライをいただきました。
書く仕事をしておいでであれば、これを「揶揄でない」とおっしゃるのは苦しいと思いますし。》
https://twitter.com/erika_asahi/status/1361828792642113537
朝日新聞特別報道部長の野沢哲也が藤にリプライ。
《匿名記者の方には匿名でなくてはならない理由があるのかもしれませんが、匿名の看板に隠れて実名の記者に石を投げるのは、ただ卑怯です。あなたが記者なら、批判するのであればまず顔と名前をさらしてください。肩書はずせばいいんですよ。藤さんも一人の人間です。傷つけていい権利なんて誰にもない》
https://twitter.com/tomo_sumi_tetsu/status/1362027583576055810
「窓際三等兵」のツイートは匿名ならではの皮肉に充ちている。
《朝日新聞特別報道部長が「匿名は卑怯だ!」と荒ぶってるが、今って令和だよね…?「名を名乗れ!」って俺とぶちょーだけ鎌倉武士と蒙古の争いの真っ只中にタイムスリップしてないよね?2ちゃん黎明期の話題を2021年に持ってこられてもリアクションに困るというか、ちょっと照れるというか…(モジモジ》
《そもそもワイは記者でもなんでもなく、自分を17歳JKだと思い込んでる異常全裸中年男性なんだけど、なんであの人たち勝手に同業者認定して熱くなってるんだろう…。ここはネットの誹謗中傷について、毎日新聞の名著「ネット君臨」でも読んで勉強するか。なんか評価えらい低いけどなんでやろなあ。。》
https://twitter.com/nekogal21/status/1362053524914401284
https://twitter.com/nekogal21/status/1362056664464162816
28歳児記者「りきまる」が野沢をリツイートしている。
《疲弊するだけなんで終わりにしたいですが「なぜ匿名発信せざるを得ないか」に思いを馳せて頂けたら結果は違ったと思います。肩書所属付き実名垢が日々の食い扶持や取材交流のツールになっている方こそビタ一文の稼ぎにもならない匿名発信の意義や背景を考えて欲しいです。もちろん誹謗中傷はダメです。》
https://twitter.com/rickymaruriki/status/1362380954551996416
藤えりかは匿名アカウントは英語圏では見かけないという。
《記者の匿名アカウント、随分増えているのですね。
記者がSNSで匿名で書かざるを得ない(と感じる場合も含めての)状況は考えさせられる。
以前旅先で米国人と自己紹介し合うと「記者?!じゃあTwitterも実名だよね」とアカウント見せて状態になったことがあるが確かに英語圏は記者が匿名で書く印象がない。》
《ちなみに海外で記者証を申請したり、日本のメディアを知らない人たち向けに記者としての活動を説明したりする際にも、Twitter等での一定程度の実名発信は活用できたりします。
あと、書く仕事であるだけに、匿名で反射的に何かを書くことに慣れてしまうと、やや危うさもあるんじゃないかな…とは思う。》
《あと、実名で目立って攻撃されているかいないかで「優劣」をつける考え方も散見されたのですが世界的にも女性のブロガー・ライターの方が誹謗中傷に遭いやすい傾向があります。
それを言うと「被害者ムーブ」等と書くような人たちが、取材で出会う少数派の方々にどう心寄せられるというのでしょうか。》
https://twitter.com/erika_asahi/status/1361720373583126528
https://twitter.com/erika_asahi/status/1361815720602963968
https://twitter.com/erika_asahi/status/1361866254504456193
「或る中堅記者」が藤のツイートを踏まえて次のような連ツイを発表している。
《匿名の記者アカウントに対して、「英語圏では見ない」「同業者として心配している」「危うい」「海外では~」と、懸念(批判?)している実名記者を見かけた。基本的にはご高説の通りで、「お気に触ったら、ごめんなさい」としか言えません。》
《ただ、記者だからといって、みんなが同じ立場ではないのです。実名でのSNSを実質的に禁止してる社もあれば、様々な事情で実名発信が難しい人もいる。それは記者に限った話ではないと思います。「自分とは違う立場の人もいる」ということを、記者なら少しぐらいは想像してほしい。》
《その人は「配慮の実名と罵倒の匿名」という金言も残されてますが、少なくとも私は誰かを罵倒してるつもりはないし、バカな発言で炎上を繰り返す実名記者(幹部を含む)もいます。発言に責任を持つのは大前提だけど、「実名だから」「匿名は」というレッテルに意味はあるんですかね。》
《私のツイートは主に、こんなご時世に記者を目指す奇特な若者や、迷える若手記者に向けて書いています。社を超えてアドバイスしたり、非公式に記者の実態や思いを伝えるのは、実名ではなかなか難しい事情があるのです。だから「あなたに心配して頂く必要はありませんよ」とだけは申し上げておきます。》
https://twitter.com/chuken_william/status/1361864632965627905
~
https://twitter.com/chuken_william/status/1361864636929204228
匿名の「空飛ぶぶんや」が藤と野沢にリプライしている。
《正直に書きます。
私は、記者を目指す人の支えになったり、勉強したり、新聞業界をどう盛り上げたらいいか議論したりしたいと思い、Twitterを始めました。
匿名記者アカもいろいろ。記者倫理の範囲内で、親身に若手や学生の相談に乗っている人もこれまで見てきました。》
《なので藤さんの今回の投稿は、正直イラッときてしまいました。
実名での開設が自由な社の方が、海外の華やかな取材経験を持ち出し、匿名アカをひとくくりにして批判的なことを言われると、正直高いところから見下されている気分でした。同じ事を思った人は他にもいると思います。》
《ただ、そこから先は少し、匿名アカによる攻撃もハードすぎました。個人的にお世話になっている方もいらっしゃり、悲しい気分です。私自身、露骨な攻撃まではしないものの藤さんの投稿に対して批判的でしたし、今でも匿名でリプしてます。不愉快な思いをされたらお詫びいたします。申し訳ございません。》
《匿名アカの皆さん、もうここらで、やめにしませんか。私はおおむね、皆さんが大好きです。匿名アカをやっていてよかったなと思っています。仲間が去っていかないためにも、新聞業界の未来のためにも、終戦を提案します。》
https://twitter.com/flightbumya/status/1362042500488204292
~
https://twitter.com/flightbumya/status/1362043002181410819
しかし、一度、火の手が上がると簡単には止まらないようだ。議論も一定の広がりを見せているように思った。
Google News Lab Teaching Fellow の古田大輔は元朝日新聞記者である。
《Twitterアカウントの実名記者と匿名記者の間で、実名匿名論争が起きていると一部で話題ですけど、これは実名匿名ではなく、誹謗中傷するかどうかこそ論点では。アカウントが実名か匿名かは個人の自由だし、どっちが上でもない。問題は誹謗中傷や揶揄してるかだと思います。》
https://twitter.com/masurakusuo/status/1362159407056842755
ただし、記者は実名であるべきだと古田は考えている。
《実名・匿名は個人の自由という大前提の上で、記者に関して言えば、実名で使うことをお勧めします。以前もこの記事から引用したように、実名アカウントは組織によらず、記者個人が直接読者や情報提供者と繋がり、組織からより独立して活動する力になる。》
https://twitter.com/masurakusuo/status/1362159407874801664
一方、「地方紙民」は何故、匿名なのかを次のようにツイートしている。
《僕がこのアカウントの運用を始めた理由は
「自分の気持ちを吐き出したい」「同じ若手記者、それも同業他社の記者がどう思っているか知りたい」。
そしてそれはどちらも「匿名でしかできない」。匿名であるからこそ、気軽に話せるし、実名では言えなかった胸の内も語り合える。利害関係が生じないから。》
https://twitter.com/chihoshimin/status/1362367936023851017
「ぴー記者」は実名匿名の良し悪しは一概に決められないと呟く。
《新聞業界が抱える課題の代表は、昭和的なパワハラ。キャリアや人生を不当に台無しにされた人が大量にいる。
実名垢がどこまで書けるか。
僕は匿名垢なので言及しやすいけど。
実名匿名の良し悪しはいろいろあると思う。》
https://twitter.com/p_kisha/status/1362237145562243077
朝日新聞記者・金澤ひかりのツイート。
《匿名アカだろうが実名アカだろうが、相手の目を見て言えないことを言ってはいけないという大原則を守れない人は好きになれません。》
https://twitter.com/hikarikkkkk/status/1362179028296167428
フリーの赤石晋一郎のツイート。
《タイムラインとか見ると、記者実名匿名SNS論争があったらしい。偏見丸出しで言うと、匿名SNSは居酒屋談義、愚痴の類だと僕は基本的に思ってます。告発を貫くアカなら価値はありますが。新聞、週刊誌でも記者はみな実名で発信する時代にならないとメディアの進歩はないと思ってる。》
https://twitter.com/red0101a/status/1362264488649445379
新聞記者に匿名アカウントが多いのは、所属する新聞社が実名アカウントを禁止しているからだろう。実名を認めていてもツイートの内容に厳しい制限を課していれば匿名を利用するということになるのだろう。所詮、記者とイキがってみたところで骨の髄までサラリーマン根性が沁みついているのである。出版社でも、テレビ局でも似たようなものである。
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2)【記事】だらしないぞ!新聞!テレビ!政治報道は「文春」を中心に回っている
毎日新聞デジタルは2月18日付で「2度目の混乱避け沈黙 『橋本案』で世論見極め 五輪組織委新会長」(小林悠太、川上珠実、ソウル堀山明子)を掲載している。
《組織委の検討委員会が後任候補を橋本氏に絞り込んだ17日、御手洗冨士夫座長(85)から夜に就任要請の連絡を受けても橋本氏は沈黙を貫いた。》
《沈黙には、もう一つ理由があった。橋本氏にとって就任への最大の懸念は、日本スケート連盟会長だった2014年にフィギュアスケートの男子選手にキスを強要したと週刊誌で報じられたことだ。森氏は女性蔑視発言がSNS(ネット交流サービス)で拡散され、海外メディアで批判されたことが辞任の引き金となっただけに、橋本氏の行動も「セクハラ」として再炎上するリスクがあった。
韓国メディアは「女性蔑視の森に代わり、強制キスの橋本」「セクハラ騒ぎ、雑音が続く」などと敏感に反応したが、海外メディアの批判は限定的で、AP通信は「日本では意思決定や政治の場に女性が少ない。女性を指名することによって男女の不平等を打破することができるかもしれない」と好意的に発信した。》
https://mainichi.jp/articles/20210218/k00/00m/050/228000c
《日本スケート連盟会長だった2014年にフィギュアスケートの男子選手にキスを強要したと週刊誌》とは、言うまでもなく「週刊文春」である。
これまた「週刊文春」!朝日新聞デジタルは2月19日付で社説「議員の夜飲食 自民の規律が問われる」を掲載している。
《自民党の白須賀貴樹衆院議員が先週、東京・麻布の高級会員制ラウンジに、午後8時すぎから10時まで、女性と一緒にいたことが、週刊文春の報道で明らかになった。》
《文春報道を受け、すぐさま離党届を出し、次の総選挙には立候補しない考えを表明したが、その議員としての資質にはかねて疑問符がつけられていた。地元千葉の自民党県議らからは辞職勧告を求める嘆願書も出ている。けじめには程遠い。》
https://digital.asahi.com/articles/DA3S14805020.html
当然、これも「週刊文春」!毎日新聞デジタルは2月19日付で「総務省2幹部『更迭』 秋本局長『記憶力不足を反省』発言認める」(高橋恵子、飼手勇介)を掲載している。
《放送事業会社「東北新社」に勤める菅義偉首相の長男が総務省幹部を接待した問題で、同省の秋本芳徳情報流通行政局長は19日午前の衆院予算委員会で、首相長男らと昨年12月に会食した際、同省が認可権を持つ衛星放送事業が話題になったことを認めた。文春オンラインが会食の際のものとされる音声を公開しているが、首相長男も総務省の調査に対し「自分だと思う」と認めた。》
https://mainichi.jp/articles/20210219/k00/00m/010/077000c
朝日新聞デジタルは2月19日付で「記憶にない→記憶力不足 総務省接待、崩れた国会答弁」を掲載している。
《答弁の当事者だった秋本氏は、この日の質疑で、「一昨日の文春報道が出たとき、私自身、天を仰ぐような驚愕(きょうがく)する思いでした」と振り返り、「この記事を見て自分の記憶力の乏しさを恥じた」と釈明。「記憶力不足」と繰り返した。
ただ、文春の音声データの内容については大筋で認めたが、音声がないものについては認めなかった。》(小林豪)
https://digital.asahi.com/articles/ASP2M6T5RP2MUTFK00W.html
朝日新聞デジタルは2月20日付で社説「首相長男接待 放送行政の信頼揺らぐ」を掲載している。
《放送行政を所管する総務省幹部が、菅首相の長男が勤務する放送関連会社「東北新社」から接待を受けた際、これまでの説明に反し、放送事業をめぐるやりとりがあったことが明らかになった。音声データの一部を文春オンラインが公開した。
秋本芳徳・情報流通行政局長はこれまで、会食は「東北出身者らの懇談」であり、東北新社やその子会社のスターチャンネルの事業やBS、CSが話題になった「記憶はない」と国会で答弁してきた。
しかし、音声データには、首相の長男ら東北新社側が、BS事業などに言及したことが記録されていた。秋本氏はきのうになって「発言はあったのだろうと受けとめている」と軌道修正したが、首相の長男らが「(音声は)自分だと思う」と認めたことで、言い逃れができなくなったのが実態ではないか。》
https://digital.asahi.com/articles/DA3S14806380.html
毎日新聞デジタルは2月20日付で社説「総務省幹部の更迭 疑惑の解明はこれからだ」を掲載している。
《文春オンラインが昨年12月10日に会食した際の会話を録音したデータを公開したため、ウソを貫き通せないと考えたのだろう。
データには、首相の長男が「BS」などの言葉を繰り返し使っていた内容が録音されていた。
「森友・加計」問題や「桜を見る会」の疑惑で、虚偽答弁があれだけ批判されたのを忘れたのか。同様の展開になっている。》
https://mainichi.jp/articles/20210220/ddm/005/070/121000c
東京新聞は2月20日付で社説「総務官僚の接待 虚偽答弁は許さない」を掲載している。
《国会も随分なめられたものだ。総務省の秋本芳徳情報流通行政局長は、放送事業会社「東北新社」に勤める首相の長男らの会食接待を受けた際、「放送業界全般の話題が出た記憶はない」と国会答弁していた。しかし、音声データが公開されると一転「今となっては発言があったのだろうと受け止めている」と認めた。最初の答弁は虚偽だったことになる。
今回は週刊文春の報道や、野党の追及により虚偽答弁だったと分かったが、なぜこのようなことが繰り返されるのか。権力中枢に長く座る首相への忖度か、国会を甘く見ているのか。そのいずれだとしても許されざる行為である。》
https://www.tokyo-np.co.jp/article/87114
北海道新聞が2月19日付で掲載した社説「総務省接待問題 癒着の疑惑が拭えない」。
《文春によると、音声は昨年12月10日に長男と秋本氏が会食した際に録音された。
この5日後に、東北新社の子会社が運営する「スターチャンネル」が5年に1度の認定更新を総務省から受けている。
会食時期に加え、音声に残る生々しいやりとりを見れば、癒着が疑われるのも当然だろう。》
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/513001?rct=c_editorial
文春、文春、文春!そうしたなかにあって讀賣新聞は2月20日付で掲載している社説「総務省接待 事実を公表して疑惑に答えよ」には「文春」の二文字が一か所として出て来ない!
https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20210219-OYT1T50268/
ブロック紙や地方紙にも讀賣同様に「文春」の名前を出さない社説があったことも報告しておこう。
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3)【記事】呉勝浩「おれたちの歌をうたえ」(文藝春秋)に心震わせよ!
これも文藝春秋。今度は書籍だ。呉勝浩の「おれたちの歌をうたえ」である。まだ二月だが、私にとって今年最大の収穫はこれだと断言してしまっても良いと思っている。そのくらいの衝撃を受けているのは私だけではないようである。小説家の葉真中顕がツイートで絶賛している。
《それから、
呉勝浩さんの新刊『おれたちの歌をうたえ』いただきました。
別に呉さんの本なんか紹介したくないんだけど……まあ、面白いかどうかって言われたら、滅茶苦茶面白いんだな、これが!
またすごいもの書きやがったな、と。あーむかつく。
10日発売だって。知らんけど》
https://twitter.com/akihamanaka/status/1356921849804845063
杉江松恋も直木賞候補となった「スワン」以上だと絶賛している。ということは…。
《役得で先に読ませてもらったけど、呉勝浩『おれたちの歌をうたえ』(文藝春秋)は現時点における作者の最高傑作なのでミステリー好きな人は全員読んだほうがいいと思います。エンターテインメントとしての完成度は『スワン』以上。》
https://twitter.com/from41tohomania/status/1359018324810633217
物語の終盤、こんな文章が私に迫って来る小説だ。
《怖かったのだ。時間が経ち、この怒りや感情が冷めてしまうこと。純粋さを失ってしまうこと。一歩を踏み出さない理由を見つけることは簡単で、どれほど楽か。そうやって得た平穏が、ゆっくり鈍色に染まっていく年月が、いかに重く、息苦しいか。立ち止まり、やり過ごす。その代償をおれたちは、何十年も、身をもって学んできたんだ。
あと一度くらい、いいだろ。心の命令に従ったって。》
「落とし前」という言葉が脳裏に浮かぶ。エンターテイメント小説なのだから、ムキになる必要などないはずなのだが、結局、心の拳をぎゅっと握りしめながら読む破目になってしまった。私の「青春」が問われているように思った。ふたば書房社長の洞本昌哉が次のようにツイートしている。
《わずかに戦後の香りが漂う時代に幼少期を過ごし、お兄さん達が放つシュプレヒコールを遠くで耳にした事のある世代。目の前を幾度もチャンスが過ぎる間に還暦は目の前に。まだリタイアするには早い。そんな時、浮かぶ顔は幼馴染なのかもしれない。》
https://twitter.com/booksfutaba/status/1354418426287013891
「リアルサウンド」は2月9日付で「作家・呉勝浩が語る、コロナ禍で“理不尽への抵抗”を描いた意味 「悲劇に抵抗し、未来へと繋げていく」を公開しているが、呉勝浩は次のように語っている。
《編集の方に「今、呉勝浩の『テロリストのパラソル』を書いてみませんか」とお誘いをいただき、ずっと挑戦したいと思っていた題材だったこともあり、是非という形で書き始めました。昨年はデビュー5周年で、通算10作目、今年40歳になることも合わせて、いいタイミングでお話をいただけたと思っています。》
https://realsound.jp/book/2021/02/post-701816.html
永井荷風の「断腸亭日乗」が重要な意味を持つのも私が「おれたちの歌をうたえ」を気に入ってしまった理由のひとつである。何たって私のかつ丼好きは「断腸亭日乗」の影響なのである。私は荷風を倣って本八幡駅前の大黒屋まで出かけ、かつ丼と燗酒を頼んでいたクチである。「断腸亭日乗」を読むと、荷風の晩年は「正午大黒屋」の記述が繰り返されるのである。その強靭なる胃袋こそ荷風文学を支えていたはずである。私の事務所にも「断腸亭日乗」は全巻そろえている。
この「断腸亭日乗」の他にも「おれたちの歌をうたえ」に散りばめられている文学趣味は私好みなのである。例えば、親友の亡骸がある部屋で主人公が手にするのはウィトゲンシュタインの岩波文庫「論理哲学論考」であって、サルトルあたりでないことが呉勝浩の趣味の良さというべきだろう。
実は、私は「おれたちの歌をうたえ」を書店で購入していない。次のような文章とともに献本してもらったのだ。
《いつも大変お世話になり、ありがとうございます。
是非 今井さんに読んでいただきたく、お贈りします。
主人公が私と同年に長野県に生まれ、上田、松本、長野を舞台に物語は展開します。長野出身の私としては思い入れたっぷりの作品です。
「テロリストのパラソル」や「64」にも通じる、時代とそこに生きる人間がしっかり描かれた骨太のミステリです。
お忙しいところ恐縮ですが、どうかよろしくお願いいたします。》
文藝春秋の社長・中部嘉人から送られてきたのである。深謝。
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4)【記事】電通のグローバル戦略と「のれん」
「ダイヤモンド・オンライン」が2月19日付で発表した「『電通』はなぜ迷走し続けるのか? 畏友・山本敏博CEOへの“最後の諫言” 田中康夫緊急寄稿」には早速、反響があったようである。田中は、次のように書いているのだが、「石井直氏の顔写真と英文プロフィール」が削除されていた。
《とまれ、「dentsu Global (https://www.dentsu.com/?global=true)」を探し当て、右上に表示された「Menu (https://www.dentsu.com/?global=true#top)」にはサイトマップが見当たらず、ページをスクロールして「Sitemap(https://www.dentsu.com/sitemap)」に辿り着くと、そこには数々の“笑撃”が待ち構えていました。
「Who We Are」の下段レイヤー=layer「Our leadership」一覧に「Tadashi Ishii」なる表記を見付けてクリックすると、2016年12月28日に電通代表取締役社長からの引責辞任を会見で表明した石井直氏の顔写真と英文プロフィール「Chairman,DentsuInc.」が現れます。(https://www.dentsu.com/who-we-are/our-leadership/tadashi-ishii)》
田中は更にこう書いているのだが、これらのURLの内容も削除されている。
《僕の拙い英語力では「chairman」を「顧問」若しくは「相談役」とは邦訳出来ず、訝りながら計31名の列記された面々を順次クリックしていくと、
Dentsu Aegis Network Americas&US CEOと記されたNick Brien氏
(https://www.dentsu.com/who-we-are/our-leadership/nick-brien)
Chief Network Development Officer, Dentsu Aegis Networkと記されたNicholas Rey氏
(https://www.dentsu.com/who-we-are/our-leadership/nicholas-rey)
Global President Business Operations, Dentsu Aegis Networkと記されたVolker Doberanzke氏
(https://www.dentsu.com/who-we-are/our-leadership/volker-doberanzke)
日系DNAと思しきSo Aoki氏の肩書もChief Corporate Planning Officer, Dentsu Aegis Network
(https://www.dentsu.com/who-we-are/our-leadership/so-aoki)》
https://diamond.jp/articles/-/263134
もっとも、Ashish Bhasinに関しては2月21日午前9時30分現在でも削除されていなかったりもする。
https://www.dentsu.com/who-we-are/our-leadership/ashish-bhasin
小説家の松井計が田中康夫についてツイートしている。
《私は田中康夫さんの政治的手腕に敬服する者ではありますが、氏は優れた作家か、有能な政治家かと言われたら、私らにとってはやはり優れた作家ですよね。若い頃に「なんとなく、クリスタル」を読めば、そりゃもうそういうことになります。優れた作家が高い政治手腕も持っていたという稀有な例ですよね。》
https://twitter.com/matsuikei/status/1362579069242535936
批評家の佐藤清文が松井にリプライしている。
《1992年の群像新人賞評論部門の最終選考に私のなんクリ論『気分と批評』が残りました。文学的評価が必ずしも高くなかった同作がポストモダン文学の先駆け論じたものです。その後に河出のムックで書いたのですが、田中康夫氏は5年周期で活動が転回するんです。小説家、評論家、市民活動家、政治家など。》
https://twitter.com/SavenSatow/status/1362585604756660225
「ITmediaビジネスONLINE」は2月19日付で「電通が史上最大の巨額赤字……高くついた『のれん代』の恐ろしさ」(古田拓也)を公開している。
《…今回の巨額赤字における最大の要因は事業構造改革費ではない。最大の要因は、海外事業における、のれんの減損損失1403億円だ。》
《そもそものれんの「減損」は、買収の際に見込んだ成長率やシナジー効果が当初の期待より低く、投資した金額を回収できそうにないときに、その価値の剥落を会計に反映させる手続きのことだ。》
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2102/18/news110_2.html
「週刊東洋経済」は2月27日号で「広告市況の悪化で過去最大の赤字 電通、デジタル転換への高い壁 マスメディアで謳歌してきた既得権益にはもう頼れない。」(中川 雅博)を掲載している。もちろん、マスメディアで謳歌してきた既得権益に頼れないデジタル転換は電通にとって不可避であるが、グローバル戦略における過度な投資は逆に電通を苦しめることになりはしないだろうか。この記事も次のように指摘している。
《電通Gは13年に英広告大手イージスを約4000億円で買収した後、海外で毎年10社以上のM&A(合併・買収)を実施。売上総利益ベースの海外比率は直近で約58%。世界シェアでは今や英WPPグループ、米オムニコムグループ、仏ピュブリシスグループという世界3大広告会社に次ぐ。
だが結果的にM&Aが足を引っ張った。電通Gの曽我有信CFO(最高財務責任者)は、「事業環境の変化が激しい」としたうえで、「今回減損の対象になったのは、イージスと一緒になった直後の10年代前半に買収した広告領域の事業会社だ」と話す。ここでいう広告領域とは、日本のマス広告のように広告会社がメディアの枠を買って広告主に売るという旧来型の“代理店”モデルを指す。19年に海外事業で700億円強の減損損失を計上した際も、同じ領域が中心だった。
昨年12月末時点では6000億円弱ののれんが残っており、次なる火種となる可能性もある。》
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/26248
トヨタやホンダが自動車という「ものづくり」という第二次産業の領域でグローバル化を果たしたわけだが、金融、情報、サービスといった第三次産業においてグローバル戦略を成功させるのは、「ものづくり」のグローバル化以上に困難がつきまとうことは間違いないだろう。むろん、電通もその困難に直面せざるを得ないのである。
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5)【本日の一行情報】
◎このフットワークの軽さは武器だろう。上毛新聞は2月18日付で「『親しき仲にもスキャンダル』スクープ内幕を披露 週刊文春・新谷さん講演 群馬政経懇話会から」を掲載している。
《メディアとして生き残る方策は、「デジタルで稼ぐことが至上命令だが、それも週刊文春の紙の信頼があるから。スクープは金も手間もかかるが、看板を磨くことが何より大事」と指摘した。》
https://www.jomo-news.co.jp/news/gunma/culture/274505
「看板」を磨く、か。良いこと言うねぇ。
◎讀賣新聞とNHKでともに記者を経験している島契嗣のツイート。
《文春がこれまで受けた多くの情報提供を、もしほかのメディアが受けたとして、文春砲ほどのスクープを放てたかどうか。社によってはボツにするネタもあったに違いない。》
https://twitter.com/shima_keishi/status/1362312989194420228
そうだと思う。
◎「天才」を自称する箕輪厚介のツイートだが、これは珍しく聞くに値する。
《いわゆる「編集」が邪魔になるかもしれない。雑誌にせよ本にせよ、編集することで主張が明確になり伝わりやすくなる。しかしながらリアルさは抜け落ちるところがあり、クラブハウスやオンラインサロンで本人の生身を知ってる人が読むと嘘っぽいとなる。サウナランドは極力編集をしないという編集をした》
《とくに雑誌の細切れ企画はインターネット時代に一番価値がない。そんな編集された浅い情報はインターネットに落ちている。生身の人間のドロドロか世界でその編集者しか知らない情報か。それにしか価値はない。》
《僕はドロドロを見るために人に会い、世界で自分しか知らないサウナに出会うため今日も旅に出ます。さようなら!》
https://twitter.com/minowanowa/status/1362202044874911745
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https://twitter.com/minowanowa/status/1362203397022048256
◎松本隆は実家が麻布なんだよね。松本の「詞」の世界は現実を基盤にしているのだろう。
《麻布の実家から徒歩7分くらいの有名な坂で、午後6時半くらいにほぼ無人。孫のためにケーキを買って、十番の娘の家へ徒歩で。手料理でハヤシライスをご馳走してくれたが、ほんとに美味しくてびっくりした。》
https://twitter.com/takashi_mtmt/status/1362414778208030721
◎朝日新聞デジタルは2月18日付で「築100年の町屋に『こたつ書店』 リモートワークにも」(米田千佐子)を掲載している。
《奈良市の旧市街ならまちにある築100年以上の町屋にレンタルスペースができた。その名も「こたつ書店」。掘りごたつと本棚があり、啓林堂書店(大和郡山市)の選書30冊が並ぶ。リモートワークにも使え、2月末までの期間限定だ。
町屋は民泊施設「西村邸」(奈良市花園町)。民泊施設の共有部にあたる2間続き10畳半の和室を「こたつ書店」として1時間単位で借りられる。》
https://digital.asahi.com/articles/ASP2K7GNHP1QPOMB00M.html
◎「リアルサウンド」は2月18日付で「『dancyu』編集長・植野広生が語る、“食の雑誌”を作り続ける理由 『世の中の食いしん坊を笑顔にすることが役割』」を公開している。「dancyu」(プレジデント社)の植野広生は2017年に編集長に就任しているが、もともとは日経ホーム出版社の出身だ。
《以前は日経ホーム出版社で、「日経マネー」という財テク雑誌を編集していました。その傍らで『dancyu』は創刊の1年後ぐらいから書き手として加わり、今から20年ぐらい前、当時の編集長に誘われてプレジデント社に転職したんです。それまでは「おいしかった」のシャレ、大石勝太というペンネームで『dancyu』や『週刊文春』で食の記事を書いていました。》
植野は、こうも語っている。
《こういうことを言うといろいろな人に怒られるかもしれませんが、なんで雑誌が売れないかといったらつまんないからなんですよ。『鬼滅の刃』や『ONE PIECE』はめちゃくちゃ売れている。それは面白いから、ファンがついているから売れるんです。うちの反省も含めて言うと、みんなけっこうまとまっていて、雑誌としての面白みがちょっと欠けてるかなと思っています。》
https://realsound.jp/book/2021/02/post-708622_3.html
何故、雑誌は雑誌としての面白みを失ったのか。読者ファーストであるべきだったのに、広告ファーストを誌面に密輸入した結果、様々な忖度が雑誌ならではのゲリラ性を抑圧してしまったからだ。「週刊少年ジャンプ」や「週刊文春」はそうではなかったから面白さを持続し、だから「鬼滅の刃」も「ONE PIECE」も創造できたし、数々のスクープも放てたのである。
◎「鬼滅の刃」の吾峠呼世晴が、米誌「タイム」の「次の時代の100人」に選出された。日刊スポーツは2月18日付で「『鬼滅』吾峠氏がタイム誌次の時代の100人に」を掲載している。
《また吾峠氏の初代の担当編集者で、現在「週刊少年ジャンプ」のメディア担当編集長を務める大西恒平氏のコメントを紹介。同氏は、吾峠氏の個性が主人公竈門炭治郎(かまど・たんじろう、アニメの声=花江夏樹)の真面目さ、実直さ、責任感の強さといった設定に通じていると語っている。》
《「タイム」は、日本で放送されたテレビアニメが、米国でもNetflixで配信されていること、劇場版が今年後半に北米で公開されることを紹介。「吾峠氏の作品が届く範囲は、さらに広がることが約束されている」と期待した。》
https://www.nikkansports.com/entertainment/news/202102180000197.html
◎「デイリー新潮」は2月18日付で「朝日新聞の実売部数は今や350万部?新社長は創業以来の大赤字で前途多難の声」を発表している。
《朝日新聞の20年9月中間期の売上は1390億円で、前年同期比で22・5%減。純利益は419億円の赤字で、前年同期は14億円の黒字だった。2020年度の通年決算では、経常利益で約170億円の赤字になる見通しという。》
で、いろいろなことに手を出すのだが、これがなかなか結果を出せないでいる。例えば、こういうことだ。
《あまり知られていないようだが、朝日新聞は2016年12月、日本最大級の宅配ポータルサイト「出前館」の株式5%(約15億円)を取得、出前館と組み朝日の販売店でデリバリーサービスを開始した。ところが、販売店で宅配代行を行ったのはほんの一握りしかなく、昨年6月に提携を解消している。》
肝心の朝日新聞の部数は減少傾向に歯止めがかからない。
《20年8月には499万部になり、55年ぶりに500万部を割り込んだ。前年同月比43万部減だ。9月は497万部で、同43万部減、10月は496万部で、同42万部減となっている。読者に配達されないまま廃棄される「押し紙」を差し引くと、実売部数は350万部以下とも言われている。》
https://www.dailyshincho.jp/article/2021/02180600/?all=1
しかし、前途多難なのは朝日新聞社に限ったことではあるまい。灯台下暗しというけれど、「週刊新潮」にしてからが、全盛期に比べれば、部数を半減させているどろろではあるまい。新潮社は決算を公にはしていないが、誰の目からみても、前途多難なる未来が新潮社を待ち受けていることもまた間違いないのではないか。